軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百九十四話 叔父さんと呼ぼう

◎ミリティアの町 町長の屋敷

「お、叔父さん……こいつが」

ライルが 戦慄(せんりつ) している。目の前で前足をなごなごと舐めてる巨大猫を見て 戦慄(わなな) いている。そして舐め終わった巨大猫は前足を置くとライルを見て一言鳴いた。

「ナーゴ」

その猫の名はシップー。ジンライがユッコネエから授けられた相棒である。そしてジンライにとってはユッコネエと自分の子供のようなものだと公言してはばからない愛すべき巨大な猫である。なお、召喚獣ではなく実体を伴っているところがユッコネエとは違う点だ。

その体長は3メートル近くあり、姿は猫のサイベリアン、或いはメインクーンに近い毛の長い優美な姿をしている。そして全身の黒と銀の縞模様が特徴的であった。

また、その属性は風と雷であり、戦闘手段は雷爪と鎌鼬。もっとも機動力メインの能力持ちであり、何よりジンライのパートナーとして生まれてきたためにユッコネエと違ってほぼジンライと同期を取った連係攻撃が可能なのだ。

つまりは人猫一体。

シップーはそれを目的とした、世界でただ一匹の猫であった。

「叔父様って言っていいの?」

「ナーーー」

エミリィの言葉にシップーがうれしそうに両方の前足を挙げる。

「あーもう、かわいい。こんな叔父様なら大歓迎よっ」

「ナーゴナーゴ!」

抱きつくエミリィにシップーも嬉しそうにゴロゴロとノドを鳴らしている。まんざらでもないようだった。

「ふふふ、仲良くするのだぞ。ワシ等は家族なのだからな」

「うん。お爺さま。ねえシップー叔父様」

「ナーゴ!」

ジンライの言葉にエミリィとシップーがいっしょに頷いた。その様子にライルはズルズルと後ろに下がりながら、直樹の元に戻っていく。

「ナオキ、聞いてくれ。気がついたら爺さんに親父の弟が生まれてた。しかもそれが猫だった。どう思う?」

「シンディさんブチ切れるんじゃねえの……って思う」

「ああ、そっちもあったかぁああ!!」

直樹の言葉にライルがさらに頭を抱えて叫んだ。

「ま、俺は俺でドラゴンの甥がいるわけだし、今更だけどな」

そういいながらモシャモシャと直樹は手に持ったローストチキンを平らげていく。片手にはこのミリティアの町で造られたワインを持っている。この町の名産らしい。

そして直樹たちの周囲もみな賑やかなものである。

今はブルートゥザを倒した日の夜。そして場所はミリティアの町の町長の屋敷の中庭だ。そこでお祝いの席が設けられて、討伐参加メンバーや町の人間がワイワイと食事をとりながら、談笑に花を咲かせていた。

そんな中でも一角では縮こまった町長と、その前で困った顔をしているティアラがいたりもした。今回の件を戴冠式でも広める……という話をするためにもティアラの正体を明かさない訳にもいかなかったわけだが、当然たかだか町の町長さんという立場では、目の前に王女様が現れては怯えてしまうのも無理はない話だ。

今も出会ったときに、戴冠式があるばかりに助けてもらえないことを愚痴ってたんじゃないかと記憶を手繰っている途中である。

また、これは他のパーティのメンバーにも話は通してあるが、今回集まったパーティにティアラ王女が参加し共に戦ったという風に辻褄を合わせる予定になっていった。併せてタツオの姿も共に口止めを行っていた。どの程度まで黙ってもらえるかは不明だが、国家規模で問題が生じるとは言ってあるので普通に考えれば黙っているだろうと思われた。それなりのランクの冒険者であれば国家に逆らうリスクは理解している。誰だってお喋りで死にたくはないものだ。

