軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百二十六話 昔馴染みに会おう

「よしっ」

パーンと頬を叩いて気合いを入れながら弓花は仲間たちの下に戻ってきた。

控え室に行ったのは風音だけ。そこでどんなやり取りがあったのかは分からないが、泣きはらした顔の弓花はすっきりとした表情をしていたし風音はいつもと変わらなかった。

そんなところに、どこか二人の間の絆を見せつけられたような気がしてティアラの胸がズキンと痛んだが、横にいた直樹が同じような表情をしていたので少し胸の痛みも軽くなった。そんな試合後の時間だった。

「負けちゃいました師匠」

目は赤く、さきほどまで泣いていたのが分かる顔つきの弓花はサッパリとそう言った。

「何か得るものはあったか?」

そのジンライの問いにユミカは頷く。

「やっぱりまだ調子に乗るには早いみたいですよ」

弓花のその言葉にジンライもフッと笑って「そうかもしれぬな」と返した。求めていたものとは違ったが、どうやらこの大会で得たものは大きかったらしいと弟子の表情を見てジンライも理解した。

「ま、明日は勝て。斧魔神ゴーゴル、あやつも侮れぬ腕前よ」

「はいっ」

明日の午前には三位決定戦がある。

「後は私の決勝戦だねえ」

弓花の隣にいた風音がそう口にする。

「相手はあのカルティか」

「ジンライさんたちの昔の仲間のひとなんだよね?」

「そうだな。メフィルス様のパーティの斥候を務めていた」

『あの頃はまだガキでな。落ち着きのない子供であったよ。ゴースト系にビビって漏らしておったしな』

「あーあー、あったわねえ。翌日朝っぱらからひとりでパンツ干しててモロバレだったわぁ」

ルイーズの言葉に心なしか風音の目からハイライトが消えた。俗に言うレイプ目という奴だ。

「で、でも、メフィルス様。カルティって人は結構強いんですよね?」

そんな友人のフォローをすべきと思うのは弓花だ。今の弓花は風音に対し若干優しい気持ちになっている。こういう点がにわかのティアラと馬鹿の直樹では追い付けない部分だ。だがルイーズはさらに上を行く。

「あら、ユミカ。お漏らしのことを逸らしたい意図でもあるのかしら」

その言葉で直樹はようやく状況を察し、そして弓花を、続けて姉を見た。

「姉貴、まさか」

「ふんぬッ」

直樹の恐れと期待に満ちた声に対する風音の反応はスネ蹴りであった。

「ぎゃああーーーー」

直樹の叫びが木霊する。なおふんぬの声は憤怒とルビをふったイメージだ。その様子をジンライはやれやれと言った顔で見て、それを楽しそうに見ているメフィルスに代わって説明をする。

「カルティは戦闘力こそ低かったが、すばしっこいヤツでな。イリアとは年も近くて仲も悪くはないようだったが」

「でも、昨日食事でイリアがピッチピチなこと伝えたらムッチャ切れてたわよ」

その言葉にジンライとメフィルスがため息をついて頷く。どうやらカルティとは昨日会っているようだった。

「昨日の夕食は別でって言ってたのはカルティさんと会ってたんだね」

風音の質問にルイーズは頷く。

「ちょっとした同窓会よね。ま、イリアとレゾンはいないんだけどさ」

「レゾン?」

イリアは風音も知っている。今はゆっこ姉の影武者をしているクノイチだ。だがレゾンの名には聞き覚えがなかった。

『余の元パーティのひとりで当時のヤツは武装神官であったな。今はハイヴァーン首都にあるノーマン神殿で司祭をしているはずだ』

武装神官とは鈍器系の武器を携え防御魔術を使う戦士系職業だ。

『このままハイヴァーンに向かうのであれば会うこともあるはずよの』

「ですな」

そう話すジンライとメフィルスに風音が尋ねる。

「ノーマンっていうとあの子供の神殿なの?」

風音の言葉にジンライが「そうか。会ったのだったな」と言う。

「今この闘技場にいるあの方は言わば神の目と耳と口のようなものでな。本体というべきものはハイヴァーン首都にある」

「そういえば端末とか言ってたっけ」

風音の言葉に今度はジンライが首を傾げたが、風音は「まあ目や耳や口って意味だよ」と返してとりあえずは納得してもらった。さすがに中世に近いこの世界の住人に端末の概念を伝えるのは無理だと考えての言葉だった。もっとも弓花と直樹は当然端末の意味は分かったようで、だからこそ逆に何を意味するかが理解できず首を傾げていた。

「そんなことよりカルティさんのことなんだけど」

「ああ、そうだったな」

風音の言葉にジンライも話がえらく横道に逸れていたことに気付いた。

「まあ本人の実力といえば、なりは小さいが斥候としてはなかなかであったのは確かだ。そして途中でお前のようにチャイルドストーンを従えることができてな。それが今のヤツの召喚獣スライグリードの『ビスマルク』というわけだ」

