軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百五話 死霊王と話そう

◎ムルアージの廃都 領主の館

「ぶち壊す必要もないくらい吹き抜けてるわね」

弓花が領主の館の前でぼやいた。

「死霊が湧き出るたび探索されるからねえ。窓もドアも全部壊されてるんじゃないの?」

「隠れる場所なんて潰しといた方が早いんなら、量産型を使って建物ごと壊しちゃうけど」

風音がヒポ丸くんの左右に設置されてる量産型タツヨシくんを見る。だがルイーズがそれを止める。

「それはダメよ。死霊がこの街に留まってるのは街が街として体裁を整っているからなのよ。その体をなくしちゃうと死霊が拡散されちゃうかもしれないのよね」

「むう、じゃあ壊さなければいいってこと?」

「そうなるわ」

ルイーズが頷く。

「じゃあちょっとブレスでもしてみよっかなあ」

その風音の言葉に直樹以外の全員がその意味を理解した。

「中に人はいないのだろうな?」

念のため、ジンライが風音に確認をとる。

「うん。『気配』はあるけど『臭い』はないよ」

「なら問題あるまい。いささか乱暴ではあるが、虫を燻し殺すと考えれば悪くないアイディアだ」

直樹は自分の理解できない話が進んでいることに首を傾げるが、風音が直樹に「ちょっとおかしな格好になるけどビックリしないでね」と告げると、(え、なにそれ?)と桃色思考に切り替わる。相変わらずアホである。もっとも、

「スキル・竜体化」

風音の姿が5メートルはあるドラゴンに変わったのを見てはそんな思考は吹き飛んでしまったのが。

「な、な、な、なななな、なんじゃこりゃ」

直樹が叫び声を上げる。

『だからビックリしないでって言ったのに』

そう風音は言って、館の方を向いて入り口の前に竜の顔を近づける。なお呆気にとられている直樹には只今弓花が状況を説明中である。

(威力は中の下くらい。水属性を最低、氷属性を最大にして範囲最大で吹けば建物の中を一掃できるだろうかね?)

そう風音は考えながら、コールドブレスを吐く。なおコールドブレスは水属性と氷属性の複合魔法の類であり、死霊などのアストラル系にも十分にダメージが通る。水属性を弱めたのは入り口を氷で閉ざしたくないからだが、それでもある程度は凍ってしまい氷柱が作られていく。

途中で『背後の気配』『そっと乗せる手』というスキルが手に入ったので、どうも魔物は倒せているようだった。だが、ブレスを吐いている途中で急に奥から怒鳴り声が聞こえてきた。

