軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百九十四話 白王の話をしよう

「というわけなんだよ」

簡単にではあるが、風音の口から現状の報告が行われた。

浮遊島が後10年で落ちるはずだったこと。200年前の遠征でそのことを知った竜騎士たちが動力球を手に入れるために機械竜に挑み、相打ちとなったこと。その竜騎士の集めた動力球でこれから200年は落下を阻止できること。さらには天帝の塔を奪還できれば、落下そのものを阻止できる可能性があること等々。

そして、その話の中で200年前の遠征について出てきたときにジンライがジン・バハルを召喚し、大公であるライノクスへと遠征軍の詳細を報告する。

ジン・バハルは「己ひとりがおめおめと……」と口にはしていたがライノクスはそんなことはないとジン・バハルを労い、そして帰還に対しての感謝の言葉を贈った。また風音の持っている竜騎士の亡骸たちについても手厚く葬ることを約束した。移動墓地風音ちゃんはここに終了したのである。

なお、報告を終え、恭しく頭を下げながらもジン・バハルは誰にも聞こえぬようにライノクスへとボソリと呟いた。「大丈夫です。私も童貞です」……と。

何が大丈夫なのかは不明だが、バハル流槍術が今日まで残っていない理由は判明した。そしてライノクスは同志を得たからと言って特に嬉しくはなかった。200年ぶりの竜騎士の帰還が200年ぶりの童貞の帰還に脳内で変わってしまったのだ。悲しい。

そんな男たちの悲しい話はさておき、話の焦点はここより北の地にあるであろう天帝の塔へと移る。

『ふむ。ドーマ地方のシュミ山か。確かにかつてあの地に浮遊島があったのは我も記憶している。だが今ではあの地を訪れる者はおらんのだ』

「どゆこと?」

風音の問いにナーガが唸りながら答える。

『シュミ山はかつて周辺国に攻め込まれて滅びたレイヴェル王国の中にあってな。現在はどの国の管理下にもなく、未だに虐殺され尽くした民の怨念が大地を汚染し魔の領域と化しておる。それ故にこのフィロン大陸最大規模の忌み地とされ、近付く者もおらん有様なのだ』

「レイヴェル王国? どこかで聞いたことある気がするけど」

そのナーガの説明に風音が首をひねる。それにはライノクスが反応した。

「ま、そうだろうよ。俺は会ってはいないがその国の王様と神竜皇后様は一度対面、いや『交戦』しているはずだからな」

そして、その言葉にはジンライと直樹が反応する。いや、ただ反応というだけでなく、そこには明確な怒気があった。ジンライからは明らかな殺意すら漏れている。だが風音が二人の急激な変化に驚くことはなかった。むしろ風音こそがもっとも怒りを感じていたのだから。

「悪魔王 白井(しろい) 雪人(ゆきと) ……か。ああ、そうか。思い出したよ」

忌々しげに呟いた風音の言葉に、ここまでで気付いていなかった面々もようやく理解した。竜の里を襲撃した悪魔たちの首魁。それがかつて治めていた国がレイヴェル王国なのだ。

「そうだ。各国に悪魔を送り、ミンシアナに魔物の集団を仕向け女王を害し、この東の竜の里ゼーガンに襲撃をかけた悪魔どものトップがかつて王だった国だ」

ライノクスの言葉にナーガの目が細まる。ナーガも 雪人(ユキト) には苦汁を飲まされたひとりである。風音の機転がなければ、ナーガはすでに死んでいたはずであったのだ。

『白王ユキト。あのときは悪魔王と呼ばれていたが、ヤツは700年前に小国であったレイヴェル王国をドーマ地方でもっとも栄えさせ、そして最終的に壊滅に追いやった男なのだ』

700年前に崩壊し歴史の中に消えたレイヴェル王国。それは至高の賢者とも呼ばれた白王ユキトの英知によって繁栄し、その栄華を周囲に見せつけすぎたが故に、危機感を覚えた周辺国に徒党を組まれて滅ぼされた今は亡き国であった。

