軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十八話 ネバネバになろう

簡単に言ってしまえば、それはすでに冒険者としての案件を越えているのだろう。森全体が白くなっていた。その姿は枯れているのではなく、木の上に巨大な蜘蛛の巣が掛かっているためだった。

通常、魔物が増えれば、冒険者が依頼を受けて討伐する。しかし、時折急激に増殖して手に負えなくなるケースがある。そうなれば単純に数の問題で冒険者では対処できなくなり、普段は街や国を護る役割である国軍が出て駆除をすることになるのだ。

ミンシアナ王国内でも年に十数件はそういった案件が出て王国軍が動くことになるのだが、そうなればその地方の冒険者ギルドとしては当然肩身は狭くなる。

冒険者ギルドは国から独立した組織ではあるが、魔物退治などの実績に応じて国より資金を得て動いてもいるのである。そのため、こうした案件はその資金交渉において非常に不利に働く。

もっとも、すでに8組のパーティが森に行ったまま戻ってこない。状況は切迫しており今回、白き一団が引き受けなければすぐさま国に報告が行く予定であった。しかし、すでに森がマッドスパイダーに占拠されている現在の状況は普通に考えれば依頼を取り下げて、王国軍の数の力に頼るべきなのだ。普通に考えれば……だが。

◎黒い石の森 街道近辺

「あ、黒水晶。めっけ」

風音が天使の翼を広げて、森の中の木々の上の方を舞う。

この森で採れる素材『黒水晶』は木に生えている。正確には木の中にある樹液が空気に接触して結晶化したものが剣山のように出来ているのである。

特に木々の上層には人の手が届き辛いところでもあり、まだ森の深くない場所でも、それなりに大きな結晶を風音はいくつか発見していた。

「おいカザネ。蜘蛛が来たようだぞーー」

その素材採集中の風音に、下から骸骨竜騎士ジン・バハルの声が届いた。どうやら敵を見つけたようだった。

「あいよー。場所はー?」

風音がそういうと、ジン・バハルは東を指さした。そして風音はそちらに向かって木々をすり抜けて飛んでいく。

「おーし、めっけた」

6体木々を飛び交いながらの接近である。風音はその集団にスキル『ブースト』で勢いよく距離を詰める。突然の接近に戸惑う動きのマッドスパイダーに対し、風音は出会い頭にマテリアルシールドを放って地面にたたき落とした。

(そんじゃあっと)

落としたマッドスパイダーの一体に向かって、風音はトンファーに装填していたスペル『ファイアブースト』で接近しそのままキリングレッグ踵落としを頭部にブチ当てて破壊する。

『シャァアアアアア!!??』

蜘蛛たちの咆哮が響く中、マッドスパイダーの一体が破壊される。虫だけあって生命力は高いハズだが、首から胸部までが破壊されてはもはや動くことも出来ないだろう。

風音はそのまま地面に着地して、次の獲物を決めようと残りの魔物に視線を向けるが、同時に正面から白くネバネバした何かが飛んできた。

「うわっ!?」

突然のソレに風音はマテリアルシールドで防ごうと手をかざす。しかし、直後に『直感』が働き警告する。

(え、なんで?)

風音は己のウチから出てくるその危険信号に戸惑いながらも、マテリアルシールドを放った。だがそれは悪手だ。その液体はそのままマテリアルシールドを通過し、風音にビチャリとヒットしたのである。

「うっそ!?」

そう風音が叫ぶがもう遅い。白いネバネバは風音の全身にかかり、風音はその勢いに圧されてゴロゴロと転がりながら、大木の根にぶつかった。

「いったー。うわーーー、ネバネバーー!?」

風音の悲痛な叫びが聞こえた。チンチクリンは顔から全身まで白く粘ついたもので汚されてしまっていた。濡れ濡れとなってしまった。さらにはそれがぶつかった木の根にもへばりつき、風音の動きを奪っていた。

(蜘蛛の糸、これ魔力体だったのか!?)

ネチョリとした感触が気持ち悪い。しかし風音は戦闘の真っ最中の中である。そしてさきほどマテリアルシールドで弾かれた5体のマッドスパイダーが風音を捕食しようと飛びかかった。

「旦那様ーーーテイルアタック!!!」

その魔物の動きに対して、風音はわずかに身体を反らして白いネバネバの餌食から免れていた左手を正面に突き出して叫んだ。すると薬指にはめられた虹竜の指輪から虹色の光が放たれ、それが巨大な水晶竜の尻尾となってマッドスパイダーたちをはたき落としたのだ。

