軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三十二話 土下座をしよう

◎リザレクトの街 宿屋サンバン 翌朝

「ねえ、ジンライさん」

「すまぬ」

「まあ、家庭の事情に口を挟む気はないし、何もいう気はないんだけどさ」

「すまぬ」

「私はジンライさんの奥さんにどういう顔で会えばいいのかな?」

「すまぬ」

ジンライが土下座をしていた。それもオデコを地面にこすりつけてケツを突き出した超土下座であった。

「凄く、凄く良かったです」

そのそばでルイーズがとても満足げな顔をしていた。にへらーと笑っていた。まるで獣のようだったと口にしていた。「ガオーって感じだった」とか言っていた。

「ガオー」

風音がそう言うと

「すみませんでしたーーー」

ジンライはさらに頭を下げた。穴とか掘れそうだった。

別にこの土下座は風音が強要したものではない。朝早くにジンライの匂いのついたルイーズにこっそりと起こされて呼ばれて宿の裏側についていったらジンライがDOGEZAしていたのだ。略するとDGZである。

事情を聞いてみれば昨日のジンライに対してルイーズが通常の3倍キューンとなってしまい切なくなって迫ったのだという。理由は知らないが。

そして理由は知らないが心の余裕のなかったジンライも酒の勢いでつい応じてしまったのだという。頑張っちゃったらしいのだ。

起き抜けにそんな熟年男女の夜の稽古を説明されてゲンナリする少女風音ちゃんであった。昔はそんな話を聞かされようものならば「キャッ、やだあ。もう」と顔を真っ赤にして狼狽えていた少女がただ単にゲンナリしてるだけなことにゲンナリではあるが、よくよく考えてみれば風音にそんな純情時代はなかったのでプラスマイナスゼロである。

そして風音が呼び出された理由は『犬の嗅覚』でバレる前に先んじての口止めであった。姑息であろう。

「それで弓花たちには黙っていてほしいわけね」

「頼むッ」

「奥さんには?」

「自分から言う……ので」

若干詰まっていたが、まあ風音には浮気についてどうこう言う義務も責任もないので「別にいいけどねえ」と風音は返す。

「でも明日、明後日の稽古は止めといた方がいいかもね」

「なんで?」

その言葉にルイーズが気になったのか反応した。

「神狼化すると『犬の嗅覚』使えちゃうじゃん。三日ぐらいは変身したときに離れてないとバレるよ」

その言葉にジンライは衝撃を受ける。

「戦えない……神狼化と」

どうやら神狼化した弓花と戦えないことがジンライには相当にショックだったようだ。ミナカといたこともあり、今大会中はジンライも神狼化弓花と戦うことを遠慮していたのである。その上に一昨日の神狼化弓花とゲンゾーの闘いを見てゲンゾーの神狼化弓花への勝利に妙な対抗心が燃えていた。なので解禁日の明日をとても楽しみにしていたらしい。おあずけを食らった子供のような話である。ちなみに本日は閉会式と参加者だけの祝賀会があるので特訓も朝軽く行うだけの予定だ。

「ジンライさん……」

風音もさすがに「うーん」と唸るが、だがルイーズはジンライのそういう子供っぽい一面も好きなので「うふふ」と笑っていた。

「分かった。諦めよう」

そして幾分かの葛藤の後、ジンライはそう口にした。

「そんじゃあ、ミナカさんも神狼化と闘いたがってたし、そっちでやらしちゃっていいよね?」

「……頼む」

ひどくためらいがちの答えだが了承を取った。

そして昼になり、大武闘会の閉会式が行われた。一般部門の優勝者、準優勝者が出席しなかったが、風音とカルティが共同でパフォーマンスを行い大いに沸かせたので会場は盛り上がった。ちなみにそのパフォーマンスとは風音とカルティの決勝前のパフォーマンスを交換するというものだった。

尚風音がマッチョメンたちに抱き抱えられたり上腕二頭筋に頬ずりしたりしてキャッキャッしてる姿を見た直樹が「あの筋肉ダルマどもぶっ殺してやる」と言ったせいで周囲に羽交い締めにされていた。ティアラは「鍛えなきゃ。鍛えなきゃ」と涙ぐみながらバーベルを上げていた。前よりは体力が付いているようである。

ちなみにマッチョメンさんたちはみんなドノーマルなのでほぼオバーサンなオバサンや子供の相手をして「疲れたなー」と休憩室で和気藹々してたそうな。

◎リザレクトの街 領主の館 中庭 夜

「それではみんな。楽しんでいってくれたまえ」

リザレクトの領主がそう言って乾杯し、周囲が一斉に沸いた。

「ひゃっほー」

そう叫ぶ風音はタツヨシくんシリーズやカルティやスライグリードのビスマルク、ユッコネエ、そしてマッチョメンと共に踊っていた。マッチョメンたちに対抗意識を燃やす直樹もそこに参戦していたが、マッチョメンにいいように担がれ、いつの間にか意気投合していた。マッチョメンたちも色めき立つオバサンと子供よりも直樹と話してる方が気が楽だったのである。

