軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十六話 ナンパをされよう

◎シロディエの街 特別区 ルイーズの別荘 室内温泉 朝

ルイーズの別荘内の早朝風呂である。目が覚めた風音がルイーズにお願いして二人で風呂にはいることにしたのだ。ほかのメンバーは弓花はジンライ、直樹と早朝稽古、ティアラは朝は弱いのでパスだった。

なお温泉とはいえ、お湯が適温で出てくるのはチャイルドストーン動力による温度調整が働いているからだ。一般庶民には馴染みのないものだが金のかかっている施設にはこうしたギミックが多く使われている。そうしたものが特権階級のみのものとなってしまっていることには非難の声もないわけではないが動力の安定供給ができない以上は金銭が払えるところに回っていくのは致し方ない面もあるということだった。

「つるつる~、肌がつるつる~」

相変わらず訳の分からん歌が風音の口からは飛び出ていた。泡泡になりながら体を洗っているようだった。

「しっかし、あんたの肌ってホント卵みたいにつるりんとしてるわねえ」

そう言いながら湯船からするする~と上がってきたルイーズが風音の二の腕を揉もうとする。

「ひゅ~」

それを風音はつるりんとかわした。変な声をあげながら。

「あん。ちょっと揉もうとしただけじゃない」

「いやです~。ルイーズさんに揉まれるとアヘ顔になるので触ってほしくありませ~ん」

ルイーズのマッサージ術を知っている風音は警戒心マックスであった。

「ケチねえ」

そう言いながらルイーズはすごすごと湯船に戻る。なお今回はユッコネエは出てきていない。この別荘は元々ルイーズが個人的に泊まるために買ったものでユッコネエが入れるほどの広さはないのだ。

そして今風音たちが浸かっているように、このシロディエ湖の周辺には温泉が湧く。それがハイヴァーンの王侯貴族にウケたことで別荘が次々と造られ、やがてシロディエの街となったと風音はルイーズから聞かされた。なお、王侯貴族たちがこうして固まって別荘を持つにも理由は魔物の存在にある。個人で外に建物を作る場合、その維持において魔物からの襲撃を想定しないわけにはいかない。余程の富豪であれば個人宅を造ることも可能だが、そうした場合は大抵一つの小さな街のようなものが出来上がるとのことだ。

「そういえば、あたしはティアラと弓花と一緒にショッピングの予定だけど、カザネは今日は別行動なんだっけ?」

「うん。買い物は昨日で十分だし水晶化の調整のためにちょっと湖の方で訓練してくるよ」

「頑張るのはいいけどあんまり目立たないようにね。ここウルサいから」

王侯貴族などが多く滞在しているこの街の警備は厳しい。ルイーズやティアラ、メフィルスがいればさすがに滅多なことでは追い出されるということはないだろうが、注意は必要である。

「ラジャー」

問題を起こしそうな女の子はルイーズの本気の心配をよそに軽く返していた。それがルイーズにはやや不安ではあった。

そして風音は風呂を出て朝食を取るとすぐさま外に飛び出していった。

◎シロディエ湖 シロディエの街方面

「スキル・水晶化」

湖の水辺で風音がゴーレムで作成した十分の一風音ちゃん像に水晶化をかけていく。

なお水晶化とは以前に親方が自分の馬車に使っていた『存在の固定』などを含めた複合属性の魔法であり、この世界の魔術では解除がせいぜい、複雑すぎて再現は現段階では不可能という類の魔法である。まあ、概ね実際の効果は『水晶になる』という大ざっぱなイメージだけ踏まえておけば問題はない。ファンタジーにどこまで野暮天するかは難しいところだが、風音はそれをブン投げて使えるものは使うとだけ考えている。

「そいやー」

そして十分の一風音ちゃん像(クリスタル加工)もブン投げた。

1メートル先に落としたが頑丈で割れた跡はなかった。設定で強度もある程度変えられるようだが、なかなかの強度である。

「窓に使うには魔力はもうちっと弱めでも良しと」

風音は強度実験、透明度実験、マジックミラー化実験、スモークガラス化実験などを行い、実際の水晶化の設定の程度を計っていた。現行で作成しているコテージは複雑化し過ぎて魔力消費が激しい。そのためガラスを設置するにもコスト調整が必要になっているのだ。

