軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百七十一話 進撃をしよう

アウター、この世界にはそう呼ばれている者たちがいる。

それは一般的には歓楽街などの街の暗部を取り仕切っている者たちの通称であり、元々は盗賊上がりや冒険者をドロップアウトした者などといった無法者たちがコミュニティの中で生きていくための寄り合いとしてできた集団であった。もっとも現在でもその流れはあまり変わってはいない。

そして大概の街にはアウターのファミリーがひとつやふたつはあり、街と密接な関係を持って活動している。街の中で領主や警備兵に頼まず、アウターに揉め事の対応をお願いすることも少なくはない。街の自警団的な意味合いもある。

また商人ギルド等にもつながりが強く、表立って接触はしていないが、歓楽街の物流には当然関わるし、場合によっては盗賊から奪われたものの回収の橋渡しなども行なっているようだった。

そんな、限りなくクロに近い存在で、だがその有用性から国としても存在することを排除できない者たち。それがアウターというものだった。

そのアウターの情報網に、半月前辺りからある噂が流れ始めた。

噂の内容は、とあるパーティが完全な状態の『レインボーハート』を所持しているというものだ。

七色の独特の輝きを放つ極めて入手困難なレア素材。破損していないものともなれば至宝十二選と呼ばれる最高の宝玉のひとつにも挙げられる。

その完全な状態のレインボーハートを白き一団というパーティが現在所持している。ドンゴルの街の冒険者がその姿を実際に確認している。白き一団がクリスタルドラゴンを倒した祝いの席で見せてもらったのだというまるで隠す気がないように振る舞っていたという。

その知らせはすぐさまドンゴルの街のアウターたちの情報網に乗った。

奪えれば莫大な富が手に入る。表に出せなくとも裏に流すだけで一生笑って暮らせるだけの金になるはずだ。だが、白き一団に挑もうというアウターはいなかった。彼らの戦力に恐れをなしたということもあるが、もっと単純な理由として、誰も彼らの馬車の速度に追いつけなかったのである。

そして白き一団は続いてシロディエの街へと入っていった。すでに情報はドンゴルの街を離れ拡散していたが、あの周辺は王侯貴族の御用達の地域。アウターの近寄れる場所ではない。さらに続くディアサウスでは竜騎士の騎竜が総出で彼らを出迎え、バーンズ家の屋敷へと入ってしまう。監視しようと近付く者はいなかった。近寄れば竜に喰われるのではないかと思えるほどに竜が荒ぶっていたのだ。理由は分からないが。

さらに翌朝には奇妙な噂が広がりだした。ジライド将軍が鬼殺し姫に無礼を働き、いわゆるドア磨きをさせられていたというのだ。それも鬼殺し姫が街に来るまでの3日寝ずに一心に磨き続けていたらしい。

内心ではミンシアナのドア磨き騒動を馬鹿馬鹿しいと思っていたアウターたちであったが、このジライドの行為を知り、実際に裏も取れた時点で考えを改めることとなる。よほどの逆鱗に触れたのだろうとディアサウスのアウターは戦々恐々とし、レインボーハートを奪うなどという考えを彼らはこの時点で完全に放棄していた。

動きがあったのは3日前のことだ。クリオミネの街に、白き一団のリーダーが新しいメンバーを連れてやってきたと情報がクリオミネの街のアウターのリーダー ボラボ・デギータの耳に入ってきたのである。

ボラボは事実かどうかを自分の目で見に行ったが、話に聞いていた通り異常に目立つ黒い巨大馬と装甲馬車、それに寄り添うように歩いている白い石の馬、水晶の馬を目にし、間違いなく本物であることを確認した。

どうやら鬼殺し姫はパーティメンバーと離れて、スカウトした新人とクエストを行うらしかった。そしてギルドに潜らせていた部下から鬼殺し姫が受けたクエストがブルーリフォン要塞奪還であることを聞かされ、彼女らがクエストに向かい、戻ってくる頃合いを狙って襲撃を仕掛けることを計画する。

