軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百四十二話 シロディエ湖に行こう

◎ドンゴルの街 冒険者ギルド事務所 夜

風音たちがドンゴルの街についたのはすでに日の沈んだ夕食の頃合いだった。そして風音たちが冒険者ギルドの酒場に入るとそこにはカルティとゴーゴルが酒を飲んで待っていた。

「おっす。先にやらせてもらってるぜえ」

「いや、先にって……なんでふたりがいるのさ?」

鳥のもも肉を持ちながら言うゴーゴルに風音が尋ねる。酒場の中には何故か人が大勢いて何かしら祝いの席のようではあるのだが、なんの祝いだかが分からない。

「なんでってあんたらのクリスタルドラゴン討伐祝いの宴の席でしょう。んなら当然私たちも出席する。そんなことも分からないのかしら」

ゴーゴルの横でパスタをモリモリと食べているカルティがそう返した。その言葉に一同首を傾げた。確かに自分たちはクリスタルドラゴンを退治して戻ってはきたが今帰ってきたばかりである。何故知っているのか……だが、その事態を引き起こした犯人はすぐ後ろにいた。

「ああ、すまねえな。実は全員クリスタル化が解けた時点で俺が使い魔を飛ばして連絡してたんだよ」

エイブラが挙手してそう言った。なんでも地竜退治の密な連絡を取るために鳥型の召喚体を持っているらしい。

「あいつらに早くあわせてやりたかったしな」

エイブラに続いて酒場に入ってきた男たちを見て酒場の中にいた何人かが声をあげた。入ってきた男たちとはクリスタル化された冒険者で、声をあげたのは彼らの恋人や家族だった。

「なる〜ほど」

風音は頷いた。そこには風音が昨日出会った人たちの姿もあった。であれば納得するしかないなと思う。そしてゴーゴルたちに向き合った。

「それでゴーゴルさんとカルティさんがいるのが何故なのかはやっぱり分からないんだけど?」

風音の当然の質問にゴーゴルはブスッとした顔で「クリスタルドラゴン退治に呼ばれたんだよ」と返した。

「え? ああ、そういうことか」

ゴーゴルの言葉で風音もその意味に気付いた。クリスタルドラゴン退治は一度失敗している。そうした事態になってしまった場合に外来から高ランクな冒険者を招くことになるのだと素材保管人も言っていた。つまり呼んだのだ。そして比較的距離の近かったゴーゴルとカルティは今日この街についたのだ。

「ま、クリスタルブレスはかなり厄介だって話だしな。今回ばかりはやべえかもなと思ってたんだが、着いてみたらもう倒されてるんだから拍子抜けしちまったよ」

ゴーゴルはそう言ってもも肉を引きちぎって喰らい、酒を飲み干した。

「他に何人も声をかけてるみたいだし、討伐は一週間後ぐらい後の予定で考えてたみたいよ。結構名の知れた連中が来るはずだったんだけどみんな徒労で終わるってことよね。私たちみたいに」

カルティがそう横から口を出す。

「なるほど。そりゃ悪いことをしたかなあ」

と、返す風音だが特にそうは思っていない。目の前で再会の涙を流す人たちを見ればやって良かったとしかやはり思えないからだ。

「ま、それはいいわ。そんで『あれ』手に入ったんでしょ?」

カルティがクイクイと手を出す。見せてーとその顔が言っていた。風音がしょうがないなあとそれを出す。そして周囲がどよめいた。

「「「「「「おおおおおおーーーー!!」」」」」

今の時間はすでに夜、店の中もランプだけの明るさだった。そこにレインボーハートが出てきたのである。そして強烈な七色の光が周囲を照らす。

それは至宝十二選と呼ばれる宝玉のひとつに数えられるだけはある確かな輝き。さきほどまで感激の涙に濡れていた冒険者や家族たちが再びその瞳から涙を流すほどの神々しい光だった。

「ちょっとお、欠片じゃなくて完全な形で手に入ったの? なによそれ!?」

カルティがその輝きに心を奪われ、ゴーゴルもそれを「おお」とうめきながら見ている。無骨な戦士であるゴーゴルでさえその輝きには敵わないようだった。

「うーん、やっぱりいいわねえ。夜だからこそ輝きもいっそう増すものねえ」

ルイーズもうっとりして見ている。男女問わず、みながその輝きに魅せられている。そして風音は水晶馬のヒッポーくんクリアを酒場内に呼んでレインボーハートを咥えさせる。水晶でできたクリアの体がレインボーハートの輝きに当てられて全身を七色の光で満たした。そして台座と警護を兼ねたクリアを風音はその場に座らせて、その輝きで人々を沸かせながら宴は続いた。

そして翌日、風音たちは予定通りにシロディエ湖に向かうことにした。カルティとゴーゴルは風音たちが散らした地竜の群れを狩りにいくとのことで、一緒に狩りにと誘われたが、これ以上自分たちで狩り場を荒らすのも、と考え遠慮することにした。他にも高ランク冒険者が集まるようだし、彼らの見せ場も残しておくべきだろう。そしてシロディエ湖の温泉にもはやく入りたいということもある。見送りに来ていた素材保管人が「本当に好きですねえ、温泉」と呟いていた。

