軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第三話 爆撃をしよう

「あっぶなかったぁあ」

冷や汗混じりの声が漏れる。

「死ぬかと思ったわ。割とマジで」

風音と弓花、二人がいるのはシグナ遺跡の屋上だった。

「空飛ぶのって難しいなぁ」

吹き抜けのギリギリでへたり込んでいた風音がぼやく。

(よく間に合ったもんだよ)

フライを覚え、パーティ全体に浮遊をかけた風音だったが肝心の飛んだ後の制御のことを失念していた。自分の意思に従って動き出すことを理解して穴から出たときにはもう術が消える間近だったのだ。

「ホントヤバかったわね」

横に座っていた弓花も飛び出してきた吹き抜けを見下ろしゾッとする。途中で魔術が切れたら底まで叩きつけられていたに違いない。10メートル以上はある高さだ。無事では済まなかっただろう。

「うわぁ、フライ怖いわぁ」

自分の想像に弓花は再度顔を青くする。

「だねえ。今度はパラシュートでも背負って飛ぼう」

弓花の感想に風音も同意する。いくら空を飛べてもこうも燃費が悪いのでは堪らない。恐らく魔力に振ったボーナスポイントがなければ途中で落ちていたに違いなかった。

「それでここは遺跡の上ってことよね」

「うん。下にはまだゴブリンたちがいるね」

風音は音を立てぬよう屋上の端に行きソロリと下をのぞき込む。弓花も揃って覗き込んだ。

「あれ、数が増えてるみたいなんですけど?」

「弓花の分と私の分だね」

「うわ」

弓花が目を覆い、天を仰ぐ。

「まあ、連中がそこにいるなら扉が開いて中に入ったところを見計らって逃げられるわよね」

「いや、それは無理っぽい」

気を取り直しポジティブに考える弓花の考えを風音は一言で否定する。

「なんでよ?」

「半分は入り口に残して置くって言ってる。戦闘音が聞こえたら中に入ったゴブリンも戻ってくるだろうし」

その予想外の風音の返答に弓花は聞き返す。

「は? なんで分かるのよ?」

「なんでって下の連中がそう話してるでしょ?」

風音はそれこそ何を言っているのかと弓花を見る。

「殺す」「中入る。半分か。俺入る」「半分残す。待て」「腸は分けろ」

先ほどから風音には下からの物騒な会話が聞こえていた。

「話してるって…ギャーとかガーとかしか言ってるように聞こえないけど」

「そんなはずは…」

そう言いかけて風音は一つの可能性に思い当たりウィンドウを開いてスキル欄を選択する。

「ゴブリン語?」

横から風音のウィンドウに書かれた文字を弓花が読み上げる。

「なにこれ?」

「ゴブリン語…らしいよ?」

弓花の質問に風音も確信もてぬまま返答する。

「これは」

試しにゴブリン語のスキルをオフにしてみる。

「ギャキャハ」「ギーギガー」

そしてオンに戻してみる。

「喰う。飯」「待て。扉もう開く」

「どうも連中の言葉が分かるスキルらしいね」

「そんなものどこで覚えたのよ」

「どこって…」

思い当たるのは一つしかない。あの扉で死んだゴブリンを倒したときだ。

(その前に確認したときはスキルはなかったわけだしねえ。ただこんなスキル、聞いたこともないけど)

もっともゼクシアハーツのスキル数は膨大で隠しスキルやユニークスキルについては風音もすべて把握してはいない。

「まあ、これに関してはとりあえず置こう」

「それでいいの?」

「うん。今は下の連中をどうにかしないと」

「どうにかって、やっぱり隙を見て逃げるくらいしかないんじゃないのかな?」

とりあえずは危機は脱したのだ。安全策に弓花が走るのも無理はないが、だが風音は首を横に振って否定する。

(連中も中に私たちがいないことに気付けば周りを探し出す。臭いで辿られでもしたら多分アウトだ)

「もっと確実な方法があるから」

そう言ってさきほど剣と槍とともに持ってきた黒い玉を取り出す。

「?」

興味深そうに覗き込む弓花の反応をスルーして風音は弓花に尋ねる。

「ところで弓花、ギルドからゴブリン用の臭い玉をもらってないかな」

「ああ、うん。ギルドのクエストで支給されたアイテムだよね」

リュックから厳重に包まれた緑の玉を取り出す。

「ここに3つあるよ」

「ひとつでいいかな。それ頂戴」

「うん。それでどうするの?」

「これはゴブリンを呼び寄せると同時に一時的に恍惚状態にする作用があるのね」

猫にマタタビ、ゴブリンに臭い玉と言われている、一時的にゴブリン族を行動不能にするアイテムだ。

「それでそれで?」

「だからコイツを投げつけて」

風音が緑の玉の包み紙を破き、そのままゴブリンの群れに投げ込む。

「ギャキャー」「ウラッハ」「ヒーーー」

突如のことに驚きわめくゴブリン達だったが、その玉から発する臭気に気付くと途端に瞼はゆるみ、十九匹のゴブリンが玉に集まっていく。

その様子に風音は頷き、手に持つ黒い玉を持って構える。

「そして集まったところを」

「集まったところを?」

「爆破する」

「Oh…」

弓花も風音の持っていた玉がなんなのか気付く。と、同時に風音が黒い玉を2つまとめてゴブリンたちに投げつけた。

「たーまやー」

「ちょっと」

ドォォォオオオオオオン!!!!!

と、まるで目の前で雷が落ちたような轟音と共に爆発が起きる。

そして爆風でゴウッと煙が舞う。

「キャアアアア」

「うわぁああああああ」

そのあまりの凄まじさに弓花が、そして風音が悲鳴を上げる。

黒い玉の正体は爆炎球。上位魔術に匹敵する爆発力を生み出す使い捨ての魔法具。役目を果たせぬまま冒険者の躯とともに朽ちていく定めにあったそれが今、本来の役目を思う存分に発揮した。

そして音と光が消え、後に残されたのはかつてゴブリンと呼ばれた消し炭だけだった。

「うっはぁあ、凄い威力だったわぁ。これ」

すべてが終わった後の遺跡の屋上で目の前の惨状に風音が目を丸くして驚いていた。

「やり過ぎじゃないの。ああもう、まだキーンって耳がなってる」

「そだねえ。玉は一個で足りた気がする。勿体ない」

「さすがに生き残ってるゴブリンはいないわね?」

爆心地から黒こげになったゴブリンの死骸がいくつも転がっている。

「だろうねえ。経験値も入ってるみたいだしさ」

風音はウィンドウを開きステータスを確認する。レベル14。かなりハイペースな上がり方だ。

(多分エクストラボーナスでもついたのかな)

ゼクシアハーツ内での経験値とは文字通りどれだけの経験を積んだのかという数値である。通常とは違う行動はそれだけ多くの経験値を得ることがあり、それらはエクストラボーナスと呼ばれていた。

「あんたが14で私が10って」

愕然と自分と風音のウィンドウを見比べる弓花だが、実際には弓花自身は特に何もしていないのでパーティボーナスとしていくらか経験値が入っただけでも良しとするべきである。

(そういえば…)

風音は先ほどのことを思い出しスキルウィンドウを開く。

「また、増えてる」

そこには『ゴブリン語』とともに新たに『夜目』というスキルが存在していた。