軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百六十九話 ボコボコにしよう

そこにいたのは虹色の竜気を持つ竜族の頂点、神竜帝ナーガだった。

それも虹竜の指輪により呼び出された最盛期のナーガの魔力体が、今この場でエイジを睨みつけている。それをエイジは愕然とした顔で見ていた。なぜ神竜帝がそこにいるのかエイジには分からない。しかし、これから何をされるのかは一目瞭然だ。ナーガの瞳にはエイジへの敵意しかなかったのだから。

「旦那様フルバースト、Goーーー!!」

そして風音のかけ声と共に、神竜帝の全身に生えているすべての水晶角から、七色の光、すなわち七属性の光撃『セブンスレイ』が一斉にエイジに向かって放射された。まるで容赦のない閃光がエイジに向かって注がれたのだ。

それは神竜帝ナーガの最大攻撃『セブンスレイ・オーバーキル』という。その威力は尋常なものではなく、例え悪魔といえど直撃を受ければ即死は免れまい。何しろこの世界の最強種の頂点のひとつの全力である。しかし、

『うぉぉおおおおおおお!!!』

そこに咄嗟にジルベールがエイジの前に出て、天鏡の大盾を突き出した。その盾は英霊ジークの使用しているものと同一の、魔法に属する一切を弾き、光線系の魔法ならば反射も出来るシロモノだ。

(なんという威力かッ!?)

だが、ジルベール自身のスペックがその大出力に耐えきれない。そして、反射されるはずの光が拡散されて、周囲を覆う漆黒結界を突き破っていく。そして黒い空がガラガラとヒビ割れ、破壊されてゆき、元の夕焼けの赤い空が姿を現した。

『こんな大技を隠していたとはな』

ようやくの光撃が終わり、ジルベールが盾を持ち上げて、そう声をあげる。全身からはシュウシュウと煙が上がり、受け止めた光撃の衝撃はジルベールの中にまだ残っている。そして今なお鎧の身でありながら感覚が鈍くなっているとジルベールは感じる。

(エイジは……逃げたか)

ジルベールは近くから仲間の気配が消えたことに嘆息する。相変わらずのポリシーのなさだと。所詮、永劫に『子供』という存在から脱せぬ、ある意味では純粋な悪意を体現している輩だ。精神的成長など期待出来ぬのは分かってはいるが、だが付き合わされる身としてはたまったものではないことも多い。

(もっとも邪魔が入らない分、今はいない方が良いがな)

そうジルベールが考えているところに、続けての攻撃がすぐさま迫っていた。

『む?』

爆発で舞い上がった土煙の中で、正面から巨大な影が迫ってくるのをジルベールは察知する。そして、それはやってきた。

「さーて、ようやくの出番だよロクテンくんッ!」

そう叫んだ風音の乗るソレが煙の中から飛び出してくる。

それは黒い翼を広げた、虹を纏いし六本腕の黄金巨人『ロクテンくん阿修羅王モード』。そのロクテンくんが空を舞い、両足を併せた連続攻撃『天翼八斬』を用いてジルベールへと襲いかかった。

「それそれそれそれぇえええ!!」

『グォォオオオオオ!!』

そして、常識外の斬り合いが始まった。8本の巨大な刃と大剣と大盾の、斬撃に次ぐ斬撃により、金属同士のぶつかり合う音で周囲が震え、衝突による火花が飛び散り、魔力と闘気が混ざり合って、魔力風が吹き荒れる。

(やっぱり最上位悪魔ってのは伊達じゃないか)

攻撃を振るいながらも風音がそう評するように、ジンライですら抗しきるのにやっとのソレを最初から、それも重い大剣と大盾だけで受けきっているジルベールの技量の高さは凄まじいの一言に尽きる。だが今は 一対一の決闘(タイマン) ではない。決闘にこだわる理由は存在しない。故に……

「卑怯とは言わないでよね!」

ジルベールの左右から、黒炎装備の斧持ちマッスルクレイミノスと巨大な鎌を持ったホーリースカルレギオンが仕掛けてくる。だが、それをジルベールとて指をくわえて見ているわけもなく、

『舐めるなっ!!』

全身から黒い闘気を放って、風音たちを吹き飛ばした。

(マテリアルシールドの全方位放射と同じもの?)

