軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百六十一話 戦場を駆けよう

風音たちがブルーリフォン要塞の異常に気づいたのは要塞に着く少し前のことだった。その状況を察知したのは風音の『直感』ではなく文字通りの直樹のスキル『察知』によるものだった。直樹はわずかに見えた要塞の喧噪からすぐさまその状況を把握し、姉に対し声をかけたのだ。

そして風音は直樹に言われて叡智のサークレットの遠隔視で要塞の状況を確認する。そしてその場が戦場であることを知り、魔物がどうやら要塞内から溢れて出ているようだということを仲間達に告げた。

そうなればすぐにでも参戦するべきだろうと馬の速度を上げようとしたところ、今度は全長8メートルにも及ぶ地核竜が要塞内から這い出てきたのを風音が目撃した。地核竜とは地竜の群れの中で時折発生する変異種と呼ばれる種類のドラゴンである。それは風音たちがつい最近討伐したクリスタルドラゴンの原型でもあった。

そして風音が遠隔視で把握した限りではこの地核竜の登場により冒険者達の勝ちの目は消えた。このままならば最悪全滅すらあり得る状況だった。

故に風音は事態を打開すべく、現時点での最高火力をぶつけることを決意する。

◎ブルーリフォン要塞 入り口前

「うん。道は空いたみたいだね。じゃあ行こうか」

先行させた直樹とエミリィが進行ルート上の冒険者をよけてくれたのを遠隔視で確認した風音がそう口にした。

「本当にやれるんだよな?」

対して手綱を握るライルは緊張し震えていた。無理もない。地核竜と言えばハイヴァーン領内で遭遇する中でも非常に強力で凶悪な魔物の一体である。それに特攻をかけろというのだ。ライルが恐れるのも仕方のないことではあった。

「違うよ」

だが風音が笑ってライルにこう言った。

「やれる? じゃなくて『やる』の」

そう言って風音はライルの肩を叩く。

「いいからちゃっちゃとやっちゃいなよ。ビビりはいかんよー」

その言葉にライルはハーッと息を吐いて覚悟を決める。見た目子供の風音にここまで言われてはライルも泣き言は言えない。「わーったよ」と言いながら、手綱を握りヒポ丸くんとサンダーチャリオットを走らせ始めた。

そしてわずかな距離の間にその速度は一気に跳ね上がり要塞の前にたどり着く頃には時速150キロを越え、相変わらずの凄まじい雷音と紫の光の奔流をまき散らしながら突進していく。それは遠目から見れば稲妻が大地を走っているかのように見えただろう。或いは光で地面を切り裂いていくような錯覚に陥ったかもしれない。

そして『這い寄る稲妻』と名付けられた紫の閃光は魔物や冒険者たちの驚きの視線を受けながらも全速力で突き進み、目的の地核竜へと黒岩竜の角を一気に突き立てる。

そして、スパークした光と共に地核竜の咆哮が響き渡った。

追突の衝撃が馬車を襲い、ライルは呻いたが、だが手綱をしっかりと握り、目を開けた。そして最初に目に入った光景を見ながらライルが舌打ちをする。

「畜生。やり切れてねえ」

目の前には獰猛な瞳が存在していた。そう、確かに『這い寄る稲妻』は地核竜に直撃した。黒岩竜の角は地核竜の右胸に大穴を開けた。だが死んではいない。竜の生命力が地核竜を生かしていた。

その竜の瞳がこちらに向いたのを理解したライルがひきつった顔で風音を見た。

「いんや。これでオッケー! いいからいくよ!!」

だが、風音は顔を引き締めつつも笑っていた。『這い寄る稲妻』はクリスタルドラゴンもしとめきれなかった。このクラスの魔物の耐久力は侮れない。それ故に倒しきれなくても想定内。そしてこれから自分で倒せばいい。

そう頭の中を切り替えた風音はその場でサンダーチャリオットを解除する。馬車の中にいたタツヨシくんドラグーンとノーマルが大地に立つ。そして風音と、風音によって呼び出されたユッコネエと、最後に「やってやらあ!」と叫んだライルが地核竜に向かって飛び出した。

(よし、軽いッ)

風音は空中跳びで空に上がりながらその足の軽さを実感した。『キリングレッグ』がLv3になったことで風音の脚力は大きく跳ね上がり、より機敏に動くことができるようになった。パッシブスキルで攻撃力だけではない面も上昇したことで動きが軽く感じられるようになったのだ。そして『空中跳び』もより高く飛べるようになり、『身軽』により強力な蹴りを連続で出すこともできるようになった。

だが、今必要なのは威力だ。風音は空高く飛び上がり「スキル・キリングレッグ」と叫び、地核竜にその蹴りをたたき込んだ。以前よりも強力な蹴りが地核竜を襲い、受けた衝撃で首を右に弾かれながら地核竜が悲鳴を上げた。

「ライルッ!」

そして風音の合図とともにライルが突進する。切り裂くのは右腕だ。

「うらぁああ!!」

ライルが竜牙槍を振るうと、地核竜の鱗ごと想像以上に深く切り裂けた。

(すっげえ切れ味!?)

