軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百三話 初体験未遂を語ろう

風音が俄然乗り気になったところで再会の祝賀会が一転してクエスト攻略の場となった。

「ムルアージの廃都、かつてこの地にあったイオタ王国とツヴァーラ王国との戦争で戦場となり壊滅した都市だな。場所はまあ、ヒポ丸くんなら半日とかからんだろう」

依頼書の内容をジンライが確認する。

『ツヴァーラ軍の猛攻に籠城をしての。数ヶ月引きこもって出てこないと思ったら中で死霊術師の貴族が住人全員を死霊化させて襲ってきおったと聞いておるわ』

「ひどい話だね」

『全くだが、問題はその後でな。確かにツヴァーラ軍は死霊どもを排除したのだが、あの地はナーガラインの集積地でもあったのよ。それに共鳴して死霊どもが活性化しおって倒しても倒しても復活して湧いてきおるという厄介な状況になっていてな』

「確か随分前に高名な神官の人がやってきて封印したのよねえ。毎年鎮魂祭をしてたはずなんだけど、依頼書の通りだと今はやってないみたいね。まあそういうのが廃れて封印が解けるケースって時々あるのよ」

いつの時代もメンテナンスは大事だという話だった。

「ふーん。まあ出自は分かったけど、私の蹴りって死霊に効くのかなぁ?」

「アストラル系に物理攻撃は効きにくいが、お前のには竜爪が仕込まれているのだろう。竜気を纏った武具ならば連中にダメージを与えられるはずだ。このワシの竜牙槍も含めてな」

ジンライは不敵に笑って答える。ようやく自分のおニューの槍を振るえることがよほど嬉しいらしい。続けて弓花も「私も大丈夫」と答える。

「私の槍も白銀装備だからダメージ通るって聞いてるし、バッチいけるよ」

「わたくしの召喚術も系統は同じアストラルに属していますし問題ありませんわ」

ティアラも同様だ。

「魔術は通じるからあたしも大丈夫だけど、今回こそはサポートに回りましょうかね。相手が魔法や魔術を使う可能性も高いし、魂に触れられると厄介だもの」

ルイーズの回答も聞いて風音は頷いた。

「了解。じゃあみんな対抗手段はあるね。直樹、あんたは大丈夫?」

「ああ、問題ないよ。俺は魔剣を使う魔法剣士だしな。死霊用の魔剣も持ってる」

その言葉に風音が苦い顔をする。ググググ……と何か言いたげな眼で直樹を見る。

「どうしましたのカザネ?」

「ああ、本職が出たせいで自分の職業表記がいよいよマズいと感じ始めたらしいわね」

ティアラの問いに弓花が答える。

偽魔法剣士が本物と出会って呻き声を上げている。いよいよ風音は追いつめられていた。ちなみに風音の愛剣『黒牙』は魔力吸収仕様なのでそもそも魔術を剣に込めて使うようにはできていない。吸収してしまうので。

「な、直樹。お願い」

風音は意を決したように直樹を見た。その真剣な表情に直樹はドキッとする。

「な、な、な、なんだよ?」

「私に魔剣をください。一番強いのを」

そして弟に土下座した。さすが姉弟である。しかも一番強いのを要求した。

「いや待てよ。姉貴、いきなりなんだよ」

「恥をしのんでお願いします。お金とかあげるから。わ、ワキとか見せてあげるから。ほら直樹、お姉ちゃんのワキ見るの好きだったじゃない」

その言葉に周囲からの絶対零度の視線が直樹に突き刺さる。オーガンも「見方変わるぜ親友」と言っている。その視線に直樹は焦るが、

(いや違う。見てたのはワキじゃなくて……いや)

その先の言葉は言えない。誤解は解けそうもなかった。退くも地獄、進むも地獄である。

「なに? なにかしようか? お姉ちゃんに何してほしい?」

(なにか……だと?)

