軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五十九話 屋敷を出よう

◎リンドー王国 交易都市ウーミン アングレーの屋敷 アングレーの部屋

風音たちとの商談を終えたアングレーは、風音たちが泊まるホテルの手配といくつかの指示を部下にした後、そのまま自室へと戻っていた。そして部屋にはさきほど風音たちを屋敷に案内したオウギが待っていた。

「どうでしたかな?」

戻ってきて早々に、そう口にしてきたオウギに対してアングレーは笑う。

「ああ、そうとう癖のあるメンバーではあったが、悪くない子たちだったんじゃないかね」

そしてそう言った後に、アングレーはドッシリと専用の椅子にもたれ掛かった。そのまま「ふう」と一息付くとオウギの方を見て笑みを浮かべた。

「温泉はやっぱり断られたがね」

そう口にするアングレーにはまったく悔しそうな、そして残念そうな気配はなかった。どちらかといえば断られて当然と思っていたような口振りである。対するオウギもアングレーの言葉に「そうでしょう」と頷いた。

「まあ、今のアレを前にしては、こちらの提示した額では詐欺にしかなりませんしな」

オウギの言葉にアングレーが「だろうな」と返した。

「まさか資産価値を高めて、温泉を守るなんて方法があるとはな。狙ったかどうかは分からんが、見事な娘だよ」

そう口にするアングレーの顔は笑っていた。

「それと水晶温泉の見学がてら、今週中にでも温泉街に行ってみようと思うんだが、どうだろうな。マッカ殿との商談もある。不自然ではないと思うが」

その言葉にはオウギも笑みを浮かべた。

「ええ、それが宜しいかと。その外観はまさに、この世の天国と聞いとりますのでな。ワシもお供しますぞ」

そしてアングレーとオウギが笑いあう。その様子は、長年を共に渡り歩いてきた雰囲気が漂っていた。

そのアングレーとオウギの会話の中に出てきた水晶温泉。それは言葉通りに風音が造り出したカザネ魔法温泉街の浴場のことであろう。

しかし、あの温泉が出来たのは現時点より二日前のこと。そして途中でキャラバンと共に移動することになったとはいえ、通常の移動手段で風音たちよりも速くこのウーミンまでたどり着いてアングレーに情報を伝達するのは至難の話だろう。

普通であれば早馬、或いは伝書用の鳥でも使ったのかというところだろうが、しかし使われた伝達手段はまったく別のものだった。

「カンナには『メール』を返しておきましょう。無事失敗と」

そう言ってオウギはカンナという人物にメールを送り始める。アングレーには見えない、風音たちがウィンドウと呼ぶものを使って。それはつまり、オウギはプレイヤーであるということだった。

「頼んだ。今は悪魔どもがウロチョロしておって面倒だからな。十分に気を付けるようにと伝えておいてくれ」

そうアングレーはオウギに伝えると窓の外を見る。その視線の先には正門の方を歩いていく白き一団の面々の姿があった。それを見てアングレーは自然と笑みを浮かべる。アングレーも中年から壮年にさしかかろうという歳だ。そして老人に近付くほどに風音の魔性の女パワーは効力を発揮する。アングレーは風音に取り込まれつつあったのだ。

と、そこでアングレーは先ほどの対談で気になったことを思い出した。

「ああ、悪魔と言えば、やはりブラックポーションのことを彼女らも気にしていたな」

そのアングレーの言葉にはオウギは眉間にシワを寄せた。だが、その瞳はやはり開かれない。明らかに見えている素振りなのにオウギの目は閉じられたままである。

「もしかすると彼らは、我々と悪魔の関係を探りにきたのかもしれませんな」

そのオウギの推測にアングレーが「ふむ」と唸った。

「あのルイーズという女性は悪魔狩りのキャンサー家の出だ。その関連でピリピリしているだけかもしれんが、しかし、彼らは悪魔討伐の実績がある。そうした彼らを味方につけておくのも手ではあると思うが」

そのアングレーの言葉にはオウギも首肯する。

「明日の食事会でそれとなく、確認をとってみると良いのではないでしょうかね。後ろにはあのユウコ女王もおるのでしょうし、直訴の形をとれるやもしれません」

「ユウコ女王か。あれも確かプレイヤーであったな。彼女も含めて仲間に引き入れるのはやはり無理そうか?」

「無理かどうかは知りませんが、こちらのことが知れれば、逆に利用されて終わり……という可能性も否定できませんな」

そのアングレーの問いにオウギは慎重に返した。

「しかし、怖い女だとは聞いてるがプレイヤーなのだろう?」

アングレーはプレイヤーの多くがニホンというジャパネスに似た戦争のない国の住人だと聞いている。だがオウギは首を横に振る。

「同じプレイヤーとは思えぬほどに冷酷で残忍な方のようです。夫を殺され、子供を取り上げられそうになれば、修羅とならざるをえなかったのでしょうが。ミンシアナのこの10年の内情だけを考えれば、あの女王もソルダードの今の王とやっておることは変わりませんから」

逆らう勢力は皆殺し。ソルダード王との違いはそれを表沙汰にしているか否かの差でしかない。であれば、自分の秘密を守るために、他国の商人程度の命など気にも留めずに断つかもしれない……と、オウギは懸念していた。