「おいおい、勿体ないなあ、お嬢ちゃん」

その実験中の(見た目子供が水晶像をブン投げてるようにしか見えない)風音に後ろから声がかかった。

「昨日の人だね。おはよー」

風音は『犬の嗅覚』で当然その人物が近付いていることは掴んでいた。風音は名前は知らないが昨日にカフェで出会ったライルである。

「おはよう。その像、頑丈なんだな。まったく壊れてないみたいだ」

「まあ私の像だからね」

それが壊れないことと何の結びつきがあるかは不明だ。

「ホントだ。お嬢ちゃんの姿まんまじゃねえか」

だがライルはそんなことよりも水晶像が風音まんまの姿であることに関心がいっていた。ほーほーとその像をライルが見ていると風音が横から声をかける。

「ああ、このスカートの中はズボンだからパンツは見えないよ」

「聞いてねえ」

風音のツッコみにライルが叫ぶ。確かにスカートの中身が気になったのは事実だがそれは男の 性(さが) だ。仕方のないことなのだ。ロリコンじゃない。ロリコンじゃあないんだ。

「あと私のスカートの中身も以下同文だから覗かないでね」

「覗いてねえし」

像のスカートの中身を指摘されて本物の方も気になったのは確かだ。なお作中で、僅かではあるが性的な意味で風音の下腹部に視線を送ったのはこの男が初めてである。

ちなみに風音のプラズマパンツはヒョウ柄のピッチリ系のズボンなので風音の小振りのおしりのラインがはっきり出ていて見られるのはややハズいらしい。

「そんなことより、こんなところに一人で良いのか。お前、いいとこのお嬢さんなんだろ?」

ともすれば強引な話題切り替えの感のあるライルの言葉だったが、そう思っていたのは事実である。例えこんな治安のよい街でも王族の少女(と思われる人物)がこんな人気のない水辺にいるのは危険だろうとライルは考えていた。当然風音は意味が分からず首を傾げる。風音は確かに一軒家に住んではいたがお父さんがローンを組んで建てたものだし基本中流家庭の人間である。弓花もマンション暮らしだったし家庭環境は風音とどっこいどっこいといったところだ。いいとこのお嬢さんなんてティアラしか心当たりはない。

(いいとこのお嬢さんとか……にじみ出る品性がそのように感じさせてるとか? まさかティアラと一緒にいるうちに自然とハイソサエティな雰囲気が身に付いてしまったとでも?)

などと身の程知らずなことを風音が考えていたが、無論身についていないので心配ご無用である。そして衝撃を受けている風音を見ながらライルは(やっぱり違うんじゃね)と思ったが、せっかくなので昨日の香水について尋ねてみた。

「いやさ。昨日君にもらった香水が高いものだったらしくて、妹がちょいとビビっちまってさ。だからあんなのをポンッとくれるんならどこかの王族か貴族のお嬢さんなのかなと思ったんだけどさ」

「あーそういうことか」

風音は若干ションボリした。にじみ出ていなかったらしいことに気付いたからだ。

「昨日も言ったけど、あれはもらいもんだから気にすることはないよ。どうせ使わないしね。あと私はいいとこの娘じゃなくて冒険者だしね、自分で稼いでるよ」

「そうなのか」

その言葉にはライルが驚いて風音を見るが、武装はしてないものの、確かに羽織っているマントを除けば、使われた感のある旅になれた服装をしている。とはいえ、冒険者と名乗る場合には様々なケースがある。親子などで旅をして稼ぐ場合には自分の子供に手伝いをさせることもある。そうした子供が背伸びをして「自分は稼いでる」と口にするのはよくある光景であり、ライルは風音をそうした部類だと考えた。

