軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十九話 打ち合わせをしよう

◎トルダ温泉街 冒険者ギルド事務所

早朝。

トルダ温泉街にもある冒険者ギルド事務所の前に、4つのパーティが集まっていた。

ひとつはツヴァーラにおいては王女救出とドラゴン殺しで有名な、天下の鬼殺し姫とランクSの牙の槍兵の在籍するランクSパーティ『白き一団』。

ひとつは『守護の盾』の二つ名を持つ盾士ハン・モック率いるランクAパーティ『シールドバース』。

ひとつは風魔術を中心とした広域魔術を使う、風術士テラス率いるランクAパーティ『風の使い』。

ひとつは若きリーダー、弓使いのヴォッカ率いるランクBパーティ『流星の雨』。

以上が、今回のブルートゥザ討伐の参加メンバーとなる。

ランクAパーティは元々二組しかいないのだが、ランクBで呼ばれたのはジンライの知己である『流星の雨』だけだったようだ。

「よお、お前がナオキだろ?」

冒険者ギルドの隣接酒場の中では、前日の夜に風音が大筋で立てた作戦を元に他のパーティの代表とのすり合わせが行われている。そして直樹はすでに大方の内容は聞いていたし、口を挟む気もなかったので、外で軽くウォーミングアップを行っていたのだが、

「ん、あんたは『流星の雨』の……ヴォッカさんだったか」

ストレッチの途中に突然声をかけられた直樹が顔を上げると、そこには『流星の雨』のリーダーがいた。それはどこか人懐っこい顔をした優男だった。

「おうよ。今回の討伐じゃあ一緒に戦うことになる。よろしくな」

「ああ、こちらこそよろしく頼む」

ヴォッカから差し出された握手にナオキも応じる。

「それにしても以前から同い年くらいのやつがランクBになったってのは聞いてたんだが、まさかそのご当人の『魔剣の操者』ナオキがここにいるとは驚きだな」

「まあ、今まではハイヴァーンで活動してたからな。しかしよく俺のことを知ってたな」

ヴォッカの言葉にはナオキも笑ってそう答えた。

「ま、プロトヒュドラの討伐はこっちにも話題にあがったしな。若いのが活躍すると嫉妬混じりにいろいろと話が上がって来るもんさ」

プロトヒュドラは直樹が風音たちと出会う前にハイヴァーンで倒した魔物のことである。当時の直樹たちの実力からすれば戦うこと自体が無謀とも言って良い相手ではあったが、見事に直樹たちはそれをこなした。その際に変幻自在に魔剣を操ってプロトヒュドラを倒したことから直樹のふたつ名は付けられたのである。

「そういうアンタこそジンライ師匠の目に止まったんだ。相当やるんだろう?」

直樹がそう返す。昨日の今日である。いくらジンライといえど、名前しか見てないのにランクBパーティの実力など分かるはずもない。つまりはヴォッカはジンライと知り合いで、その実力もジンライは把握していたということだった。

「ああ、ジンライさんとは以前に何度か組んだことがあってな。だからか気に入ってもらってるようだ。ま、実力の方はブルートゥザ相手に見せてやるさ」

そう言って矢をつがえていない弓を構えてみせる。それを少し離れていたところにいたエミリィがつい見入ってしまった。

(……なんて綺麗な姿勢なんだろう)

エミリィの印象はそれであった。ヴォッカのそれは、師匠であるマーベリットや鳥人族のモーフィアのつがえる姿に重なって見えた。自分がまだ届いていない域に生きている相手だとエミリィは感じていた。

「エミリィ、どうした? お、直樹といるのはええと……?」

そのエミリィに、ギルドの事務所から出てきたライルが声をかけ、そして直樹の方を見る。

「『流星の雨』のリーダーさんみたいよ」

ライルの問いに答えるエミリィに、「ああ、さっきの」とライルは返した。さきほど一度は挨拶をしたはずだが、名前までは思い出せなかったようである。ライルは人を覚えるのが苦手だ。その心配りのなさが彼が女性にモテない理由の一つでもあった。

そんなふたりが揃ったのを直樹が見かけて声をかけ、そして『流星の雨』の他のメンバーも集まってきた。基本的に『流星の雨』は若いメンバーで揃っていて、直樹たちとも話が合うようだった。そして同ランクのお仲間との会話に餓えていたのはどちらも同じだった。

