軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十九話 真相を知ろう

当然のようにその場は騒然となった。優勝者が突然姿を消したのだ。審判もどうしたらよいのか分からず狼狽えている。

だが、風音は『直感』でゲンゾーの居場所を感じた。記憶から読み出せないゲンゾーとの会話ではなく、今のゲンゾーの視線や昨日のノーマンとの出会いが無意識下の答えを『直感』という形にして風音は導き出していた。

「ルイーズさん。お爺ちゃん、神様のところだよ」

「へ? なんで?」

いきなりの風音の言葉にルイーズが目をパチクリとさせるが、だが風音の表情を見て、それが本気の言葉だと理解した。

「悪魔は基本、神とは敵対もしてないはずだけど?」

だがなおもルイーズは尋ねる。それだけ異例のことだったのだ。

「分かんないけど『直感』が働いてる。このままだとヤバいと思う」

そう聞くとルイーズはすぐさま立ち上がり、「ついてきて」と言いながら会場の出口へと向かう。それを風音や仲間たちや一緒にいたミナカもついて行く。ジンライは戦いの気配が迫っているのを感じた。

◎リザレクトの街 中央闘技場 最上観客室

そして風音たちが最上観客室に向かっているのと同時刻、会場から姿を消した優勝者は今、会場でもっとも特別な人物のために作られた場所に立っていた。

「来ましたかゲンゾー・アイダ」

それを神を名乗る少年ノーマンが涼しい顔で迎え入れていた。

「ああ、ようやく会えたな、管理者よ」

『殺気の籠もった』……というには様々なモノが混じりすぎた瞳をノーマンに向けて、ゲンゾーはその言葉を吐き出した。だが対するノーマンはゲンゾーとはまるで真逆の、冷徹な濁りない瞳で向かい合っていた。

「言っても無駄でしょうが、徒労ですよ」

そう口にするノーマンにゲンゾーが眉をひそめる。

「私のすることを見抜いているということか?」

「あなたと風音の会話は記録として残っていますので。それで大体は理解しました」

「覗き見か。らしい行いだな」

吐き捨てるように言うゲンゾーの言葉に反応せず、ノーマンは語るべきことだけを語る。まるでそれは機械のように。

「結論から言いますが貴方の考えている管理者などというものは存在しませんよ」

そう口にするノーマンに対するゲンゾーの眼は明らかに常軌を逸したものだった。

「は、はははははは」

その言葉にゲンゾーは狂ったように笑い、そして叫ぶ。

「ごまかしなどもうたくさんだッ!」

そう言い捨て、刀をノーマンに向けた。だがノーマンは怯えることなく真っ直ぐにゲンゾーを見て答える。

「ならばどうぞ。私の体にその剣を突き立てなさい」

ノーマンは両手を広げる。その態度がゲンゾーの怒りをさらにたぎらせる。

「プレイヤーの情報ならば多少なりとてこの身体の中にもある。私の口から答えることはできませんがムリヤリ読み取られる分には仕方のない範疇でしょう」

だが、ここまできても何ひとつノーマンの様子は変わらない。だからゲンゾーは苛立ちながらもさらに叫んだ。

「お前は自分のしでかしたことになんの反省も謝罪もないのか!」

「ありません」

「ああ、そうか」

その一言が聞きたかったとゲンゾーは口にする。刺す口実をここにきてなお求めていた。そしてノーマンの子供の身体をゲンゾーは刀で貫いた。それにノーマンは若干の呻き声を上げながら口から血を吐いた。

「子供みたいな姿をして、人間みたいなリアクションを取って、何様のつもりだ」

ノーマンの様子など気にもかけていない。血走った目でゲンゾーはそう言うと握った刀の柄に力を込めた。

「さあ、これで貴様のすべてを情報探査で洗い出してやる」

そのまま当初の目的通りに悪魔の力で強化した情報探査を直接ノーマンに発動させる。そして繋がった。プレイヤーの情報に辿り着いた。

「ははは、やったぞ」

断片的ではあるが、確かにこのノーマンはプレイヤーの情報の記憶を持っていた。であれば帰る方法も見つかるはずだとゲンゾーは心躍った。

「これで管理者のデータとも繋がる。何もかもこれで……」

だが、ゲンゾーの顔がだんだんと硬くなる。与えられていく情報が求めているものと違うのだ。いや、それどころかゲンゾーは求めていたものが凄まじい速度で離れていくのを感じていた。