「あんたら、なにしてますかーーーーーー!!!」

風音のブレスを飛び越え、出てきたのはローブを羽織ったスケルトンだった。

『うおっ、骨が動いているッ』

「冒険者ギルドとは話が付いてるって言ってるでしょーに、というかドラゴンッ!?」

スケルトンが驚きの眼差しで青竜風音を見た。

『えーとボス的なの?』

「待て、風音。今こいつ、冒険者ギルドとか言っていたぞ」

青竜風音が攻撃を仕掛けようとすると、それをジンライが止めた。

他の仲間もスケルトンを囲むように陣取るが、スケルトンからの敵対姿勢が微妙なモノなので手を出して良いものかと迷っている。

「なんだあ? あんたら、もしかすると何も聞いてないのか?」

スケルトンがそう尋ねると風音が『何が?』と尋ね返す。

「ここは今冒険者ギルドに暫定的に僕の土地ってことで許可もらってるんだよ。この死霊王ヨハン・シンプソンのね」

一同がそれを聞いて「え?」という顔をしているが、風音と弓花の表情は他の仲間よりもさらに呆気にとられたモノだった。

「ヨハン・シンプソンって?」

『もしかしてコーラル神殿で死んでた人?』

その2人の問いにヨハンを名乗るスケルトンは、

「うん? 僕を知ってるの?」

『えーと、ほらっ』

風音は竜体化を解くと、ヨハンの下に寄っていった。

「おや、子供に変わった? あれ、あんたはまさか」

ヨハンが風音の顔をマジマジと見るとポンと手を叩いた。カランと骨のぶつかる音がした。

「おーおー、あんた、あれか。僕を解放した人じゃあないか」

ヨハンはそう言って「あの節はお世話になったなあ」と頭を下げた。

「世話したつもりもないんだけど」

「いやいや。あの鍵を持ってってくれたでしょう。あれが楔になってて動けなかったんですわ」

「そういうものなの?」

楔になっていたというのはよく分からないが、つまりは風音が無限の鍵をヨハンから手に入れたことでヨハンは動けるようになったらしかった。

「あー、だからか」

後ろで弓花が声を上げた。

「そういえば白骨死体、私の時は見あたらなかったんだよねえ。指輪のあるところの近くって聞いてたけど。まあ、場所違うのかなーとか思ってたんだけどさ」

ヨハンは白骨化した頭をカクカクと頷けながら「そゆこと」と言った。

「僕はそっちの嬢ちゃんがアーティファクトをとってくれた後に動けるようになってね。そのままさっさと神殿を出てったんだよ」

「そうなんだ。まあ英霊にも負けたし、アーティファクトも取っちゃったから、コーラルに居ても意味ないもんねえ」

「いんや。英霊とは戦ってないよ。その前に凍死しちゃったしね」

「え?」

風音の目が点になる。

「あれ、気付かなかった? 大体、英霊に挑んで負けたんなら試練の間の入り口の前で死んでるってのも変な話だよね?」

それは確かにその通りだった。他に挑んで死んでいた白骨死体も存在していなかったし。

「えーと。それじゃあ、ヨハンさんはもしかして雪山を登るのに力つきて、あの場で倒れてたの?」

「そうだねえ。恥ずかしながら。さすがに部屋籠もりの田舎ギーグにゃあ、あんな山登るのきつかったんだよねえ。ちょっと一休みしてから挑もうと思ったら永眠してたんだよ」

カラカラカラと骸骨が笑う。

「そうだったんだ」

風音は肩の力が抜けた気がした。

「それに試練の間で負けたのを見ちゃったらとちょっと恐かったし。さすがにせっかく蘇ったのに挑もうって気にはならんかったのさ」

「恐かった?」

風音の問いにヨハンが頷く。

「あれ、負けるとさ。身体が消滅するんだよね。あんたの何カ月か前に1人来てたんだけどさ」

その言葉に風音と弓花がゾッとする。生きていたからこそよかったもののアレはやはり危険な試練なのだ。そう思うと風音は直樹の方を見ざるをえなかった。

(直樹はまだコーラル神殿には行っていない)

そして直樹はメインシナリオをクリアして周回プレイもしている。つまり現実世界とを繋げる条件に一致するプレイヤーだ。

(アレを取ってこさせるだけにするべきか)

その選択は、だが風音が決めて良いことでもないようにも思える。或いは、誰か別の人間が手に入れてくれるなら……とも。

どのみち、コーラル神殿へは東の竜の里への依頼が終わってからだ。それに、ゆっこ姉はコーラル神殿への立ち入りの監視をカザネ魔法温泉の名目の中に滑り込ませてくれている。だからそれまでに別のプレイヤーが手に入れるならばそれはそれで良しとも風音は考えた。

「なんだよ姉貴?」

真剣な目で見られていた直樹が風音に尋ねる。

「うーん。いや、なんでもないよ。直樹、こちらは私たちと同じ故郷のヨハン・シンプソンさん。金髪碧眼の外人さんだよ」

「ども、よろしく」

金髪碧眼といっても髪は生えてないし、目もなかった。

「ああ、どうも。しかし、なんだってアンタはそんな姿で生きてるんだ?」

直樹は直球でヨハンに尋ねる。それにヨハンは「実は……」と話し始める。

「どうも『死霊の繰り手』というスキルを手に入れたみたいでね。まあ多分ネクロマンシー的なのを想定したスキルっぽいんだけど、今は自分を操ってるってところなのかねえ」

「私も『天賦の才:槍』ってのを持ってるし、ゆっこ姉も『太陽の担い手』というスキルを持ってたわね。プレイヤーってのは1人一個ユニークスキルが手にはいるのかしら?」

「でも私はそういうの持ってないなあ」

風音は魔物から手に入れたスキルのみである。

「あんたのは表面化してないだけで魔物から能力を奪うスキルを持ってるんじゃないの?」

「そうなのかなあ?」

風音は首を傾げるが、とはいえ答えが出るわけでもない。

「まあ、とりあえずヨハンさん、状況の説明してもらえる? 私らこれ見て来たんだけど?」

そう言って風音は依頼書を出してヨハンに見せた。

「うーん、これ多分古いヤツだな。新しいのはこれだよ」

そう言ってヨハンはローブの中から依頼書を取り出した。

依頼名は『死霊王の力を借りてデュラハングレイスを打ち倒そう』とあった。

「ロードじゃないの?」

「ロードもいるよ。4体だったかなぁ。僕が一体倒したから残り3体のはず。でもグレイスに襲われて逃げ出したんだよね。まあ新人死霊王じゃあそんなものだよ」

死霊王にも新人とかあるのか……と風音は戦慄した。

「それで倒した一体から奪った氷の魔剣を手みやげに冒険者ギルドにいったんだよね。そんで話の分かる人に会って、こうして依頼を変えてもらったってわけさ」

「なるほど」

つまりオーガンの言っていた氷の魔剣とはヨハンの倒したデュラハンロードのモノで、すでに回収済みだということだ。

「どうも情報が錯綜してる時にオーガンはこの依頼書を手に入れちまったらしいな」

ドジなヤツめと直樹が口にする。

「それじゃあ大聖堂に向かった二組のパーティって……もしかして」

「そいつぁ昨日来たプレイヤーだね。ここで泊まるようにも薦めたんだけどね。けど、まあ怖いみたいでね。仕方ない話だけど。そのまま外で寝て明け方に向かうと言ってたね」

そうのんきに言うヨハンに風音は気になっていた疑問を投げかける。

「ところでヨハンさん、私たち、多分あなたのお仲間を倒してるんだけどその点を怒らないの?」

スキルが二つ手に入ったし、この舘の中でも恐らくは二体以上は始末しているはずだったが、それについて何一つ咎めようという意志は見られなかったのが風音には不気味だった。

