軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百七十話 村長と会おう

その日、フォルンの村は慌ただしかった。何しろ一週間前から現れていた巨大なドラゴンが再度姿を現したにも関わらず、未だに偵察に行っていたマシューたちが帰ってこないのである。

もっともドラゴンのいた場所からここまでの距離を考えれば、マシューたちがまだ戻ってこないのを不思議に思う時間ではない。なので騒がしいのは単純に鼻息の荒い連中が騒ぎ立てているというだけということではあるのだが、しかし喧噪に包まれているのは事実であった。

そんな中、 村長(むらおさ) であるモーフィアは、広場にて、状況の確認を行っていた。どうやら巨竜はすぐさま島から発ったようだと遠見の者が報告したが、マシューたちの安否は未だ不明である。

モーフィアも彼らがあのドラゴンと戦って勝てるとは思っていない。下位竜の 飛竜(ワイバーン) であっても鳥人族には強敵なのだ。最上位に位置していそうなあの巨竜を相手に勝負になどならないことはマシューたちにだって分かってはいるとはモーフィアも思うのだが、マシューは村の中でも気が荒い方だ。厄介なことにならなければ良いが……とモーフィアは懸念しつつ、彼らの無事を祈りながら待っていた。

そして、しばらくすると村の入り口から見張りが広場に走ってきた。

どうやらマシューたちが戻ってきたようである。しかしそこにいたのはマシューたちだけではなかった。鳥人族ではないただの人族や黒いちびドラゴンと赤いちびグリフォンも一緒にそこにはいたのだ。

実はモーフィアは客人が来るかもしれないという事は既に聞いていたのでそこに驚きはなかった。しかし奇妙な光景がそこにはあった。村一番の暴れん坊と言われたマシューが、なぜかチンチクリンな子供にへーこらしながらまるで従者のように歩いていたのである。世界は混沌に満ちあふれていた。

「 村長(むらおさ) 、外から来たご客人をお連れしました。カザネ様とそのお仲間です」

意気揚々と告げるマシューに鳥人族の面々が不審そうに見る中、 村長(むらおさ) であるモーフィアは「ご苦労」と言ってマシューたちを労った。どうあれ、何かしらの成果を上げて戻ってきたのは間違いないようである。

そしてモーフィアは風音たちをひとまず 村長(むらおさ) の家の中に案内し、休んでもらうことにした。そして自分はマシューたちを集会所に呼び、何が起こったのかを尋ねることにした。

それで分かったことは、ここ一週間、村を悩ませていた巨竜がすでに去り、もう戻ってはこないだろうということ。そしてマシューが連れてきた人族たちは、外から来た客人で、この浮遊島を探索したいのでその許可をもらいに村までついて来たということであった。

またマシューたちがその客人に巨竜を操っている人物と早合点し弓を引こうとして返り討ちにあってしまったことを報告したときにはさすがにモーフィアも眉をひそめた。

外からの人間は無闇に攻撃せず、仮に戦闘になったとしてもそれは自衛を前提に行うようにと村の掟には定めている。それにマシューたちは逆らった形だ。

しかし、なにぶん本人がこれ以上ないくらい反省しているようである。なのでこれ以上に咎めることは意味がないとモーフィアは感じたが、事が事であるだけに後で然るべき罰を与える旨だけは伝えた。

そしてマシューだけを下がらせた後、一緒について行った三人にマシューの変化に対して確認をする。あの変わり様はさすがに捨て置けなかったのである。しかしそこでモーフィアは恐るべき事実を知ってしまう。

「魔王だとッ!?」

「 村長(むらおさ) 、声が大きいです」

モーフィアの叫びに三人が慌てる。ここは風音たちのいる 村長(むらおさ) の家よりも離れた集会所ではあるが、それでも油断は出来ない。その三人の脅えようにモーフィアも自分が想像以上に驚いていたことを自覚する。

「ふむ。すまない。ではマシューは魔王の妖術にかかったわけなのか?」

問題はそこであった。モーフィアはすでにこの地に客人が来るかもしれないという事は聞いていた。だが相手が魔王などとはまったく知らなかったのだ。しかも、妖術の類で自分の民を惑わしたとなれば問題である。

「いや、そういう感じではないというか」

「少なくとも魔術の支配を受けている感じはありませんが」

「ビビって逆らっちゃマズいって分かったんじゃないですかね。マシューさん、野生動物っぽいし」

モーフィアの懸念に三人が微妙な返答をする。それにはモーフィアも唸らざるを得ない。現状ではあのチンチクリンにへーこらしているだけで、普段よりも落ち着きがあるようでもある。ともあれ、客人とは逢わざるをえんかと考え、モーフィアは念のため魔術師を一人連れて自宅へと向かった。

