軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百三十六話 ランクSになろう

◎シジリの街 ジンソード酒場 昼

シジリの街に戻ってきた直樹とライルは、戻った当日はもう夕方で疲れも溜まっていたため、その日は宿屋で休みを取り、そしてその翌日、実に五日ぶりにオーガンのいるであろうジンソード酒場へと足を運ぶこととなった。

だが、彼らが酒場に入ると男たちが忙しそうに動き回っていた。しっちゃかめっちゃかに動きながら荷物を整理しているようだった 。

「んー、なんか忙しそうだな」

ライルの言葉に直樹も頷く。どうも引っ越しか何かの作業を行っているようだった。

「ああ。こいつは、出直した方が良さそうだな」

酒場の様子を見回して直樹もライルに言葉を返す。どうにも立て込んでいるようである。なので、ふたりはそのままUターンして帰ろうとしたのであるが、

「おい、ナオキとライルじゃねえか」

酒場の奥からオーガンの声が響いた。そして帰ろうとしている二人の様子を見て慌てて叫んだのである。

「お前等、ちょっと話を聞かせろ。すぐにだ!」

**********

「魔王の率いるマッドスパイダーの大群が来て、ミンシアナの軍隊が討伐に向かうんじゃないのか?」

酒場のハジに連れてかれた直樹とライルは、オーガンから混乱して見当違いの方向に走っている噂を聞かされて頭を抱えた。なにをどうしたら、そんな話になるのか。この情報伝達の手段の少ない世界では、連想ゲームのように話の内容がズレることはままある。だが、それにしても……と、直樹は思ったままのことを口にする。

「お前等、バカだろ」

その直樹の辛辣な言葉にオーガンがウッと唸り、そして少し考えた後、後ろに振り返って部下たちにやらせていた荷物のまとめ作業の中止を宣言した。大声でヤケクソに叫びながら。

要するにオーガンたちは魔王の軍団が街まで攻めてくると聞いて、いつでも逃げ出せるように荷造りをしていたらしかった。

「魔王がこの街に攻めてくるとか、どんな勘違いすればそういう風な話になるんだよ」

直樹の呆れた声にオーガンがドモりながら答える

「冒険者ギルドが今大騒ぎなんだよ。魔王が出たとか、マッドスパイダーが500体も黒い石の森に集まってたとか、ミンシアナ軍を呼ぶかどうかとか……な。そっから話を類推したらそうなったんだ。今、他のところも同じ状況だろうよ」

その言葉に直樹がため息をつく。まさか町中で引っ越し準備してるんじゃないだろうな……と。

(まあ、大騒ぎなのは間違いないけどな)

オーガンの必死な言葉に直樹は頭を抱えながら、心の中でそう呟いた。

確かに今、冒険者ギルドは大騒ぎだろう。昨日に直樹たちが運び込んだ500体分以上のマッドスパイダー素材を鑑定しながら、今回の状況もまとめ上げているところなのだ。職員たちにとっては今は戦場に等しいに違いない。

「ともかく、全部終わったことなんだよ。だから俺らが帰ってきてるんだろうが」

直樹のその言葉にはオーガンも頷くしかない。オーガンはふたりが黒い石の森に行っていることは知っていたのだ。戻ってきていることまで知らなかったようだが。

「まあ実際にお前らがここにいる以上はそうなんだろうが、しかし、どこまでが本当でどこまでが嘘なんだ?」

「マッドスパイダーが500匹以上いたのは事実だわな」

ライルが先ほどの言葉の中からそう口にする。

「魔王様が現れたってのも事実だけどな。ただ、マッドスパイダーのボスを仕留めてくれたし、俺らの味方をしてくれてたんだけどな」

魔王の単語が出た途端に訝しげな視線になったオーガンに若干冷や汗をかきながら、直樹が答える。

「それで倒したのか。マッドスパイダーの群れを?」

「まあなあ。最終的には討伐した数は700体は超えてるんじゃねえかな」

オーガンがあんぐりと口を開けるが直樹もライルの言葉を肯定する。

「ジンライ師匠の 雷神砲(レールガン) で相当吹き飛んでたからなあ。原形とどめてないのも多かったしカウントできるのはもっと少ないけどな」

「何してやがるんだ、お前等……」

「いや、おかしいのは姉貴たちだからな。俺たちは真っ当にバーンたちを救出したりしてたよ。あっちで何をしたかは姉貴に聞いてくれ」

「姉貴って……正直、あの人はもうアウター間じゃ厄ネタ扱いになってて、俺も今あんま近付きたくねえんだよな」

「ああ、なんかアウターに異常に恐れられてるんだったっけ。姉貴って……」

そのオーガンの反応が世間の裏道を生きているアウターたちの鬼殺し姫の認識である。せめて 強面(こわもて) であれば、それに応じた扱いも出来るのだが、何しろ見る人によっては愛くるしいと感じる程度の見た目チンチクリンである。故にどう接して良いかも分からず、噂だけが先行しているようであった。

「この間、酒場に来たときだけでも結構他のアウターファミリーとピリピリした空気になったからなあ。それにあの人、魔王様の眷属って噂になってるぜ。というか娘じゃないかって話なんだが」