「AD 14 ,904? ゼクシアハーツエミュレーター Ver13.57? なんだこれは?」

その言葉にノーマンはなおも表情を崩さずに答える。

「昨日、風音と話しましてね。それは規制されて答えられなかった彼女からの質問に対する回答ですよ」

血を吐きながらそう言うノーマンにゲンゾーが首を横に振る。信じられない、信じたくないとでも言うように。

「そういえば彼女は聞いていましたっけ。神がプレイヤーをこちらに呼んだのか?」

完全にゲンゾーの顔が青ざめていた。情報はすでに頭の中に入ってきている。であれば、もう答えは得てしまった。

「嘘だ……」

「もう頭に入ってしまった貴方への規制はありません。答えは『いいえ』です」

ゲンゾーは頭を抱え、首を横に降り続ける。

「正しく言えば、巻き込まれた彼女らを私たちが運用させてもらっただけの話です。知っての通りプレイヤーの魂の強度は約束されたものですから」

「そんなはずはない。愛子が、愛理が……もういないなんてことは」

だがゲンゾーの言葉を無視してノーマンは答える。

「ただ思ったほどの結果はなかったようですね。現時点で可能性があるのは4例ほど。もっとも竜種として固定されてしまった彼はもうその中から切り離しても良いかもしれませんが」

「うるさいッ」

ゲンゾーがノーマンに刃をさらに突き立てる。だが血塗れのノーマンは、それを気にもせずにゲンゾーに語る。

「もうお分かりでしょう」

その言葉の前にゲンゾーの顔は蒼白であった。

「私はゲーム制作者としての管理者などというものではありません。管理者という意味としては外れてはいませんが」

「うぅ、う……そだ。帰る方法を言え。でなければこのままお前を」

『ああ、そうか。お前は心底諦め切れていなかったんだな』

突然、刀から言葉が発せられた。それをノーマンは無表情に見る。

「やはり、目覚めますか」

その声は悪魔の声だった。ゲンゾーが吸収したはずの悪魔の声。

「おい、お前は俺が食ったはずだ」

ゲンゾーは青くなった顔でノーマンを突き刺している刀を見て口にする。だが返ってきた言葉は非情だった。

『ハハハハハ、消化不良だよ旦那。最初からこうなることは分かってたんだ。分かってたから食われたままのふりをしてたのさ。そんな袋小路の願いを抱えたままのあんたの魂が折れるまでな』

その言葉にゲンゾーは目を丸くする。

『ああ、そうだ。知りたかったんだよな。あんた、嫁と孫がどうなったのかをさ』

「やめろ。言うな」

懇願するゲンゾーに我が意を得たりと悪魔が笑う。

『ハハハハッ、とっくの昔にくたばったテメーの家族のことなんてだれも知るわきゃねえだろ。ばっかじゃねえの。元の世界に帰る? 何を夢みたいなこと言ってやがる』

刀から飛び出す暴言はやまない。そして神の知識を得たゲンゾーにはそれが事実であると理解できてしまう。

『まー今の俺らが予想できることなんてよ。ガキがピーピー泣きながらてめえの死骸を見て狼狽えてテメエの愛する婆さんがビビってアワ吹いてただろうってぐらいなもんだろうぜ。ああ、娘夫婦は蒸発してたんだっけか? じゃあ婆はテキトーに死んでガキも施設送りだったんじゃね?』

