軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百六十七話 空を飛ぼう

竜となった風音が翼を広げ、天へと駆け上がる。青き身体を舞い上がらせ、虹色の竜気を輝かせながら飛んでゆく。

『うひょーーー』

『母上ーーー、高いでーーす!!』

声を上げているのは、風音と、風音の頭の上に乗っているタツオだ。風音も竜体化してからここまでこの身体を自由に動かしたのは初めてだった。もっとも、そのハイテンションぶりに振り回される側としては溜まったモノではないようだが。

「つか、横!横にしといて!!つーぶーれーるーー!!」

馬車の中から弓花の必死の叫び声が聞こえる。現在サンダーチャリオットは上に向いていた。馬車の中の様子はお察しである。

『あーメンゴメンゴ』

手に持つ馬車の角度が垂直に近かったのに気付いた風音はサンダーチャリオットを水平に戻す。中がどうなってるかは見ないことにした。

風音は昔からテンションが上がって持っているケーキの箱とかを振り回してしまう子だった。家について中を見て涙目になることも多々あったのだ。

その度にお母さんが「嬉しかったんだもんねえ」と慰めてくれていたし、「美味しいよお姉ちゃん」と幼い直樹が崩れた自分の誕生日ケーキを頬張ったことで「ごめんねー、お姉ちゃんなのにごめんねー」とさらに泣き崩れたりもした。そんな時、お父さんは困った顔で笑っていたのも風音は覚えている。それは苦くもあり微笑ましくもあり懐かしくもある思い出だ。

(あー、お母さんたちとももう半年近く会ってないのかぁ)

そして急に元の世界を思い出し、風音は目を細める。

一面の青空の下を飛んでいる自分。そして目の前には空飛ぶ島。あの頃には考えられなかったような世界に今、風音は生きている。

肉親と離れたことを風音が何も感じなかったワケはない。この世界に来てから何度となく思い出しては泣いていた。それでも最初の一ヶ月を越えれば、その充実した生活に慣れ、涙も消える。いつしかこの世界で生きていく覚悟も固まっていた。そんな風に風音は少し大人になっていた。

だが、それでも父親と母親と会いたい気持ちがなくなったわけではない。元の世界への気持ちが消えたわけではない。

(浮遊島の後は一度竜の里に戻って、そしたらミンシアナで黄金遺跡潜りかぁ)

A級ダンジョン『ゴルド黄金遺跡』。そのダンジョンがあるゴルディオスの街が今後の風音達の拠点となる予定だ。そのダンジョンの先へあるという元の世界への入り口を求めて風音たちは探索を開始するのだ。

「だーからー、つぶれちゃうーー」

馬車の中から再度の弓花の悲痛な声が聞こえた。またほぼ垂直になっている。風音はいけないいけないと、首を振って反省し、今は目の前に集中することにした。そして中がどうなってるかはやっぱり考えない。島に着いた後に「私の力でここまでこれたんだぜ。ドヤーー」と勢いで誤魔化せばなんとかなるかな?と考えながら風音は上昇を続けた。

**********

(どうせ勢いで誤魔化そうと思ってるんだろうなぁ)

と窓から竜体の風音の顔を見ながら弓花が心の中でぼやいた。もっとも間違いなく風音の力で行くのだし、文句を言うつもりなどない。しかし、おそらくは親友は浮遊島に着いた時点ではビクビクしながらドヤヤーとかカマしてきそうな気がした。

ちなみに馬車内で弓花たちも身体をロープで固定して乗っている。しかし、それでもまさかいきなり馬車を垂直にされるとは思っていなかったので、さきほどは少しヤバかった。潰れて死ぬかと思った。だが風音もようやく落ち着いた様子なので、とりあえずこれからの問題はなさそうである。

「カザネの様子はどうだ?」

隣に座っているジンライがそう尋ね、弓花が苦笑して返す。

「テンション上がってて、なんか舞い上がってたっぽいですね。まあ、本当に舞い上がってるんですけど」

まさに空を飛ぶ気持ちだろう。それには弓花も素直に羨ましいと思う。

(あー空飛ぶのっていいかもなぁ)