その言葉には直樹とライルが出された水を盛大に噴いた。

「マジかよ。どっからそんな話が!?」

ライルがゴホゴホ言いながらオーガンに尋ねる。直樹はまだむせている。

「そりゃあ、ちょっと前に話になった神託の魔王の名前にカザネって入ってるしな」

カザネリアンさんが風音さんとお知り合い。名前が重なってるからと言う馬鹿馬鹿しいほどに直球な推測ではあるが、関係性を疑うとっかかりとしては十分だろう。

「鬼殺し姫の強さの秘密がようやく知れたってみんな納得してたぜ」

後ろでライルが「あーーあーー」という顔をしているが、直樹も「ですよねー」という顔であった。

(こりゃ、バレるの早そうだな)

姉の『魔王・正義の味方』計画など正直どうかなーと考えてた直樹だが、早々に実現しないといろいろと厄介そうだと考え直した。

「で、弟のお前も魔王パワー持ってるのか?」

「ねえよ。魔王と親子だったことなんてない」

親子ではないが姉弟ではある。が、もちろんバラす必要もない。

「まあ、そりゃそうだわな」

オーガンとて直樹が魔王的な力を出したのを見たことはないので本気で言っているわけではなかった。直樹の特殊な技能である『魔剣の操者』がそうかと問われてもあまりにも微妙すぎるだろう。

「それで、お前の姉さんは今どうしてるんだよ」

すべてが終わって直樹たちがシジリの街に戻っているということは当然風音も戻っているということである。オーガンが動向を気にするのは当然のことだろう。

「ああ、今はその……騒がしい冒険者ギルドの偉いさんのとこにいると思うぜ」

そして直樹はオーガンの問いにそう答えた。

◎シジリの街 冒険者ギルド 支部長室

「昨日とはずいぶんと違う格好ですな」

冒険者ギルドの支部長である自分の部屋の中でモーロックが、額の汗をハンカチで拭いながらそう口にした。

「あんな格好で街中とか歩けないし」

モーロックの言葉に風音がそう返した。『あんな』格好とはつまり『竜喰らいし鬼軍の鎧』のことである。モーロックも昨日はその姿形から思わず「……魔人」と呟いてしまったが、今の風音の格好は、リザレクトの街で弓花に購入してもらったカボチャパンツがチャームポイントの青と白のお洋服である。

それらは子供用のものではあるが、一緒に身につけているのが紅の聖柩、英霊召喚の指輪、叡智のサークレット、アイムの腕輪、虹のネックレス、虹竜の指輪、天使の腕輪等といった装飾品としても一級品なアイテムばかりであるため、風音自身もどことなくお上品な印象になっていた。しかし、中身はただのチンチクリンである。

「そういえば、あれも身につけていないと機嫌を損ねるのではないか?」

風音の横に座っているジンライが心配そうに尋ねる。

「あー、暴れられないところに行く方がストレス溜めるみたいだよ。基本、身につけてない非活性の状態は寝てるみたいなんだよね」

風音はジンライにそう返した。

狂い鬼たちも長期間、戦いから離れれば不機嫌になるかもしれないが、多少使用しないぐらいならば大した問題にはならないようである。

「そういうものか。確かにジンも置かれているときはほとんど思考しないと言っていたな」

風音の鎧に狂い鬼たちが宿っているようにジンライの槍にはジン・バハルとグングニルが宿っている。もっともジン・バハルは元は人間で気性の荒いタチでもないし、比較するには不適切かもしれないが。

「武具に宿っている召喚体のお話ですかな?」

「うん。そうだよ」

モーロックには風音たちの話だけでその内容に見当がついたようである。さすがに冒険者ギルドの支部長だけありそうしたことにも理解が及ぶようだ。

「なるほどカザネさんのあの格好は、魔物素材の鎧が進化したわけですな。趣味ではなかったんですか」

「違うよ」

即答である。さすがにあれを日常的に着こなそうという気概はまだ風音にはない。

「まあ、確かに扱いにはよく注意をした方がよいでしょうね。あれほどのモノならば宿っていたものも相当な召喚体だったのでしょう」

中身はつい最近白翼が大きく成長した4メートル越えの黒いオーガ『狂い鬼』である。それに狂い鬼に誘われて引っ越してきたオーガ23体も追加されている。あの鎧の中には黒岩竜の因子を受けて強力になったオーガの群れが仲良く住んでいるのだ。

「そうだねえ」

今はアイテムボックスの中に仕舞ってある『竜喰らいし鬼軍の鎧』を思いながら風音はそう口にした。

「それで、今回はなんの用件なのだ? また昨日の話の続きなのか?」

そして風音ではなくジンライが話を切り出した。モーロックが困ったように笑うが、どうやらジンライの言葉の通りのようである。もっとも、白き一団のリーダーである風音だけではなくジンライも呼び出された時点で答えは出ていたようなものではあったのだが。

「はい。ハイヴァーン冒険者ギルドマスター代理、ミンシアナ冒険者ギルドマスター、ツヴァーラ冒険者ギルドマスターのお三方からの承諾を得ました」

「そんな承諾、いらんというのにな」

ジンライが面倒くさそうにモーロックの言葉にそう呟いた。

「ジンライ・バーンズ、本日よりあなたはランクSに指定されます」