だが、その言葉が届けば誤解のことなど頭から吹き飛んだ。き、キスとかいけるのか?……と直樹が頭に浮かべたところで

「あ、不埒なこと考えたら殺すから」

風音の後ろにいた弓花が釘を刺した。

「いや、分かってるから。大丈夫だから」

その視線に本気の殺気を感じた直樹は慌てて首を横に振る。

「カザネもいきなり頭を下げるでない。恥ずかしい」

ジンライが無理やり風音を立たせる。

「うーでもぉ」

「魔剣が欲しいなら自分で手に入れればいい」

「力ずくで奪い取れと?」

野盗の発想である。しかも明らかに乗り気だった。

「まあそれでもいいが。尋常の勝負であるならな」

お爺ちゃんも過激だった。直樹は裏で首を横にぶるぶる振る。

「そうでなくとも、魔剣を手に入れるだけならば手段はある。ウォンバードの街にはそうした武具の市もあるしな」

「マジで?」

風音の問いにジンライが頷いた。

「本当だ。竜船のおかげで大陸中から様々なモノが流れてくるからな。そういう市もあるし珍しいモノも多く出されている。今のお前の資金なら買える魔剣もあるだろう」

とはいえ、今の風音に魔剣が必要かといえば疑問視されるところだが。黒牙はスキルの吸血剣と併用すれば体力・魔力とも回復するサポートとしても優秀な剣ではあるのだ。

「うーん、そっか。じゃあウォンバードに着くまで我慢するかあ」

そう言う風音にオーガンが「ちょっと待った」と口にした。

「うん? オーガンさん、なに?」

「魔剣が欲しいならこのクエスト内で手に入れられる可能性がある。それもあって魔剣マニアのこいつに合うと思って持ってきたんだ」

「いやマニアじゃねえって。使うんだよ、全部」

「え? いっぱい持ってるの?」

風音の羨ましそうな目に直樹が恐る恐る頷く。

「9本かな、今は」

「くれよーーーーーーーーー!!」

風音がそう言って直樹に抱きついた。

(やばい。これはやばい)

若干の弾力性しかない風音の胸板の感触に直樹がオチかけていると「はいはい。だめでーす」と、ティアラが風音を引き離して、そして直樹をキッと睨みながら抱きしめた。

「ぬぬ、なんだ。あんたは?」

至福タイムを奪われた直樹がティアラを見る。

「わたくしはカザネの親友のティアラと申しますの。姉弟同士であまりひっつくものではありませんわ」

そうギューとたゆんたゆんなクッション付きで風音を抱きしめながらティアラが言う。そのティアラの様子に直樹が弓花を見ると、なんとも微妙な顔で頷いていた。それは元の世界でもよくあった光景だった。

「ふむ。9本の魔剣を『使う』か。どのような使い方なのだろうな」

ジンライはそんなやりとり等気にせず、そちらのことを気にしていた。

「むう。それでオーガンさん、魔剣が手にはいるってどういうこと?」

「ようやく聞く気になったか。まあその廃都にデュラハンロードが出るって噂でな。そいつが氷の魔剣を持ってるらしいんだよ」

「デュラハンロードか。元よりいたとも思えぬし魔素が高まっているだろうな。しかし、そうなると死霊だけではないかもしれぬが」

魔素が高まればたとえ地上とてダンジョンと同じ現象が起こりえる。その上に地上で起こった現象はダンジョンとは違って階層ごとの難易度などという概念は存在していない。

「難易度がそこそこ高いのは確かだからな。無理をする必要がないんなら受けないのも手だぜ?」

オーガンの言葉に風音は首を横に振る。

「やれるならやるよ。フリークエストも久々だしね」

ノビをしながら風音はそう言った。

「こういうのって行くのはやっぱり朝の方がいいのかな?」

風音の言葉にジンライは頷く。

「夜に外の広い場所で囲まれたりすると高ランクの冒険者でもかなりマズいからな」

「太陽に弱いってことだよね、それ」

「死霊は雑魚なら光に当たっただけで消える。大物でも苦痛には違いないらしい」

なるほどねーと風音は頷く。

「そんじゃあ、仮眠をとってから朝ぐらいに着くように調整して出よっか?」

「おいおい、夜に行くのかよ」

オーガンがそう言うが風音は問題なーしといってさっそくここでの仮眠の許可をオーガンにとって、早々にスヤスヤ眠りついてしまった。

「つか、寝るのはやっ」

オーガンが風音がマントにくるまってから僅かな間に眠りについたのを見て驚いていた。ちなみにティアラもその横で寄り添って寝ている。弓花たちはそれが不滅のマントのくるまり心地の良さによるものであることは分かっていたが、黙っていた。数も限られてるので羨ましがられてもそうそう渡せない。風音たちは自分らの安眠のために今は布団のことを極力知られぬように努めている。