「しかし、アンタはここにいて良いのか? リーダーなんだろ?」

「あー、俺はああいうのが苦手でな。うちの参謀が代わりにでてるから大丈夫だろ?」

両メンバーの会話の中での直樹の問いにはヴォッカはシレッとそう返す。

「うちのリーダーは頭悪いからなあ」

「うるせえよ」

『流星の雨』の他のメンバーに揶揄されてヴォッカが口をへの字に曲げる。良くも悪くも素直な青年のようである。感情を表に出さないクールタイプの直樹とは違い、爽やかな好青年という印象があるのがヴォッカだった。

「でも、そっちの白き一団のリーダーはどう見ても子供なのに手慣れた感じだったな。ブルートゥザ相手でもまったく動じてなかったぞ」

「そうだろうなぁ」

昨日に聞いた話ではあるが、風音は達良やゆっこ姉たちとともに一時期ブルートゥザを狩りまくってた時期があるらしい。力がありスピードもあるが、ハメてしまうと狩りやすい相手で素材の換金額も大きかったので実に1000体以上は狩っているハズとのことだった。

もちろんゲームでの話ではあるし、5匹同時というのはあまりなかったそうだし、その上に今の風音とゼクシアハーツ内でのキャラ『ジーク』とではレベルや戦闘力も違う。だが、風音が攻略法を確立しているのは事実であるようだった。

「まあ、姉貴に任せておけば大丈夫だと思うぞ」

「え、あのチンチク……いや鬼殺し姫ってお前の姉なのか?」

直樹の言葉に驚いたのはヴォッカだけでなく、他の『流星の雨』の面々も同様だったらしい。その反応が予想通り過ぎて直樹たちも苦笑する。

「まあ確かに見た目通りの年齢ではないだろうしな。それになんでハイヴァーンの若手有望パーティの『ウィンドウノイズ』が『白き一団』に吸収されたのか疑問だったんだが」

「別に姉弟じゃなくても、白き一団なら誘われたらついていくと思うけどな」

「まあ、俺らじゃ足手まといかもしれないけど」

ヴォッカの言葉に他のメンバーが次々とそう口にする。

「足手まといねえ……」

「まあ、頑張るしかねえんだけどな」

「だなぁ」

そして、その言葉に直樹たちが落ち込むのを見て、『流星の雨』のメンバーたちが慌ててフォローに入った。ここ最近は直樹が一歩抜けた感じはあるが、まだまだ実力不足を三人は痛感していたのであった。

◎トルダ温泉街 冒険者ギルド隣接酒場

「外が騒がしいようだな」

「若い子たちがじゃれてるのでしょう」

冒険者ギルド隣接酒場の中で、ランクAパーティ『シールドバース』のリーダー盾士ハン・モックが、外を見ながらそう口にし、横にいたランクAパーティ『風の使い』の風術士テラスがそう返した。

「あー多分、うちのリーダーだと思います。ごめんなさい」

そのふたりの横ではリスのような印象の小柄の少女が頭を下げる。『流星の雨』の参謀……というか、世話係のような少女のターニャである。

「まあ、気にしない、気にしない」

そのターニャに風音が笑って返す。直樹の声も聞こえてきたので、問題があったら自分も怒られてしまう。なので、問題無しとする方が無難である……と、風音は素早く考えて口にしていた。策士である。

「それで、この作戦で問題はありませんかな?」

それを尋ねたのはトルダ温泉街の冒険者ギルド支部長のマイアであった。彼自身も以前は冒険者であったこともあり、特にここまで風音が口にした作戦内容に異論はなかったので、他のメンバーにも同様かと尋ね、そしてそれはその場の全員が首を縦に振った。

「そうだな。後はそこの鬼殺し姫が、実際に言った通りのことが出来るのかということにかかってるわけだが、問題はないのだろう?」

「ないよ」

ハン・モックの問いに風音が即答する。ハン・モックもそこに異議を唱える気はなかった。噂がただの噂ではないことを、冒険者仲間からハン・モックは聞いていたし、口から出任せを言う相手ではないと認識していた。

