軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百四十話 噂を聞こう

◎ドラムスの街 竜道温泉

「しくしくしく」

まったくプルプルしない胸を持つ少女が泣いている。湯気沸き立つドラムスの街名物の竜道温泉の中で風音が泣いていた。

「どうしたんですか、あれ?」

「ああ、宿に戻ったら、タツオくんと弓花が仲良く布団に入って寝てたんで、ジェラシー感じてるらしいわよ」

風音から少し離れた湯船に浸かっている、ほとんどプルプルしない少女ことエミリィの質問に横で一緒に浸かっている超絶プルプルする女ことルイーズが答える。

疲れて寝ちゃったんだからしゃーないじゃんとルイーズは思うが、嫉妬の炎は止まらないらしい。かといって自分で頼んだ手前、弓花にも当たれず、とりあえず風呂に入って気分を落ち着けるつもりとのことだった。

「大丈夫ですわよ。タツオくんも明日にはちゃんとカザネの元に戻ってきますわよ」

「うわーーん、ティアラーー」

そして超絶にプルプルする少女ことティアラの胸の中で風音が泣いていた。風音が胸に飛び込んだことでブルンブルンとたわわなそれが揺れまくったが、風音に抱き締められたティアラは至福といった顔である。精神学的な専門用語で言えばヘブン状態といえばおわかりだろうか。

(いいですわ。いいですわー)

ルイーズにはティアラの頭の中が透けて見えていたが放っておいた。現時点でティアラは直樹との仲もそこそこ進行中のようである。なので今のルイーズは経過観察中であった。ルイーズも直樹と一晩夜の稽古をしたものの、だからといって直樹争奪戦に参加する気などサラサラなく、直樹の評価がやや上昇した程度である。特に何が変わるわけでもない。

そして血縁でもあるエミリィの手前、とりあえずはどちらを応援するわけでもなく、見てるだけーでいるつもりのルイーズである。

(将を射んとせば先ず馬を射よ……ということなの?)

対してティアラと風音の様子を見ていたエミリィは戦慄している。ティアラの普段を見ていると、どちらが将でどちらが馬なのかは難しいところだが、直樹を落とすにはお姉さんである風音を味方に付けるという発想は十分にありだった。

そう考えてエミリィの中で道が開けた気がしたが、実はエミリィは風音と微妙に距離をとっていた。嫌いとかではないが常識人には風音という存在は毒がやや強めなのである。

その後、部屋に戻るとタツオと弓花がさらに抱き締めあって寝てたのを見た風音が「うぉぉおお」と言いながら自分も一緒の布団に入っていった。そして翌朝に弓花が目を覚ますと風音と抱き合って寝ていてビビっていた。

なお、タツオは寝転がって少し離れていたところで寝ていたようだった。

そんな朝の騒ぎを越えると風音たちは予定通り一泊でドラムスの街を発つことにした。本日もお祭りはあるそうだが、風音が出て行くことを告げるとそのまま後夜祭になるとのことだった。

領主としても自分たちが歓待しているということが伝われば良いらしく、そもそも神竜皇后の不興を買うような真似をするはずもないため、そのまま送り出されていた。

そして続くデイドナの街へは昼頃には到着。

ドラゴンベア襲撃からはすでに半月。元々襲撃当初に逃げ出した領主たちや、戦闘による死傷者以外は被害らしい被害はなかったので、この街も復旧と言うほど破壊されているわけではない。だが当時はドラゴンベアのファイアボールにより煤けていた壁もある程度は綺麗になっているようだった。

◎デイドナの街 冒険者ギルド事務所

「よお、あんたら何したんだ?」

「は?」

風音が冒険者ギルド事務所に入り、受付の元へと行くと、受付の職員から最初にそのような言葉が飛び出した。

「ドラムスの街から緊急に通達があってな。ドラムスの街は白き一団とは一切の関わりを持っていない。何もなかったし、何も起こっていない。それを周知徹底するようにってお達しが来てるんだが」

その言葉に風音の顔が固まる。

「まあ、あんたらにゃあこの街を救ってもらった恩があるし、隣の街とはいえ領主様からの直接の指令じゃあ聞くしかねえからなんも尋ねないがよ。あんま情報隠蔽とかあんまあくどいこととかしないでくれよ。ギルドの評判にも関わるしな」

そう口にする職員に風音は「ぐぬぬ」と唸ったが、それ以上の話がないならば黙るしかない。おそらくはドラムスの街の領主に風音が言った「とりあえず表の身分である冒険者の私のことは口外してもらわないでねー」の発言が原因であろう。

(確かに言ったとおりのことだけど、また悪い噂が立ちそうなことを……)

散々悪評が広まっている風音であるので今更感はあるし、悪評とはいえ一目置かれるような噂ならば冒険者としての箔付けと考えれば悪いことではない……と風音は考えている。本当のお尋ね者にでもならない限りは。

(ま、とりあえずそれは置いとこう)

