作品タイトル不明
第二百七十四話 ドラマのない女になろう
「何やってんのさ弓花。ちゃんと考えて動いてよ」
「お前というヤツは、あれほど調子に乗るなと言うておろうが」
戦闘終了後、風音とジンライが弓花を責め立てていた。ふたりとも弓花が戦闘前に様子がおかしかったのは知っていた。普段の弓花ならいざ知らず今の弓花では何かやらかすのではないかとも考えていて慎重に行動していた。或いはその姿勢がいけなかったのだろうか。そして弓花がやらかし、風音とジンライはそれに対応できなかったのである。
結果はこの有様である。
風音の戦績:ガードミリタリーアント1匹。
ジンライの戦績:ガードミリタリーアント3匹。
弓花の戦績:ガードミリタリーアント6匹。クイーンミリタリーアント1匹。
モーフィアの戦績:0匹。
「譲り合いの精神がないのか、お前は!」
「モーフィアさんなんてボウズなんだよ。村に帰ったらとんだ笑い物だよ。村長なのに?ボウズとか??ブフー(笑)とか言われちゃうんだよー。エミリィだって、え、師匠とか? これじゃ師匠じゃなくて失笑なんだからね!!」
「えーと。うん。ごめんなさい。ちょっと調子を確かめたくて。ていうか風音、面白くないからね、それ」
親友と師匠が二人して自分を叱っていると理解はしているが弓花も面の皮は厚いようだった。何故か飛び火してディスられたモーフィアだけがションボリしていた。
「ぬう、神狼化してないのに動きが良くなってたんだけど、何したの?」
ともあれ、悪ふざけもそこまでにして風音が尋ねる。この戦闘開始後に弓花は先頭に躍り出て神狼化もせずにして加速して一気に戦いを決めたのだ。クィーンミリタリーアントとて、やはりかつての強敵に比べれば大した敵ではなかった。というよりも生産に特化していたために威圧感こそある巨体ではあったが戦闘向けではなかったのだ。結果として弓花の一人勝ちである。
風音も大物を仕留めるスキルはあるし、ジンライも実力は弓花よりも上だ。だが神狼化に近い機動力には追いつけない。戦闘力よりも移動時間の差が今回の戦闘結果を生んでいた。
しかし神狼化していないにも関わらず、弓花がその結果を出せたのは不可解だった。
「ああ、スペリオル化した影響だね。これは」
そして意外な答えが返ってきた風音はアレ?という顔をした。
戦闘前の弓花の不安定な感じは確かに風音も気にはかかっていたが、その理由にはある程度は見当がついていた。逐一気にしていたようだし、おそらくはレベル40を超えてスペリオル化の選択画面が出たのだろうと想像が付いていた。
であれば、エンジェリートの街の探索が終わってコテージに戻った後、どの選択がよいのか分からないとか、種族が変わってしまうともう元の世界に戻れないとか、色んなKAKUGOを決めなきゃいけないとか、そんな相談を涙ながらに親友に伝えてくるのだろうと風音は考えていた。
『でもね、私は例え弓花がどんな姿になっても友達だって言えるよ』
そしてどんな会話にも通じるトドメの決めゼリフも考えてあった。
友人の選択ならばそれをすべて許容すると言える私カッコいい。度量がある女、それが私、風音です。そんな思いで風音の心は溢れていたのだ。それが音を立てて崩れていく。感動という名の奇跡を呼び起こすハズだった風音トークがガラガラと壊されていく。目の前の親友によって打ち崩されていく。
「えーと、もう選択しちゃったの?」
「うん。『仙族』の『化生の巫女』ってのになったよ」
念のため確認すると軽く返された。
ちなみに仙族とは、人族に比べればステータスが少しだけ上がって耳が尖るぐらいで見た目は普通の人間と変わらない種族である。寿命は150歳くらいと人族より長く、エルフ族よりは短い。無難に良い種族だと言える。ちなみにアーチが仙族であるので、弓花も仙族への変化の特徴は知っていたため抵抗もなかったらしい。
「いや、普通考えるよね。もうちょっと色々と悩んだり、親友の意見聞いたりするじゃん?」