風音はそう予測する。ならばと風音もスキル『マテリアルシールド』で打ち消し、スキル『ブースト』を使って再度の特攻を行う。併せて黒ミノスも持ちこたえて再びジルベールへと斬り掛かったが、ホーリースカルレギオンは分解してすぐには立ち直れないようだった。スケルトン故の衝撃への弱さが仇となったようである。

しかし 弾(たま) はまだある。

「直樹、出番だよっ!!」

「おおともよッ!」

風音の合図と共に、普段よりもテンションの高い声が木霊し、上空から虹色と炎の二頭のミニドラゴンが急下降してくる。それは竜炎の魔剣と水晶竜の魔剣が変化した直樹の新たなる力だ。

『さきほどのヤツか』

それをジルベールは天鏡の大盾を持ち上げて受け止める。そして、盾に激突したエネルギー体が破裂し大爆発を引き起こした。

『ぐぬぅっ!?』

さきほどの『セブンスレイ・オーバーキル』の衝撃のダメージもあるジルベールにはそれは若干堪える爆発だ。しかし、それで終わりではなかった。さらに同時に風音が特攻してきたのである。それにはジルベールも驚愕する。

『クッ、貴様とてダメージを食らう距離だろうに』

爆発の中でジルベールがそう叫んだが、風音は笑って返す。

「お生憎様。この鎧も、そして纏っているレインボーカーテンも魔力耐性が高くてね。直撃でもなければ」

『ッグォォオオオオ!!?』

「私には効かないんだよッ!!」

そのまま風音の振るった第六天魔王の大太刀が横薙ぎにジルベールの鎧に激突した。そしてジルベールは一気に真横へと弾かれる。それはまるで巨大な砲弾のように飛び、地面を抉って数メートルの跡を付けたのだった。

『くぅっ、なんてヤツだ!?』

舞い上がる土煙の中、ジルベールは剣を支えに立ち上がるが、しかしダメージはいよいよ深刻だった。今の一撃で鎧の胴の右半分のほとんどが破壊されている。

しかし、立ち上がって正面を見たジルベールが「なっ!?」とうめいた。

それはロクテンくん阿修羅王モードの頭部、覇王の仮面の奥にある瞳から光が溢れているのを目撃したからだ。

『それはッ』

それは風音の最大威力の攻撃。

「スキル・メガビーーーーーーム!!」

そしてロクテンくん阿修羅王モードの頭部から強烈な光が放射される。それは大地を抉りながら、ジルベールへ向かって直進していく。

『ハッ、詰めが甘いようだな』

ジルベールは笑う。ジルベールには光線系を反射する天鏡の大盾があるのだ。そして盾をかざして反射をしようとするが、だがその途中で気が付いた。その光の進む先はジルベールにではなく、その頭上を超えた先であると。

「ユッコネエ、任せた!」

「にゃーー!!」

そう、メガビームは『インビジブル』と『光学迷彩』によってジルベールのさらに奥に隠れていたユッコネエに対して放たれていた。すでにユッコネエはその場所に配置されていたのだ。それはつまり、ジルベールはそこに誘い込まれていたという事。

『しまッ』

ジルベールが叫ぶがもう遅い。ユッコネエは『自らの意志』でスペル『ミラーシールド』を発動し、『メガビーム』を反射させてジルベールの背後へと直撃させたのだ。

『ッグガァアアアアア!!?』

絶叫が響き渡る。圧倒的な熱量がジルベールを包み、その存在を破壊していく。そして、その声と光が消えたとき、ジルベールの鎧が煙を噴き上げながらガシャンッと崩れ落ちたのだった。

「一丁上がり!」

「にゃっにゃー」

風音の元にユッコネエが戻り、身体をすり寄せている。

「なんだか、妙に甘えん坊になったね、お前は」

「にゃー」

ユッコネエもご満悦である。金の体毛が風にゆらゆらと揺れている。

「相変わらずスゲエな、カザネは」

「もう、びっくりしたわよ」

その風音とユッコネエに、エミリィとライルが駆け寄ってくる。それにはカザネも手を挙げて、

「うぃっす。出迎え、ご苦労ーー!」

と答えた。

「まったく、悪魔に捕まってるようだったと思ったら、逆転しやがったよ。ホントにリーダー様々だな」

ライルの言葉に風音が「いやー」と頭をかいて笑う。

「それにしてもさっきロクテンくんを出してたのってユッコネエだよね。毛も金色になってるしどうなっちゃったの?」

そうエミリィが言う通り、先ほどロクテンくんたちを出したのは風音ではなかった。風音が旦那様フルバーストを使用したのと同時にユッコネエがロクテンくんたちを取り出したからこそ、ノータイムでの突撃が可能だったのだ。

その質問に対しては風音も「うんとね」と答えた。

「実はユッコネエとはスキルとスペルの共有が出来るようになったんだよね。つまり私の出来ることはユッコネエの方でも自由に出来るようになったってことかな。まあ魔力量がそこまでないからユッコネエのやれることは限られてるんだけどさ」

それはユッコネエが風音と共にいることを望んだことで得た力だった。エイジから注がれた黒いオーラは『情報連携』によって風音と繋がっていたユッコネエの形成しつつあったその性質をむしろ強める効果を生んでいた。

