軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百五十話 温泉街に着こう

そして直樹たちはコーラル神殿のあるアルゴ山脈へと消えていった。

山用の防寒着にロクテンくんから取り外した紅蓮のマント。さらには不滅シリーズのアイテム接収用の不思議な倉庫。また余ったチャイルドストーン動力の三人乗りゴーレム『サンガクくんスーパー』も用意したので、コーラル神殿までの旅路は問題ないだろうと思われた。

その直樹たちを見送った後、風音たちは当初の予定通りカザネ魔法温泉街(仮)に向かうこととなる。もっとも山道の入り口からはほとんど目と鼻の先にある場所だ。たどり着くのには大して時間もかからなかった。

◎ミンシアナ王国 カザネ魔法温泉街(仮)

「よ、ようこそ、カザネ魔法温泉街へ」

「お久しぶり、キンバリーさん」

「久しぶりだなキンバリー」

キンバリーの挨拶に外に出ている風音とジンライが答える。

カザネ魔法温泉街(仮)に入った風音たちを出迎えたのはかつては風音のランクC昇級試験の試験官でもあったキンバリーだった。その彼は現在はカザネ魔法温泉街(仮)の警護団の団長をやっているらしく、怪しい一団がやってきたと報告を受けてすぐさま街の入り口へと馳せ参じたようだった。

そしてそこにいたのは風音たちの乗るヒポ丸くんとサンダーチャリオット。さらに馬車の上には化け猫と黒竜の子供も乗っており、さすがのキンバリーも風音が外に出ていなければ平静を保てていなかったに違いなかった。

また彼の部下らしき兵たちは、警戒心から剣の柄に手をかけていたが、それ以上に顔には恐れが宿っていた。外に出ていたのはチンチクリンであったが、それはそれは恐ろしい鎧を纏ったチンチクリンだったのだ。

兵たちはその鎧から直接殺気を放たれていると感じていたが、それも間違いではない。闘争の臭いを察した狂い鬼が活性化して待機していたのである。

「このバカども。この街の領主様だぞ」

キンバリーは怯えている部下たちの姿に無理はないとは思いつつも、声を荒げて怒鳴りつけた。その言葉に風音が「え、確定なの?」という顔をしたが、キンバリーは特にそれには気付かない。

そしてキンバリーは「それではどうぞ、こちらです」と口にして、風音たちをゆっこ姉デザインの温泉コテージの横に併設した、仮の領主の館へと案内するのであった。

その通り過ぎる光景を見ながら、風音たちは、カザネ魔法温泉街(仮)が以前に比べて建物も増え、街の体裁を成してきているのをその目で目撃する。風音のゴーレムメーカーほどではないが、ダンジョンが生まれると街も併せて建造されるこの世界の建造速度は非常に早いものであったのだ。

◎カザネ魔法温泉街(仮) 領主の館(仮)

「ようこそいらっしゃいませカザネ様」

そして迎えたのはゼニス商会の宿泊施設及び街発展振興部代表マッカ・トーマックだった。この領主の館(仮)にいることで分かるように実質的にこの街の総指揮を執っているのは彼女である。

「うん、お久しぶりマッカさん」

風音はそう返し、ジンライたちもそれぞれ挨拶をする。そして館に着いた風音たちは侍女たちに案内されて賓客室……ではなく、領主の間へと通された。

「ここがカザネ様のお部屋ですわ。お気に入りになられるとよろしいのですけれど」

部屋に入るとマッカが悪びれた風でもなく、素で風音にそう説明した。

「あーそれ、それだ。なんで私が領主になってるの?」

ゆっこ姉からは町長になりそうだなんて話を聞いていたのだが、実際には領主で、しかもキンバリーの様子からしても確定事項となっているようだった。

その風音の言葉にマッカは首を傾げたが、風音がともかく事情の説明を求めると、風音はゆっこ姉の親戚で、つまりは王族であるために、領主の座を得る資格があり、現在はカザネがこの街の領主となっているとのことであった。

「んー、私が王族? なにそれ?」

「ああ、ほら。あの白剣を風音使ってたじゃない。あれが原因じゃないの?」

マッカの話を聞いて、さらに首を傾げる風音に、弓花がそう口にした。その言葉に風音も眉をひそめながらも納得した。

元々ゆっこ姉がプレイヤーであるにも関わらず王族として生きているのは『王族しか使えない』白剣の使い手だからである。そして風音は白剣を使うことが出来、それをミンシアナでは何人かに見られている。

