軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百二十五話 義手を語ろう

さて、ミンシアナを去った風音たちではあるが、帰りはアオの姿を見られる訳にはいかぬ為、周囲を警戒しながらの低空飛行で進んでいた。行きに忠告された言葉に従ってソルダードを迂回したこともあり、東の竜の里までの帰りの日数は行きの倍はかかりそうだった。

そしてその間に風音も遊んでいたわけではない。移動中はジンライの義手の設計を行い、外骨格の内側である素のマッスルクレイも調整し、夜には蹴り技の訓練を行っていた。レベルアップにより地力が上昇しているために短期間でトンファー入門書の内容を一通り修めた風音は、今はゴーレムを使っての実践訓練をメインに特訓を行っている。

そしてこれは、翌日には東の竜の里につく予定の、恐らくはこの旅の最後になるであろう夜のこと。

◎モンシア王国 クーリアの暗黒森林 ゴーレムコテージ 屋外訓練場

「遅いんだよね、やっぱり」

風音が破壊した練習用のゴーレムを見ながら、そうぼやいた。

「まあ、ゴーレムなんて堅さと力の強さが売りですしね。元々速度重視でもありませんし」

風音のぼやきにその場に一緒にいたアオがそう答える。アオはアオでタツオの訓練を行っていた。もっとも今は23時を回っており、タツオは召喚されたユッコネエのお腹の上でクーと寝息をたてながら夢の中である。

「最近のゾンビは走るよね。ゴーレムもその路線で行くべきかもしれない」

風音の言うゾンビは映画のゾンビである。このフィロン大陸で近年にゾンビの移動速度が上昇したという事実はない。

「この世界のゾンビも武闘派なので走りますよ。元々の肉体の素養によるところが大きいようですが」

アオの言うようにこの世界ではゾンビが存在している。周辺環境にもよるが、死体はキチンと処分しておかないとゾンビ化してしまうのだ。その瞳に赤い魔力光を宿らせるので、夜などでも見分けがつきやすいが、死ぬ前の肉体のスペックや取り憑いた死霊の能力が高い場合、かなりの苦戦を強いられる場合もある。

「というか、ゴーレムにそんな高速移動を仕掛けたら耐久度が下がって脆くなりません?」

「うん、脆くなるね」

速度を重視するのであれば柔軟な関節が必要だが、ゴーレムにそれを重視させれば構造体が脆くなり、頑丈さが売りのゴーレムとしての意義を為さなくなる。

なおヒッポーくんやヒポ丸くんの動作パターンは移動専用のもので、可動範囲のパターンも固定されているために、かなりの速度が維持できているようだった。

現状ではその速度を戦闘に使用すべく衝角付きの馬型、騎馬形態、ケンタウロスタイプのゴーレムなどを試作して試している。これはさらなるタツヨシくん改造計画のテストケースでもあった。

「高速化と防御能力の両立、それを改善するのがタツヨシくんなんだよねえ」

タツヨシくんは外骨格を纏ったマッスルクレイのゴーレム。防御を外骨格に頼るために機動性のみにステータスをふれることが強みだが、マッスルクレイの柔軟性にゴーレムの動作パターンが付いていけないため、現在はリミッターがかけられている。

「ここ最近じゃあライルの経験値をあげたノーマルの行動ルーチンをドラグーンにも移植してるんだけど、今のところは若干パワーアップしてる位なんだよねえ」

「人形使いの行動パターンがあれば良いのですけどね」

「ま、そこに行き着くんだよね」

本来であればマッスルクレイのゴーレムは 猿(ましら) の如きというほどの、飛んで跳ねて倒すような戦闘が実現可能な素材なのだ。

風音は風音で、ここに至るまでにタツヨシくんに人形使い並の高速機動戦闘が可能になるような行動パターンを組み上げようと努力してきたが、未だに完成してはいない。

(ま、既存のサンプルパターンの組み合わせからまったく新規のものを作るなんて虫が良い話ではあるんけどねえ)

量産型タツヨシくんの投擲特化用ならいざ知らず、応用力を求められる近接戦では現状のゴーレム系統ベース以上の行動パターンは出来ていない。

「現状では強化するにしても武器の強化と動力球(小)の取り付けとか考えておくべきかなあ。本格的な改造は親方と相談するしかないけど」

空間拡張がある今、わざわざ携帯性にこだわる必要はなくなっているが、親方は今はA級ダンジョンのあるゴルディアスの街にいるはずなので、そこらへんの詰めを行うのは当分後にはなりそうである。