なお、監視中に無謀な馬泥棒が撃退されるというトラブルがあったが、ひとまずこちらのことは悟られずにすんだようなので良しとした。

その後、鬼殺し姫たちが要塞に行ったのを確認したボラボが行なったのは仲間の招集である。

ボラボも鬼殺し姫の逸話は聞いている。その大半が嘘や誇張の類だろうとは思ってはいるが、黒岩竜討伐や武闘会での活躍、クリスタルドラゴンをいちパーティで討伐した実績自体は事実であることは理解している。尚且つツヴァーラで黒翼の党と呼ばれるアウターも忌み嫌っているような非道を行う盗賊団を皆殺しにしているという情報もつかんでいた。

だが今の鬼殺し姫にそのときに一緒にいた仲間はいない。今彼女に同行しているのはここ数年ハイヴァーンの冒険者の中では注目株とされていた『魔剣の操者』と呼ばれる者がリーダーのパーティだ。ライルとエミリィはここ最近までハイヴァーンで活動していたため、直樹がハイヴァーンを離れていたことをボラボは知らない。なので直樹もセットでスカウトされたのだろうと考えていた。まあ大した違いではないが。

ともあれ、念入りに数を揃えて袋叩きにして強奪しようと考え、多くのアウターに声をかけたのだが、3日経った今でも予想以上に人が集まらなかった。ディアサウスのアウターからは「自殺に付き合う気はない」などというふざけた返答が返ってくる始末だ。

その頃にはボラボもかなりイヤな予感がしていたが、ディアサウスとは反対の方角の、あまり白き一団の噂の広がっていない地域である西側の街からは十数人もの腕の立つアウターがやって来たので良しと考えた。

数は現在で70名。その多くが冒険者上がりで戦闘には慣れている。ボラボはいけると思った。

◎クリオミネの街 倉庫街 アウターアジト

「ボス、ギルドから連絡がありました。昨夜にブルーリフォン奪還成功だそうです」

部下からの報告にボラボは唸った。

「ずいぶんと早かったな」

ボラボがその報告に面食らっている。まだ鬼殺し姫が要塞にいって3日である。ハイスピード解決だった。

「元々オーリングとかいうパーティが攻略中でしたからね。それに便乗したんじゃないでしょうかね」

ボラボと同じ疑問を部下も考え、そして自分なりの答えが出ていたのだろう。スラッと答えが返ってきた。

「抜け目ねえなあ」

部下の言葉にボラボがそう返す。ボラボは鬼殺し姫を実際に見ている。小さな少女のような姿をしていたが、ボラボの見立てによればあれは偽装だ。その正体は恐らくボラボと同じかもっと上か。油断を誘うためにあえてあのような姿なのだろうと考えていた。そして今回の件もオーリングのコバンザメをすることで自分の存在を最大限売ったのだろうと判断していた。思えば黒岩竜ではミンシアナの宝剣の力を使い、大闘技会でも召喚体で参加していた。自分の力ではないのだ。

まあ実情はどうあれ、ボラボはそう考えていたし、そうしたずる賢さは寧ろアウターでは誉めるべきところと認識している。油断できない悪女だと考えていた。

「オーリングか。あのリーダーのオーリは切り応えがありそうな男だったからな」

「先生、知っているんですかい?」

ボラボがそばにいる男の言葉に反応する。

この男の名は凶刃イジカ。人を斬ることに生き甲斐を見いだし、冒険者を止めてアウターの用心棒をしている男だ。やり過ぎることが多く、アウターの中ですら転々としている生粋の狂人の類である。ボラボもできれば会いたくはなかったが、腕は確かで金銭にも執着はない。この状況ではベストな相手ではあった。

