軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三十七話 姫君を助けよう

◎アカナ街道近辺 ザンバラの森

オーガというものは人間にとって非常に恐ろしい生き物だ。

3メートルはある巨大な肉体、上方から繰り出される怪力に任せた打撃、高い位置にあり届かないコア、そして攻撃が届く範囲にある足が刃物を通さぬほどに高い硬度を持っていて、そのくせ魔力抵抗が非常に高い。

ダメージを受けにくく、倒しにくいうえに、攻撃はすべて必殺というオーガは中級冒険者までの天敵ではある。だが攻略法が確立している冒険者にとってはただの美味しい相手でしかない。

「出番がないな」

「ですねえ」

石馬ヒッポーくんに乗りながら師匠と弟子は頷きあう。

ヒッポーくんは現在3体。風音、弓花、ジンライがそれぞれが乗っており、それぞれの石馬の背には計八組の角が乗っている。

先頭の風音が臭いを辿り、先に進むのを見てジンライは「ふむ」と口にする。

「すみません。師匠、ちょっとあのこ、今日は機嫌悪くて」

「構わんさ。お前も随分と酷い顔をしている」

「う、ごめんなさい」

ジンライの言うとおり、弓花は泣きはらして目が真っ赤になっている。それは前にいる風音も同じである。

昨晩、状況を確認し合った二人はどちらともなく堰を切ったように泣き始め、そして大号泣大会になっていたのである。

それでも弓花はまだ気持ちがすっきりしたと思っているのだが、風音は気持ちの切り替えができていないようだった。

「いた」

風音は一言言う。

「今度はどうなんだ?」

ジンライがそう口にする。遭遇はすでに4度目。1、2体では風音のヴォーテックスのみで片が付くのは分かっている。

「8体、まあ倒すには問題ない数だけど」

そう口にして言いよどむ。

「なに?」

「まだ大丈夫っぽいけど、女の人が捕まってる」

弓花の息が一瞬止まる。

オーガは人間の女を捕まえて孕ませることがある。それはゴブリンなど人型種族に多い悪しき傾向だった。

「まだ…ということは」

「何もされてはいないけど…」

さらわれたということはどこかで襲撃を受けたということである。そちらは全滅だろう。

「胸くその悪い。それでリーダー、どうする?」

二人の時はなあなあだったが、ジンライが来た時点で風音をリーダーにすることで決まっていた。こうして判断を仰ぐときはジンライは風音をリーダーと呼ぶ。

「私がその人を助ける。二人は助けたのにあわせて突入を」

「承知した」

「うん、頑張ろう」

3人は頷き合い、オーガ達のもとに向かう。

途中でヒッポーくんを置き、風音はスキル『インビジブル』を発動し、オーガの群れに近付く。

(なかなか使い勝手がいいね、これ)

『インビジブル』とは光学的な透明化ではなく自身の認識レベルを周囲から限りなくゼロにするスキルである。石ころレベルにまでどうでも良い存在となった風音はオーガの群れに併走する。

(でっかいなあ)

気付かれないとはいえ目の前にオーガがいるのは心臓には悪い。インビジブルは攻撃などを行えば効果が薄れる(なくなるわけではない)ため、下手に仕掛けると危険でもある。

(…あれか)

両腕を掴まれ片手で持ち上げられている少女が一人。グッタリした顔で意識はないようだった。

そして風音は弓花とジンライの準備ができているのを匂いで確認をし、行動を仕掛ける。

「スキル・空中跳び」

風音はオーガの頭までタンタンッと飛び上がり

突然視界に影ができ、首を傾げたオーガに対し

「スキル・キリングレッグ」

狂鬼の甲冑靴で強化した蹴りを叩き込んだ。

首がボールのように吹き飛ぶ。

(なんツー威力!?)

風音が自身の蹴りの威力に驚愕する。一瞬、甲冑靴が光ったのも見えた。オーガ属性のプラス補正が掛かったのかも知れない。

(と、そんなこと考えてる場合じゃない)

