軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百八十一話 目をそらそう

「は? 何言ってんの? 意味わかんないよ?」

エミリィが素で返してきた。怖い。弓花はそう思った。

(頑張れ)

(頑張れ)

その弓花にルイーズとライルが心の声で応援するが、弓花には目の前のエミリィからのプレッシャーは『魔王の威圧』よりも恐ろしく感じられた。ここは不滅の馬車の中、いわば孤立無援の陸の孤島。頼りになる親友もいない。だが弓花は言わなければならない。この真実を告げなければならない。そして弓花は、

「な、なーんちゃって」

「もう、止めてよね。そういう冗談」

逃げた。全力で目の前の問題から目を背けて目の前の地雷を踏むことを拒否したのである。

(へたれー)

(使えねー)

それを見ていたルイーズとライルの心の声も厳しい。まあ、心の声なので聞こえてはいないのだが、弓花もその視線から何となく察し、

(じゃあ、あんたらが言えよ)

と弓花も目で語ったがふたりは目をそらした。ふたりとも自ら泥をかぶりたくなかったのである。

ならば何故、弓花に突っ込ませたかと言えば、エミリィの反応がいい加減鬱陶しかったためであるが、だからといって本気でエミリィを追いつめるほど言わにゃならんことでもなかった。他人の恋路を邪魔すると馬に蹴り殺されるともいう。ふたりはそれは嫌だった。

「まあ、カザネは可愛いですから。直樹が参ってしまうのも分かりますわ」

そしてその横では、パパンがパンと踊り始めた風音ちゃん人形をウットリして見ているティアラがそんなことを口にしていた。

「そりゃあ、直樹がちょっとシスコンの気があることは私も分かってるけどねえ」

そんなティアラを見ながらエミリィもそう口にする。「ちょっと?」というツッコミは誰の口からも伝えられなかった。

「……ハァ」

代わりにため息だけが漏れた。そして、よけいなお節介をかけて自分だけダメージを喰らったような気分の弓花は次の目的地まではひとり外を見ていることにした。青空だけが彼女の心を癒やしてくれたのである。

そして弓花たちは、夕方には最初の目的地であるカザネ魔法温泉街(仮)にたどり着いた。そこで弓花たちは二日かけて風音のゴーレムメーカーでの作業が必要となる案件を纏める予定であった。

風音たちはウーミンでの移民の状況の確認などがあり、まだ温泉街には戻れない。そのため先んじて戻ってきた弓花たちが、城壁の設置個所や居住区の状態や水路の設置など必要なものをピックアップし、後ほど来る風音にそのリストを渡してもらうことになっていたのである。

◎交易都市ウーミン 領主の館中庭 風音コテージ3階

そして弓花たちがウーミンを去った翌日のこと。

風音コテージの3階はプラベートエリア内ではあるが、風音たちの部屋は個別ではなく男女別に分かれている。パーティとしての団結力を高めるためなどという名目もあるが、何かの緊急時の時のために基本集まっておいた方が安全だろうということが第一にあったのである。

とはいえ、前述しているように部屋自体は男女別に分かれているので、風音と直樹は現在は別々の部屋で寝ている。そして直樹はといえば、いつも通りに朝早くに起き、早朝特訓を行っていた。

ジンライたちがいなかろうと日頃のこうした特訓を怠ると、すぐに動きに現れる。常日頃の鍛錬こそが第一とのジンライの言葉に従い、直樹はひとりでも日頃の自分の特訓メニューに併せて鍛えていたのである。

もっとも風音は寝過ごしていたようで今日は一人での修行だ。そして直樹はかいた汗を浴場で流し、いよいよ風音を起こさねばと張り切って三階に来ていた。弟がお寝坊さんな姉を起こす。全く問題のない完璧なシチュエーションであった。

(さて、姉貴のいる部屋に入るぞ。もう朝食の時間だしな。姉弟だしな。起こしに部屋に入るだけなら合法だ。姉貴のパジャマ姿を見るのも合法だ。パジャマがはだけて中が見えても合法なのは間違いない。むしろご褒美だと思ってじっくり眺めるべきだ。ああ、最高だな合法って。エロいな合法。合法ってなんだ?)

