軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五十三話 歓迎を受けよう

◎ハイヴァーン公国 首都ディアサウス

「すごいね、これは」

風音が唖然としながら上空を見ている。

街の外から遠目に見ている分には鳥にしか見えなかったそれが竜だと気付いたのは、ディアサウスの街の姿が見えてきた頃だった。街のスケールとその上空を飛び回る鳥のサイズがヤケに違和感があったので風音が叡智のサークレットの遠隔視で見てみると数にして100を超える飛竜が飛び交っているのが見えたのだ。

驚いた風音が、それを仲間に報告するが、エミリィからあれはハイヴァーンの騎竜たちであるだろうとの説明が入った。騎竜たちは基本的には人間と同様にハイヴァーン公国の一員として自由に動く権利があり、街の上空を飛び交うことも許されていると。だがそれでもあの数は異常だとも補足で説明していた。

そしてディアサウスに着き、竜たちが風音一行の姿を認めると、飛び交う竜のすべての視線がこちらに、正確に言えばサンダーチャリオットを操るジンライに向けられた。そして竜たちはヒポ丸くんとサンダーチャリオットの進路を中心に上空を回り始めたのである。

「だ、大丈夫なの?」

弓花も顔を青くして見ているが、こちらを襲ってくる気配はなかった。

「ええ、彼らは野生種の飛竜とは違い、いずれは成竜となるべく選ばれた騎竜たちですし、多分……大丈夫かと」

弓花の質問にエミリィが答えるがだんだん声が小さくなっていった。竜たちの荒ぶった様子を見ていたらだんだん自信がなくなってきたようだった。

なにせ常に威嚇的な遠吠えを轟かせ、時折、飛竜が何体か降りては屋根の上に止まって声を上げて周囲の人々が悲鳴を上げて逃げていく有様だ。

「うーん。これがこの街の日常ってわけじゃあないんだよね?」

「当たり前だろ」

風音の問いに御者席からライルがツッコミを入れる。

「ここまで緊迫感のあるディアサウスは私たちだって初めてよ」

ライルとエミリィも驚いているようだった。少なくともこれは彼らの知っている故郷の日常の光景ではないのは明らかだ。

もっとも、俯瞰的に見れば風音たちのヒポ丸くんとサンダーチャリオットも負けてはいない。荒ぶる竜たちの中心で紫電をまき散らしながら進むその漆黒の姿はまるで魔王の凱旋のようでもあった。なお馬車の窓ガラスはスモークガラスでもないので、中の人物も当然見えていた。

「ああ、ロイズがこっち見てた」

「レンドおばさんにも気付かれたっぽいわね。後でどう言い訳しよう」

エミリィはさきほど何人かの知り合いと目があったらしく今は頭を下げて顔を隠している。ライルと直樹は御者席に座っているので隠れようがない。

「冒険者ギルドの酒場からみんなこっち見てたんだが、まあどうせ隠せないんだしなあ」

と直樹は開き直っていた。もっとも冒険者としてしかこの街に滞在したことのない直樹と違ってライルとエミリィは幼き頃から過ごした街である。後々の問題の比が違う。

「そんで、この状況ってやっぱりジンライさんの奥さんの影響なの?」

さすがに聞かざるを得ないと思った風音からの言葉にジンライがゆっくりと頷く。

「まったく迷惑をかけるな。あのトカゲどもは家内の親衛隊みたいなものでな。まあ、昔からああしてワシを威嚇しよるのさ。ふふふ」

どこか遠くにいるような目でジンライが答えた。どうも竜どもの威嚇に対しては慣れているようだったが、未だ本調子とは言い難い様子だった。

「あーもうじき着くな」

直樹がそう口にした。風音は馬車の前を見る。

(強力な竜の臭いが3つ?)

風音は『犬の嗅覚』でその先にいるモノを正確に把握していた。

(ひとつはシロディエの街に来ていた竜か)

3体の竜はいずれも黒岩竜ほどではないがクリスタルドラゴンよりも上のように感じる。ならば成竜であるのは間違いないだろうと風音は思った。

◎ハイヴァーン公国 首都ディアサウス バーンズ家の館

『おう、ようやく来たようだな。ジンライに坊ちゃん、お嬢に皆様方』

風音たちが館に着くとそこには三体の10メートルクラスの竜が鎮座していた。またそれが可能なくらいにバーンズ家の庭は広かった。そして周囲を飛び交う飛竜達も、巨大な3体には近付こうとはしなかった。