「しかし、プレイヤーとしての情報網は惜しい」

そうアングレーは言う。

実のところ、アングレーがここまでの地位を掴めたのは、仲間にした複数のプレイヤーたちのメールの情報網を利用した流通速度と、オウギの固有スキルによるところが大きい。

アングレーは現時点で、オウギ、カンナの他に二名のプレイヤーと共に、この商会を動かしていた。情報伝達の高速化。それこそがメッシ商会がリンドー王国内でのし上がれた原動力であったのだ。

「であれば、カンナだけを接触させてパーティ登録をさせる……という方法もありますな。あの娘は基本的にはフリーの情報屋でありますし」

思案した後、オウギはそう答えた。

「カンナか。あの娘はイマイチ信用におけんが、仕方あるまい」

そしてアングレーも渋々という感じではあるが、オウギの言葉に頷いた。

「それで、悪魔と言えばヤクーの足取りは掴めたのか?」

続くアングレーの質問にはオウギは首を横に振った。

「今朝、死体が発見されたようです」

そして返ってきたオウギの言葉にアングレーが眉をひそめる。

ヤクーとはカザネ魔法温泉街(仮)への出資を進言してきた者の名で、実際に動いていたのもその男であった。そして、カザネ魔法温泉街の乗っ取り案も計画した人物であった。

その行動が不自然ではあること、さらにはオウギのスキルによって早々に悪魔憑きであることをアングレーも看破していたのだが、実際に上手く働いてはいたのでわざと見逃していたのだ。

アングレーは風音たちと同程度にはブラックポーションに対しての知識があった。それ故に、悪魔憑きの男がブラックポーションの現地生産のために魔法温泉を欲していることも把握していた。それを餌にある程度成果を上げたところで、成果だけを取り上げて捨てる予定だったのだが、風音たちが来ると言う話が上がってから急に姿を消していたのである。

「カザネ殿の『犬の嗅覚』に嗅ぎつけられるのを嫌ったのでしょう。ヤクーが死ぬつもりだったとは思えませんし、消されたと見るべきでしょうね。あれよりも上が街にいるのは間違いないかと」

「まったく厄介な連中だよ。早々に我が国から退場願いたいものだな」

そう口にするアングレーに、オウギも深く頷く。

現時点におけるリンドー王国内の悪魔の浸食はかなり危険なものであった。それをどうにかせねば、アングレーは、自分たちの未来は穏やかではいられないと考えていた。

「そういえば、エリザベートはいかがなさいましたかな?」

そして、話がとぎれた後に不意にオウギがそう口にした。普段であれば、二人の会話に耳の痛い言葉をよく挟む白猫の姿がなかったのである。しかし、その問いにはアングレーは渋い顔をして「知らんよ」と返した。

「また勝手に動きおったわ。まったく」

「まあ、彼女のすることです。間違いはないのでしょうが」

憤るアングレーにオウギは笑ってそう返した。エリザベートに関していえばいつものことではあった。だがアングレーはますます渋い顔をする。

「だからいかんのだろうが。飼い主よりも頭の良い猫がいてたまるものか」

その言葉にますますオウギが笑ったのは言うまでもなかった。

◎交易都市ウーミン 東通り

『こっちよ』

フリフリとしっぽを振りながら白猫エリザベートが前を歩いていく。

その後ろを「にゃー」と鳴くユッコネエと「どこ行くんだろねえ」とユッコネエの背に乗っている風音と『ですねー』と風音の頭に乗っているタツオがついていく。

現在風音はアングレーの用意したホテルを出て、ユッコネエとタツオと、エリザベートと共に街の東通りを歩いていた。なぜ彼らがこうして共に歩いているかといえば、ホテルに着いた途端にエリザベートが現れて風音たちを誘ったからである。

「それで、もうすぐなのエリザベートさん?」

『ええ、アタシの召喚主がいるのよ。そっちの子猫ちゃんの力になれるのではと思ってね』

風音の問いに、エリザベートがそう答える。

「召喚主? あのアングレーさんではないの?」

風音の問いにエリザベートは首を横に振る。

『あれは契約主ね。まあ、アタシはあれの護衛ってところよ』

その言葉に(護衛なのに離れててもいいのかなぁ)と風音は思ったが、現在はオウギが屋敷にいるので問題はないとエリザベートは考えているようだった。

そのエリザベートの言葉によれば、このウーミンには召喚院と呼ばれる召喚に関して研究している施設があるのだという。それがこの東の区画に建っているとのことである。

『あ、この角よ』

そう言ってエリザベートが曲がった先には古そうな、そこそこ大きな建物があった。その建物の後ろは少し広い庭らしきモノもある。

「雰囲気はあるねえ」

「にゃー」

『ですねー』

風音の言葉にユッコネエとタツオが反応する。

「あれ、カザネさんじゃあないですか!?」

その召喚院の施設に近付いたところで突然、その建物の前に立っていた男が風音に声を掛けてきた。そして、突然自分の名を呼んだその人物を見て風音が目を見開いた。

「ええ……と、誰?」

知らない人だった。