風音は地面に着地し、地面に落ちた少女を担ぐ。

「グロォォォォオ」

「オォォオオオオオオオオオン」

オーガ達の叫び声がとどろく。それは仲間が殺されたことによるものではなく、弓花たちの襲撃によるものだ。

「スキル・ゴーレムメーカー・テバサキさん及びテバサキさん」

風音はフォロー用のゴーレムを呼び出すと一気に突進でその場を離れた。

20分後。

「お疲れ〜」

少女を介抱している風音のもとに二人が戻ってくる。戦闘終了からはもう十分以上は経っている。時間がかかったのは角を採集していたためだ。

「全部で16本、さすがに今日はこれ以上は無理だろう」

併せて32本、受付が目玉が飛び出るほどに驚く数である。

「とりあえずはヒッポーくんをもう一体用意して運ばせるよ」

「そっちの人は…と、もう意識が戻ってるのね」

グッタリとしている様子から気付かなかったが、少女は目を開いていた。

「ありがとう…ございます」

ほそぼそと少女は礼を告げる。

「いや、礼には及ばないが」

「でも、子供をこんなところに連れてくるなんて…駄目だと思います」

「「「?」」」

3人とも首を傾げる。

「オーガは危険です。助けられたことには感謝しますが」

ジンライは自分が責められるような目を向けられているのに疑問を持ったが、風音を見て「もしかして…」と思い直した。

「すまないが、このパーティのリーダーはワシではない。お前さんの言葉は見当違いというものだ」

「どういうことでしょう?」

少女が首を傾げる。

「このパーティのリーダーはその横にいる子供もどきで、彼女は鬼の首を蹴りちぎる恐るべき生き物なのだ」

子供もどきという単語に風音は愕然とする。その横で「何をバカな」という少女にジンライは再度説明をし、少女が納得いったのはさらに10分もあとのことだった。

「なるほど。わたくしの認識間違いだったというわけですね」

「理解していただければ結構」

ジンライと女性はようやく互いの納得に折り合いが付き満足していた。

「むー」

「まあまあ」

その裏でブーたれる風音となだめる弓花がいた。

「それよりも随分と余裕だけど、あなたと一緒にいた人とか居なかったの?」

問題はそこである。

「まだ逃げ延びた人とかいるのなら助けに行くけど」

「いえ、それには及びません」

しかし、女性はきっぱりと言った。

「連中は人攫いでしたから」

************

(これはまたややこしいことになったな)

と、ジンライは思った。目の前の少女の立場が相当に高かったためということもあるが、その状況の重要性が際だっていたためである。

「ということはティアラはツヴァーラ王国のお姫様?」

少女は頷く。

名はティアラ・ツルーグ・ツヴァーラ。ツヴァーラ王国第一王子の娘を名乗っている。外見は見目麗しく、確かに血筋と育ちの良さが現れてはいたが、肝心の身分の証明となるものは持っていなかった。

「わたくしはどうやら売られる予定だったようですから」

身分証となる王族の証のナイフは取り上げられ、紋章入りの指輪なども没収され、服もみすぼらしいものに取り替えられたのだという。

「いったいどうしてそんなことになってるんだろうね」

「叔父のシェルキンが父を脅すために…でしょうね」

ジンライは頭を抱える。お家騒動か、と。

「にしては妙だよね。脅すのなら売るよりも確保しておくか殺すかしておいたほうがいいと思うけど」

こともなげに風音は言うが、どちらかというと実感のない故の発言ではある。

「それはわたくしをさらった人たちの事情でしょうね。わたくしがさらわれたとき、『遊ぶのは構わないが殺しておけ』と命令していた男が言っていましたから。本来であれば殺されているはずでしょう」

弓花が顔をしかめる。

「なら小遣い稼ぎかな」

風音がそう口にした。

この時代の奴隷は一人20000キリギアぐらいだが、性奴隷で、それもティアラほどの上物ならば100000キリギアの値は付く。

ここでの奴隷というものは、現実世界で言えば金銭的に自動車等に相当する。風音が以前に調べたようにそこまで酷い扱いを受ける奴隷が少ないのは所有者にとっては高額な財産であり使い捨てできるものではないからである。

「にしてもティアラは自分のことなのに動じないね」

「今ある状況が全てでしょう。わたくしは今五体満足でいるのですから」

肝は据わっているようだった。そして、その裏でジンライは口を挟む。

「確かツヴァーラ王国は現在国王が病に伏せり、第一王子が取り仕切っていると聞きます」

ティアラが頷く。

「ティアラ様、今回のことは第一王子アウディーン様の失脚の可能性があるということでしょうか?」

「ないと信じたいのですが、父はその…私が大好きなものでして」

ティアラが恥ずかしそうに言う。

(親ばか…と)

風音はアウディーンという人物の脳内評価にそう付け加える。

「だとすれば、こちらにとってもまずい状況かもしれませんな」

「どういうこと?」

風音の質問にジンライは答える。

「第一王子のアウディーン様は古くから続く統治を世襲する方針だ。まあ、このミンシアナとの友好関係も続けるおつもりのようなのだが」

その言葉にティアラは再度頷く。

「対して第二王子シェルキン様というのがどうも焦臭い方で、改革派とでも言うか、具体的に言えば現在北で戦争の可能性があるソルダードとつながりを持っていると聞く」

「ようするに?」

風音にもなんとなく予想は付いたが聞いてみる。

「シェルキン様が国を動かした場合、ツヴァーラ王国はミンシアナを攻めてくる可能性がある」

「そんなっ!?」

弓花は予想外だったようで、目を見開いて驚いている。

「それは面倒なことになるね」

と軽く言う風音だが、その声はうわずっていた。