軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十五話 進化をしよう

そして旅立ちの朝。

風音たちは十日過ごしたリザレクトの街を後にして温泉のあるかもしれないモロゴ山へと向かおうとしていた。もはや定番となったサンダーチャリオット引きのヒポ丸くんと追尾機能で付いてくるヒッポーくんハイをミナカは手を振って見送る。ミナカはもう数日滞在してから竜船でウォンバードの街に戻るのだという。名残惜しいがここでお別れだった。

◎火竜街道

「ミナカさんの姿がどんどん遠くなっていく〜」

風音がミナカの姿を名残惜しそうに馬車から見ている。

「ま、ミンシアナに戻るってんなら、また会えるんじゃないの」

「だと良いけどねえ」

ルイーズの言葉に風音がそう返す。もっともそう口にする風音はどこか遠くを見ているようだった……というか眠そうだった。

「あんた、昨日徹夜してたでしょ?」

弓花がそう尋ねると「ちょっとだよ、ちょっと」と風音は答えた。ちなみに直樹は(こりゃ二日の連チャンだな)と見破っていた。一日徹夜程度で姉が潰れるとは考えにくかった。まあ姉の不利になることを直樹は口には出さなかったが。

「ま、まあ、コテージの準備は完成したしちょっと寝るねえ」

そう言いながら風音はティアラの胸にボフッと顔をうずめた。ブルンッと揺れたものをついガン見する直樹。直樹は姉が大好きだがロリコンではないので大きいのもかなり好きだ。愛していると言っても良い。

まあ見られたティアラは風音を抱きしめるのに夢中で気付いてはいなかったのだが。そして気付いていたのは弓花とルイーズとメフィルス。

(うわぁ、見てるよ。ガン見だよ。キモいわぁ)

(欲望にたぎった目、若いわねえ)

(我が孫ながら恐るべき破壊力よ)

と、それぞれ、そんなことを思っていた。そしてそんな風に見られていると知らぬ直樹は(いいもん見たなあ)と思いながら、外でヒポ丸くんを操ってるジンライを見た。ちなみに直樹、このハイヴァーン国内では『魔剣の操者』というふたつ名で通っている沈着冷静な若手ナンバー1冒険者だったらしいですよ。嘘くさい話だが、このパーティに来る前はそんな感じだったらしい。

そしてジンライは制限速度時速60km程度で指定されていて、これはこれでいいがちょっと不満という顔だった。毒されています。そんなジンライに直樹は声をかける。

「ジンライ師匠、ちょっといいですか」

「なんだナオキ?」

背後からの声にジンライはいつも通りの口調で返す。

「少し相談があるんですが」

「それは孫たちをパーティに入れる件のことか?」

ジンライの即答はまさに直樹の尋ねようとしたことそのものだった。

「よく分かりましたね」

直樹はジンライの察しの良さに驚きの顔をしていた。

「ふむ。お前から孫のことを聞いたときから考えていたことでもあるからな」

ジンライはジンライでいつ聞かれるのだろうとはずっと思っていたのである。直樹としては自分自身が落ち着いてからと考えていたし、そして姉からこの黒竜鱗の鎧を与えられて、ティアラと二人で話して、自分がこのパーティのメンバーだとようやく思えるようになったことで話すつもりになったのである。

「まあ、結論から言えばお前の姉がよければ良いとしか言えないがな」

「そうですか」

それはそれで予想されていた答えだった。

「ただ、孫たちがここに入るかどうかは、それもまた本人たち次第でもあるだろう。正直に言えば孫たちとこのパーティでは実力差があるのではないかという懸念もある」

大闘技会に初出場で優勝したり三位になるようなメンツのパーティだ。ジンライには孫がそんなパーティに入って潰れてしまわないかが心配だった。

「それはそうですね」

そして、そればかりは本人の問題だ。直樹自身ですらこのパーティ内では力不足ではないかという懸念がある。だが直樹にはもう風音と離れるような選択肢はない。どうであれ、自分はここに残るつもりであったのだ。

「ワシとて孫を自身の手で鍛えられるのであれば、それはそれで面白そうではあるのだがな」

そうジンライは言って、また操縦に集中し始める。どうもお爺ちゃん的にはオーケーではあるらしいことは分かったので直樹としても満足な会話だった。

そしてヒポ丸くんは予定通り、昼にはモロゴ山の麓の風音のダウジングで示した場所に着いていた。しかし着いてみたところ温泉を探す必要がないことに気が付いた。なぜならば、その場に流れている小川がまんま温泉だったのである。