「トカゲなんだっけ?」

風音の問いにジンライも頷く。

「元は土属性のトカゲ系の魔物だったが、今は土と風の混合属性となっているらしいな。サイズは昔は全長2メートルほどだったはずだが今は分からん」

ちなみに全長とは頭の先から尻尾の先までを指すので、思ったよりは大きくはない。2メートルならだが。

「ふーん。属性自体はユッコネエと相性悪くなさそうか」

『まあ気をつけよ。性格はともあれ、余は能無しを仲間になどはしたりせぬよ』

「うん。それはジンライさんとルイーズさんを見てれば分かるよ」

風音のその言葉にジンライは照れ臭そうに顔をかき、ルイーズは「言うわねえ」と風音に抱き付いた。

◎リザレクトの街 ペリゴエラ酒場 夜

すでに日も落ちた頃合いのことだ。白銀の鎧の男ヴァニルは1人、ペリゴエラ酒場という街の端にある酒場で酒を飲んでいた。

明日の決勝戦に立つ男がそこにいるのだ。普通ならば誰かが声をかけてきそうなものだが、そんな相手はここでは誰もいなかった。今は鎧も外しているし、会場で見せた陽気な笑顔でもない。二十代前半の顔立ちの老人のような表情の男をあの決勝進出のヴァニルであるとはこの場にいる誰にも気付けなかったのである。

いや、1人だけ、ヴァニルに気付き、近付く人物がいた。

「お久しぶりですヴァール・ニールセン殿。やはりここでしたか」

そう言ってヴァニルの前の席に座ったのはジンライだった。

「ふん。お前か。昔はお前ともここで飲んだからな」

「はい。そうでしたね」

そう返すジンライにヴァニルはニィッと笑って酒を飲んだ。

「といってもこの大会中にここに来たのは初めてだったがな」

ヴァニルの言葉にジンライは「そうでしたか」と口にした。まあ、ジンライも会えるかどうかはかなり微妙だとは思っていたので意外感もない。

「それにしても以前よりも老けたな。まあ、予想よりは若いようだが」

そう口にするヴァニルの声は若いが、だがどこか長い年月を生きたものも感じさせる。

「それはこちらの台詞でしょう。まさかライトニングのヴァール・ニールセンがこんなに若返って試合に出ているとは。正直今日まで気付きませんでしたよ」

「あまりその名を言ってくれるなよ。誰ぞに感づかれても面倒だ」

「悪魔との関連性をですか?」

ジンライの言葉にヴァニルは皮肉そうに笑う。

「ふ、お前もオレを咎めるのか?」

「いえ。別に」

ジンライは率直にそう返した。

「強くなれるのであれば、それもまた道の一つかと」

「そうだな。お前はそういうやつだった」

そのジンライの反応にヴァニルは嬉しそうに笑う。今度は心からの笑みだった。

「ま、察しの通り俺は今悪魔と契約している。強くなるために若さを願った。お前はまた別の方法で若さを得たようだがな」

「ワシが願ったわけではありませんが、仲間には感謝しています。今のワシは全盛期に近い体のキレと磨き上げた技を振るえる状態にある」

「それで、何か用があったのだろう?」

「はい。死合っていただきたいのです」

これまた率直にジンライは告げた。それを聞いてヴァニルもニヤリと笑ってジンライに尋ねる。

「いいのか? 見たぞ。お前には今弟子もいるのだろう?」

カザネ、ミナカ、ルイーズとも接点のあるジンライだ。ヴァニルも当然ジンライの存在には気が付いていた。そして仲間たちと共にいるその姿が人並みに幸せなものであろうことも分かっていった。だがジンライはそれを理由に留まることを良しとはしなかった。

「弟子はもうワシがおらんでも立派に成長するでしょう。それに」

ジンライは一言こう告げた。

「負けません」

その言葉にヴァニルはさもおかしそうに笑ってジンライを見た。

「ハハハハハハハ、なるほどな。俺は以前お前に血気盛ん過ぎるのが悪い癖だと伝えたはずだが、そのまま成長してしてしまったか」

「恥ずかしながら。しかし未だに生きております」

ジンライのその言葉を聞き、本当に愉快そうに笑いながらヴァニルはこう口にした。

「よかろう」

その返しにジンライが笑みを浮かべるが、しかしヴァニルは「だが待て」と言った。

「お前の前に約束ごとがひとつある。付き合いは長くないがヤツのおかげで今の俺があるのでな」

「ゲンゾーとかいう男でしたか」

ジンライの言葉にヴァニルが頷く。

「決勝でヤツとは戦わねばならない。お前との勝負はその後だ」

「ふむ。承知しました」

そう言って頭を下げるジンライにヴァニルはやはりおかしそうに笑っては酒をあおる。

「しかしな、お前に弟子か。あの自分を高めることにしか興味の無かったお前がな」

「それは今も変わっておりません……と言いたいのですが、最近は少し別のことも考えておるのかもしれません」

ジンライのその表情にヴァニルは「言わんでいい」と返す。

「聞けば羨ましくなりそうだし、それを捨てる覚悟で俺と戦おうと思うお前の意気をつぶしたくもなる」

ヴァニルはそう言って注ぎ直した酒を再び飲み干す。

そう、本当に羨ましかったのだ。目の前の満ち足りた男のその顔が。ひとり枯れ木のように朽ちゆくはずだった自分との余りにも違う生き様に。そしてそれを捨てるかも知れないことを平然と良しとする男の姿勢に。

だがヴァニルも再びそれを手に入れられる。そのために悪魔に魂を売った。

(さてゲンゾーよ。お前の執着と俺の執着、どちらが上かな)

すべてを手に入れられるか否か、その分水嶺が明日だ。ヴァニルは明日行われるであろう戦いを思い、云いようのない笑みを浮かべた。乾き続けていた枯れ木に水が注がれ、新芽が芽吹いてくるようなそんな気分だったのだ。