そう弓花は風音を見ながら思った。自由に空を飛びたい、それは人であるなら誰しもが一度は考えることだろう。

「周辺に魔物の気配もないな。グリフォンなんかがチョッカイ出してくると思ってたけど」

直樹が周囲を見渡しながらそう口にする。遠見のイヤリングの遠隔視で周囲を警戒しているようだったが、だが言葉通り魔物の姿はまったくないようである。

「ま、グリフォンはこんだろうよ。飛竜使いのワイバーンぐらいならともかく風音の姿は成竜になりかけの青竜だからな」

ジンライの言葉に一同がうなずく。飛ぶ前のミーティングでも予想は出来たことだったのだ。とはいえ、空中戦の準備も一応整ってはいる。

主戦力はタツオのメガビームと風音のブレス、ティアラの炎の 有翼天使(フレイムパワー) だ。それにルイーズの魔術と直樹の魔剣が馬車の中からサポートに回る。

なお、弓花とジンライの投擲技『雷神槍』やエミリィの弓はこの詰まった馬車の中では使用できない。 雷神砲(レールガン) も反動で風音が馬車を落としかねないのでナシとされた。

「だが、それでも妙ではあるかな」

ジンライも外の様子を見ながら少し首を傾げた。

「何かおかしなことでも?」

「まあ、普通は近付かんでも遠目で監視しながら今風音に運ばれているワシ等がこぼれたりした場合を狙ってくると思うのだがな」

おこぼれの可能性を狙うはず……とジンライは考えたが、そんな気配もないようである。それをジンライは、訝しげに思うが、だが周囲の気配に妙なモノがあることを感じてさらに眉をひそめた。

(む、なんだ。この気配は?)

そうジンライが思ったとき、外を見ていたエミリィが声を上げた。そしてその視線の先にあったのは、青竜風音の隣に並んで飛んでいる30メートルは超える巨大な空色の竜の姿だった。

**********

『なんじゃ、こりゃぁあああ!!?』

風音が思わず叫んだ。気配は感じなかったが、それはいつの間にか存在していた。風音の3倍以上はある巨大な竜が並んで飛んでいたのだ。いつの間にかに。

『ふむ、お嬢ちゃん……かな? こちらの言葉は分かるのかね?』

そして声が届いたのを聞いて風音はその竜が敵ではないと認識する。正直ホッとした。こんなとんでもないのにこんな場所で攻撃を受けたら普通に死亡フラグであった。ともあれ、声をかけられたので答えねばならぬ。そして風音はその竜の種類に心当たりがあった。

『えーと、もしかして空竜さん?』

空竜、それは空を飛び続ける大型竜。青空と同化し、風で臭いを消し去り、獲物に気付かせずに奇襲を仕掛ける世界最大級のサイレントキラー。それが姿を見せて語りかけてきたのだから敵意はないだろう。

『よく知っておるな。その通り、ワシは空竜の一体、蒼穹竜パイモンという者じゃ。ちと尋ねたいのじゃが、お嬢ちゃんは東の竜の里という場所を知っておるかね?』

その言葉に風音が若干の警戒の色を見せる。それに気付いたパイモンが苦笑する。

『いや、怪しいものではないよ。ワシ、ナーガのダチじゃしな』

『旦那様の?』

その言葉に風音が思わずそう口にしてしまう。

『旦那様?』

『あっ!?』

さすがに不用意だったかとは風音も思ったが、後の祭りである。だが、パイモンは特に悪意もなく言葉を返す。

『ほう、じゃあお嬢ちゃんがカザネか。ナーガめ、ロリコンじゃったか』

『うー、旦那様はロリコンじゃあないよ。好きになった私がたまたまちょっと小さかっただけだよ』

『ロリコンはみなそう言うんじゃ』

真理である。別にナーガが言ったわけではなく、風音が勝手に代弁しただけだが。

『まあ良い。ちと頼まれ事をされたんでな。ここまで来たんじゃが、里の場所を忘れてもうてな。ここでドラゴンが何体かおったので尋ねてみたが野生の 下位種(ワイバーン) ばかりで話は通じんし、どうしたもんかと少し休憩しとったんじゃ』

『うーん、そうなんだ。旦那様とは連絡つくけど、一旦島に上がっちゃわないと無理だよ』

『ほう。ならば、案内させてもらってもよいかの。落ち着いた場所を知っとるんじゃ』

その言葉に風音がうなずくと空色の巨大な竜が青竜である風音の前に出て、島へと飛んでいく。それをタツオが『おっきいですねぇ』と見ている。

『お前の子か?』

『私と旦那様の子でーす』

『なるほどな。あやつが手紙に書いてあった通りか』

パイモンが笑う。

『旦那様から手紙もらったの?』

『年甲斐もないノロケ話ばかりじゃったよ。お熱いのぉ』

『もーやーだなー』

パイモンの言葉に風音が首をブンブンと振って恥ずかしがる。

馬車の中ではその言葉を聞いた直樹が首をブンブンと振って憤慨していたが、ジンライの手刀によって静かになった。

そして一行は空色の竜の導きのままに、白き一団は浮遊島へと降り立ったのである。