軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十二話 矢を放とう

◎浮遊島オルソレイ エンジェリートの街の廃墟

「風音、そっちに行ったぞ」

「どっせーい!!」

ジンライの言葉に風音が『ブースト』スキルで特攻し、そのままリビングアーマーへと右の蹴りを放った。それをリビングアーマーは手に持った剣で受け止める。その衝撃によって剣にいくつものヒビが入ったが、だがまだ破壊には至らない。しかし風音の攻撃もそこでは終わらない。

風音は『空中跳び』スキルでその場で何もない空間を蹴り飛ばして再度特攻すると、続いての左足の一撃でリビングアーマーの身体を蹴り飛ばす。兜が弾かれ、鎧の中からアストラル体の光が漏れる。

「まーだまだ」

だが、風音の攻撃はまだ終わらない。マテリアルシールドを吹き飛んだリビングアーマーの背後に発生させ、再度正面に吹き飛ぶように弾かせると、トドメにファイアブーストを使ったトンファーで胴の鎧ごとぶち抜いた。

この風音の対峙していたリビングアーマーの身体は鋼鉄で出来てはいたが、だが風音のトンファーは、鍛冶師の多くがその異常な堅さにより加工から匙を投げた黒岩竜の角である。そこに風音の『猿の剛腕』スキルも合わされば、リビングアーマーの胴がまっぷたつに千切れ飛ぶのは不思議ではなかった。

それを見ているモーフィアが口をあんぐり開けていたが、ジンライは「遊びが過ぎるな」と口にする。風音がスキル『キックの悪魔』の威力増加コンボを意識する余り、繋ぐことばかりに集中してしまっているように感じたのだ。一撃で倒せるときには倒した方が良いとジンライは思うのだが、だがアレはアレで自分で考えられるだけの器量はあるとジンライは信じている。これがコンボの慣らしであることも分かってはいるのでよけいな口出しはすまいとジンライは弟子たちのほうに視線を向けた。

そして、弟子たちと対峙するズラズラと並んでいるリビングアーマーたちの姿に思わず「ふむ」と唸った。ジンライたちはエンジェリートの町に着いた途端にこの歓待を受けていた。

周囲には相当数のリビングアーマーたちが密集している。大通りからも小路地からも、続々とやってきている。この硬質の鎧相手では確かに弓矢をメインとしている鳥人族では厳しかろうなとはジンライも思うが、ライルたちにはちょうど良い相手でもある。

「とはいえ、数が多いな。減らすか」

と言いつつも自分も参戦したいだけのジンライであった。一緒にいたユッコネエがにゃーと言った。ユッコネエも暴れたいらしい。

その後、戦闘はわずか10分ほどで終了。この戦闘で風音は『リビングアーマー』というスキルを手に入れた。それは手持ちの鎧や武器をリビングアーマーにするスキルで、その実力は対象となる装備のランクに依存するとのことである。そして風音はスキル『リビングアーマー』の説明を見てゾワッと来ていた。

(第六天魔王の甲冑とかやばくね、これ?)

まだ魔王シリーズは加工が済んでいない。なので鎧として認識されないためか『リビングアーマー』スキルでの操作は出来ないようだが、第六天魔王装備にかければ強力な戦力となるのは間違いないだろう。ちなみに現時点で風音がリビングアーマーに出来るのは一体のみのようである。レベルがあがれば増えるのだろうか。

そして黒炎装備でも実験し黒炎甲冑などでもリビングアーマーを作れるのは確認できたが、タツヨシくんドラグーンと比べてみると剣の技量は勝っているものの、腕力の差がかなりあるので戦闘ではドラグーンに分があるようだった。

ちなみにドラグーンは狂い鬼を見習った防御無視の特攻方向に戦闘方針を変えていて、それはリビングアーマー相手でならば十分過ぎるほどに活躍できていた。クリスタルタワーシールドを携えたタツヨシくんノーマルもライルとのコンビが板に付いているようである。

また今回活躍を見せた中にはエミリィもいた。

今朝の特訓を見て白き一団の実力を把握していたモーフィアは自らは参戦せずとも問題なしと判断し、エミリィへの指導を行っていたのだ。そしてモーフィアとしては竜気の操作と矢への乗せ方を軽くレクチャーしただけのつもりだったのだが、それにしてもというほどにエミリィの矢の威力が上がった。

モーフィアは元々村でも竜弓術を指導する立場にある。故に教えること自体は上手いのだが、このエミリィの急激な上昇はモーフィアの指導の成果とは言えなかった。

この威力こそが、そもそもの竜翼弓の力なのだ。

元々エミリィの師であるマーベリットも魔道弓使いとしては優秀でも、竜弓は専門ではない。故にそのポテンシャルの高さに気付かなかったとしても仕方のないことであり、今回のエミリィの成長は持っていた性能を出させただけに過ぎないとモーフィアは言った。そして自分が教えるとすればこれからだと憮然とした口調で続けて告げたのだった。