◎モロゴ山 ニルの川 カザネ温泉コテージ

「はあ、いい湯加減だねえ」

ザブーンと風音は湯船に浸かる。その横には「にゃー」と言いながらユッコネエも一緒に温泉に入っていた。弓花、ルイーズ、ティアラもいっしょである。

今回のコテージはレベル3の能力であるコーティングの活用によって着替え用の棚や引き戸のドア、網戸や鎧戸などが設置されている。また壁の表面も白一色で統一され土色ではなくなり、金具部分などもメタル色になってそれっぽい形に仕上がっている。デフォルト登録されているモデリングデータライブラリからの応用なので風音の元の世界の建築技術も使われており、ルイーズやメフィルスも驚くほどに洗練されていた。窓にガラスがないだけで建築物としてはもはや完成されたと言っても良い出来だったのだ。

さらにヒポ丸くんが動力球に変わったため、あまったチャイルドストーンがこのコテージの動力として使われている。ボタンを押すという動作によりシャワーが使えたり、設置された水晶灯の設置場所の扉を開閉して照明のオンオフが切り替えられるように加えられたりしている。元々がライブラリに入っているデータを元にしたとはいえ、二日徹夜でよくここまで仕上げたなという感じである。色まで付けて。というかゴーレムって何?

ちなみにチャイルドストーン動力の建造物というのは軍や貴族の館、お城などでは普通に使われているので、画期的なものというほどではなかったりする。ただチャイルドストーンの供給数が少ないため、庶民には浸透はしてはいないのだ。

「露天もよいけどさすがに真っ裸で外は危険だものねえ」

ルイーズがプカプカさせながらそう言う。ここは人里離れた場所で魔物も出没する危険のある地域だ。今も内部にユッコネエ、外には独自動力を持つヒポ丸くんとタツヨシくんドラグーンを巡回させている。

「私も魔力切れだし戦いたくないなあ」

ここまでのコテージを作るのに風音は魔力のほとんどを消費していた。蓄魔器も紅の聖柩まで全部カラである。

「にゃんっ」

そして最後に魔力を消費して呼び出したユッコネエが自分が戦うので大丈夫!という意味で風音に鳴いて擦りよる。

「ん、頼りにしてるよ」

そう言って風音はユッコネエの頭を撫でる。ユッコネエも「にゃーん」と鳴いた。

以前にエルダーキャットが冒険者をガジガジしていたトラウマから無意識的にユッコネエにあまり近付かなかった風音だが、大会を通じてその心の傷は癒え、ユッコネエを抱っこするぐらいには回復しているようだった。風音自身は無意識なので気付いていなかったが、ユッコネエはその状況がとても嬉しかった。ほかの誰に可愛がられるよりも主の寵愛こそがチャイルドストーン召喚体にとっての喜びなのである。

そんなユッコネエの様子をホッコリした目で弓花たちは見ていた。

「それにしてもこの尻尾がお魚で口から水を吐いているライオンさんはなんですの?」

そのティアラの質問に風音は即答する。

「マーライオンさんだよ」

だがティアラは首を傾げた。無論マーライオンなどというものは知らないので。あとライオンは別の地域だが存在している。魔物と野生動物のカテゴリの違いはコアの有無となっているようだった。

「あんたの自作じゃあないわよね」

弓花がそれをジロジロと見る。

「ライブラリに入ってたから使わせてもらったんだよ」

ライブラリとはゼクシアハーツ内で使用されていた3Dのモデリングデータを集めたものである。これはゴーレムメーカーだけでなく鍛冶やMODなどの別のものでも使用できるものだ。その内容は初期こそ100にも満たなかったがゼクシアハーツ運営中の5年の間に相当なボリュームへと増えていった。それは風音のゴーレムメーカーのクリエーターモードからでも呼び出せるのだ。

その後、存分に温泉を堪能した女性陣は満足して風呂から出たのだが、風音はそのあともコテージの様子を確認しながら、手を加える箇所、抜いて良い箇所をゴーレムメーカーのクリエイターモードでモニターして改良する作業に入っていた。その作業は真夜中まで続き、朝にジンライと弓花と直樹が修行のために起きると、にやけながら廊下でうつ伏せに眠っている風音を目撃した。

コテージは次にはまたさらなる進化を遂げそうであった。

なお、風呂から出たあとのままのバスローブ姿だった風音はバッチリ着崩れており、近付いたらおっぱいが見えそうだったので弓花は直樹を目潰ししておいてから風音を部屋まで運んだのだった。