そんな不埒なことを考えながら直樹が女子部屋のドアの取っ手に手をかけようとすると、

「あれ……直樹、何してんの?」

「え、姉貴?」

唐突に後ろから声をかけられた。

そして直樹が後ろを向くと風音が歯を磨きながら歩いてきていた。直樹待望のパジャマ姿である。まあ、毎日見てはいるが。

「お、おお……おおお?」

そして直樹の目が見開かれる。朝の寝ぼけ眼で髪がボサッとしている姉が愛らしかった。今風音が着ているパジャマはブカブカで袖が垂れていて、首回りも少し着崩れて鎖骨が見えていて若干エロい(直樹視点では)。だが直樹の視線の先はそこから下に移っていき、うめいた。なぜならば、

「あ、姉貴、その腹は?」

風音のおなかがポッコリとしていたのである。分かりやすくいうと蒼焔のアオの所有していたハードディスクドライブの中の画像ファイルのような感じである。さらにわかりやすく言うとハラボテロリである。そして風音は直樹の問いにこう返した。

「孕んだ」

「マジかーーーー!!」

姉の返答に直樹が叫ぶ。状況が色々とおかしいが、直樹にとっては姉の孕んだと言う言葉の方が重要である。そもそも、数日で実子タツオを作ってしまうアグレッシブな姉だ。わずか一日で孕むことも不可能ではないだろう。

「だ、誰の子だ!?」

「えーと、あえていうならユッコネエ」

あえて……ということは、他にもあるのか。あえて言わざるを得ないのか。こんなロリボディの可愛らしい天使みたいな顔のくせに、俺の姉はトンだ淫乱ビッチだったんだぜ。ちくしょう。こうなったらしかたねえ……と、直樹の思考が高速回転する。

「姉貴、俺と結婚して一緒に子供を育てようッ!」

「やだよ」

そして風音の胸に飛び込もうとした直樹が、マテリアルシールドによって吹き飛ばされる。ギャウンという声がして直樹が壁に激突して崩れ落ちた。

「冗談に決まってるでしょ。まったく年取って落ち着いたかと思ったけど変わらないね、あんたは」

「え、冗談?」

「あー、ほれ」

そう言って風音はパジャマを持ち上げて中から丸い卵みたいなものを取り出した。その際におへそが見えたので直樹の表情が緩んだが、出てきたものを見て表情が変わった。

「卵?」

直樹の言葉に風音が首を横に振る。

「いんや、繭だね。タツオの生まれたときやユッコネエの進化したときと同じヤツ」

「にゃー」

風音が話している後ろからユッコネエがやってきた。頭にはタツオが乗っていてる。

「あ、タツオにユッコネエ。良いお湯だった?」

『はい、母上』

「にゃー」

風音の言葉にタツオとユッコネエが返事をする。お風呂上がりだったようである。

「ユッコネエ……の子供?」

「にゃにゃっ」

直樹の言葉にユッコネエが首を振る。

「んー、違うってさ。眷属って言った方がいいね」

「部下みたいなもんか?」

直樹の言葉に風音も「そんなもん」と返す。

「ユッコネエと最初に会ったときに一緒にいたバロウタイガーを私が一体倒しててね。その魂を私から抜いて、こっちに移したんだよね」

「へ……え?」

風音の言葉に直樹が首を傾げる。風音がバロウタイガーを倒したとして、その魂を自分から抜いた?……と、直樹にはその意味が理解できなかったが、風音は構わず続けた。

「そんで、この子がジンライさんの新しいパートナーになる予定だから今、私が魔力を注いでんの。ユッコネエもジンライさんのことは気に病んでたみたいでね。進化して私とより強く繋がったことで眷属の魂を再び呼び出すことが出来るようになったから、ジンライさんにプレゼントするんだって」

その風音の言葉にユッコネエが「にゃー」と鳴いた。

「あーまあ、ジンライ師匠も気にしてたしなあ」

やはりユッコネエとのタッグではないジンライでは機動力が確保できないため、撃破率が落ちる。端的に言えば弓花よりも活躍できなくて悔しいと言うところであった。

「んで、生まれるのはバロウタイガーなのか?」

「いんや。40階層クラスのチャイルドストーンをコアにしてるし、ユッコネエも随分と進化してるから別の魔物になるハズかな」

ちなみにコアになっているのはブルーリフォン要塞で倒した地核竜のチャイルドストーンである。

「多分、ジンライさん専用の、機動力重視の強力な猫だよ!」

「猫なのか!?」

「にゃっ!」

直樹の問いにユッコネエが力強く頷いた。猫のようである。