『精神攻撃完全防御』によりユッコネエは、エイジの力をはねのけ、寧ろ耐性が強化されたことで闇の真逆である光の属性へと生まれ変わったのである。

金色の体毛はその結果であり、黒いモノはすべて周囲の繭の側に流れて、表面上は漆黒に染まっているように見えていたわけだ。

「なんだよ、それ。あーもう、心配して損したぜ」

「あははは、ゴメンねえ。さすがにこっちもタイミングをみないと動けなくてさ」

風音とライルがそういって笑いあう横で、エミリィがふと一人離れている直樹を見た。

「と、あれ、ナオキ?」

何故か直樹が少し離れた場所でひとり立ち尽くしていた。いや、徐々にではあるがこちらに向かってきているようではあるのだが、その動きは鈍い。また、すでに『狂戦士化』は解けているようで、マッチョメンではなくなっているようで風音は少しがっかりした。

「おい、ナオキ、どうした?」

「お、おう。今、行く」

ライルのかけ声に直樹はゆっくりとギクシャクとしながら風音たちの元に歩いてくる。

(ああ、状態異常の『筋肉痛』か)

風音が心の中でそうつぶやいた。直樹が先ほど見せたスキル『狂戦士』は使用すれば確かに強力なパワーを得られるのだが、しかし終了後に状態異常の『筋肉痛』になるのだ。なので直樹は今は全身に痛みが走っているはずだった。

「エイジは……やっぱり逃げてるか」

風音はそんな直樹は置いておいて、周囲を見回してそう口にする。

『犬の嗅覚』でもすでに臭いが辿れないところを見れば恐らくは転移したのだろうと風音は予想する。手痛いが、今はそれを悔いてる状況ではないのも把握している。であれば、やれることをやらなければならない。

「よし。とりあえず、ライルとエミリィは、直樹をあの召喚院に運んでおいて。もうタツオに連絡してあるから、中にいるマグナさんたちが治療してくれると思う」

「え? ああ、分かった」

「タツオくんはあそこにいるの?」

エミリィの視線が召喚院に向けられる。

「うん。さっき『情報連携』でタツオにそっちに隠れてるように言っておいたんだよね。まだ研究員の人も残ってるし、結界も解けて安心してるんじゃないかな」

「了解。それでそれからどうする?」

ライルの言葉に風音が少し考えてから答える。

「直樹の治療が済んだら、状況を見て街を護って……いや」

風音はようやく近づいてきた直樹の、その右手の指を見た。そこには英霊の指輪がはめられていた。

「あーやっぱり、戦ったんだね?」

「ぐ……そ、そりゃ……さ」

風音のしょうがないなーという顔に、直樹は全身の痛みに耐えながら笑って返す。

「まあ、今回は助かった。あんがとね」

「だろ?」

風音の感謝の言葉に直樹がはにかむ。直樹にとってはその一言だけで報われるのだから、風音は風音で罪な女の子である。

「だったら、アンタは筋肉痛がある程度回復したらスラム地区に向かって。今ヒルコ化してる人たちであふれてるけど、もしかしたら直樹の英霊ならまだ間に合う人がいるかもしれない」

その風音の言葉に直樹がその意味を考えた後「そうか、そうだな」と返して頷いた。その様子にエミリィが首を傾げたが、直樹が「後で話すよ」と口にしたので、その場では語られなかった。

そして召喚院に去っていく直樹たちを見送りながら、風音はさきほど倒したジルベールの方へと向かっていく。

「完全に動いてないけどなぁ」

風音が眉をひそめながら、ソレを見る。

鎧の方はすでに第六天魔王の大太刀で斬り付けた後に、メガビームの威力が合わさって修復不可能なレベルで壊れているが、その漆黒の剣と天鏡の大盾は健在のようであった。だが問題は風音に経験値が入らなかった事である。

「逃げられた? いや、最初から鎧を誰かが操っていた……ということかな?」

風音は唸るが、だが答えは出ない。もっともその場に残された天鏡の大盾ゼガイは英霊ジークも装備している最高ランクの盾であるし、漆黒の剣も相当に強力な魔剣のようではあった。

「まあ、回収しとこっか」

そう言って風音は両方ともアイテムボックスへと収納していく。

そして先ほどから遠隔視によって街の状況を調べているが、どこもひどい状況のようだった。

(ヒルコの群れが街を襲ってるか。直樹の英霊でどうにかなればいいけど。後は外に兵士の人がいるってのはどういうことなんだろう。ジンライさんの姿が見えないけど、とりあえずはドラゴン退治に向かうかな)

遠隔視で、ドラゴンの周囲が爆発しているのが見えている。どうにも弓花たちの優勢のようだった。そして自分の出番があるのかは分からないが、まずは中央地区の弓花たちの元へ合流すべきだろうと考え、風音はユッコネエに乗って一気にその場から駆けだしたのである。