軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百三十一話 合体をしよう

◎黒い石の森 鬼岩周辺

突然出現して走り出した狂い鬼を追いかけて風音たちが向かった先にあったのはまるで小山ほどもある細い岩であった。

「鬼の角か?」

「みたいに見えるねえ」

併走する天使化風音と、ユッコネエに乗っているジンライがそう口にしあう。ライルとタツオたちはすでに姿が見えない。全員がばらけるのも危険なので、ロクテンくんたちと共に纏まって後から来るように指示してある。

そして風音たちの目の前にあるその岩は、確かに鬼の角のような先が尖った巨岩だった。その岩のことを風音たちは知らないが、シジリの街の冒険者たちは鬼岩と呼んでいた。闇の森近辺まで来たという境界線的な意味合いと、オーガの出没地域として知られていたのであった。

「ああ、やっぱりいたよ」

風音とユッコネエに乗ったジンライは、その岩の下で仁王立ちしている狂い鬼を発見する。そして、狂い鬼の前には20体を超えるオーガたちの姿があった。

「オーガだね」

「ふむ、戦う気力もなさそうだな」

ジンライの言葉通り、そこにいたオーガたちは全員が傷つき、疲弊し、そしておそらくは毒に掛かって死にかけているようであった。その姿から、おそらくはマッドスパイダーと交戦して逃げてきたのではないかと思われた。

そんな状態のオーガの群れを、狂い鬼が唸りながら見下ろしている。風音たちはもう狂い鬼の真後ろにまで接近していたが、狂い鬼は見向きもしない。だが他のオーガたちの何体かは、風音の姿を見ておびえた顔をしていた。

(……?)

その様子に風音は首を傾げる。普通に考えれば、警戒すべきは天使のように可愛い風音ちゃんではなく、人間の男と化け猫のコンビの方こそを警戒するはずだろう。そう風音が考えたとき、

「ガァアアアアアアア!!」

突然、狂い鬼が叫んだ。

「何を怒っているのだ?」

「ええと、なんか、ここにいるのは全員狂い鬼がウィンラードを襲ったときにいた連中っぽいよ?」

ジンライの問いに風音はそう答えた。『竜喰らいし鬼王の脚甲』から伝わるイメージなので言語化されたものではない、狂い鬼の考えはおおよそ、そのようなものであるらしかった。オーガの一部が風音に怯えたのも、ウィンラードでの戦いで風音と対峙し、風音のフィアボイスの叫びで逃げ出したためであろう。

「グォォオ」「ガアァア」「ギィイ」

そして狂い鬼に対するオーガたちの返答は「怯え」「失望」「無気力」と言ったもの。あのウィンラードの街を襲った『狂鬼群討伐』と呼ばれる戦いでの狂い鬼の死、そして風音の発した恐怖の声、逃走による疲弊、故郷の森での巨大蜘蛛たちによる襲撃。それらすべてに心折られて彼らはここに落ち延びたと、狂い鬼は感じとったようである。

「グアァアアアアアッ!!」

だが狂い鬼は容赦なく、威嚇する。闘争こそを糧とするハズのオーガが、恐怖を知らず勇猛果敢に戦うハズのオーガがなんと惨めなことか。『竜喰らいし鬼王の脚甲』を通じて狂い鬼から届けられるイメージはそんなものであった。

「グォッ」「ガアア」「ブルァア」

しかし、その狂い鬼の咆哮にオーガたちが声を返す。

人間の元にいる狂い鬼を非難する声、これ以上どうしろと嘆く声、すでに毒が回り死に逝く身に……との感情のない声。

基本オーガの群れにとってボスという存在は絶対のモノである。それを振り切ってまで声があがる。それ自体がすでに、オーガたちが死を受け入れているという証であった。

彼らは狂い鬼に求めていた。毒や疲弊による惨めな死ではなく、ボスの手による介錯を。

「ガァアアアアアアア!!!」

だが狂い鬼はそれに激昂する。戦ってこそのオーガ。オーガにとって許されるのは闘争の果ての死のみ。死にたいのであれば殺してやるからかかってこい……と。そして我が血肉となり、我と共に戦い続けよと。

「という感じみたいだよ」

狂い鬼の叫び声からのイメージを拾って風音は、ジンライや後から来たライルとタツオに向かって、翻訳した言葉を伝えた。

「つまり、戦うのか?」

「狂い鬼がね」

ライルの言葉に風音がそう返す。

そして狂い鬼は、かつてドラゴンイーターの力を奪って手に入れた竜爪付き黒棍棒を呼び出した。そしてその黒棍棒を大きく振り上げて、オーガの群れに躍り掛かったのだ。

対するオーガたちも意を決して立ち上がり、叫び声をあげて、狂い鬼に対して走り出した。闘争の場を用意したボスに感謝を込めて拳を握りしめた。

もっともすでに彼らは弱っていた。目は充血し、あばら骨が浮かび上がり、まだ生きているのが不思議なくらいに。そんなオーガたちを狂い鬼は容赦なく屠っていく。

同情など無用。哀れみなど無意味。

ただ、オーガの存在意義を充足させる。ボスである狂い鬼はそれを与える。この場において群れを葬ろうとしている狂い鬼は、オーガにとって何よりもオーガのボス足り得る存在だった。

