軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三百十七話 逃げの姿勢で行こう

◎ミンシアナ王国 ウォンバードの街 竜船管理局 来客室

「結局逃げられちゃったんだねえ」

ソファーの上でグテーッとした格好で風音が呟く。頭に乗ったタツオがくわーっと鳴いた。

「ま、しょうがないわね。手動で着陸するのに竜船管理局にも連絡を入れなきゃいけなかったわけだし。どの道こうして拘束されてる状態じゃあ、どうすることも出来ないわ」

ルイーズがため息をつきながらもそう返す。

風音たちが竜船でウォンバードの街に着いたのと同時に姿を消した竜船管理局の局員がいた。そして失踪した局員等は、竜船の上で悪魔によって死亡した局員ナザレと同様にブラックポーションの密輸に関わっていただろうという状況証拠があがったとつい先ほど連絡があったのである。

そして今は竜船が街に戻って4日目となる。

悪魔によって破壊された竜船の翼は街に着くまでには風音によって修理は大凡終わっていた。マッスルクレイは元通りに配置し、コーティングによって以前と見た目も変わらぬように加工してある。使用した分は竜船内部の倉庫にあったマッスルクレイを手に入れたのでプラスマイナス差し引きゼロくらいには落ち着いた。

細かい調整については竜船内部にいる円盤状の 機械人形(オートマトン) が着陸後に翼に集まって対応したようで、操縦室内でのウィンドウの表記もリペア完了と出ていたので元通りとなったはずである。また 機械人形(オートマトン) のメンテナンス後には大体いつもの発進時間であったため、そのまま自動操縦に戻して元通りの定期便として竜船を動かすことに成功していた。

つまりは今も竜船は定期便として問題なく動いている。だが、それですべてが万々歳とはいかないのは当然といえば当然だった。

実は到着した時点でクラークからはすでに竜船管理局に手動操縦までを含めた経過報告の連絡は入っており、竜船管理局始まって以来の大騒ぎとなっていたのである。そして到着後に管理局の局長が竜船を管理する組織として必要であると『最上位権限カードキー』の譲渡を要求してきたがこれを風音は突っぱねた。

その頃にはゆっこ姉とアオとの三者でのメールのやり取りで状況の確認と対処については方針が取れていた。『最上位権限カードキー』は天帝の塔を動かすための最重要アイテムである。僅かな可能性でも失われる危険は排除しておきたいとのことで、無理にでも奪おうとするのであれば最悪は武力制圧も問題なしとのゆっこ姉からのお墨付きをもらっていたのだ。また竜船管理局が『最上位権限カードキー』を所有し竜船を自由に動かせる状態となった時点で、ミンシアナ王国は正式に管理局という組織を国家として接収する旨を風音はゆっこ姉からメールで連絡されていた。風音が局長にそれを話したことで局長は顔を青くしていたが、現状で竜船管理局が独立した組織でいるのは竜船が自由に操れないからこそ国同士が歩み寄って認めているに過ぎない。それが自由に動かせるとなれば当然話は変わってくるのだ。

もっともゆっこ姉とのメールのやり取りなど管理局には見れないし分かるはずもない。その確認として白き一団のリーダーである風音と悪魔狩りとして今回の件に拘わったルイーズは竜船管理局に一時拘束となったわけが、昨日に到着したミンシアナ王国騎士団からの伝達が風音の告げたものと同じであったために、風音たちの身はすでに自由のハズであった。

「拘束はもう解いてるじゃあないですか」

来客室にクラークの悲しい悲鳴が響く。

「大体、拘束って言ったってあなた方、ずっと好き勝手やってましたよね。もういい加減出ていってくれませんかね!?」

来客室、いや元来客室とでも言うべきか。風音がゴーレムメーカーで改築し、そこはなんだかとても居心地の良い空間になっていた。今では部屋を広げるためにこの区画だけ建物から大きく出っ張っていた。

また拘束と言っても要は勝手に別の街に出て行かないように管理局に泊まっているだけという程度のモノで、外に出れない以外は風音たちは不自由していたわけでもなかった。

それどころか風音は竜船の翼を再構築した際にレベルが上がったゴーレムメーカーの練習を行っていたし、ルイーズはルイーズで意地は悪いがやり手らしい局長がストライクゾーンに入っていたらしく当日には籠絡していた。

結果としてクラークは二人と親しいからと言う理由で局長から丁稚扱いを命じられる始末である。そして、さらに問題がある。クラークはそれを窓から下を見て確認する。

「竜船管理局の横暴を許すなー」

「天使様の自由を守れー」

「あの偉大なるお方を我々の元に返せー」

「ほら、信者の方々もああ言っていますし」

クラークの強ばった笑みに風音が頭を抱える。

外にいるのは主に風音のスキル『魔王の威圧』に当てられた人々であった。

『魔王の威圧』に当てられた人々の思考というのは魔術による強制力ではないため、解けると言うことはない。ともすれば洗脳とも呼べそうな類のものだが、簡単に言えば思考の方向性を誘導し風音に心酔させたという表現が一番正しいのだろう。悪魔から自分たちを守った英雄として認識されているのだから、外にいる人々たちの認識が間違っているというわけでもない。ともすれば悪魔との戦いは藪の蛇をつついたともいえるのだが、そんな声は仲間内以外では一切上がってこないのも風音としてはいたたまれなかった。