「これみたいに、自分でダイレクトに意志を反映できたらいいんだけどね」

風音がアイテムボックスから、腕のようなものを取り出す。

「ジンライさんの義手ですか」

それはすでにアオもこの旅の途中で何度も見せられたものだった。

(いや、でも、フレイムナイトや武闘会の召喚騎士みたいにダイレクトに指示できれば……今なら情報連携でこちらからの指示を送れるはずだし)

風音が真剣な顔で義手を見ていると、アオが尋ねてきた。

「これから調整を?」

その言葉に、視線を向けていた理由は違うが、実際そうする予定ではあったので風音は頷く。

「明日にはジンライさんに装着してもらうかもしれないしね。念には念を入れておかないと」

「なるほど。相変わらず見事な出来映えですね。色付けしてない人体模型みたいですよ」

風音の持っている義手は、マッスルクレイと、腕には黒岩竜の指の骨を、指の部分は黒岩竜の翼の先の骨を人体に見立てて組み合わされたものだ。そして肩の部分にはベアードドラゴンの竜の心臓が設置されており、そこから魔力の供給を行っている。これに出発前にライルにお願いしていた義手用のガントレットを被せることでジンライの義手は完成する。

ジンライの魔力量は普通の人間よりも少ない。だから両手で出力するような技が使えず、片手の技だけしか扱えなかった。それをこの義手ならば、ベアードドラゴンの竜の心臓で補助する事が出来る。このベアードドラゴンの竜の心臓は50階層クラスのチャイルドストーンと同程度の魔力出力量なのだ。

ドラゴンを動かしていた動力を腕一本にまるごと使う、明らかなオーバーパワーだとアオは思うが、元々ベアードドラゴンはユッコネエとジンライがトドメを刺したドラゴンだ。ならば竜の心臓の権利はジンライにこそ相応しいという風音の主張も分からないでもない。

「それにしても、すぐさま作成できたということはこれもゼクシアハーツからの応用ですよね。私は義手なんてものがあったことは知らないのですが」

「そうなの? でも義手の人は見たことあるんじゃないの?」

「そういえば、そういう人も見たような気もしますが、なにぶん大昔のことなので」

アオにしてみればゼクシアハーツは800年以上も前の話である。

「義手は大型ヴァージョンアップ時に一度実装されたものだったんだけどね。その……問題があって……」

風音が若干言いよどむ。アオが首を傾げると、風音が言い辛そうに続きを口にした。

「ほら、義手や義足って、手足がない人用に作るものじゃない」

何を当然のことをとアオは思う。ジンライの義手だって、自分の腕がなくなったから作られたのだ。

「で、義手ってロマンじゃない。ドリルとか、大砲とか、色々とあるじゃない」

「まあ……ロケットパンチとかも欲しいですよね」

「で、ゲームじゃない。欲しいじゃない。腕とか切り落とすじゃない」

そこまで聞いてアオにも理解が出来た。

「まさか、自分で切っちゃったんですか?」

アオの問いに風音がうんと頷いた。

「そりゃあもうバッサバサと。能力制限が発生するからロマン武器に近いんだけど、それでもみんな乗っちゃってねえ。小学校の間でもエンコ詰めとか単語が流行っちゃってPTAが動き出したりとかしてね。問題になりかかったところで早々にそのサービス打ち切っちゃったんだよねえ」

当時の冒険者ギルドの酒場だと腕とか足がポロポロ転がってて怖かったんだよねえ……と風音が話す。その光景を頭の中で想像してアオが苦笑する。

「しかし、よくそんな機能が実装されましたね」

「謎だよねえ。審査が甘かったのかな。よく分からないけど。そんで、そのわずかな期間に義手、義足化したプレイヤーだけは残ったんで、後でサイボーグ組はうらやましがられてたんだよね」

レア度が高くなれば、羨ましがられるのも当然かとアオは思う。

「結構有名な話だからアオさんが知らなかったのは意外だったけど」

「ゼクシアハーツは半年プレイヤーですよ、私は。ま、この世界は800年プレイヤーですがね」

「廃神じゃすまないプレイ時間だねえ」

風音の言葉に、アオはまったくですと笑って頷いた。こうしてアオと過ごす最後の夜も過ぎてゆく。明日は東の竜の里へと帰還できる。風音も久々に仲間たちと顔を合わせることが出来るのである。