軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十九話 飛竜を倒そう

その日、浮遊島の南を縄張りとしている 飛竜(ワイバーン) の群れがそこに通りかかったのはただの偶然であった。元よりヴォード遺跡の周囲は魔物が近づきにくい土地だ。魔物たちは本能でその遺跡の中にいる脅威を感じ取っている。もっともまったく忌避しているというわけでもない。

それは近付きたくないというだけであって今回は腹を空かせてたまたまその周辺まで近づいた 飛竜(ワイバーン) がいたのだ。

もっとも 飛竜(ワイバーン) は彼らが飛ぶその下の、ヴォード遺跡の前にあるヴァーサの森の中に隠れている人間たちがいることまでは気付いてはいなかった。そのままであれば両者は接触せず終わるはずだった。

しかし、突然の爆発音が状況を一変させた。

遺跡の入り口からいきなりその音は響き渡ったのだ。

それはどちらのとっての幸か不幸か。

ともあれ 飛竜(ワイバーン) はそれを視界に入れてしまう。遺跡の入り口をみようと視線を向けたとき、たまたま森の中にいる人間たちの姿を見てしまった。そして宝玉のごとき輝きを放つドラゴンの幼生体に気付いてしまった。

あれを喰らえば自分が一段階上がるのは 飛竜(ワイバーン) には容易に想像ができた。或いはそれは成竜にすら届くのではないかと。

無論、成竜という概念が 飛竜(ワイバーン) の中にあるわけではないが、己の道行く先にあるひとつの結果を 飛竜(ワイバーン) は本能で理解した。だから何においてもそれは優先事項となった。

そしてソレは他の 飛竜(ワイバーン) にしても同様だった。であれば早い者勝ち。仲間だからなどという制約は 飛竜(ワイバーン) 同士にはなく、 飛竜(ワイバーン) たちは一斉に飛び出した。

だが同時に、早々に彼らは思い知る。目の前のドラゴンの幼生体が、人間たちがただの餌ではなかったということを。狩るものと狩られるもの、それは一体どちらなのかということを思い知る。

**********

そしてワイバーンの一体が叫び声をあげた。

直樹が遠隔操作している魔剣『虹角』から発せられた虹色の巨大な刃『セブンスレイ・エッジ』がワイバーンの一体の翼腕を切り裂いたのだ。

元々直樹が『繰者の魔剣』で操る魔剣が出せる出力は30パーセント程度。いくら召喚体のようにパスを繋げていようと手に持った状態と同じように魔力を出力させるのは困難だ。

以前に直樹がキュクロープス戦で使った『魔剣の繰者』のスキル『リミットブレイク』を使用すれば限界以上の出力が可能ではあるが、あれは使用者の負担が激しい。

だが直樹の持つ水晶竜の魔剣『虹角』には蓄魔器が仕込まれている。遠隔操作であろうとも蓄魔器に溜められた魔力を用いればほぼ100パーセントの出力が使用可能なのだ。故に2メートルの虹色の光刃『セブンスレイ・エッジ』もワイバーンに通用する。

そして翼腕を切り裂かれたワイバーンが地上に落下していく。

「ライル、あいつを頼んだ」

「おうよ。任されたぜ」

直樹の言葉にライルとタツヨシくん・ノーマルが走り出す。

『叔父上、撃ちますか?』

そしてライルから直樹の肩に移ったタツオがそう尋ねる。

「いいや、まだだ」

直樹は残り二体のウチの一体を『虹角』で追いかけ回すが、さすがに奇襲が通用するのは一度きり。掠めることは出来てもなかなか直撃はさせてくれない。

『来ますよ叔父上!』

そしてタツオの言葉。『虹角』に追われていない方の 飛竜(ワイバーン) が直樹とタツオに向かって飛んできたのだ。だがソレを見て、直樹がニィッと笑う。

無論、 飛竜(ワイバーン) にそんな別種族の表情の違いなど分かりはしない。そして 飛竜(ワイバーン) は直樹たちに接近すると剣の届かない範囲でホバリングしながら喉袋に竜気をため込み、ブレスを噴こうとして、

「今だ。全力で撃て!!」

『いきます!メガビィィイム!!』

タツオの瞳から一対の光が放たれた。

それはあの蒼焔のアオという神竜ですら油断あれば殺されてたと語った本気の一撃。それが下位竜である 飛竜(ワイバーン) へと放たれる。そして 飛竜(ワイバーン) ごときにソレに抗する力などあるわけがない。

故にそのタツオの一撃は 飛竜(ワイバーン) の胸部を軽々と貫き、絶命させる。そのほぼ同時に、突然の光撃に呆気にとられていた最後のワイバーンも、油断なく魔剣を操作していた直樹の『虹角』の一撃が決まり、地上へと落ちていった。

(浅いか。予想よりも堅い。あれじゃあ戦闘力はほとんど奪えていないな)