さらには、そうした人々の熱意に当てられ、竜船の乗客でない人々にまで雪だるま式に浸透してきて、それが竜船管理局を取り囲んでいるのであった。

「だから出たくないんだよねえ」

げんなりした顔で風音が言う。元ただの女子高生には過ぎたる状況だ。風音の心はこのまま自宅警備員に就職したい気持ちであふれていた。現実逃避思考である。

「それにしても『魔王の威圧』、危険すぎる能力よね」

『しかし母上が偉大で人々がひれ伏すのは仕方ないと思います』

ルイーズも外を見て顔をひきつらせている。タツオはまったく動じず、むしろ誇らしげだが実際にはまったくもって笑えない。

これを『正しく扱えば』死をも恐れぬ兵を有する巨大な独裁国家すら容易に建国できそうな怖さがあるとルイーズは推測している。幸いなことに風音にはゆっこ姉やナーガ、ティアラ等といった国の上層にコネがあり、秘匿されてはいるが風音自身の地位も今や高い。なので現状でいきなり国から害されるような危険は少ないだろうが、それでも場合によっては殺傷処分も妥当だと考えられてもおかしくない能力ではあるのだ。

「でもさすがにどうにかしないと、暴動が起きたら、この建物ごと破壊されそうよね」

「勘弁してくださいよー」

ルイーズの言葉にクラーク、涙目である。竜船管理局としてもツンケンしていたのは街に降りてからの最初の一時間程度である。特に一晩明けたら局長がルイーズといい感じになっていたので、もうなし崩し的な状態であった。乗っ取られたと言っても過言ではない。

「このまま、隠れて逃げちゃうというのはどうかな?」

「そうなると外の人たちは帰らず、いずれこの建物になだれ込んでくるでしょうね」

ルイーズの言葉に風音も「だよねー」とため息を付いてから、旅支度に入った。

「行ってくれるんですか?」

「自分で蒔いた種だし、まあ、また蒔くことにはなるんだけどさぁ」

外には風音の『魔王の威圧』に当てられていない人も多くいる。だが風音が外に出ても自由に動くためには『魔王の威圧』をかけて抑えておかないと身も守れそうもない。

「ま、しょーがないわね。あたしはシャラシャとも昨日会えてるし、もう街からさっさと離れても問題はないわよ」

「あーもう、また次に来たくない街が出来たなあ」

血染めの狂戦士(ブラッディベルセルク) さんの噂渦巻くリザレクトの街に続いてである。

そして風音はすぐさま弓花にメールで連絡を取り、仲間たちの出立の準備をさせて管理局の建物に呼ぶことにした。

そのまま嬉し涙の局員一同に見送られて管理局の建物を出ていった風音たちは当然のごとく外の信者(?)に取り囲まれたが、風音は『魔王の威圧』で周囲を制しつつサンダーチャリオットを呼び「みんなで仲良く達者で暮らせよ~」と言いながらヒポ丸くんとサンダーチャリオットで街を立ち去ったのである。光の如き(事実、放電で発光していた)速度で。

◎ミンシアナ王国 王都シュバイン方面 街道

「いけヒポ丸くん、忌まわしき記憶を捨てて進めー」

風音のかけ声にヒポ丸くんが反応し、速度を上げていく。現時点で時速100キロは出ているが、車体と車輪のサイズが増して安定性の上がったサンダーチャリオット内部の乗り心地は悪くないようだった。

「この様子なら今日中にはウルグスカのダンジョン前市場に着けそうだな」

今回はヒッポーくんたちに乗らずに御者席のジンライの横にいる直樹がそう口にする。

「それにしてもさっきの凄かったわね。大闘技会よりも熱狂的だった」

「歌姫なんかが来たときに近かったかもな」

エミリィの言葉にライルが続く。この世界でいう歌姫というのは、アイドルに近い存在である。

リザレクトの街の闘技場などでも月に何度か歌姫を呼んで盛り上がったりもしている。昨今ではかつて一世を風靡した歌姫アネモネ・レーンの娘カルラ・レーンが各国を巡るツアーを行い大人気となっているとのことであった。

「落ち着いてくれるといいけどなぁ」

風音が不安げな顔ですでに見えない街の方をみる。それにはルイーズが苦笑しながら答える。

「まあ、あそこまで大げさなのは滅多にないけど、街を救ったりすれば祭り上げられるのは不思議じゃないわよ」

『そうだな』

「騒がしいことこの上ないが、冒険者というのはこうした状況に会うことも少なくないさ」

メフィルスとジンライも、ルイーズの言葉に同意する。なお、ジンライの『こうした状況に会うことも少なくない』というのはそれはジンライだからこその話であって一般的な認識では誤りである。

「けど、このまま熱が冷めなければ銅像くらいは建つかもしれないわねえ」

二つ名などもそうだが冒険者もある程度以上になれば金よりも名声の方を欲するようになる。それを満たす意味でも街などを救った英雄には銅像などのモニュメントを建てることもある。

「ホントにそれぐらいで済む……かな?」

しかし、風音にはさきほどの人たちの目を思い出しそれだけで済むのかは疑問であった。

「ええ……多分?」

そしてルイーズも実際のところは疑問系であった。まあ一般的な常識に照らし合わせた場合にはルイーズの言葉は正しい。なので風音もその問題にはグッと飲み込んだ。まさか、戻って新興宗教の教祖みたいな事をするわけにもいかない。冷却期間を持てば彼らにもきっと見えてくるモノがあるだろうと風音は自分を納得させたのである。

問題を先送りにする勇気。それが吉と出るのか凶と出るのか、今はまだ誰にも分からなかった。