その中で声を上げたのは3体の竜の中で中心にいたもっとも大きく、もっとも強い竜気を放つ竜だった。

「ふん。変わらぬようだなゴード」

『お前は無駄に若くなったようだな。そして彼女らが今のお前の仲間か』

ゴードと呼ばれた竜が風音たちを見る。ティアラが怯えた目を向けるが、風音は笑って受け答える。

「どーも大淫婦です。よろしく」

『くっく、面白い娘だな。まあそれをあまり言わんでおいてくれ。あれのためにも』

そう言ってゴードの視線が庭の先に向いた。風音が釣られて見てみると、そこには一心不乱にドアを磨き続けるジライドがいた。こちらのやり取りなど一切目に入らず、磨き続けている。なぜか両頬もかなり腫れているようだった。

「なにあれ?」

『何って、あれが謝罪方法なんやろ?』

そう答えたのはゴードの右手にいる赤い竜。

『姐さんがなあ。お嬢さん等に対してボンがしでかしたことを聞いて激怒しなさってなあ。年頃の娘にそんな馬鹿なことを言って土下座ひとつで許されることやない、言うたんよ』

そしてゴードの左手の黄色い竜も口を出す。

『だもんで戻ってきてからずーっとドア磨いとんのよ。いろんなとこからドア借りてなあ。ほれ、あんたらの故郷じゃあ謝罪っちゅーのはドアを磨くことなんやろ?』

風音は「あーーー」という顔をした。どうも噂をオカシな風に聞いていたらしい。

『ボンがウソ言うとるとも思えんのやけどな。不思議な風習や思うわ。ま、嘘やないよな? 姐さんに嘘言うたらいくらボンでもワシ等もちょっと抑えがきかんしなあ?』

瞳の中に宿る一瞬の暴力の気配に風音は首を縦にブンブン降りながら「そうなんだよ」と口にした。

「うん。いやー、見事なドア磨きだよ。ジライドさんの謝罪が心に響くなぁ」

ここで違うと言うととても怖いことになると風音は直感した。

『せやろ?』

と、竜は返してきた。

「あの、それでジライドさんの頬が腫れてるのは?」

『姐さんも話している途中で、ちょーっとエキサイティングしちまってなあ。ビンタが飛んだんよ。百は 叩(はた) いてなかったと思うけどな』

怖いお婆さまのようであった。

『なあジンライ。おめえさんもわーってるよな? わしらもなあ。姐さんを悲しめたぁいうんなら考えにゃあならんのよ。色々と考えにゃあな』

ギロッと黄色い竜がジンライを見る。

「うるさい。さっさと家内に会わせろモルド」

『おめえは』

ジンライの素気ない返事にモルドが青筋らしきものを頭に浮かべて睨みつける。

『よせ、姐さんが通せと言っていたはずだぞ?』

だがモルドを遮ってゴードが口を出す。

「姐さん?」

そういえばさっきもあのモルドと呼ばれている黄色いのがそんな名称を使っていたなと風音は思い出して首を傾げる。

「うちの婆ちゃんは東の姐さんって呼ばれてるんだよ」

風音の疑問にライルがそう答えた。

(東の姐さんってことは、西の姐さんとかもいるのだろうかね?)

と風音は疑問に思ったが、館の中からメイドさんらしき女性がやってきて、館の中に案内されたのでそのまま進んだ。

◎首都ディアサウス バーンズ家の館内

「バーンズ家ってのはこの国でもなかなかの名家でね。ジンライくんは婿養子なのよね」

館の中に入ってからルイーズが風音と弓花の方を向いて、そう説明した。

「まあ、そうですね」

苦笑いを浮かべながらジンライが答える。なお、ジライドはこちらに気付かず最後まで一心不乱に磨いていた。もはや取り憑かれているようだった。

「さっきの竜は成竜だよね?」

風音の問いにルイーズが頷く。

「ええ、ハイヴァーンの騎竜を統率しているライノクス大公の愛竜である閃輝竜ゴード、黄色いのが飛雷竜モルドに赤いのが牙炎竜フォルネシアね。モルドとフォルネシアは兄弟竜で、モルドは今はジライドくんの愛竜って話だったわよね」

とルイーズが答える。

「彼らは特にお婆さまに心酔してるし、結構うちに遊びに来るのよね」

エミリィはルイーズに続けてそう口にした。

「あんなデカいのに」

「まあ、だからうちの庭って無駄に広いんだよな。竜が遊んでも良いように」

とはライルの言葉。

しばらく廊下を進むと奥の扉の前でメイドが止まり、凛とした声を上げる。

「巫女長様、ジンライ様とお客様をお連れしました」

そして扉の先から「どうぞ」と聞こえた。それはそれはとても可愛らしい声だった。