それはレインボーハートから造られた指輪を用いた神竜帝ナーガの部分召喚である。

ちなみに虹竜の指輪の貯められるポイントは最大10ラヴ。一日ごとに1ラヴ回復し、旦那様パンチは1ラヴ消費。今の旦那様テイルアタックは3ラヴ消費し、セブンスレイは6ラヴ、旦那様フルバーストは10ラヴ消費という具合である。なお単位は風音が勝手に付けたものでそれを聞いた直樹が「グギギギギ」となっていた。愛を消費して戦う悪女、その名は風音さんである。

もっとも最後に勢いよく叩きつけられて潰れた一体を除いて他のマッドスパイダーは死んではいない。四体の巨大蜘蛛はまだ動けるのである。

風音が旦那様の愛をさらに消費しようかと考えるが、だがその必要はないようだった。

『母上ーーーー!!』

その声と共に光の線が一瞬空中をよぎったかと思えば、突然巨大蜘蛛2体が横に真っ二つに裂ける。集束された高威力のメガビームが空を斬ってマッドスパイダーを切り裂いたのだ。

「タツオ、恐ろしい子……」

風音が息子の成長に驚愕する。メガビームを極限まで集束させて威力を上げて切り裂く。それが現時点では肉体的な成長が起きないタツオの出した強化策であった。それは容易にいくつものスキルを得て使い分ける風音と、ひとつのスキルを使いこなそうとするタツオの差でもあった。

そして、残り二体は……

「グガァアアアア!」

「おりゃあっ!!」

狂い鬼の棍棒の一撃がマッドスパイダーの一体を粉砕し、もう一体はジン・バハルがグングニルのラッシュで穴だらけにしていた。

「おいおい、ひとりで先に行くんじゃない」

骸骨竜騎士のジン・バハルが呆れ顔で近付いてくる。骸骨だが。

風音は、それを出した魔物の消滅と共にシュウシュウと消えていく蜘蛛の巣から解放され、ようやく自由の身になったのを確認して立ち上がると「ごめんなさい」と謝る。タツオがその風音の頭にチョコンと乗った。そのタツオにも「あんがとね」と声をかける。そして狂い鬼にも手を振ってみるが、狂い鬼はツンッと別の方向に視線を向けてしまった。魔王宣言以降はその気勢も安定して、呼び出しやすくなったようだが、まだデレ期ではないらしい。

風音もマッドスパイダー単体の力はオーガ以下で、まだ蜘蛛の巣も濃くないここでならば楽に倒せると思った。だが、初めての相手というのは何をされる分からないものである。風音はそう考え、反省した。

「ようやく倒せると思って焦ってたよ」

「まあ、さっきからウチの主が根こそぎやっちまってたからなぁ」

マッドスパイダーとの戦闘は森に入って3度目ではあるが、風音自身の討伐は今回が初であった。

「で、その主のジンライさんはどっちに?」

「知らん。あの猫といっしょに先行していってしまったぞ」

前回の真面目に生きる宣言は一話保たなかったようである。

「まあ、ジンライさんのことだから心配はしてないけど」

ユッコネエの位置は感覚で大体分かる。見れば、近辺の蜘蛛の巣も消えていってる。風音についた白くてネバネバしていた糸と同様に、マッドスパイダーを倒したことで消滅しているのであろう。

さて現在の状況だが、風音たちは森に着いた後、魔狼討伐の時のようにプレイヤーである風音、弓花、直樹の組に別れて、チャット連携をとりながらマッドスパイダーの駆逐を行い始めていた。

ともかく森の中の範囲が広く、蜘蛛の数も多いため、駆除するにも手を割く必要がある。どの程度効力があるかは分からないが、とりあえずはローラー作戦で虱潰しをしていく腹積もりであった。

そしてマッドスパイダーを倒した風音は常駐させているチャットウィンドウに書き込んでいく。

風音「今6体しとめた。ジンライさんが先行してどっか行っちゃった」

弓花「師匠...orz」

直樹「順調。ホーリースカルレギオンはやっぱりでかいだけあって強いわ」

弓花「こちらはクロマルに探させて、ライトニングスフィアとフレイムパワーで倒してる。私の出番少ない」

直樹「あと蜘蛛の糸、量産型のミラーシールドで防げた」

風音「こっちはマテリアルシールドを抜けられてベットベトだったけどね」

直樹「kwsk」

風音「じゃ、続けてガンバロー」

弓花「らじゃー」

直樹「kwsk」

風音は続けてスキルウィンドウを広げて確認してみるとスキルが一つ増えていた。

(手に入ったスキルは『スパイダーウェブ』か)

まんま蜘蛛の糸である。先ほどの魔力体の蜘蛛の糸を出せるようである。

「他も順調だってさ。そんじゃジンライさんを追っていこうか」

「そうだな。まったく主は年甲斐もなく落ち着きがない」

「まあ、元気なのはよいことだけどね」

風音はジン・バハルとタツオ、それに狂い鬼と遅れてやってきたロクテンくんと共に、さらに奥へと進んでいくのであった。