軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十九話 隣の国に行こう

◎アルゴ山脈 登山口 朝

パーティに入って初日で色々見たから慣れたとか思ってたが間違いだった。撤回する。…そうジンライは心の中で呟いた。

「さて、これに乗ってぇ」

ひと回り大きく、背中が四角い敷居で覆われたヒッポーくんがそこにいた。

「随分と珍妙な乗り物だな、これは」

ジンライは唖然とそれを見て、ティアラも「これが冒険者の乗り物」と間違った認識を植え付けられる。

中にはイスが縦並びに4つあり、跨ぐのではなく座るように設計されていた。周りが囲いで覆われているので風に当たることもない。

「防寒具を着て不滅の布団をかけておけば寒さもしのげると思うよ」

そう言いながら座った各自に布団を配り風音も一番前の席に座る。不滅の布団、大活躍である。

「これ、崩れたら結構大変じゃないの?」

とヒッポーくんの脆さを知っている弓花が尋ねるが

「前よりも魔力を余分に使えるようになったからね。これは防御力も上げてあるよ」

心配ご無用のようだった。風音も前回サンガクくんが破壊されて学んだのである。脆いの危険と。

「じゃあ出発!」

◎アルゴ山脈 ツヴァーラ王国側 夕方

「何事もなかった…」

愕然としているのはジンライ。ユミカとティアラはそろってアクビをしていた。天候も荒れず太陽が照らし、その下で布団にくるまっていた二人はここまで昼寝モードであったのだ。

「着きましたの?」

「いやいや、さすがにまだじゃーないかと」

ジンライはまだ眠い目をこすっている弓花の頭をポカリと叩く。

「痛いっ、なんですか師匠」

「たるんどるわっ」

弓花がショボンとする。確かに護衛が一緒に寝ていては仕様のないことだ。

「まあまあジンライさん」

風音はこともなげに笑うと

「弓花は今日寝ずの番をしてくれるんだから構わないよ」

ゲッと弓花は口にするがジンライの視線に当てられ「了解」と言った。

◎トーラの森 夕方

国境を無事越えた一行は、さすがにその付近で休むのは国境越えを見咎められるかもしれないと、近辺の森の中まで進んでいた。

「風音、そっち行った」

「了解っ!」

風音の正面に魔物が走ってくる。名をバロウタイガー、この付近に生息する獰猛な野獣で人を襲うことも、家畜を荒らすこともある害獣だった。

風音はインビジブルで姿を隠しながら、バロウタイガーが通り過ぎ様に腹に

(ここだっ)

キリングレッグを蹴り込んだ。

バロウタイガーは悲鳴を上げて吹き飛び、やがて動かなくなった。

「しとめたようだな風音」

「まあね」

バロウタイガーはその毛皮が高く売れる。特に傷のないものは高額で取り引きされるとのことで、風音はなるべく傷つけぬように倒すことに専念していた。

(1対1だとインビジブル、無敵だなあ)

さすがにチートくさい性能だが、命が掛かっている以上、風音も出し惜しみをする気はない。

(あ、レベル上がってる。あとスキルが『タイガーアイ』?)