その言葉にゲンゾーは首を横に振り続ける。

「話が違うぞ」

『おいおい、ちゃんと人の話は聞こうぜゲンゾーちゃん?』

悪魔はゲンゾーの狼狽えぶりがおかしくて仕方ないという風に笑い続けた。

「嘘だろ? いるんだろ? 見てるんだろ? なあ、この世界を作った開発者が?」

その姿にノーマンは首を振る。悪魔の笑い声がさらに大きくなる。

『ほれ、あのお嬢ちゃんが言ってただろ。どう考えたってこの世界はゲームでできることを超えているってよ?』

絶句するしかない。ゲンゾーはもう自分のすべてが徒労だったと、無意味だったと理解してしまった。頭の中に放り込まれた神の知識によって理解させられてしまった。

『誤魔化せねえよ。もうそのガキ死ぬしさ。お前は帰れない。家族にも当然会えない。な? 面白いだろ? コノ結末?』

その言葉にゲンゾーは慌ててノーマンから刀を抜く。だがノーマンの口から流れる血は止まらない。傷口からの出血も同じくだ。

「おい、待ってくれ。死ぬな」

『もう無理。手遅れだよ旦那』

「そんな馬鹿な。なんだ、この結末は? こんなものを私は望んでいない。私はただ……ただ……」

ゲンゾーはノーマンを見て、そして悪魔の刀を見る。

「私は愛子と愛理に会いたいだけで……」

そうは言うが、もう逃げ場はなかった。刀から発する悪意の視線と、血塗れの子供から発する無感情な視線に挟まれ、ゲンゾーはもう言葉もなかった。

そして惚けた顔で最後の望みをノーマンに告げた。

「ただ、会いたいだけなんだ。愛子と愛理に……」

だが神からの返事はただ首を横に振ることだけだった。

そしてゲンゾーの絶叫が部屋中に轟いた。

ドアがバタンッと開いた。

入ってきたのはノーマン神聖騎士団とルイーズや風音たちだ。

ノーマン神聖騎士団がルイーズたちと面会の手続きなどの話をしている時に突然叫び声が聞こえたのだ。騎士団たちが慌てて部屋まで走り、風音たちもそのあとに続いて部屋の中に入った。

「ノーマン様ッ」

騎士たちは部屋の中心で血塗れで倒れているノーマンと惚けた老人を発見する。

「ゲンゾー・アイダ、お前はっ」

騎士団が腰の剣を抜き、ゲンゾーに向かい合う。だがそれを一歩進んだジンライが「止めろ」と叫んで引き留める。

「お前たちでは死ぬだけだ」

そう言いながらジンライは槍を構える。その言葉に騎士たちも理解はしているのだろう。ジンライの背後に回り、サポートに撤しようと動きを変えた。

だが老人はそんなジンライたちのことなどまったく気にした様子もなく、その場にいた風音に目をやった。

「ああ、お嬢ちゃんか」

そう口にしたゲンゾーはいつかの普通の老人の顔だった。

「君がいつぞや言ったことだが、確かにその通りだったよ」

その言葉に風音は心当たりはない。だから首を傾げると、ゲンゾーもああ、そうかと思い直す。風音の記憶は封印したままだった。

「まあ、いい。これを……」

そう言って、刀を差し出した。それはゲンゾーの持っていた黒い刀ではなく真白き刀だった。だが形は一致している。それが悪魔の抜けた本来の刀の姿であった。

ジンライの「不用意に近づくな」という言葉も聞かずに風音は前に進み、それを受け取った。

「これは?」

「手間をかけてすまないが、これで後始末を頼む」

「どういうこと?」

首を傾げる風音にゲンゾーは微笑む。

「これに私の最後の意志を込めた」

ゲンゾーはそう言って後ろによろめき、風音たちからは距離をとった。

「勝手な言い分だとは分かっているのさ。だがもう止めようもない。こんなくだらない世界……そう思う気持ちだけは変えられないんだよ。君のような同類がいることが分かっていてももう許せない。愛子も愛理もいない世界なんて私にはあり得ない」

『お前は……ここまで……』

どこかしらから声が聞こえる。憎々しげな声が。

「所詮悪魔に彼らをどうこうできる力はありません。それはあなた方の王を見ていれば分かっていた答えでしょうに。過信しましたね」

悪魔の声に呼応して虫の息のノーマンがそう言った。だがゲンゾーにはもうそんな二人の言葉も届いていない。

「もうだめなんだ。許せない……いらない……」

そしてゲンゾーは一言呟いた。

……ああ、 世界(わたし) が壊れてしまえばいいのに……