「さてと、そんじゃあ私らはそろそろ戻ろうかな」

そしてこのお祝いのパーティも静かになってきた頃、風音がそう口にした。

「ん、姉貴。もう行くのか?」

未だにチキンを頬張る直樹に風音が頷く。頭の上ではタツオがくわーと鳴いた。多少大きくなったがまだ頭には乗せられる。アオからのメールによれば何年か後に脱皮をするまではひとまずはそのままのサイズのようだとは聞いている。なお、そのアオは今はツヴァーラに向かっている途中らしくナーガとの連絡は取れないとのことだった。

『母上、これは美味しいですねえ』

タツオがローストチキンと水晶化したスペアリブをそれぞれに持ちながら食べている。本日解禁となった食事というものを堪能していた。それを見て風音が尋ねる。

「タツオは水晶化した肉と普通の肉だとどっちが美味しいかなあ?」

その言葉にタツオはくわーと言いながらローストチキンを前に出した。

『こっちの方が美味しいです』

「そうなんだ」

『ただ、気軽に食べるならこっちです』

そう言って水晶化したスペアリブを前に出す。

『でも一番高まる感じがしたのはブルートゥザの生のお肉でした』

タツオの言葉に風音がなるほどと頷いた。

とりあえずは風音は今回のブルートゥザの肉をメインにタツオに食事を与えていくつもりだった。魔物ではない動物の肉は進化に影響を及ぼさないが、すでに進化の原因となった魔物の肉も影響を受けにくい。なんでもかんでも与えて変に進化しても困るので、様子を見ながら食事については考えて与えていくつもりであった。

また現在のタツオは魔力値が以前よりも増大し、物理と魔法の両方に対しての耐性が強化されている。見事にドラゴンイーターの臭い耐性もついているのは風音のドラゴンフェロモンで実証済みである。

そして最大の進化はクリスタルシールドという防衛手段を手に入れたことだろう。それはマテリアルシールドに今回のブルートゥザの因子が反応して発生したようで、空中で水晶の物理的な障壁が張れるようになっていた。

それを見た風音が「もしかして収束と拡散とか……いけんじゃね?」とブツブツと呟いていたがタツオには意味が分からなかったのでくわっ?と首を傾げていた、

「おい。戻るってもうこんな夜だぞ? 白き一団はそんなに急ぎの用があるのか?」

その風音たちの言葉を聞いていたハン・モックが声をかけた。

「あー白き一団としてもあんま悠長な時間はないんだけどねえ」

風音は苦笑しながらハン・モックにそう返す。戴冠式まで残り3日である。その前日となる明後日には王都に着かないといけない。明日の朝からブッ飛ばしてギリギリというところだろうが、さすがに討伐の夜は休みを取る予定であった。

「私とタツオとユッコネエに直樹だけ、ちょいと行かないといけない野暮用があってね」

さりげなく直樹が最後に呼ばれていて直樹がへこんでいた。面倒な弟だ。

「そうかい。だが夜は危険だぞ?」

「ああ、大丈夫。ヒポ丸くんたちがいるからね。ただそうなると『流星の雨』と『風使い』には馬車が貸せないんだよね」

その言葉にはそばにいたヴァッカもテラスも「問題なし」と声を上げた。

ただでさえ、おんぶにだっこに近い討伐だったのに、これ以上頼るのは本人たちにとっても心苦しいことこの上なかったのである。

そして風音は「戴冠式、遅刻しないでねー」と言って、手を振りながら直樹たちと共にヒポ丸くんに乗って去っていく。なお、ユッコネエは併走であった。

もっともミリティアの町を越えてしばらくしたところで、風音たちは『 帰還の楔(リターナーズ・ステイカー) 』を使用して、続いては交易都市ウーミンへと飛ぶ予定である。そして翌日にはヒルコを治し、そのさらに翌日にはカザネ温泉街で家造り、そして戴冠式の待つ王都へと飛ぶのである。

「なんでこんなに忙しいんだろうねえ」

と、風音はぼやくが、直樹は肩をすくめて苦笑するだけだ。

そして適当な場所で風音たちは街道から離れ、そのまま交易都市ウーミンへと飛んだのであった。