軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百二十六話 ボディを造ろう

賢者の石シリーズのマッスルクレイというレア素材がある。

ソレは名の通り、人工的な筋肉の代わりを想定した素材であり、例えば義手に、例えば人間を模した人形に、例えば竜の翼を模した竜船の翼に使用されている。

この大陸では数百年も前に失われた技術ではあるが、それを風音は復活させることに成功し、竜船から本場モノのマッスルクレイも入手している。そんなわけで風音はストーンミノタウロスをマッスルクレイで作成しても残り『人一人分』程度のマッスルクレイが手持ちにあった。

そして、風音は現在の余剰分のマッスルクレイをすべてヨハンへと使用したのであった。

「不思議な感覚ですね」

ギュッと手を握る。そこには人のそれと変わりない確かな肉質の腕がある。

「ヨハンくんの骨を水晶化で最大強化した上に元の筋肉と同じようにマッスルクレイを配置してあるからね。今のリミッターの入った状態なら、ほとんど元の頃と同じように違和感なく動かせると思うけど」

マッスルクレイに埋められて見えないが、その風音の言葉通りにヨハンの骨は現在はクリスタル化していた。

それはマッスルクレイの出力に耐えるためには必要な処置ではあったが、ヨハンの本体は今やどこぞで発掘されたオーパーツのようになっていた。また某三日月の腕の人みたいとも思わなくもなかったが、よくよく考えてみると、あの方の骨は透明ではない。セーフである。

「表面はマッスルクレイを薄くのばして凹凸を埋めてたんだよね。コーティングで肌の質感も再現してみたけどどうかな?」

その言葉にヨハンが「問題ないです」と頷いた。簡単な下着を着ているが、その身体はウィンドウの機能を使い、ヨハンの骨格を元に作成したものである。それはヨハンが生前の自分の姿そのものだと言えるほどに精巧に再現されていて、鏡を見てさきほどからひどく感動していた。

「あらん。ヨハンくんのそれ、ついてないのかしら?」

すでに早朝訓練も終了し、ヨハンの完成した姿を見に、仲間たちの全員が集まっていた。そしてマーゴは残念そうにヨハンの下半身を見て指摘する。

パンツははいているが、スラリとして盛り上がりはない。それは風音としては触れられたくない部分ではあったのだが指摘されたのでは仕方がない。大事なことかもしれないのだ。気づいてしまった以上は一応ヨハンに尋ねなくては……と、風音は意を決して口を開いた。

「私、直樹のしか見たことないし……えーと、いるかな?」

顔を赤くして尋ねる風音にヨハンが慌ててブルブルと首を横に振る。

「い、いや、別に排泄もしないし、その……性欲とかもないんで。大丈夫です」

ちなみにエミリィが身を乗り出して風音に何かを尋ねようとしたが、乙女的恥じらいが己の欲求をどうにか押しとどめていた。

一方で直樹は、

『私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか……』

脳内リピートが止まらないようであった。そして未来永劫、今日という日を忘れないと直樹は心に誓った。そのキモさは留まることを知らないようである。

ちなみに風音が見たのは小学生高学年の頃の話だ。急いでアニメを見ようと風呂場から裸で飛び出した直樹のプランプランとしたものを風音は偶然目撃していたのである。あの頃はまだ可愛かった。翌日につい友人に詳細を報告してしまったほどである。

そんな直樹は放っておいて、風音は続いてのモノを取り出す。

「眼は……こいつを使って」

風音はそう言って丸い玉を二つ出した。白い球体に青眼の部分がついている。

「ゴーレムメーカーで丸く作った球を水晶化で硬化してコーティングで目玉風にしておいたから」

要するに義眼である。その風音の持っていた義眼をヨハンは瞑っていた両目にはめ込み、ようやくパチパチと目を開いた。

「視覚との連動は意識的に行えば出来るって程度だから目をつぶってた方が違和感はないかも」

「なるほど。それもそうですね」

ヨハンの本体は骨で当然視覚は眼球に依存はしていないので、例えマッスルクレイの肉体の目が開いていても閉じていても本来は関係がない。

「まあ、気になるようだったらこいつをかけててね」

そういって風音はサングラスを取り出した。これもゴーレムメーカー成形と水晶化で造ったものである。それをヨハンは受け取り、かけてみる。

「うん。何から何までありがとう風音さん」

ヨハンからすれば至れり尽くせりの状況であった。

いっしょにピンクのハート型グラサンを造ってもらったマーゴも「サイッコー」と言っている。ちなみにマーゴは風音の胸がまっ平らであることを逆手に、風音を男の子だと自身を錯覚させる暗示をかけてコミュニケーションを円滑に取ることに成功していた。マーゴの瞳には風音の股間にプランプランとしているモノが見えている。恐るべきオカマであった。

そしてヨハンのゴーレム体も無事完成し、調整も済んだのである。

ヨハンの動きに併せてマッスルクレイも連動し動き、魔力を込めることで出力をあげて強力なパワーを発揮させることも可能であり、ここにまたひとり強力な魔人が誕生したわけである。