『ヤツはどこからともなく現れ、そして類稀なる力を以て魔物を討伐し国の領土を広げ、この世界では知られていないような技術を用いて農業や産業を発展させて民の生活にも貢献した。さらには奴隷制度を撤廃し、民への教育も進めたと聞く』

その行いは紛れもなく英雄のそれであった。

『そして他国の侵略を幾度となく防いだ功績により王女と結ばれ、その後は王となって 政(まつりごと) を行い、国内の腐敗政治をも立て直したそうだ』

「そりゃ随分なチートっぷりだねえ」

風音が唸る。俺Tueeと現代知識チートを総動員して無双したような話である。そして物語ならばお姫様と結婚し王様となって末永く幸せに暮らしましたという流れで終わりだろう。しかし現実にはそれで万々歳と終わらないことを風音たちも知っている。

『白王ユキトは、プレイヤーの力や知識を使い、自身の持ち得るものすべてを使ってあらゆる面で上手く立ち回ったのだろう。そしてやりすぎたのだ』

「ま、政治ってのは綺麗事だけじゃないからな。むしろ汚濁まみれの世界だ。そこを綺麗な真水に変えちまったんだろう。そしてそれは泥まみれの連中には眩しすぎたのさ」

ライノクスがそう口にする。ネギを刺していた男が皮肉げに笑う。

『遠く離れたこの地にですら、白王ユキトの名は知れ渡っておったよ。そして彼の王国の周辺国が、ほとんど恐慌状態でレイヴェル王国に攻め入ったと聞いた時には我が耳を疑った……が、ヤツが悪魔王を名乗る以上は、その背景もある程度は見えたわけだが』

「どういうこと?」

風音が首を傾げる。

『うむ。恐らくは各国の暴走は悪魔が裏で糸を引いていたのだろう。連中は人の悪感情を好む』

ナーガの言葉に続いてライノクスが口を出す。

「わざわざ発展させた国を襲わせる意味はない。そいつは恐らくは白王ユキトをハメて契約をし、反対に喰われたと考えるべきだろうな」

『そして白王ユキトは最終的に王都の5万の民草を生け贄にし、亡者の王となった。攻めてきた各国の兵をも皆殺しにし、今も亡者となって国を支配している……と聞いておったのだが、実際には悪魔として民の魂を喰らっていたわけだ。5万人とは桁違いの数だが、奴の能力を考えれば事実であるやもしれぬ』

その言葉に風音も悪魔王ユキトが自身の内側から軍勢を喚んでいたのを思い出す。

「スキル『 軍勢(レギオン) 』って言ってたっけ?」

『そういうことだカザネよ。やつと相対する時にはまさしくヤツの取り込んだ民の軍勢を相手にするも同然と考えた方がよいだろう』

以前に相対したときには、この神竜帝の間という限られた空間の中だった。それでも随分と苦しめられたものだが、開けた空間などで呼び出されればたまったものではなさそうである。

「まあ、戦う機会がないことを祈るよ。正直ブッ倒したい気持ちはあるけど、あんま関わりたくないって気持ちの方が大きいしね」

好奇心を刺激するような冒険ならばともかく、ただの危険物相手に自分から近付きたいとは風音は思わない。もちろん、ジンライの腕を奪い、直樹をボコボコにしてくれたお礼参りがしたくないわけではないが、それ以上に弟たちを危険にもさらしたくないのがお姉ちゃんとしての風音の本音であった。

「それでいいさ。そういうのは本来俺たちの役割だからな。皇后様のお手を煩わせはしないさ」

その風音の気持ちを知ってか、知らずか、ライノクスがそう口にした。

「ま、それで俺も国を治める身としては自国に攻め入った悪魔のことはちゃんと調べておかにゃならん。それで今は人をやってレイヴェル王国関係を調べてるところではあったんだが、そんなときに浮遊島の問題が出てきたわけだ」

問題はもっと現実的な形としてハイヴァーンに現れたのである。

「竜の里を襲った襲撃犯ってだけじゃない。ハイヴァーンとしては国の存亡がかかった形になったわけだ。もう俺たちも退けねえのさ」

そう言ってライノクスは笑う。それはとても先ほどまでネギを刺して喘いでいた人物と同じとは思えない勇ましい男の顔だった。