「まあ、そうは言ってもさすがに犬っぱなになったり、牙ギザギザになったりするのはどうかと思ったけど、仙族は耳ぐらいだしさ」
弓花が自分の耳を引っ張る。たしかに若干尖っているが、それだけである。
「ドラゴンになったり魔王になったりする親友もいるし、だったらいいかなーって思ったんだよね」
「うぬう。ちなみに選択職業は何だったの?」
風音の質問に弓花は答えた選択肢は以下の通りである。
・槍聖(人族)
・神狼の狩人(神狼族)
・化生の巫女(仙族)
・ドラゴンウォーリア(竜人族)
「槍聖は人族のままだよね?」
「槍は地力で鍛えるから、そういうズッコいのはいらないよ」
そういって愛槍のシルキーを握る。ズッコいという定義はどこまでがズッコいのかと風音は少し気にかかったが、置いておいた。やぶ蛇になる。
神狼族と竜人族は見た目からしてかなり変わってしまうのでハナから選択肢にはなかったらしい。なので選択は一つしかなかった。
「というか大抵は人族なのに、種族違いが3つもあるってのも凄いんだけどね」
ゆっこ姉も他種族の選択はなかったそうだし、ゼクシアハーツ内でも他種族の選択肢は稀であったのだ。
「ま、アンタのときはもっととんでもないのが出てきそうな気がするけどね。神竜とか魔王とか」
「ははは、まさか」
スペリオル化の選択肢はスキルやこれまでの行動ログの内容によって変化するので、風音のスキルを見れば何が出てくるかは未知数過ぎた。
「で、なんなのだ。一体?」
と、横で話を聞いていたジンライが憮然とした顔で尋ねてきた。今の会話の意味が当然分からなかったらしく、ふたりで盛り上がっていた為に置いてきぼりをくらっていたのだ。モーフィアも完全に蚊帳の外である。
「んー弓花がパワーアップしたらしいよ。『化生の巫女』だったっけ?」
風音の言葉に弓花も頷く。
「うん。神狼化や竜人化の時のスキルをひとつ魔力を消費して使用できる『化生の加護』ってスキルが手に入りました。後は『深化』ってスキルですね」
『化生の巫女』とは憑依等といった化生降ろしを行う者。特訓時も含めればほぼ毎日のように神狼化と竜人化を行う弓花に選択肢が出るのはある意味では必然であると言えた。
ちなみに今回弓花が選択して使ったのは神狼化の『俊敏』。『深化』は変化した姿に効果があるらしい。ジンライは「なるほど」と言い、その説明に特訓が捗るなと頷いていた。弟子が強くなるのはジンライにとってありがたいことなのだ。
ともあれ、戦闘は終了。風音は弓花のスペリオル化にドラマを求めていたようだが、特に何もなかった。戦闘前にボーッとしてたように見えたのはプライベート用のウィンドウで化生の巫女の説明を読んでいたためらしい。そして後でと弓花が言っていたのは結果報告をしようと思ってたとのことだった。
パーティがピンチで「みんなを助けるにはこの選択肢しかない!」とリスクを抱えながら我が身を省みずに変身する弓花とかそんなものはなかった。そして圧倒的なパワーを手に入れて敵を粉砕するも化け物同然となった身体に涙を流す弓花を風音が抱きしめて「弓花は弓花だからッ!どんな姿だって弓花は私の親友なんだから!!」とか言う機会は永遠に失われたのである。
そしてクィーンを倒し手に入れた魔生石の扱いについてだが、放っておくと単品でも魔物を産み出し、そうでなくとも魔物を引き寄せるシロモノらしく、普通は持ち帰らずに破壊するとのことであった。
だが風音が試しに水晶化で固めたところ封印が出来たのでとりあえずはそのまま回収しておいた。特になにかに使う予定はないが、どこかで役に立つこともあるかもしれない。またガードミリタリーアントからは『アラーム』というスキルが手に入った。クィーンは弓花が倒したので当然手に入らない。
まあ、前回のクィーン系統から手に入ったスキルを考えるとあまり手に入らない方が良かったのかもしれないと風音は自分で自分を慰めた。
そして風音たちは他のミリタリーアントが戻ってこないように他の場所に通じていそうな穴を埋めてから地上へと戻ったのである。