なお、クリスタルドラゴンの素材は部位にもよるが、全体の三分の二ほど売り払った。さすがに不思議な倉庫にも収納できる量には限りがある。整理して必要な分だけ入れておかないと気が付いたらいっぱいになってしまいそうだった。

◎ハイヴァーン領内 シロディエ街道

「このシロディエ街道はハイヴァーン内でも名所の一つに数えられてるところでさ。この道に敷き詰められたのは全部ケイロン岩を削って並べたものなんだってさ」

シロディエ湖に向かう途中、サンダーチャリオットの中から外を見ている風音に直樹が自分の知識を披露していた。さすがに直樹もハイヴァーンで三年暮らしているだけあって、ここら辺のことはよく知っているようだった。

「あーヒッポーくんハイと同じ材料か」

ケイロン岩は風音にも馴染みのある素材だ。風音はミンシアナの王都の石屋でケイロン岩を購入し、それをヒッポーくんハイの材料としていた。ケイロン岩とはその硬度と見た目の美しさから建築資材として人気のある岩の一つであったのだ。

「ケイロン岩は頑丈だけど結構値が張ったと思うんだけどなあ。ずいぶんとお金あるんだね」

「ま、ここら一帯は魔物もほとんどでないし、農村と王侯貴族向けの保養地でもあるからね。お金もいっぱい出してくれるのよ。いろんな人たちが」

横に座るルイーズがそう補足する。ちなみにルイーズはお金を出したいろいろな人たちの側である。

なお、ジンライは御者席に、弓花とティアラは外でヒッポーくんハイとクリアを乗り換えながら早馬を楽しんで駆けている。陽光に照らされたヒッポーくんクリアはまさしく走る宝石の如き姿でふたりはそれを観賞しながらうっとりしていた。そして風音はしばらくするとボーっと空を見ていた。

「それで風音、さっきから空ばかり見てたけど何かあるの?」

風音の様子が気になったルイーズが指摘をすると風音は「うーん」と言いながら口を開いた。

「ドンゴルの街で水晶竜の素材を換金するときに倉庫整理してたら浮遊石を持ってることを思い出したんだけどさ」

浮遊石とは風音が竜船で手に入れた文字通り浮遊する石である。

「なんに使おうかなって思ってさあ」

「あーそういえばそんなのも手に入れたって言ってたわね」

ルイーズも風音に言われて、竜船に乗っていたときにその話を聞いていたことを思い出した。

「確か人一人分しか浮かせることはできないのよねえ」

「うん。大体80キロぐらいかなあ。装備重量も考えると一人分ってとこだね」

「一人用の乗り物とか造ったりしてみれば?」

そのルイーズの指摘に風音が再度唸る。

「フライの魔術を使えれば制御できるんだけど私しか使えないんだよね。ああ、そうだ。コーラル神殿に行く前にルイーズさんとティアラもシグナ遺跡に行って覚えてもらえばいいんだ」

だが風音の言葉にルイーズは首を横に振る。

「ティアラは本人次第だけど私はパス。浮遊ってことは重力、つまり地属性でしょ? 他のファクターを介した魔術を覚えてしまうと、雷と水の系統で固めた私の魔術が弱体化してしまうもの」

「むーそっかあ。そういう問題もあったか」

属性反発の概念はゲームだけではなく、この世界にも存在している。そう考えた後、風音は「ま、いっか」と棚上げにした。別に今決めなければならないことでもないのだ。何か別の道があるかもしれないし、とりあえずは保留でもかまわない。

「そしたら後の問題は直樹だねえ」

「俺っ?」

突然振られた直樹がビクッとした。

「さて、直樹。クリスタルドラゴン戦でこのパーティでハブられた人がいます。それは誰でしょう」

それは直樹にとってとても痛い話だった。

「……俺だよ」

だからいじけたようにボソリと呟く。

その顔を見てルイーズはゾクゾクッと来ていた。将来性があり、虐めがいのある若い子はルイーズの大好物だ。まあ他のマイナス要因と風音の身内をどうこうするのもナシかなーとは思って手を出してはいないのだが。パーティ内でのゴタゴタはルイーズの望むところではない。だがジンライだけは例外だ。

「それじゃあ、なんで直樹はハブられたのでしょうか?」

「……お、俺が弱かったからだ」

直樹、泣きそうである。ルイーズの嗜虐心がビクンビクン来ていたが、風音はその直樹の答えに首を横に振る。

「ブッブー、違いまーす。そりゃ未熟な面もあるだろうけど、直樹に足りてないものは別にあります」

「なんだよ、それは?」

「それは『必殺技』です」

「は?」

姉の唐突な言葉に直樹は素で聞き返してしまった。横でルイーズが「ブフッ」と吹いていた。