「以前に見たことがある。まだ若く、剣の技術も甘い部分があるが、しかし強い。次に出会ったらそのまま切りかかろうか悩むほどの男だったな」

「できれば、私らとは関係ないところで殺ってほしいところですね」

「知らん。切りたくば切る。それが俺の信条だ」

止めてほしい信条だったが、ともあれ、この件が終わったら早々にお帰り願いたいとボラボは思った。この男は竜騎士も殺している。国に追われている男を匿い続ける気はない。

「それで、連中が戻ってくるのは今日辺りと考えた方がいいかな」

ボラボの言葉に部下も頷く。

「でしょうね。クエストも終えたんならこの街に金を受け取りにも来るでしょうし。連中の足はやたら速いですから」

それは実際にボラボもあの馬を見ているから分かる。あれに追いつくのは無理なのは承知しているので、狙うのは街に来た瞬間か出る瞬間かである。領主の支配領域である街中での戦闘は論外だ。

「それじゃあ、若いのを中心に準備させるか。先生、先生の出番も今日辺りになりそうですぜ」

そうボラボが口にしたが、つまり街にはいる前の瞬間を狙うということだ。だがイジカは天井を見ていた。

「先生?」

その様子に不審に思ったボラボが尋ねるが返ってきたのは質問だった。

「ふん。ボラボ、今日は竜騎士がこの街にくる用などあったか?」

「いやぁ、そうした話は聞きませんが。巡回の竜騎士なら多少日程がズレてくることもありましょうが」

ボラボはイジカの質問の意図が分からず、首を傾げたが、質問には答えた。竜騎士は空中を自由に移動できる特性から移動範囲がきわめて広い。複数の街を巡回するのに1日とかからない。

「いや、そうした類ではないな。ここまで強力な竜気。並みの騎竜ではない。ならば気付かれたか」

イジカの言葉にボラボが驚きの顔をする。

「き、気付かれたって何をです?」

ボラボの質問にイジカが凶悪な笑みを浮かべる。

「少し騒ぎすぎたなボラボ。酷いのが上に来ているぞ」

「上?」

そしてボラボも天井を見た。

◎クリオミネの街 倉庫街 アウターアジト 上空

「本当にひとりで良いのだな?」

「ま、こっちの不始末ですしね。ジライドさんは逃げ出す人がいたらお願いします」

「承知した。モルド、そういうことだ」

『ちっ、暴れらんねえんかい。くそったれが』

クリオミネの街の上空に一体の竜がいた。飛雷竜モルド、ハイヴァーンの騎竜の中でもわずか三体のみいる成竜の一体である。その背には一組の男女が乗っていた。弓花とジライドである。

「それで、ここの下の建物の中にいるんですよね。レインボーハートを狙ってるアウターが?」

「ああ、そのようだな。不自然に固まった魔力の流れが見えるだろう?」

「ですね」

確かにひとつの建物の中にかなりの魔力が集中している。

「それじゃあ行ってきますね」

「気をつけろよ」

ジライドの言葉に弓花が微笑んで頷くと、そのまま竜の背を降り、宙へと身を投げ出した。そして右手に身に付けた銀の腕輪ではなく、左手の『赤く輝く』黒い腕輪に力を込める。

「もう使いこなすか。末恐ろしい娘だ」

『ジンライにはもったいねえな』

その様子を見守るジライドとモルド。そして弓花はシルフィンブーツの空中蹴りを利用して威力を殺し、その倉庫街の一角の屋上にトンッと降り立った。

「そんじゃやりますか」

そう口にする弓花の姿はすでに上空にいた頃とは違っていた。

爪が伸び、牙が生えていた。さらに日に焼けて茶色がかっていた黒髪は赤く染まり、その瞳は金色に輝いていたのだ。

そして全身に赤いオーラを纏ったまま愛槍シルキーを構え、屋上の入り口へと向かっていく。その全身からまるで竜のように竜気をたぎらせている姿を『竜人化』という。それは竜騎士の全力の戦闘状態。

それが弓花が手にした新たな力だった。