軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百七十二話 仲介をしよう

◎リンドー王国 ウーミンの街正門前

今兵たちは恐るべき数の魔物の群れを目前にしていた。

どこから集めればあれほどの数が集まるのだろうか。ウーミンの街の周辺は基本平野で、畑や畜産の農家なども並び立つが、魔物が来ることのあるミンシアナ方面の山野側へ土地を広げる者は少ない。そしてそこには草原が広がっており、待機していた兵たちは、その先から何かが迫ってくることを示している土煙が横に広く伸びているのを見て驚愕していた。

その光景を前に今、ようやくリンドー王国軍の兵たちは己の置かれた状況を把握しだしていたのだ。突然のことに錯綜していた情報が実像を前にひとつに纏まりだしていた。

オドイートリーチの大群という危機的状況をようやく彼らは理解したのだ。

もっとも、それを遅すぎるとはいえない。状況が知れたのは、ここ1~2時間前のこと。そして後に発覚するが、ミンシアナの首都を襲ったオーガの群れのように移動経路にある見張りの砦などはすべて事前に何者かに潰されて、情報は途絶えていたのだ。

また街の中からはドラゴンのような叫び声まで聞こえ、実際に調べに出た兵が黒い竜が現れたことを報告に上げてきており、兵を預かるウーミン王国軍の軍団長ルガーも、もはや血管が切れてしまいそうな紅潮した顔で、状況を注視していた。

内部に兵を送る案も出たが、すでに偵察用の召喚鳥の報告で全軍当たっても苦戦は必死、全滅もあり得る数のオドイートリーチが迫ってきているのは報告されている。であれば住民を街から避難させるというのも愚策だ。足の速さを考えれば、オドイートリーチは逃げる住民に追いつき、平らげていくだろう。

そもそも、街の内側の状況が脱出の準備を許さなかった。突如現れた悪魔ヒルコによって現在も住民は混乱し、領主の館の中庭などに避難している状況なのだ。

「くそっ、なんなんだ、この状況はッ」

その場の机をガンッと殴りつけて、ルガーは何度出たか分からない言葉を口にする。副官等も何も言わない。誰もが同じ思いだったからだ。

状況は明らかだ。『誰かに』仕組まれた。だが、そんなことが可能な相手も、そんなことをする必要がある理由もルガーには理解できない。

「ふん。荒れとるようだな、ルガー」

そんなルガーたちのいる正門前の仮設テントに、ひとりの黒くて丸い男が入ってきた。

「お前は、アングレー。商人風情が何の用だ?」

ルガーはそう口にしてアングレーを睨み付けた。リンドー王国のなかでも有数の商人であるアングレーもルガーにとっては一般人に他ならない。

自分たちが手を下せないブラックポーション狩りを行っていることに感謝の気持ちもあるが、だが自分たちの領分を侵されたことへの憤りの方が大きい。無論、軍にブラックポーション狩りをさせようとしない上層部への怒りの方こそ大きくはあるが。

「まあ、邪険にするな。いい話を持ってきた」

そう言ってアングレーはその場の椅子に座って葉巻を咥え、火をつける。

「何の用だと聞いている?」

『あらあら、宿六も相変わらずな態度ね』

さらに睨みつけるルガーの前に白い猫がやってくる。喋る猫であるエリザベートのことはルガーも話だけは聞いている。だから多少驚いたものの、睨みつけるだけに留めた。

「言っただろう。いい話を持ってきたと。ああ、安心していい。今回は別に商売じゃあないんだ。私は仲介だ」

「仲介? なんのだ?」

ルガーの問いにアングレーが葉巻から煙を吹かして、笑顔を浮かべた。

「街の救世主のさ」

**********

そして風音とジンライが兵たちの前でルガーから紹介されている。

白き一団の噂はコンラッドの街に近いここでも知れ渡ってはいたが、だがその場にいるのは風音とジンライ、ジン・バハルの三名とユッコネエだけだ。そしてランクSであることも特製の冒険者ギルドカードで証明はして見せたが、軍隊に匹敵すると言われても理解できる者はこの場にほとんどいなかった。

そもそもランクSというモノ自体が、そうそう会えるものではないし、実際に戦っているところを見ることが出来るものなどほとんどいない眉唾な存在である。

「やたら尖った鎧着てるけど、まだ子供だよなぁ」

「隣のおっさんだって槍二本持ってるけど、それで軍隊と同じ強さだって言われても」

「それって、俺ら全員と戦えるってことか?」

「でも、あの横にいる金色の魔物は強そうだな」

「でもあの骸骨の戦士は微妙に疲れてるっぽいぞ」

兵たちがわざめいて、そんなことを口にしあっている。

もっとも、それが言えるのは風音たちをハッキリと見ることの出来ない後ろにいる兵たちだけであった。

風音とジンライ、ユッコネエにジン・バハルの、特に風音の近くにいる兵たちはあからさまに顔を下に向けて脂汗をかいていた。それは風音の鎧から発せられる狂悪な暴力の気配によるものだった。

「バッサリ斬られたのであろう?」

「うん。でも出るってさ」

兵たちの前で風音とジンライはそのようなことを話している。

それはつまり、風音の鎧の中に宿っている狂い鬼が今にも爆発しそうな程に猛っているということであった。

「ま、本人が乗り気なら仕方ないけどね」

そう言いながら風音は『大型格納スペース』からロクテンくんと、タツヨシくんドラグーン、量産型タツヨシくん、ホーリースカルレギオンの骨を取り出す。マッスルクレイのミノタウロス像も出たが、それはまた仕舞い直した。悪魔との戦いで魔力消費の激しい風音には、今はマッスルクレイミノスの起動は少々荷が重かったのである。