であれば、風音も王族として認識されても不思議ではなかった。実際、貴族連中が健在でその件を嗅ぎつけていれば、ゆっこ姉を排斥して風音を傀儡の王に立てる方向の話も上がっていただろう。もっとも現時点においてはそうした考えを持つ者たちはすでにゆっこ姉の手により王城から、或いはこの世から退場しているのでそのような事態にはならなかったようだが。

「この街をより発展させるには、ミンシアナ王国にも動いてもらう必要がございましたし、そのためには領主様を立てる必要もございましたの。それを上に相談しましたところ、カザネ様をひとまずは領主として立てて好きに動かして良いと言われたのですわ」

そのマッカの言葉に風音はぐぬぬと唸った。明らかにゆっこ姉の差し金である。

「なるほど。マッカさんに聞けとは言われたけど、名前貸しかぁ」

風音はため息をついて諦める。ゆっこ姉であれば、風音たちがA級ダンジョンを目指していることを知っているし、そう焚きつけたのもゆっこ姉である。故に風音が自由に動けるように手を打ってはいるだろうし、目をつぶることにしたのだ。

「あの、ご迷惑でしたでしょうか?」

マッカの不安そうな顔で風音に尋ねる。何かをやらかしてしまったかと思ったようだった。

「いんや。まあ、別に良いけどね。マッカさんが好きに動けるようにという配慮なら私としても言うことはないよ。えーと、私は別にこの街に残らなくても良いんだよね?」

「はい。居ていただけるのが一番でございますが、現時点では他の貴族様方のお手つきがでないようにするための便宜的措置であると伺っております。基本的にはわたくしがどうにかいたしますのでカザネ様のお手を煩わすことはございません」

風音の言葉にはマッカがそう答える。その瞳は燃えている。やる気満々のようであった。

新しい街が生まれる際の基盤造りは基本的にはその国の商会が動いて対応する。そしてマッカは街が完成した暁には、この街の商会を任せられることとなり、つまりそれはミンシアナ王国のゼニス商会の幹部への昇格をも意味していた。

「じゃあ、そっちはもういいよ」

ともかく風音は自分たちの目的を優先することにした。

「それで私たちが来た目的は聞いてるよね?」

「アングラー・メッシの件でございましょう。はい、何度も対応させていただいておりますし」

そのマッカの言葉には若干の疲れが見られた。

「かの御仁からは温泉の源泉の所有権についての取引が持ちかけられておりますが……まさか、お受けになるわけではございませんよね?」

「うん、特に誰かに渡す気はないよ」

風音の言葉にマッカがホッと一息ついた。

現時点においてはこのカザネ魔法温泉街はマッカの所属するゼニス商会が建設には一手を担っている。国境付近と言うことで、リンドー王国側のメッシ商会も共同出資という形にはなっているが、街の核である温泉を奪われてはそのパワーバランスが揺らぎかねない問題となるのは目に見えていたのだ。

「それで、アングレーさんは今は?」

「はい。アングレー氏は現在は国境を越えてすぐのリンドー王国の交易都市ウーミンに滞在中であると聞いております。カザネ様が到着したことを連絡すれば、すぐに馳せ参じるとは伺っておりますが」

その言葉に風音はうーんと唸ると、「いや、こちらからいくよ」と話した。

「よろしいので?」

「うん。呼んでから来てもらうってんじゃ、ちょっと時間かかりそうだしね」

交易都市ウーミンまで伝令が届いて、それからアングレーが重い腰を上げてここまで来るのにどれくらいかかるか分からない。風音たちは戴冠式前までにはツヴァーラの王都に行かねばならず、出来る限り先を急いでいるため、タイムロスは望ましくはなかった。それがウーミンにいく理由の半分である。

「それに行ったことのない街って見てみたいじゃない?」

そしてもう半分がそれであった。だがジンライが渋い顔をする。

「しかし、何かに目移りしてもお前はもう先立つモノがなかろう?」

その後ろのジンライの言葉に風音はウッとなった。マジリア魔具工房での修理費で風音のポケットは今やスッカラカンであるのだ。確かにウィンドウに飾られたトランペットを見る子供のようなことになりかねない。

「でしたら」

そして、唸る風音の耳にマッカの声が響いた。風音がふと顔を上げてマッカを見るとマッカの眼鏡がキラーンと輝いていた。

「お金でしたら、御用立ていたしますので、その……ひとつ仕事をお願いしたいのですけれども」