「ユッコネエと私で罠と餌は作る。後は横殴りの簡単なお仕事です」

「にゃーー」

風音の横の黄金の毛並みを持つ巨猫ユッコネエも鳴いて主に同意する。

「賢い上に強いのね。一匹くれないかしら」

「やらん」

風術士テラスの軽口に、ジンライが即答する。テラスは、唐突に自分に宣告したジンライを見ながら「えーと」と口にしていると、

「絶対にやらん」

と、再度言われた。テラスは「あ、はい」と返すしかなかった。ちなみにジンライは現在、繭を抱えていた。サイズは持ち抱えられるほどでダチョウの卵より一回り大きいくらいである。繭自体はこれ以上大きくならず割れて外に出てくると一気に大きくなるらしい。

そして昨晩にユッコネエから聞いた話では、すでに中身の基本は完成しており、後は主となるジンライの意志に対応して進化するとのことである。そのためジンライは自分の思いの丈を必死に繭に念じていた。「大きくなーれ、大きくなーれ」の要領である。

その師匠の様子を、壁側に背をかけていた弓花は(大人げないなー)と思いながら見ていたが、一緒にいるルイーズもメフィルスも同様の表情をしていた。なおティアラは「分かりますわー」と言っていた。脳味噌も筋肉になりつつあるのだろうか。怖い。

(まあ、このメンツで、あの作戦なら大丈夫か)

そう弓花も思うが、ともあれゲームと現実は違う。まずブルートゥザが素直に誘導に乗ってくれるのかという問題もあるし、上手く止めきれるのかという心配がないわけではない。

(あまり、やりすぎても逃げられるかもってことだし)

初手でやりすぎては戦う前に逃げられるかもしれない。魔物は存外に臆病で賢い。追いつめて一気に狩り尽くすのが風音の作戦だった。

とはいえ弓花のやることはひとつだけである。そう気負うことでもないと自分に言い聞かせて心を落ち着かせていた。そう、思ったときだった。

「ッ!?」

バンッと突然、弓花が窓を開けて外を見た。瞬間的に大きな殺気を感じたのだ。

その様子にはその場の全員が振り向いたが、窓の外ではヴォッカが直樹に「じょ、ジョークだから」と言って謝っているところだった。

そして窓から弓花が顔をのぞかせたのに気付いたライルが口パクで「い・つ・も・の」と言っていた。それを見て弓花の肩の力が抜ける。

(ああ、また風音の……)

ヴォッカ辺りがおそらく風音を褒めたか何かをしたのだろう。そして、いつもの病気が発動して釘を刺したのだ。エミリィが「そんなに私たちのことを……」と呟いてるようなので風音個人に対してではないのかもしれない。パーティ全体を指して「口説きたい」とかそんなことを軽く言ったのかもしれない。

ともあれ、それを見て弓花はため息をつくと、中で不審そうに見ていたメンバーに「あ、大丈夫です」と声をかけて窓を閉じた。世界は今日も平常運転であった。少なくとも弓花の見えている限りにおいては。

**********

「くくく、危ないねえ」

そして、窓が閉じられるのを家の影から見ている男がそう呟いた。一瞬バレたかとも思ったが、どうやら男の狙いの相手である弓花は別の相手の気配に動いただけのようであった。

『遊びすぎるなよ』

「分かってるさボス」

肩に止まるコウモリからの声に男がくぐもった笑いで返す。

「どうやら連中はブルートゥザ討伐に向かうらしいな」

『ランクAが厄介だ。やはり王都に向かう途中で仕掛ける』

コウモリから落ち着いた声が響いてくる。わずかな感情のブレもそこからは感じられない。

「しかし、ブルートゥザ5匹相手じゃ死んじまうかもしれないな」

『ならば、結構。我らが手を下さずして任務達成だ。だが、そうはならんのだろう?』

コウモリからの声に男が口元をつり上げて笑う。アレがその程度で殺られるとは到底、男も考えてはいなかった。

『お前は待機だ『イジカ』。追い込んでからであれば、お前の望む相手とも殺し合えよう。だが山老の言葉は絶対だ。ボルジアナのピエロとしての矜持を忘れるなよ』

「分かってるさボス。そして俺の希望も忘れるなよ」

凶刃イジカ。かつて弓花に敗れ、ハイヴァーンの首都で逃げたハズの男がそこにいた。狂おしいほどに上気した顔で一点だけを見つめていた。

「あの女は、ユミカは俺のモノだ。俺だけのモノなんだからな」

暗殺集団『ボルジアナのピエロ』。その構成員たる男が、まるで舐めるかのように、建物の影から冒険者ギルド事務所を眺めていたのである。