そしてそんな盛り上がっている会場の隅では二人の男女が話に花を咲かせていた。

「ふん。確かに今大会では不覚をとったわい。さすがあの牙の槍兵の愛弟子だけはある」

「……はぁ」

いや違いました。弓花が三位決定戦で戦った斧魔神ゴーゴルに絡まれているようだった。よほど悔しかったのだろう。弓花との戦いを振り返りながら、あーでもない、こうでもないと話をループさせていた。

「だが、だがな。来年こそは俺が優勝してみせる。お前さんの銀髪化に勝ってな」

神狼化なんだけどなぁ……と弓花は思うが反論するとさらに長引きそうなので黙っている。もっとも黙っていても話は終わらなかったのだが。そして障らぬ神に祟りなしと、誰も近づかず、弓花の気力ゲージは減少し続けていった。

「やっほー」

と、弓花の精神が折れかかってる頃合いに踊り終えて満足した風音がやってきた。

「おう、鬼殺し姫じゃあねえか」

「その名前も随分と定着しちゃったねえ」

オーガ退治などしばらくはしてないのだが、最初に付いた通り名はそのまま定着する傾向がある。もはや風音の名前よりも鬼殺し姫の通り名の方が有名であったりする。もっとも通り名、ふたつ名が付くこと自体が冒険者にとっては一種のステータスだ。牙の槍兵然り、殲滅の魔女然り、斧魔神然り、ヌマの死神然りである。

「つうか、おめえの昨日の蹴りは凄かったな。みんな、マジビビってたんだがよ」

斧魔神ゴーゴルが言っているのはカザネ・ネオバズーカのことだ。実戦初投入のあの技があの黒い魔物を破壊した場面には戦いに参戦した大会参加者全員が目撃していて、その破壊力に一様に驚愕していた。

実のところ高位の魔術師が魔術で爆発させればあの規模のクレーターを作ることは可能だろう。だが単純に蹴りだけでそれを成すというのはほとんどバケモノとしか思えない威力だった。物理攻撃なので魔術抵抗による防御補正も発生しない。あの威力では刃傷防衛の術など紙の如しだ。おかげで風音は今も大会上位陣のような己の力量に自信のある者以外からは怖れられて近付かれさえしていなかった。

「つっても隙も多いからねえ。正直、おっさん相手じゃ絶対当たんないっしょ」

「まあな」

それには斧魔神ゴーゴルも肯定する。タイマンであんな軌道の読める攻撃を食らうことなどありえない。もっとも避けてもあの爆風だけでダメージを負いそうではあるが。そしてゴーゴルは風音を見て「けどよぉ」と口にした。

「オメエのあれは人間用じゃあねえだろ。あんなのまともに食らったら骨も残らねえよ」

ゴーゴルが見る限り、あれはドラゴンなどの巨大な魔物を対象とした技だ。人間サイズを相手にするにはオーバーキル過ぎるのだ。

「こちとら冒険者ですよ。そもそも人間相手なんて専門外だよ」

風音にしてみれば対人戦闘など最初から想定していない。

「あれもすげえが、やっぱり俺としちゃーあの武装馬車の方が気にかかるぜえぇ」

そう言って横からモヒカン男が割り込んできた。

「ヌマの死神ゼンガーか。今大会では刃を交えることは叶わなかったな」

ゴーゴルの言葉にモヒカンが「ヒャッハー」と笑う。

「ヌマの大闘技会ではリベンジするぜ」

モヒカンはそう言いながら大型のナイフを抜いて舐めた。その意味は不明である。

「ヌマのか。そうだな」

モヒカンもゴーゴルも今大会で大きなケガなど負っていないのでそのままヌマの大闘技会に参加するつもりだった。

「してお前たちもあっちの大会には出るのか?」

斧魔神から風音たちに向けられた言葉だが、風音は首を横に振る。

「立ち寄る用があったら考えるけど、今のところは仕事が忙しいしね」

そう言われてゴーゴルとモヒカンが残念そうな顔をする。モヒカンは当然サンダーチャリオットがまた見たかったし、ゴーゴルは弓花へのリベンジもあるし、風音の実力が気になっていった。

だが風音は(遠いからなあ)という感じだった。ヌマまではかなりの距離があるし、国をいくつも越えていかなければならない。行こうと思ってさっさと行けるかといえばそうでもないのだ。

(ああ、でもヒポ丸くんとサンダーチャリオットなら結構早く着くのかな)

時速150キロである。少なくともこのメンツの誰よりも早くヌマに着くことは可能だった。

その後の祝賀会も滞りなく進行し、そして今大会の召喚部門優勝者である風音にはハイビーストサモナーの称号が与えられた。これは獣系の召喚師が何かしらの功績を得た場合に得られるものである。弓花には称号はなかったがシルフィンブーツという風音のスカートと同じ材質の靴が賞品として与えられた。速度上昇効果と一回だけ空中でジャンプできるという空中跳びに近い効果を持つ魔物素材の防具である。