そして最後のオーガが拳を握り、狂い鬼に駆けて殴りつけようとして、狂い鬼はその拳ごと容赦なく頭部から棍棒を叩きつけた。オーガの強靭な足が砕け、腕も折れ曲がり、完全に潰れた頭部と共にその身体が地面に崩れ落ちる。

「容赦ねえ」

『これが戦い……』

ライルとタツオがその様子を驚きの眼で見ている。

戦いに慣れたつもりのふたりであったが、ここまで鮮烈に闘争心だけを以て撲殺する場面を見たことはなかった。

「相変わらず容赦ないねえ」

「ふむ。だが、ただ倒しただけではないようだぞ」

「え?」

驚くべきことに、風音たちの目の前で殺されたオーガたちが次々と立ち上がってゆく。その姿はもはや見れるものではなく、とても生きているようには見えなかったし、実際に生きてもいないだろう。だが狂い鬼はそれを見て叫んだ。

「グォオオオッ!ガァアア!!」

「なんて言ってるのだ?」

「ええと、お前たちは生まれ変わる。『俺たちのボス』の元、我らは再び闘争の場に明け暮れようぞ?……なんですと?」

風音の顔が青くなっていく。

「どういうことだ?」

「ええと……たぶん全員、私の 僕(しもべ) に……」

その言葉と同時に狂い鬼によって撲殺されたオーガたちがズルズルと風音の元へと向かっていく。

「え、なになに!?」

風音が悲鳴をあげる。全身モザイクにするしかないようなオーガのゾンビたちが風音に向かって歩き出してきた。だがそれを風音もジンライもライルも止められない。タツオも判断できないようだった。

なぜならばその足取りには、敵対心など微塵もないのだ。戦いに慣れた風音たちだからこそ、その動きに対応が遅れた。そしてオーガゾンビの一体が風音に抱きつくようにして重なり合う。

「おいカザネ。敵対意志はないようだが」

「いや、悪気はな、なさそうなんだけど、ぎ、ぎええええ」

文字通り弾けている肉体、頭部の潰れた巨人、内蔵が垂れ落ちた身体のオーガゾンビたちが風音の元に集まり、そしてそのゾンビたちの肉体がドロドロと崩れ落ちながら風音の身体を覆っていく。

「ふんぎゃああああああああ!」

風音が絶叫する。ガリガリとSAN値が削られていく光景である。眼球が、臓器が、血管が、崩れて煮凝りのようになっていき、それはもうほとんど肉で出来たスライムのようで、そんなシロモノが風音の全身にまとわりつき、見た目はほとんど補食しているようにしか見えなかった。

「か、カザネッ!」

「待てライル、これは!?」

ライルが近付いて風音を助けようとするがジンライがソレを止める。

そしてオーガゾンビたちはドロドロと溶けあいながら風音の全身を駆けめぐる。狂い鬼はその仲間たちの所業を見て満足するように頷いている。それどころか、今まで見せたことのない確かな笑みを浮かべていた。

「いやーーー、ヌルヌルーーーーーー!?」

そして変質しヌルヌルと全身を駆けめぐる肉っぽい何かの感触に風音が泡を吹いて倒れた時、その身体は、いや身体を覆っていた肉と纏っていた鎧に変化が生じていた。

さきほどまでウジュルウジュルとうごめいていた肉っぽいものが風音の身に着けていた竜鱗の胸当てとドラグガントレットなどを取り込んで新たなる形へと変形していったのだ。

それは風音の『竜喰らいし鬼王の脚甲』とも融合し、一つの形へと、まるで筋肉と金属を融合させて闘争本能を体現させたような、黒い全身を覆う軽装鎧へと変化していく。それはもはや鎧というよりは外骨格とでもいうかのように風音の身体に併せてピッチリと装着されていた。

それに呼応するように、泡を吹いている風音の前に立つ狂い鬼の背の翼が大きく成長し、白き翼をはためかせた。脚甲が諸々と融合し進化したことにより狂い鬼もまた成長したのである。

それはまさしく天使のような真白き大翼。狂い鬼は風音に対し、己が忠誠を誓うかのように膝を突いて頭を垂れると、そのまま光りとなって鎧に吸い込まれるように消えていった。

こうして、風音を覆う防具すべてを統合した『竜喰らいし鬼軍の鎧』という新たなる装備が誕生したのである。ただし風音がそのことに気付くのは意識が戻った後のことだった。