軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二十九話 雪山に挑もう

◎アルゴ山脈 登山口

「こんなものかな」

風音はゴーレムメーカーのクリエーターモードを閉じると杖『白炎』の先を地面に向けスキルを発動させる。

「スキル・ゴーレムメーカー・サンガクくん」

ゴゴゴ…と周囲の岩が動き出し予め用意した木の棒を2つ握った人型が呼び出される。

背中には登山用リュックのような四角い突起物があり、風音がその中に「ヨイショ」と乗り込んだ。

「サイズは、と。うん、ピッタリだねえ」

風音は中に入り込むと街で購入した板ガラスを丁度ゴーレムの胸の部分にはめ込んだ。計算通りカチッと嵌まる。

「よしいけ、サンガクくんっ!」

風音がそう言うとサンガクくんはのっそりと歩き出した。

ゴーレム『サンガクくん』は改造ゴーレムである。具体的にはデフォルトのゴレムくんの内側を抜き取り人が乗れるように変形させ、さらに杖を持つことで移動に安定性を持たせることに成功した。

「ゲーム中だと半袖でも登れたのにねえ」

そのサンガクくんのなかで風音はゲームとの違いについて愚痴をこぼしていた。ゼクシアハーツのプレイヤーキャラは雪山だろうが火山だろうが装備など替える記憶はない。氷山漂う海を泳いでも凍死どころか風邪一つ引かない。溶岩の中を進んでもダメージだけで溶けたりもしない(死ななければだが)。

(今思えば恐ろしい肉体性能だったんだねえ)

そういえば肌色のパンツだけをはいたゼンラー隊というのも存在していたがあれは気持ち悪かったなぁ…と風音は昔を思い出した。そしてあまり良い思い出ではないのですぐに忘れた。

ともあれ、サンガクくんに乗った風音はゆっくりとではあるが確実に先を進んでいく。窓ガラスはすぐに霜が張り見えなくなったが自律制御で簡単な命令だけで動くゴーレムにはそれほど問題ではなかった。

防寒具の毛皮のコート(フード付)も暖かく、ウォームというグリモア一章の体温調節魔術の相乗効果もあり、なんとも緩い登山を敢行したのである。

そうして風音は途中まで順調に旅路を歩んでいた。

進むほどに次第に降る雪が増え、やがて豪雪になっていくがサンガクくんは物ともせずに突き進む。そのサンガクくんの想像以上の出来に風音も「いいぞ、いいぞぉ」と興奮気味だったりもしたが、ノってくれる相手もいないので途中からは持ってきた本を読んでいた。

しかし地図では目的地まで半ばというところで風音は何かの匂いを感じてサンガクくんを一時停止させることとなる。

「むぅ、人の匂いかな」

この大雪の中で匂いが分かったのは奇跡だと思ったが、何かしら不吉な匂いのようにも思える。

「うーん」

風音は空を見る。それは酷い荒れ模様でサンガクくんの中でなければ登山経験もない風音では凍えて死んでいただろうな…という天気だった。

(まあ、ちょっと気になるし。休めるところがあるならそれに越したことはないしねえ)

コンラッドまでの行きの時のように誤って眠ってしまいサンガクくんやウォームの魔力が尽きたらエラいことになる。そろそろ休む場所を探すべき状況だった。

そこまでを頭の中で組み立てて風音はサンガクくんに指示を出し匂いの方に進んでいくことにした。

匂いは山道をわずかに逸れた場所にある林を抜け、それより少し降りた崖の下を通り過ぎ、そしてその先にある小さな洞窟から漂っていた。

◎アルゴ山脈 途中の洞穴

「うわぁ…」

来なきゃ良かったなあという気持ちが半分と言うところか。

「3人。死んでるね」

すでに死臭が漂っているのが3。争った跡はなくどれも凍死。

「けどこっちは無事か」

これが来て良かった方の半分。

意識は失っているがたった1人生き残りがいた。

「女の人、こりゃ魔力切れかな。ウォームを限界まで使ったんだろうなぁ」

まあ生きているのであれば見捨てるのも寝覚めが悪い…というのは異世界だろうとなかろうとあまり関係のない話。

自分も暖をとる必要があったこともあり風音もこの女性が目覚めるまでいったんはここに留まることに決めた。

**************

パチパチと炎の音がする。

ルー・アンダイトは自分がどうやら暖かい場所にいるのだなと漠然と認識していた。

(暖かい…)

そんなはずはないのにという気持ちがどこかあったが、苦しまずに最期が迎えられるならいいかな…と、そう考えて、しかし何かおかしいと働き始めた頭が訴えてくるのを感じた。

「あー、起きた。起きた」

「あれ?」

聞いたこともない声とともに意識が覚醒する。

ルーが目を開けると、そこには焚き火と女の子がいた。無論、その少女とは風音である。

「やあ」

「……あ、はい」

手を挙げて挨拶をする風音にルーはよく分からず返事をする。

「意識はしっかりしてるみたいだね。とりあえずはこいつを飲めるかな」

風音はさきほどから作っていたコーンスープをコップに注ぐとルーに手渡す。

「ありがとう…ございます」

「熱いから気をつけてね」

「はい」

(っつ…確かに熱い。でも温かい)

チビチビとスープを飲むに連れ、ルーは段々と周囲の状況が見えてきた。

「私たち、遭難して、あれ?」

確か洞窟の中に逃げ込んだまでは覚えている。外が大吹雪になって、後はウォームの魔術を使ってどうにか生きようとして…

「あの…」

「なに?」

ルーは風音に尋ねようとしてそして躊躇する。ここに二人だけだという事実がすでに答えだとどこか理解している自分がいる。それでももしかしたら…という気持ちがどこかあって

「あたしの仲間、どこにいるか知ってます?」

一番知りたいことを尋ねた。

「……」

風音は来たかという顔をした後、洞窟の奥を指さす。

「あっち」

ルーが奥の暗い先を見る。

「残念だけどあなただけだから」

風音の声が聞こえたのか否か。

「……」

ルーはトボトボとその先まで歩いていく。

そして物言わぬ仲間たちを見て、生きてるか確かめて、さすって、名前を呼んで、やがて嗚咽混じりの声が響き、次第に泣き声に変わった。

「ん、いやだな。こういうのは…」

風音は表情の見えぬ顔でそうつぶやく。

(外は吹雪、もう暗くなってきたし一旦はここで夜を過ごすのが正解だよねえ)

洞窟の入り口はゴーレムメーカーシリーズの一つ、ヌリカベくんで防いである。一酸化炭素中毒は怖いのでいくらか穴があいているが魔物が入ってくることはないだろう。

(…明日はどうしよう)

風音は未だ泣き止まぬ声の主の扱いを決めかねていた。

(このままってわけにもいかないだろうしなあ)

小一時間経った後、ルーがたき火の前に戻ってきた。

「グショグショ」

風音がハンカチを渡し

「…すみません」

ルーが受け取り、顔を拭いた。

風音はとりあえずは再度コーンスープと、それとパンをちぎって手渡した。

「とりあえずは食べるといいよ。お腹空いてるとロクなこと考えられないからね」

「はい」

ルーも頷いて受け取り、コーンスープにパンを付けてチビチビと食べながら、またボロボロと涙をこぼしていた。

(ふぅ…)

それを見た風音はなんともいたたまれない気持ちになり

(助けて〜弓花ぁ〜)

この場にいない親友に助けを求めていた。