軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第十五話 魔術を改造しよう

グリモアを使用するのは難しくはない。

自分の魔力をそそぎ込み、返ってくる魔力と魔術式を受け入れる。そしてその後に押し寄せる知識の波を受け入れれば完了だ。それが終われば魔術の使える身体となっている。

「あーオッケーオッケー」

グリモアからは魔力の反応が消えたと同時に、スキルリストに『炎の理:二章』『癒しの理:二章』が表示される。

それを見て風音は内心ホッとする。何事にもイレギュラーは付きまとう。大丈夫だとは思いつつも覚えられなかったらどうしようと考えてはいたのだ。

とはいえ、ここまでは予定通り。スキルリストにある炎の 理(ことわり) をタッチしクリエイターモードを起動する。

「へぇ、やっぱりこうなってるんだ」

ゴーレムメーカーとは中身が違うが、風音には魔術用のクリエイターモードの方が馴染みがある。使い慣れたその操作パネルを見ながら舌なめずりする。そう、ここからが風音の本領発揮なのだ。

理(ことわり) 。

それは魔術を使うための動作原理という認識が概ね正しい。

理(ことわり) は書物のルールに従い、章単位で区切り、章が進むほどに扱える力が強大になっていくようになっている。

戦闘に限って言えば

一章:火が出せる

二章:攻撃魔術

三章:範囲魔術

四章:攻撃魔術(高威力)

五章:範囲魔術(高威力)

というように分類される。さらに上に最終章と呼ばれる魔術があるが、それらはすべてユニークスペルであり、それぞれが専用の理によって動いていると言われている。

そしてゲーム的な仕様で言えば 理(ことわり) とは即ち魔術用のクリエイターモードそのものである。デフォルトでファイアボールなどが登録されているが、カスタマイズ次第ではそのまま使うのがバカバカしいほどの高火力、低コストの術を生み出すことも可能。威力、燃費を度外視したネタ魔術花火コンテストなども風音にとっては懐かしい思い出だ。

「これとこれで、回転加えて、チョチョイと」

クリエイターモードを開いて約1時間。何もない空間を指でつついたりさすったりしている(おばちゃんにはウィンドウは見えない)少女におばちゃんもそろそろ声をかけようかなと思っていた時、「よし、できた」という呟きとともに風音がムクッと立ち上がった。

「おばちゃん、そこのわら人形を使ってもいいんだよね」

「あ、ああ。水もかけてあるしそうそう炭にゃあならんはずだよ」

さきほどまでのちょっと不機嫌だった顔も通常形態の無表情な顔もなりを潜め、風音は笑みを浮かべたまま詠唱台に乗る。

「スペル・トーチ」

風音の言葉とともにボウッと正面に炎があがる。これはグリモア一章の 理(ことわり) で覚えられる簡易照明の呪文だ。

「おや、ちゃんと出せるみたいね」

いくらグリモアで 理(ことわり) を覚えてもすんなりと魔術を出せるものはそうそういない。故におばちゃんも目の前の少女が想像以上に出来る娘だと理解する。

「うん。これなら問題なさそう」

おばちゃんの言葉にうなずき、風音は両手を広げると

「スペル・ファイア・ボムランス」

両手に炎の槍を出現させた。

「まさかッ」

いきなりの大技に後ろから見ていたおばちゃんが目を丸くして驚いている。風音は知らないが炎をランス状にして投げつける術はミンシアナ魔道兵団が主力として扱う魔術である。

魔力の収束率が高くその威力はグリモア四章の魔術に匹敵する。そんなものをいきなり出されたおばちゃんの驚きはもっともなものだが、風音の術はまだ先があった。

「うりゃあ」

風音が思いっきり炎の槍を放り、わら人形に突き刺さる。

と同時のことだった。

わら人形が爆発した。

「なぁあああああああ!!!!」

おばさんが口をあんぐり開けて叫ぶが風音はステータスウィンドウを開きながら眉をひそめる。

「予想通り消費が激しいか。ここぞという時に使った方が良さそうだねえ。うん」

ランス形態にボム機能を入れ込んだボムランスはその構造の複雑さから魔力消費が激しく扱うのが難しい術だ。そうしたゲーム通りの状況に「まあ、そんなものか」と気持ちを入れ替えた風音は使い物にならなくなったわら人形と並列している別のわら人形に右手を向け人差し指を突き出した。

「スペル・ファイア・ニードル」

トスンと割り箸サイズの炎の棒が藁に突き刺さる。

「なんだい、それは?」

ボムランスの衝撃からどうにか気持ちを切り替えたおばちゃんは見たこともない炎の棒に首を傾げる。

これは二章で扱える 理(ことわり) の炎を最大限収束した炎の針。痛みに鈍い魔物にはダメージが通りにくいがコアなどを一撃で破壊できる威力を秘めている上にコストパフォーマンスが高い。

「スペル・ファイア・ヴォーテックス」

さらに一撃。それは風音の差し出した手に、ニードルを引き伸ばしたような一文字描きのニャンコを生み出す。「おやカワイイ」などと横から見たおばちゃんが逃避気味に思ったが、それで終わるはずもなくニャンコは高回転を起こしラグビーボール状の炎になった。

「いけっ!!」

そして放たれた一撃はわら人形の胸元を貫く。

「………」

後ろにいるおばさんはもはや声も出ないが、その視線はわら人形に釘付けになっていた。

わら人形の胸の部分は円形にキッチリ抉られていたのだ。それはおばちゃんが魔術師を始めてから初めて見る光景だった。

ヴォーテックス。

それはニードルと同じ細さの炎の棒を伸ばし1文字書きの記号を描いてから回転させることで攻撃影響範囲を広げてダメージを与える魔術である。その威力とコストパフォーマンスの高さはグリモア第四章を凌ぎ、グリモア最終章まで習得していない魔術師を事実上『いらない子』扱いにした。ちなみにこれを考案したのは別の人間だが、ニャンコ先生と呼ばれる派生型の魔術レシピを生んだのは風音である。

「うん。余は満足じゃ」

その威力に風音はニンマリと笑い、そしていつもの無表情に戻る。

「おばちゃん、ありがとねー」

信じられないものを見るかのように風音を眺めるおばちゃんを後目に風音はスタスタと魔導学習院を後にした。