「後はカツラですねえ」

「それは街に行って買っておきましょ」

ツルツルとした頭をなでるヨハンにマーゴがそう答える。

こうして、ひとまずはヨハンのマッスルクレイ製の身体の慣らしに一日を費やした後、風音たちはヨハンたちと共にムルアージの廃都を後にした。目標はシジリの街である。

そこでヨハンたちはウォンバードの街へ向かい、風音たちは王都へと向かうこととなる。当分は会う機会もないだろう。

◎シジリの街 ジンソード酒場 夕方

「……ということがあったんだわ」

「凄く簡単に纏めたなライル」

シジリの街のアウターであり、直樹たちの友人であるオーガンはライルからの本当に簡単な説明に眉をひそめて、そう返した。

昼に廃都を出た風音たちが、シジリの街までたどり着いたのがついさきほど。主にオカマに酒場を占拠されて貸し切り状態になったのが5分前。

それからライルの説明が今の今までである。ここまでの道中をたった5分足らずでまとめたライルの説明でオーガンが分かったのは「大変だった」ということぐらいであろうか。会話の途中で「あ、ワリィ。ここは話せないんだった」が五度続いたときにはブン殴ろうかと思ったぐらいである。

「相変わらず、お前の兄は大ざっぱだなエミリィ」

「出来の悪い兄さんでゴメンナサイ」

そのオーガンとエミリィの会話に、ライルがふてくされるが、まあ仕方のないことだろう。

ちなみに直樹は一人静かにしていた。朝のことがまだリピートされているらしい。エミリィがそんな直樹を心配そうな顔をして見ているが、そんなに心配ならばもういっそとどめを刺して楽にしてやればいいのではないだろうか。

「まあ、お前等も晴れて有名人の仲間入りってわけだな。おめでとうさん」

「るせー。皮肉かよ」

カンッとグラスを互いにつけると、オーガンとライルは一気に飲み干した。

「皮肉も何もただの事実だろうさ」

ニュースペーパーにも堂々と載っていたのだ。大げさとも言えなかった。

「否定はできないわね。とはいえ、私たちには過ぎたるものだと思うけど」

オーガンの持っていたニュースペーパーを読みながらエミリィがそう返す。そして別のテーブルを見る。そこには風音やジンライ、オカマやヨハンなどが談笑していた。

久々の再会だから……と、風音たちも遠慮して離れているようだが、エミリィにはあの集団は眩しすぎる。そう思うとエミリィは衝動的にオーガンに口を開いた。

「知ってた? 私もライルももう正騎士なんだってさ」

「正騎士って、従騎士だってこれからだって話だったんじゃないのか?」

エミリィの突然の言葉にオーガンが眉をひそめて尋ねるが、事実である。それは神竜皇后の護衛として与えられた役職であった。

「んー、マジだ。まあ、事情は話せないんだけどな」

ライルが再び注いだ酒をチビチビと飲みながら、そう答える。

「正直、竜騎士に落ちたのが辛かった時期もあったけど、なんかもう、それも遠い昔の話だった気がするわな」

わだかまりが消えたわけではない。だが竜の王様の奥さんが仲間でいる現状を考えれば、どうにも自分の悩みが小さいことだったように思えてならないのだ。そんなライルとエミリィの二人にオーガンが苦笑する。

「なんだよ。大物になって気持ちも大きくなったか?」

「そんなんじゃねえよ。今だって、いつだって力不足を痛感させられてるさ」

「私たちなんてまだまだ過ぎて、大物だなんてとてもいえないわよ」

朝もロクテンくんたち相手にボロ負けだったのだ。調子に乗るなどおこがましくて出来るわけがないとライルもエミリィも感じている。

そんな二人の様子を見て、オーガンは一気に酒をあおった。この街で一人くすぶっている自分のことを考えれば飲まずにはいられなかった。エミリィは風音たちをまぶしく感じているが、オーガンからすればエミリィもライルもまぶしい存在だ。

「ちっ、俺からすれば、お前等も十分……なんだがな」

そう小さく口にしたオーガンの言葉は二人には届かない。どうやら差は随分と付いてしまったと苦笑するしかなかった。

このふたり、以前にあったときよりもどれほど強くなったのだろうか。そうオーガンは思う。

オーガンは自身の目には自信がある。この世界を渡るための武器であるとも自負している。その目で見てみれば、確かに装備は以前に比べてケタの違う一級品を身につけてる。仲間の力も相当だ。白き一団の名は今やミンシアナに轟いている。

だが、素の部分。その地力も以前とは比べるべくもなく向上していることにふたりは気付いているのだろうか……と。

(いや、それも意味のないことか)

以前の自分より強くなったからといって、それで満足してしまうようなら、そこで終わりだろう。そんな風に思える環境にいないからこそ、ふたりの実力は上がっているのだ。そして……

「私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか見たことないし。私、直樹のしか……」

離れたところでひとり何かを呟いている親友をみて、オーガンは変わっちまったな……と口にした。

オーガンは自身の目には自信がある。この世界を渡るための武器であるとも自負している。その目で見てみれば、直樹の心の病はよりいっそう……