軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第二百十四話 子供をお披露目しよう

◎大竜御殿 神竜帝の間

『母上、父上、おはようございます』

『うむ。タツオよ。よくぞ目覚めた』

「うん、おはようタツオ」

それが初めての風音とナーガと息子タツオの会話だった。

「礼儀正しいね」

『はい。父上より様々な記憶をいただいております。息子として母上のお手を煩わせることないよう努力する次第でございます』

その日、他種族間での子育ての認識の差は大きいようだと風音は知った。

悪魔襲撃から二日目。

卵が孵り、遂に待望のナーガと風音の子供が誕生した。

その外見は竜体化した風音を若干ナーガよりに近付けたような姿で、透き通るような青さの鱗を持ち、関節部などを水晶で覆い、水晶の二本角を生やしてグラスファイバーのような髪をなびかせるハイブリッドドラゴンであった。

竜基準で行けば(竜状態の)風音似の美人さんですとビャクが満面の笑顔で答えていたが、風音にはその基準は分からなかった。が、褒められてはいるので「良かったねえタツオ」とタツオを抱き締めてスリスリしていた。

「かわいいわねえ」

『照れますね』

ルイーズの言葉に真顔でそう答えるタツオは現在風音の肩に止まっている。現在のサイズはワシぐらいである。

「タツオ、ちょっと爺むさいんだよ。旦那様の記憶をモロに受け継いじゃってるみたいで」

『もう少し若さが有った方がよかったかな。まあ我も初めての経験でな。加減が分からんかったのだ』

そうショボンとするナーガに風音は笑う。

「ま、これも個性だと思えばありだけどね。ねえタツオ」

『母上が良いのであれば、私も嬉しい』

そういってタツオは風音の頬にスリスリと顔を擦り寄せる。確かに言葉は老成したものだが、タツオはかなりの甘えん坊のようであった。なにせ生まれたときから片時も風音のそばを離れようとしないのだ。

「ジライドが生まれたばかりの時は猿のようであったがな。後ずっと泣き続けておったし」

とはジンライの言葉。右腕がないのが痛々しいが本人は余り気にしていない模様。魔術による治癒であらかた回復しているので、今日にはもう軽い運動ぐらいの修行を再開したようだった。

「育児は最初が一番苦労するものだけどタツオくんはそんなことないのね。偉いわぁ」

ルイーズは意外(?)なことに今まで子供が成人するまではキチンと育て上げてきた教育ママであるらしい。今までに産んだ数は多いか少ないかは分からないが9人。それが先代ハイヴァーン大公だったり、ミンシアナのギルドマスターだったりしているのだから、英才教育ママだったと言えるかもしれない。いい男を厳選してると公言してはばからないので或いは遺伝の勝利かも知れないが。

「……こいつが姉貴の子供」

『叔父上、今後ともよろしくお頼みします』

呆然とする直樹にタツオは丁寧に頭を下げる。

「お、おう。任せろ」

直樹はどう接して良いのか分からないようであった。

対して弓花、ティアラ、エミリィ、ライルは極めて好意的にタツオに接している。最初はペットのような気分で見ていたが、タツオの想像以上の知性と知識の高さを知れば一個の人格ある存在であると理解するのには時間はかからなかった。

「アッタマいいのねえ」

エミリィが尋ねたこの世界での数学の計算をスラスラと答えるタツオに感心する。

『我の知識を与えたと言ったであろう。タツオであれば朝飯前よ』

「そ、そうですよねー」

我が子を自慢したがるナーガに、さすがに恐れ多いと思いながらもエミリィもおっかなびっくり返事をする。自分の国の一番偉い人よりも偉いのがこの竜である。感覚が麻痺してるなとエミリィは思う。

「カザネの子供と言うことはわたくしの子供も同然ですわ」

フンスッと張り切っているティアラだが、手の掛からないこなのでおしめも夜泣きの対応もいらない。なのでティアラに手伝ってもらうようなこともあまりない。イージー育成モードのチート幼児、タツオは育児業界の異端児なのだ。