落とせはしたが手応えは弱い。直樹はそう判断したが、しかし気持ちを切り替える。

「良しッ。タツオ、よくやったぞ」

直樹がタツオにねぎらいの言葉をかけて、その頭を撫でる。そしてタツオがクワーと声を返した。

もっとも、魔力を限界まで絞り出して放った全力メガビームだ。さすがにタツオもグッタリとはしているようだった。

「ひとりノルマ一匹だからな。タツオは役目を果たした。馬車に戻って休んでな」

特にそうした取り決めを行っていたわけではないが、実際タツオは現時点で撃墜1だし、継続戦闘は難しいと直樹は判断する。この小さい体で十分ほどの活躍を見せたのだ。後は自分の番だろうと直樹は考えていたのだ。

『了解です叔父上。それでは申し訳ありませんが後始末よろしくお願いします』

対してタツオも頭のよい子だ。戦況と己の状態を正確に把握し、直樹の指示の通りに馬車へとフラフラとしながら戻っていく。

(ま、あとは任せな)

直樹はその後ろ姿を見守りつつ、遠隔視とスキル『察知』で周囲に余計な魔物が存在しないのを確認すると、落ちた 飛竜(ワイバーン) の方へと視線を向けた。

「そんじゃあ、俺もノルマこなさないとな。いくぞドラグーン」

そう声を上げタツヨシくんドラグーンとともに直樹は走り出した。

そうして直樹が 飛竜(ワイバーン) と戦い始めた頃、ライルは最初に落ちた 飛竜(ワイバーン) とすでに交戦状態となっていた。

**********

そのライルがいる戦場は、直樹や馬車よりも少し離れた地点だった。相手の 飛竜(ワイバーン) はすでに片腕がない。であれば、戦いは当然地上戦となる。

「ノーマルッ!」

ライルの言葉にタツヨシくん・ノーマルが飛び出しクリスタルタワーシールドを前にかざす。ガシッとつかみかかろうとした 飛竜(ワイバーン) の翼腕の爪を弾く。

「うっりゃあぁあ」

そして弾かれたのに併せてライルの竜牙槍がその右腕を突いた。すでに左腕は直樹の『セブンスレイ・エッジ』によって斬り飛ばされている。

続けて残り一本も危うくダメになりそうになり、 飛竜(ワイバーン) が痛みに呻いた。元より落下の衝撃で身体にダメージも蓄積されているのだ。そして 飛竜(ワイバーン) は傷ついた右の翼腕と風の加護を用いて後ろへと跳び、

「やっべえええ、ノーマル、ガードだ!!」

炎のブレスを 飛竜(ワイバーン) が噴き出した。

その炎は並みのドラゴンの炎に比べれば弱いが、人間相手ならば十分な威力ではある。しかしブレスを噴き終えた途端に炎の中から水晶の大盾を持ったタツヨシくん・ノーマルと白い不滅のマントを全身に巻いたライルが飛び出してくる。

それには 飛竜(ワイバーン) も目を丸くしたが、タツヨシくん・ノーマルがクリスタルタワーシールドで炎を防ぎ、さらにライルは不滅のマントを全身に纏って防御をしたのだ。ならばダメージが通るはずもない。

そしてライルがバサッと不滅のマントを広げて、竜牙槍で 飛竜(ワイバーン) の腹を貫き、タツヨシくん・ノーマルが右足に竜骨槍を突き立てる。

それには 飛竜(ワイバーン) が溜まらず叫び、全身を回転させてその尻尾でライルとタツヨシくん・ノーマルをまとめて弾こうとする。

だが、タツヨシくんノーマルの動力は地核竜のチャイルドストーンなのだ。スピードこそ制限されているが、その力にリミッターはない。故に例え 飛竜(ワイバーン) のテイルアタックであろうともクリスタルタワーシールドで受け止められないわけがないのだ。

ゴゥンッと音がして尻尾と盾が激突する。そして 飛竜(ワイバーン) は目の前の小さな堅い存在が自分の尾を受け止めたことに驚愕した。

それは戦場においての死を招く油断だ。

ライルは、その一瞬の隙を悟り、

「くぅうらえええええ!!」

ここ一ヶ月、祖父の地獄の特訓でようやく完全にモノにした対竜投擲技『雷神槍』を投げ放った。ライルが練った雷の気を纏った槍が空間を一閃する。

そして二ヶ月前まではバルーアリザードすらしとめられなかったソレはライル自身のまさしく血の滲むような努力と黒岩竜の牙で造った槍の力が重なり、 飛竜(ワイバーン) の胸部を貫いた。

「ま、片腕がない状態の相手じゃあ実力で勝ったとは言えねえがな」

その攻撃を受けて 飛竜(ワイバーン) は既に虫の息。しかしそれは曲がりなりにも最強の一角たる竜種である。故に 飛竜(ワイバーン) は己の最後の命を燃やしブレスを噴こうと首を持ち上げ、口を広げたところで、

「けど勝ちは勝ちだ」

ライルがタツヨシくん・ノーマルから受け取った竜骨槍を再度『雷神槍』で投げつける。

そしてその一撃は、開けられた口の中へと飲み込まれ、その奥にある脊髄までをも一気に貫いた。そのまま『雷神槍』に脳まで灼かれた 飛竜(ワイバーン) は完全に事切れ、顔から煙を上げながらその場に崩れ落ちたのだった。