◎フォルンの村 村長(むらおさ) の家

「ようこそ。フォルンの村へ。改めて自己紹介させてもらおう。 村長(むらおさ) のモーフィア・エンジェリートだ」

「はじめまして。私はモーフィアの補佐であるクック・アンテです」

村長(むらおさ) の家でくつろいでいた風音たちが待つこと20分後くらいにモーフィアたちがようやくやってきた。

二人の挨拶にそれぞれが挨拶を返す。ちなみにタツオはいつも通りにブラックドラゴンの子供扱いである。そしてモーフィアがあることを明かした。

「あなた方のことはすでにライノクス殿から手紙をもらい、話は聞いている」

その言葉には少なからず白き一団から驚きの声が挙がった。

「そのようなこと、アヤツは口にしていなかったがな」

ジンライも予想外という顔でそう返した。ライノクスと親友でもあるジンライは、こうした部分でライノクスが自分に何もいわなかったことに純粋に驚いていた。

「実はライノクス殿を通して神竜帝ナーガ様にも話はつくようになっている。だが、それを知っているのは自力でここに来れた者だけなのだ。約定により、訪れたことのない者にはそうしたことは話さないよう定めているから、まあライノクス殿が話さなかったのならそういう理由だ」

「なるほどな」

ジンライは頷き、風音も(だから旦那様も話さなかったんだねえ)と心の中でつぶやいた。なんでも以前に失敗した遠征以降に、ハイヴァーン公国とは連絡だけは取り合っているそうだ。

「あなたがたも我等鳥人族のことは他言無用でお願いしたい。それがこの島を自由に動く上での条件だ」

「じゃあ、島を探索しても良いの?」

風音が乗り出して尋ねるとモーフィアは頷いた。

「我等はこの島に生きる民だが、しかし島を所有しているわけではないのだからな」

モーフィアは若干風音に引きながら、そう返す。周囲のメンツは風音のハイテンションぶりに引いたのかと勝手に想像したが、モーフィアは(この娘が魔王か)と警戒していたのである。

「とはいえ、一介の冒険者にこの島はかなり厳しい環境だ。十年に一度はこの島に来る者もいるが、大概は探索からは戻ってこない。我等とて村の人間には立ち入ることを禁じているほどの秘境なわけだしな」

そうモーフィアは忠告する。

元々冒険者がこの島に来るだけでもかなりの条件が必要となる。この島の周囲は常にグリフォンと 飛竜(ワイバーン) が飛び交っている。そのため、 飛竜(ワイバーン) 使いがこの地に訪れようとすると、多くの場合、集中攻撃を受けてしまう。これは5メートルクラスの並の竜でも同様である。

そして運良く島にたどり着いても、そのまま森に突入すればドラゴンイーターに、テイムしている 飛竜(ワイバーン) が乗っ取られ、例え乗り手が生き延びても、地上に帰る手段を失ってしまう。そうして村に残らざるを得なかった人族もいるらしい。

また、それらを切り抜けてこの村にたどり着いたとしても、森や遺跡に探索に行って大半が帰らぬ人となったそうだ。

「生きて帰った者もいるが、ほとんどはエンジェリートの街止まりだな。もっとも現在のあそこは廃墟で魔物の巣窟となっているから、大したものもないだろうが」

「魔物がいるんだ?」

「ああ、もう七百年も昔の話だ。この島が北より流れてこの地にたどり着いてから、突然出没するようになったらしくてな」

その言葉で、やはりこの島は北から流れてきたのだと風音は把握したが、それはつまり、ここがゲームでお馴染みの浮遊島ということである。であれば気になることがひとつある。

「あの、モーフィアさん。ひとつ聞きたいんだけど」

「なんだね?」

「ここから南に塔があったと思うんだけど、今ないよね?」

その言葉にはモーフィアも眉をピクリと動かす。ポーカーフェイスの崩れぬ男ではあったが、村の伝承でしか残っていないそれを少女が知っていることに驚愕していた。

(なるほどな、魔王か。確かにその知識といい、常人のそれではないようだな)

そうモーフィアは考え、風音の質問に頷いた。

「確かに、かつてこの島には塔があった。だが今はないのだ」

そしてモーフィアは告げる。

「天帝の塔は北の地で切り離されたのだ。悪魔の手によってな」