「じゃあ、冒険者なら金だって十分ってわけじゃねえんだろ? 売っちまえば良かったんじゃないのか?」

「もらいものを売るわけにもいかないよ。どうせ使わないんだし恋する乙女にプレゼントして使ってもらうのが一番私が満足できる活用法だったんだよ」

「そういうもんかよ?」

「そういうもんだよ」

その風音の心境はライルにはイマイチ分からなかったが、風音がお嬢様というよりは自分たちに近い人間なのは理解できた。であればと思い、ライルは風音に提案する。

「それじゃあ、あの香水のお礼に今日はお昼でもおごらせてくれないか。帰りに妹から飯の材料の買い出し頼まれてたし」

「なるほど。そういって私をおうちに誘い込んで、お昼を美味しくいただいた私を美味しくいただこうというわけですね」

「いただくか。妹いるっていってんだろ!」

ライルが非難の声をあげた。昨日の言葉といい、最近の子供はマセていると思いながら。なお、ライルは直樹と同い年なので現在は17、風音よりも二才年上である。

「いやならいいってば」

「いやいや、タダメシごちになります」

シレッという風音にライルは溜息を 吐(つ) く。把握のし辛い少女だった。ちなみに風音は風音で(元の世界なら警察呼んで逮捕できるな)と思っていた。

気の知れた冒険者同士というのは基本共同体的な意識がある。老若男女でパーティとして冒険をしているとそういうものが強くなってくるのだが、風音は最初の方から他のパーティなどからは一線離れて見られていたのでそうした意識はあまり強くないようだった……という点でライルとは考えの相違があった。

「あーそういえばナマエも聞いてなかったな。俺はライルって言うんだ」

「ほぉ、ライル……」

「なんだよ?」

「いや、私の名前は風音だよ。よろしくね」

風音はしれっとした顔でそう返す。

◎シロディエの街 バーンズ家の別荘

「ここがうちの別荘なんだよ」

ライルがそう言いながらドアを開けて中に入っていく。

(あら、ほとんど目の前だねえ)

風音はルイーズの別荘……というよりもバーンズ家の別荘と比べると屋敷と呼ぶべきだろうという建物を見ながら別荘に入っていく。

「戻ったぞエミリィ。お客さんも一緒だ」

「ちょっと兄さん、え? お客さん?」

妙に慌てた素振りのエミリィが奥から顔を出してきたが、ライルの言葉と、その後ろにいる風音の姿を見て「昨日のこじゃない」と口にした。なお、エミリィはライルよりふたつ下なので風音とは同い年である。

「どーも」

風音が手を挙げてエミリィに挨拶する。

「あ、どうも。えーと、昨日はありがとう。でもどうしたの?」

エミリィも妙に動揺した素振りで挨拶を返し、ここにいる理由を尋ねたが、それに風音はノータイムで返事をする。

「ナンパされた」

「兄さん!?」

「してねえーー!」

妹は非難の目を向け、兄が絶叫する。だがこの状況、意図はどうあれナンパと言えなくもない。

「ちょっと、兄さん。今は冗談でもそういうのヤバイって」

「冗談とかそういうんじゃなくて、ていうか今がヤバい?」

その言葉にライルが首を傾げる。なお、風音は『犬の嗅覚』でその奥に人がいるのを気付いていた。感じとしては30から40の男。その匂いはいつも一緒にいる爺さんに似ている。

(こりゃジンライさんの息子さんかな)

風音は直樹からライルの名前もエミリィの名前も聞いている。さきほどライルに名乗られたときに、おおよその見当は付いていたが、もう一人の人物がいるのは予想外だ。直樹が離れているので今は二人で行動しているはずだと聞いていたためだ。

「マジメに冒険者をしてるかと思えば、ナンパだと? それもこんな小さい子を?」

ズシンとしたような重い空気を纏った男が奥から出てきた。その顔はやはりジンライによく似た頑固そうな顔立ちだった。ジンライの息子にしてライルたちの父、そしてハイヴァーン軍の要とまで呼ばれているジライド・バーンズ将軍がそこにいたのである。