ちなみに、今回も撃破数は弓花がナンバーワンである。この女、ハイスペックでありながら地味で目立たない。そして弓花は現在レベル39。そろそろ40になる頃である。その際のスペリオル化については今も弓花は悩んでいるが、実際に選択肢が出てからでも選択ボタンを押さない限りは猶予がある。それから悩むのでも遅くはないと弓花は考えていた。

そうして40を超えるリビングアーマーの残骸を前に、風音たちはアストラル系のコアである霊核だけ拾うことにしていた。鎧の残骸は鋼鉄製だが量も多いし、売っても大した金額にはならない上に、そもそもこの浮遊島では換金も出来ない。

この浮遊島にはフォルンの村以外にもいくつかの村はあるのだが、貨幣は流通しておらず、基本自給自足と物々交換で成り立っている。

外との交流もフォルンの村の 村長(むらおさ) がハイヴァーンの上層部と客人の所在についてやりとりをしているくらいなので、素材を換金するにはまず地上に降りて、冒険者ギルドのある都市にいかねばならない。非常に面倒なのである。

ともあれ、戦闘も終了し、霊核の回収も完了した風音たちは改めてエンジェリートの街を見渡した。

「うーん、見事に廃墟ってるねえ」

「本当に人がいなくなって随分と経っているんですのね」

風音とともにティアラがその風化した街を見て、もの悲しさを感じている。エンジェリートの街は石造りで形こそ残っているが、すでに700年の年月が経っているのだ。人の暮らしていた気配はとうの昔に薄れていた。

「我が先祖も何度も立ち寄っているしな。価値あるものはほとんど残ってはいないだろう」

モーフィアはそう口にするが風音は風音で確認したいこともある。

「とりあえず武器屋さん、行ってみようか」

その風音の言葉に従い、一行は街の東にある武器屋らしき建物へと向かう。途中にまたリビングアーマーが現れたが、5体だったので今度はエミリィとモーフィアの弓で遠距離から葬った。

「調子いいねえ」

戦闘後、感心している風音の言葉にエミリィが素直に頷く。

「うん、この弓ってこんなに凄いものだったんだねえ。凄いよ、これは凄い」

今までにないはしゃぎようである。違和感のあった竜翼弓が、まるで歯車が合致したかのように思うように扱えていた。エミリィはここまで日の目を見ることが少なかっただけに、喜びも 一入(ひとしお) のようである。

そして風音たちはその後二度ほどのリビングアーマーとの戦闘を経て武器屋の廃墟へと到着する。風音がふふふーんと鼻歌を唄いながら、その建物の裏手に回り、薪置き場の床下を調べて隠し扉を発見した。

そして風音が「ドヤー」といった顔をして、仲間たちに得意満面の笑顔で向けながら中に入っていったのだが、残念ながら何も残っていなかった。

「まあ、逃げ出す時間はあったみたいだし、大事なもんは持って帰ったんだろうよ」

風音、涙目であった。モーフィアが至極当然のことを言って一応慰めるが風音のぐぬぬ顔は治らなかった。まさかスッカラカンの隠し倉庫にドヤ顔で入っていって、こんな悲しい思いをするとは思わなかったのだ。

そして直樹だけがその風音のぐぬぬ顔をほっこりした顔で眺めていた。直樹は姉の困った顔とかも大好きです。

その後は武器屋を離れ、エンカウントする魔物をテキトーに蹴散らしながら風音たちは街の中を進んでいったが、特に新しい発見もなかった。

「まあ現実の探索なんてこんなモノよねえ」

とは弓花の言葉。もっとも弓花は弓花で「もうちょっとか? もう出るだろ?」と自分のステータスウィンドウを見ながらハラハラしていた。後少しでレベル40の筈である。スペリオル化まで後一歩だ。

そして風音は「これからが本番なんだからね」と言いながら、アーティファクト『 無限の鍵(インフィニティキー) 』を取り出した。そのままプランと鎖を掴んで 無限の鍵(インフィニティキー) を垂らした。

元々この街で何かおもしろいモノが見つかるんじゃないかなんてことは期待していなかった。ちょっぴりしていたが、少しはあるんじゃないかなーとか考えていた気もするが気のせいである。

ともあれ、実際にここからが本番なのは確かだ。 無限の鍵(インフィニティキー) によるダウジングで魔生石を見つけだす。それこそが風音がエンジェリートの街を解放するための切り札であった。