『天に還ったゲンも喜んでおりましょう』

『奥方もサイコーだぜ』

『今日は良き日です』

その場にはスザ、セイ、ビャクもいて、口々に喜びを言葉にしていた。ちなみにセイもさすがに風音にタツオがとまっている以上、人型の風音の存在を認めざるを得ないようだった。「奥方も」という口元がプルプルしていた。そんなに認めたくないのだろうか。失礼なヤツである。

そしてその日はタツオのお披露目パーティを内々で行った。ただしあくまでもこれは身内のパーティであり、タツオの誕生についてはまだ伏せておくことになっている。

竜族はこのまま、また風音が旅に出ることを止めないと約束している。しかしタツオの今のエネルギーの供給源は風音の竜気のみなのだ。そのためタツオは当然一緒に付いていくことになっている。ビャクなどは反対したが、これについてはナーガ自身が良しとしているので、そのまま話は通されている。

しかし神竜帝の子供が生まれていて、しかもそこらをぶらぶら歩いてるなどということが知れたらえらい騒ぎになるのは当然の話。何しろタツオはハイブリッドではあるが、ナーガ同様にレアアイテムのレインボーハートに近い心臓を持つドラゴンなのだ。竜族最強と謳われた神竜帝ですら未だに狙う者もいる。いずれどこかで情報が漏れるにしても伏せておくに越したことはなかった。

「けど、街中で今みたいにタツオくんをカザネの肩に乗せてたら危なくない? ぶっちゃけ超極上の宝石をぶら下げてるみたいなもんよ?」

当然のルイーズの問いに風音は「大丈夫じゃないかなー」と答える。

「私が護るし。それにこの子、私のスキルをいくつか受け継いでるみたいなんだよねえ。インビジブルとか光学迷彩も使えるんだよ」

その言葉に周囲がざわめく。この時点でその事実を知っているのは風音とナーガとタツオのみだったので無理もない。

「まさかキリングレッグとかも使えたりするの?」

『はい。気合いを入れると足が赤くなって強力な蹴りが放てるようです』

弓花の問いにタツオがそう答える。一同のざわめきが拡大する。

『今はまだ幼いからそう威力はないがな。将来的にタツオが成長した場合、恐ろしい力を秘めたドラゴンとなるやもしれぬ』

小柄な風音ですら恐るべき攻撃力を持っているのに、それがドラゴンサイズとなればもはや「なるやもしれぬ」どころではない。誰にも手の着けられないくらい凶悪な力を持った竜となるだろう。

「絶対にグレさしちゃダメよ」

「? 当たり前だよ。ねータツオ?」

『はい、ありえませんな母上』

ルイーズの真剣な言葉に、風音とタツオは暢気に答える。

『ブレスだけで炎と氷と水晶の三種類を吹き分けられますし。ナーガ様とカザネ様の御子はまさしく神童竜と呼ばれるに相応しいかと』

ビャクがほめちぎる。まさしく神童竜の意味が風音には分からないが、ビャクはまるで我が子が生まれたように嬉しくて仕方がないようで、風音もそのビャクの反応が嬉しかった。タツオが祝福されているのが嬉しくて仕方がなかったのだ。

「歯も丈夫だから虫歯の心配もなさそうだね。よかったねえタツオ」

『はい、母上!』

風音が頭をなでるとタツオは嬉しそうに目をつむってキューキューと鳴いた。甘えん坊さんである。因みにタツオの首には白いスカーフが巻かれている。それは不滅のスカーフ、タツオが白き一団に仲間入りした証である。

その後はタツオも目覚めたばかりであり、疲れてすぐさま眠りについたため、昼を越えた頃にはささやかなパーティは解散となった。

そして風音は眠っているタツオを抱き締めてナーガと共にその日は過ごしていた。それは静かで、時折両者が思いだしたように笑いあう、風音がこの世界に来てからおそらくは初めてかも知れない、本当に穏やかな時間であった。

しかし次の日には、風音とタツオ、そしてアオは東の竜の里を飛び立つこととなっている。それはゆっこ姉を呪いから解くためにミンシアナまで戻るからだ。

今回は隠密行動のため、その他のメンツは里に留まることになっている。

そして旅立ちの日、白き一団はある場所の前にいた。ハガスの心臓移送の報酬をもらうため、風音たちはグリモアフィールドルーム、魔術の術式が満ちた空間の前に来ていたのだ。