風音より与えられた槍の威力にライルが驚愕した。黒岩竜ジーヴェの牙より造られた槍だ。たかだか低級竜から多少進化しただけの地核竜程度の鱗などは当然のごとく切断できる切れ味である。だが感動してばかりもいられない。地核竜はすでに瀕死の状態ではあるがまだ倒れていない。タツヨシくんドラグーンとノーマルも攻撃しているが如何せん鱗の強固さに阻まれ効力があまりないようだった。

「決まれッ!」

「行けぇえええ!!」

そこへ直樹とエミリィも参戦する。どちらも遠距離からの攻撃だ。そのふたりの攻撃を受けて地核竜が叫ぶが、まだ倒しきれない。

やはり地核竜の防御力を突破できるのが風音のキリングレッグとライルの竜牙槍だけなのがネックのようだった。竜との戦いは常に竜の鱗を突破できるか否かという問題がつきまとう。他の冒険者も何名かが参戦し、矢を放ったりもしているが当然効くものではない。

「やっぱり竜鱗ってのが厄介なんだねえ」

そう言いながらも風音は『インビジブル』をかけて地核竜の背後に回り込む。ライル達がヘイトを集中させているので『インビジブル』の効力も上昇している。敵はまったくこちらに気付いていない。

(ネオバズーカは威力が高すぎてまた埋まっちゃうかもしれないしなあ)

やりすぎれば、素材を後で回収もできなくなるかもしれないという欲もあったが、その後の戦いも控えている。クリスタルドラゴン戦では勢いを殺しきれず風音は地面に埋まってしまっていたが今回はまだ敵がいるのだ。あまり無茶は出来ない。

(それにレベル3のキリングレッグと竜爪とチャージならいけるハズッ!)

そして風音は甲冑靴から竜爪を解放して、スキル・チャージと唱えながら地核竜の尻尾から背へと駆け上がる。

『グガァア?』

(気付かれた!?)

さすがに地核竜も自分の背を一気に走り抜ける何かには気付いたようだ。だが今更やることは変わらない。気付いたところでもう遅いのだ。死に神の鎌はすでにその刃を走らせている。

「キリングレェェエエッグ!!」

そして風音の蹴りが、その先にある竜爪が、こちらを向いた地核竜の首を切り裂いていく。威力はやはり上がっていた。そして地核竜の首が鮮血と共に空に舞い上がった。

「なんて蹴りだよ!?」

ライルがそう声を上げる。風音も予想以上の威力に興奮が隠しきれない……が、だが地核竜の上に立ち、戦場をその視線に収めた風音はこの戦場の違和感を、その中心を『直感』によって感じ取った。

「直樹っ!!」

「分かってる!」

風音よりも早く直樹は『察知』によってそれに向けて走り出していた。そして直樹をフォローするためにエミリィは魔道弓で直樹に向かう魔物を射ていく。そのエミリィを守るためにライルがすでにエミリィの護衛に回っていた。

(なるほど、こういうパーティなんだ?)

それを風音が感心したように見ている。

そして直樹は直樹で現在は操者の魔剣と一緒に、風翼の魔剣フォースを握っていた。これは装備することで自身の速力を上げる魔剣で、魔剣から発せられる緑の光を纏いながら直樹はまるで風のごとき速度でその場所へと向かっていった。

狙いは魔物が不自然に固まっている密集地帯の中心。直樹は『操者の魔剣』を振り上げて力を込めた。

「行くぞ魔剣達ッ」

直樹の声とともに魔剣が飛び交い、そして魔物の群に突き刺さる。倒し切らなくても良いのだ。その中心にいるものをさらけ出せれば。

そしてエミリィの援護射撃と途中で追いついたユッコネエの爪攻撃もあり、魔物の群れは散らされていく。その先に見えたのはピンク色の小さなゴブリンのような魔物だった。

「モンスターテイマーだッ」

誰かがそう叫んだ。モンスターテイマー、つまりは魔物使いである。これが複数の種の魔物が混じり合って人間を襲っている理由であった。であれば、あれを倒せば形勢は一気に変わる。

「あれを倒せーーー!!」

「「「おおおおーーーー!!!」」」

地核竜は倒れ、そしてこの戦いを困難にしている元凶も見つかった。

一気に活気づいた冒険者たちがモンスターテイマーに向かって挑みかかった。そしてほどなくしてモンスターテイマーは倒され、その場にいる魔物達に動揺が走る。テイムされ拘束されていた自由を取り戻した反動だろう。その隙を冒険者達は見逃さず追い打ちをかけていく。操られてたとしてもやはり魔物である。我を取り戻せばまた人を襲いかかる生き物だ。だが今は抵抗もできず駆逐されていく。

そして唐突に現れた『白き一団』の参戦から十分ほどで戦闘は終了。全滅も危ぶまれた魔物達との戦いに一気にケリが付いたのだった。

なお、この戦いにより風音はスキル『頑丈な歯』が上位スキルである『より頑丈な歯』に変わった。確認はしていなかったが恐らくは地核竜のものと思われた。またモンスターテイマーは他の冒険者が倒したのでスキルが手に入らなかった。風音はガックリした。テイマースキル欲しかったなぁ……と呟いていたが後の祭りである。レアな魔物なので今後風音が遭遇できる確率は非常に低かった。