風音は事前にバロウタイガーは目を合わせると金縛りにあうことがあるとも聞いていたので、これがその能力だろうと思った。

「どうした?」

「スキルが手に入ったね。金縛りにする目だと思う」

ほう…とジンライは興味深そうに風音の目を見る。

「ああ、いや。スキルは発動しないと出てこないからね」

「そうなのか?」

ジンライは「そういうものなのか」と呟いていた。

「兎も角、こいつがここいらのボスっぽいね。こいつの臭いが巻き散らかされた場所なら他の魔物も出てこれないと思う」

「では、ここらで休むか?」

「うん。そうだね。この先にちょい大きい岩場があるからそこで宿を作るよ」

ジンライは頷く。

「よろしく頼む。弓花、ワシ等は少し修練を積んでから休むぞ」

「分かりました師匠」

「それじゃあティアラさん、行こっか」

「あ、はい」

風音の言葉に従い、ティアラも森の中を進む。

「うわっと」

「滑るから転ばないように気をつけてね」

森の中はジメジメしていて苔などで滑りやすい。

「はい。分かりまし…きゃあっ」

「おっと」

倒れかけるティアラを風音が手で受け止める。

「ほら、危ないよ」

「ありがとうございます。カザネ様ってそんなにお若いのに力が強いんですね」

「うーん、歳はティアラさんと同じぐらいだけどね」

「え、そうなのですか?」

「弓花と同い年だよ。まあ、見た目がこうだけどさー」

風音がなははと笑うとティアラは頭を下げて謝る。

「それは失礼しました」

気にしないでーと風音も言う。実際これで得していることも多いのだ。

「だけどカザネは本当に凄いですわ」

「うん。あんがと」

「わたくしも何かしらお役に立てれば良いのですけどね。こういう状況で役に立つようなことを何一つ教えてもらってませんの」

「お姫様がこういう状況で役立つことを覚える必要は本来ないものねえ」

かくいう風音もその手の知識は全くないのだが、見よう見まねで対応している。

「でもお父様は昔から魔物狩りに出て、こうして護衛たちと一緒に夜を過ごしていたと聞きますわ」

「なかなか豪快な人みたいだね」

「ええ…」

ティアラは微笑んだ後、けど…と口にした。

「父のそのような姿がシェルキン叔父様は気に入らなかったのでしょうね」

「あの第二王子の人だったっけ?」

「はい。叔父様は昔から身体が弱かったそうです。それで父と比べられて育ってきたそうで」

(あー兄弟で比べられるのってあるよねえ)

風音にとっては弟がそうである。ゲームしかやらないくせに勉強だけは出来る姉に常にコンプレックスを感じていたところがあった。

「その分、叔父様は知恵の回る方でしたが、何分うちの国は父のような性格の方が喜ばれる国なので」

「あまり人気はないんだね」

ティアラは頷く。

「とはいってもそれは騎士たちや民衆に対してのこと。貴族の方々はそうではない方も多く、叔父様には彼らとの黒い噂が度々上がっていると伺っています」

その手のことは風音にはよく分からない話だ。

「父は、お父様はそれでも叔父様を信じるとおっしゃってたのですが」

ティアラの目から涙がこぼれる。

「お父様は多分今頃は打ちひしがれていますわね」

考えまいとしていたことが頭の中に押し寄せてくる。

「信じていた弟に裏切られ、実の娘も為す術もなく捕まえられ…」

そう言ってその目から涙がこぼれてきた。

「本当に…私が不甲斐ないばかりに…」

ひっそりと嗚咽するティアラを見て、風音は一昨日の自分を思い出す。あの世界に帰りたいと泣いた自分を思い出した。

だから少し考えてからこう言った。

「ティアラ、ちょっと見ててくれる?」

「…え?」

風音はスペルリストを開き、ファイアのカスタム設定をいくつか選択する。

「スペル・ファイア・ハナビイチゴウ」

風音の杖から、ポンッと小さな炎が上がると、空中に飛んでドーーンッと光が広がった。

「…きれい」

それを涙を流すティアラが呆然と眺めている。

風音はトントントンと違う色、違う形のものを打ち上げる。

風音が出したのはネタ魔術花火コンテスト受賞作品の魔術だ。いずれも風音が手がけたもので、威力もないただ綺麗なだけの花火もどき。

だが、それはお姫様の心を奪うには十分な光だ。

「私はね。多分お父さんにもお母さんにも、もう会えないんだと思うんだ」

光が消え、唐突に出た風音の言葉にティアラが目を向く。

「もちろんまだ諦めてはいないし、努力もするつもりだけど」

そう言って風音は笑う。

「でもティアラは違うよ。余裕で取り戻せるから。私が絶対にお父さんと会わせるから。だからね、ほら」

風音が手を差し出す。

「…なんですの?」

「手をつないでおけば転ばないと思うし」

「…あ、はい」

一瞬躊躇するように風音の手を見て、そっとティアラは手を握る。

(こんなに小さいのに力強い…)

「迷わず連れていけるから」

そう口にする風音にティアラは微笑む。

「カザネは物語の中の王子様みたいですわね」

「うん、そういうのに憧れてる」

ゲームではいつだって守られる側ではなく守る側だ。風音は自分もそうありたいと思った。

そして風音は妙に照れくさかったので手をつないだままティアラの顔を見ずに歩いていく。その裏でティアラは恍惚としたような赤い顔をしていたのだが、後ろに目のない風音は気付かなかった。

「…わたくしの王子様だったんだ」

その声にも気付かなかった。