「まあ、我らがリーダー殿は寝て育つ年頃だからな」

ジンライが珍しくジョークを口にし、弓花がくすっと笑った。

「うーん、姉貴、全然変わってないんだな」

「私たちはこっちに来てまだ三ヶ月くらいだしね。といってもさっきはいつもよりはしゃいでたかもしれないわね。まあ家族に会えて気が緩んだんじゃないの?」

「ここに来るまでにも随分とあっちこっち行って戦ってきたしねえ」

弓花の言葉にルイーズも頷く。

「けど、ここまでこれたのはみなさんのおかげ……なんですよね」

そう直樹は言って、立ち上がってジンライたちに向かって頭を下げた。

「今まで姉を助けてくれてありがとうございます」

その直樹に、ジンライたちは笑って頷いた。

「うーん。助けてもらったのはどっちかっていうとこっちだけどね」

『余は救われたのぉ』

「パーティなんて持ちつ持たれつってものだしねえ」

「頼もしい娘だぞ、お前の姉は」

それぞれの言葉に直樹も明るく微笑む。と、そこでルイーズが「そういえば」と声を上げた。

「さっき、カザネが言ってたわよねえ。あんたら付き合ってたんだって?」

弓花と直樹が同時に「うっ」と反応する。そういうこと大好きなルイーズさんである。

「付き合ってたって言っても、ホントに短い期間ですよ。デートだって5回?……くらいだったし」

直樹もそれに頷く。

「うちにはよく一緒に遊びに来てたし、知り合いだったから、まあそんじゃあという感じでしたし」

ドラマチックな出会いではないようだった。が、まあ普通はそんなものだろう。

「へえ、じゃああっさり気味の付き合いだったんなら別れ話も気軽に話せるのかしら?」

「いや、それは……」

直樹のたじろぐ顔に弓花が少し影のある顔で、

「そいつ、風音のパンツを机に入れてたんですよ」

と告げた。

「ああ、そうなの」

残念そうな目でルイーズが直樹を見る。

「いや、違、違わないけど」

「それを見つけたときは私も呆気にとられましたよ」

弓花の声が妙におどろおどろしい。直樹が全力で目をそらしていた。

「でも、最初誰のかわからなかったし男の子だからこういうのもあるのかなって……思ってたんだけど」

「ほーほー。それでそれで」

ルイーズが続きを促す。オーガンも「うんうん、それで」と頷いた。

「机の中を見ていたら直樹がすごい剣幕で迫ってきて、そのまま私をベッドに押し倒したんです」

ルイーズとオーガンが「おおー」と声を上げ、その後ろで直樹は「いや、あれは取り上げようとしたら勢いで」とうろたえている。

「私、勇二のときみたいに潔癖過ぎても嫌われるかなって思って、怖いの我慢して目を瞑ったんですよ」

ちなみに勇二くんとは以前に温泉で話していた、弓花のおっぱいをいきなり揉んで別れた元彼である。なお片揉みであった。

「もう、ここでされてもいいかなって……覚悟してたんですけど」

ルイーズとオーガンとメフィルスの好奇の視線が続きを促す。一方、ジンライは顔を背けていた。シャイオールドボーイである。

「でも時間が経っても何もされないから、変だなって目を開けてみたら」

弓花はキッと睨んで人差し指で直樹を指して

「こいつ、土下座してたんですよ!『お願いします。姉貴には黙っててください』って繰り返しながら!!」

「ああ、そりゃあ百年の恋も覚めるわね」

ルイーズのあきれ顔に、その後ろでオーガンは大爆笑であった。

「え、あのとき、ヤレてたの?」

弓花はその直樹の呟きに瞬間的に拳を放った。鉄拳制裁である。その拳の意味は「死ねばいいのに」であった。

◎ジンソード酒場前 深夜

会話もそこそこに風音たちは全員が一度仮眠をとり、日を跨いだ夜中になってから目を覚まして準備を進めた。そして旅立つ用意ができると、一行は酒場の外に出た。

「姉貴、これコエえよ」

そして出た途端に目に痣ができた直樹が一言呟いた。これとはすなわちヒポ丸くんのことである。

「かっこいいじゃん」

そう風音は言うが、ヒポ丸くんのサイズは普通の馬よりも一回り大きい上に、そのボディに全身甲冑を着させているような厚みのある姿だ。その上、左右には球を半分にしたような奇妙な金属物と成竜クラスの巨大なドラゴンの角が設置されていて、額からはこれまた殺傷能力の高そうな角が突き立っていた。さらにその全身は漆黒に染められており、何より今は瞳の部分が光っていた。この光はコーラル神殿にあった不滅の水晶灯を頭の中に仕込んでいるからだ。普段はダミー用の瞳カバーで光を隠していたが、夜になったので風音はカバーを外していた。その状態のヒポ丸くんの威容は並の魔物の比ではなかった。中ボスクラスは確実だろう。

ちなみにヒッポーくんハイは首から不滅の水晶灯を紐で括り付けて下げてるだけである。

「まあ確かに怖いかも」

「夜中にすれ違ったら死神の馬にでも会ったと思うかも知れないわねえ」

弓花にルイーズもそう口にする。なんにせよ変に迫力があるのだ。この馬は。

「そんじゃあ行こっか」

といって風音がヒポ丸くんに乗り、その後ろにティアラ、弓花と続く。

あからさまに直樹が「あれー俺はー?」という顔をしたが風音は無視した。おバカな弟には付き合ってはいられない。

「あらあら、あたしの後ろじゃあ不満かしら」

「いや。そんなことはないです。はい」

ルイーズの問いに横にぶるぶると頭を振る直樹。姉がアレななりなので誤解されがちだが直樹は年上、特に姉的な人が本来好きである。ゆっこ姉とかかなりストライクだった。

「こっちの馬もすごいな。まるで美術品が動いているみたいだ。白くてすべすべなのは……ケイロン岩だからかな?」

オーガンの問いに「そうだよー」と風音が返す。

「それで足と灯りも確保できてるのは分かったが、夜中だぞ。大丈夫なのか?」

活性化する魔物も多い時間帯だ。

「このライトとかも合わせて夜間走行の検証のためってのもあるねえ。まあゴーレムに光の有無は関係ないみたいだけど」

実のところ、風音は今までもずっと日中しか移動していないので夜のこうした移動は初めてである。一応安全については夜間移動経験も豊富なジンライ、ルイーズに確認をとって許可も得ている。あとは試してみようということだった。

「本当に大丈夫かねぇ」

そこらへんの事情の分からぬオーガンは最後まで心配しながら風音たちを見送った。結構気遣いの人であった。