驚く兵士たちの前で風音はジンライにホーリースカルレギオンの操作アイテムである『双骨玉』を手渡す。

「まあ指示と言っても突っ込ませるだけだがな」

「それでいいよ。どうせ相手も突っ込んでくるだけだし。しかしホーリースカルレギオンの武器も専用のが欲しいねえ」

現在は風音の『武具創造:黒炎』で作った黒炎の鎌を渡している。凶悪な死神といった風であるが、やはり毎回作るのは手間とコストがかかる。

「じゃあ、ジンライさんはロクテンくんやタツヨシくんシリーズで迎撃をお願いね」

「ああ、こっちは久方ぶりにフルでぶっ放すつもりだ。遠慮は無用であろうな?」

ジンライの凶悪な笑みに風音も「当然」と返す。

「せっかくランクSになったんだし、ここらでイッチョ見せつけて上げればいいよ」

風音の言葉にジンライの笑みがさらに深まる。

そしてロクテンくんたちに驚愕する兵たちの前で風音は天使化をして、そのまま空へと飛び立つことで、さらなる驚きを与えていた。

「な、なな、なんだ、あの娘たちはーー?」

その横では軍団長のルガーが目を丸くして風音たちを見ており、アングレーも「だからランクSパーティなんですってば」とそれには返すモノの、アングレー自身もその異様な光景に苦笑いをするしかなかった。その二人の様子をエリザベートは「なーご」と鳴いて見ていた。

◎交易都市ウーミン スラム街入り口付近

そして、風音が空に飛び立ったのと同じ時間。直樹たちはスラム街のエリアの前まで来ていた。

「あんたらが、ヒルコを元に戻すって言うのか?」

ある程度の筋肉痛の状態を無理矢理とはいえ魔術である程度回復させた直樹に弓花たちが合流し、そして最初の風音の指示通りにスラム街へと向かう途中で直樹たちは、昼に冒険者ギルドで風音たちを取り囲んだ民兵団と合流していた。

彼らは直樹たちを見つけて同行を申し出たのだ。もっとも、直樹たちの話の胡散臭さを疑って付いてきているという面もある。

「ああ、まあ試してみないと分からないけどな。イベント用スペルって言っても別に使用自体は出来るし問題はないはずだ」

「イベント用なのに、その後も使えるの?」

「その後も、ヒーラー用の専用シナリオやいくつかのクエストで使うんだよ」

弓花の問いには直樹がそう答える。イベント以外では一部の状況でしか使えないスペルではあるが、通常のスペル扱いなので使用には問題ないはずである。

「ここから先だ」

そして民兵団に直樹たちが案内されたのはスラム街への入り口である。今は鉄格子がかけられ、そしてヒルコたちが押し寄せている。

「完全にやられちゃってるのね」

「おそらく配給の食事などに混ぜられていたのだろう。くそっ、何故誰も気付かなかった」

吐き捨てるようにいう隊長がそう言うが、恐らくは最初から計画されていたのだろうとルイーズは考える。

「ともかく、実際に試してみないことにはね。マナポーションは持ってるわね」

「はい。全部で7つ。これならかなりの回数、スペルが使えるはずです」

直樹はアイテムボックスの中のマナポーションを見ながらルイーズにそう答える。それは風音のマナポーション4本と、召喚院に行く途中の道具屋で見つけたもの、そして召喚院の院長マグナからもらったものだった。

「じゃあ、頼むぜ」

民兵団の隊長が祈るようにそう言って、部下に門を開くように指示する。

そして扉が開き、黒いタールの塊のようなものが一斉に押し寄せ、

「来い俺の天使、フーネたんッッ!!」

同時に直樹の持つ英霊の指輪から光が放たれ、それは少女の形となっていった。

そして、その英霊の姿に弓花が苦虫を噛み潰したような顔になる。ティアラが「まっ」と声をあげ、ライルとエミリィとルイーズが呆然とした表情をしている。

それはファッションアイテムの『天使の翼』を背負い、白のベレー帽、白いフリフリでフワフワなゴスロリ風ドレス、白いタイツに白いハイヒールを履いた『風音そっくり』の少女だった。

「やっほー、直樹くんのために頑張っちゃうよ~。アハッ」

そして、風音よりも高くキンキンしたロリ声の少女が、「おー」と声を上げて、その杖というか魔法のステッキらしきものを振るってそこから光を放った。

その光こそ『 天よりの光(ヤコブズラダー) 』。変質した人間を戻すための聖なる光であり、確かにその光に当てられたヒルコたちが徐々に人の姿を取り戻していくのがルイーズたちにも分かった。

「……成功だわ」

ルイーズが掠れた声でそう言った。聞いてはいたものの半信半疑ではあったのだ。何しろ、それは悪魔狩りにとっては発見することを悲願と言い切っているほどのロストマジックなのである。ルイーズは、目の前の光を穴があくほどに凝視する。或いは、その呪文を新たに生み出すヒントになるやもしれないと考えて。

そして風音にそっくりの少女はフライの魔術を使って空を飛び、ヒルコたちに光を当てながら進んでいく。それを直樹たちが追う。時間は限られている。出来る限り、救わなければならない。

そして、その救い手はフーネと呼ばれていた。

その英霊の名は至高の癒し手『フーネ』。風音のPC『ジーク』の補助をすべくサポート役を選択した直樹のプレイヤーキャラクターである。

風音の顔に似せるべくキャラクターメイキングに実に38時間を費やし、声はロリ役声優40年のベテランである 金子槌子(かねこつちこ) さん、通称カナヅチさんのキンキンボイスを選択した、それは直樹の夢の総合デパートのような存在であった。

なお、直樹の趣味を反映させた結果、フーネの胸は嫌らしいほどに震えるエフェクト付きの爆乳となっていた。