気を取り直すということは重要である。風音は今聞いた話をスルーして本来の目的を果たすことにした。

◎デイドナの街 冒険者ギルド事務所前 馬車内

風音が冒険者ギルド事務所の受付でドラゴンベアの素材換金のお金を受け取っている頃、冒険者ギルド事務所の前にはヒポ丸くんとサンダーチャリオットが停留していた。今回は街で一泊することなく、コテージに泊まる予定なのでギルドを出たらすぐにデイドナの街を去る予定である。なので停留所に止めることなく、事務所の前に馬車は止められていた。

そしてティアラやルイーズとメフィルスとタツオは馬車の中にいて、その馬車の上ではユッコネエがにゃーと大の字で寝転んでいる。

その馬車の上にいる通常よりも二回りも大きい変異型エルダーキャットも目に付くが、しかしその馬車と馬車を引いている漆黒の全身甲冑馬の迫力も異常であった。

故に白き一団を知っている人間ならば、迂闊に近付くことはしないだろうし、知らなければ魔王の馬車のようなそんな危険物にやはり近付こうとするわけもない。

「ママー、おっきいにゃんこー」

「しっ、見ちゃいけません」

そんな声も周囲からは聞こえてくるが、元よりこの馬車の窓は人の目線と同じか若干高い。恐れ多くて中をジロジロ見る者もいないし、馬車の床にいる存在などに誰も気付けるわけもないのも当然のことである。

『なんだか、外がざわめいてますねえ』

『まあ、いつものことよの』

そして馬車の床にいるのはクリスタルドラゴン亜種幼体のタツオとルビーグリフォン幼体のメフィルスだ。タツオがパーティ内で風音、弓花に続いて懐いているのは実はこの元王様であった。それは体型が似ていることと、メフィルスの性格がどことなくナーガに似ているということもあるようである。

「相変わらずの針のむしろっぷりね。この馬車は」

そう口にするのはルイーズ。まともな感性を持つ彼女はこの馬車の強面っぷりが周囲を引かせていることをとてもよく理解している。自分だったら絶対に近づきはしないだろう……と。

またその横にいるティアラはさすがにお姫様だけあって周囲からの視線を平然と流すことには慣れている。

「ですが、長時間座っていてもまったく疲れることもありませんし、良い馬車ですよ」

そう微笑むティアラの言葉は嘘ではない。人間を快適に過ごさせる環境をこの馬車は強力に備えており、それは王族のティアラですら感心させるほどのものであった。

(うーん、誰か戻ってきたら、私も酒場に行こうかしら)

常日頃、贅沢な環境に身を置いていたティアラと違い、ルイーズにとってはこの馬車の中は快適すぎる。少しは別の空気も吸いたい頃合いだと思いながら、酒場の入り口を見ていた。

◎デイドナの街 冒険者ギルド隣接酒場

さて風音は事務所に、ルイーズたちは馬車の中にいるのだが、他のメンバーであるジンライや弓花、直樹たちがどこにいるかといえば、今は冒険者ギルド隣接酒場の中にいた。

風音も馬車を降りるときにそれは聞いているので、ドラゴンベア討伐時の素材換金のお金を受け取ってアイテムボックスに仕舞うと、そのまま酒場へと風音も向かうことにした。ここしばらく、こうした情報の集まる場所に来ていなかったこともあり、情報収集の予定もある。

(しかし、どこのギルドの事務所の隣にも酒場があるんだね)

まあ便利でいいけど……と風音は思うが、もしかすると冒険者などの荒くれ者用のある種の隔離施設のようなものかも知れないと考えが浮かんだ。

そして風音が酒場の中に入ると、店内は昼だというのにそこそこの人数がいて、そして人だかりの中心に直樹たちがいた。

「あ、姉貴」

直樹の言葉に周囲の男たちが、風音の方を向いて一歩下がる。半月前に街を救った立役者ではあるが、噂通りであればたいそうな危険人物でもあるはずである。構えてしまうのも無理はなく、そして「おいあの子供が本当に」「バカやろう、磨かされてえのか」というやりとりがあるのもいつも通りである。そして風音は風音でもうそういう光景にも慣れてしまっていた。

「うぃ」

風音は一言そう言って手を挙げる。そしてとりあえずは周囲を見て、直樹たちのお目当ての人物がいないようなので、尋ねることにした。

「直樹ー、お友達には会えたの?」

「いや、ちょっと前に出て行ったらしい」

すぐさま返ってきた直樹の言葉に「そうなんだ」と風音が口にする。

「なんでもディアサウスとドルムーの街の間ぐらいに魔狼って呼ばれるのが出現したらしくて。それの討伐に結構な人数でいってるらしいんだよ。で、イリアたちもそっちにいったらしい」

「まろう? それにディアサウスとドルムーの間といったら」

風音の言葉に、直樹は「多分……」と返し、そしてその場にいるジンライたちも頷く。

その魔狼と呼ばれる魔物は恐らくは地核竜の肉とチャイルドストーンを奪ったコボルトたちが進化したものではないのか……という結論に、直樹たちも風音同様にたどり着いていたらしい。

魔狼。それは赤き瞳、漆黒の体毛を持つ巨大な獣であり、魔なる 神狼(フェンリル) とも呼ばれるフェンリルイミテーターという魔物である。