「んーそういう仲間意識はないからね。ここに来てるのも幽霊的に惹かれてきただけだし、死霊王っていっても魔物の分類ってだけで単にスキルで従属させてるだけなんだよね」

というヨハンに風音が「そういうものなんだ」と返す。

「まあ、今後は彼らをコントロールして封印以外で上手く維持する方法を探しておこうと思ってるんで。ギルドも手伝ってくれるらしいし」

「まあそれも悪くない話かもしれないわねえ」

ルイーズがそう話す。

「そっかあ」

その言葉の真偽は風音には測れないが、一朝一夕でこんな依頼書も作れないだろうし、幻惑なら叡智のサークレットが無効化するはず。ならばこれも本物で、他のパーティも話を聞いて大聖堂に行ったのならひとまずは大丈夫だろうと考える。

「そんじゃあ、今行っても終わっちゃってるかもしれないけど大聖堂に行ってみよっかな」

「そうだな。間に合うならばそれに越したことはない。デュラハンもグレイスクラスならば存分に戦えそうだ」

風音の言葉にジンライが答え、他の仲間も頷いた。

「そっか。じゃあとりあえず街中では僕が抑えているから死霊の心配はないからそれは安心してね。デュラハンの眷属の亡霊騎士とかはいるみたいだけど」

「そいつとはさっき会ったよ」

風音の言葉にそいつはこっちの管轄じゃないんだよねとヨハンがこぼす。どうやらデュラハングレイスとこの街の所有権を争っているらしかった。

そして風音たちはヨハンから「気を付けてねー」と見送られながらヒポ丸くんとヒッポーくんハイを走らせて大聖堂に向かう。

途中にまた亡霊騎士が出たが、今度は二体だったため、通り過ぎざまに風音とルイーズが炎と雷の魔術で打ち倒した。

「カザネ、魔力は大丈夫なの?」

戦闘後のルイーズの問いに風音は頷く。

「けど蓄魔器はどっちも空で今は聖柩を少し消費してるってところかな。やっぱりブレスは魔力食うなあ」

竜はそれを補うために戦闘時は竜の心臓をフル回転させるのだが、当然風音は持っていない。なおジークの白竜カーザはチャイルドストーンで代用しているため普通のドラゴンよりもブレスの持続力は低かったりする。

「けど、普通の戦闘ならまだ十分。万一ドラゴンになる必要があっても問題はないね」

「まあ、大聖堂は基本、内部は吹き抜けていて広いからな。ブレスを吐くには範囲が広すぎる」

「だねえ。中に他のパーティもいるしね」

さきほどのヨハンのように怒鳴り込んでくるか、殺してしまうか、襲いかかられる可能性がある。それはよろしくない。

そうこう話しているうちに大聖堂までたどり着いた。そして風音たちは入り口でうなだれてる冒険者たちを見つけることとなる。

◎ムルアージの廃都 ミュールの大聖堂前

「よお、大層なお馬さんに乗ってる嬢ちゃん等」

8人いるなかで比較的軽傷そうな男が風音たちに声をかけてきた。

「こんちはっ、お取り込み中?」

「いんや。こっちはこれから帰るところだ。メンバーも減っちまったことだしな」

男は力ない声でそう返す。その言葉に弓花とティアラの顔がうなだれる。戦死者が出たということだった。

「ふむ。それほどまでに手強いか?」

ジンライは男に尋ねる。自分達が挑むモノの力を測るために。

「デュラハングレイス一体にお付きのロードが3体。それだけでも厄介なんだが、全員が魔剣持ちだってのがヤバいな。それでも夜になってから乗馬状態よりは全然マシだってんだから恐れ入るが」

男が他にデュラハンたちの特徴をいくつか説明し、最後に仲間の遺体を持ち帰ってこれるようならば……と頼むと、仲間たちに声をかけて立ち上がり、そして入り口まで戻ると言ってその場を去っていった。ここでは他の魔物に襲われかねなかった。

「魔剣が取り放題だそうだぞ」

去っていくパーティを見送った後のジンライの言葉に風音は「まずは生き残ることからだろうねえ」と返す。数が多い上に極めて殺傷能力が高いと来てる。なかなかに手強そうな敵だった。