軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第百話 旅立ちを開始しよう

◎王都シュバイン クライリーズホテル 朝

「祝百話!」

シャキーンと風音は起き上がって宣言した。

「は?」

先に起きてイスに座っていた弓花が訳が分からないという顔をして風音を見たが、風音も意味は分からなかったのでベッドの上に座り込み「おはよう」と普通に言った。弓花も「おはよう」と返した。なお「なんですのお?」とティアラが目をこすりながら布団から出てきたので、風音は「おはよう」と口にしてティアラも「おはようございますわ」と返した。朝の挨拶って大事である。

挨拶をしているウチに最初に風音が口走ったことなど皆忘れたようだ。ちなみに外伝などを含めると九十四話が百話めでした。非常にどうでもいい話だ。忘れてください。

◎マイアス街道

「パカラパカラ、ぜっこーちょー」

ヒポ丸くんに乗りながらのいつもの風音の鼻歌が響き渡る。

以前に弓花が次々と変わる歌詞はいったいどこから来てるのかと尋ねたことがあるが、その答えは魂の奥底からだそうだ。奇妙なフレーズが風音の奥底に詰まってるらしい。

風音たちは朝にゆっこ姉に招かれて城で朝食をとりながら旅の予定を話した後は、別れの挨拶をしてそのまま王都を出た。なお、帰りにガルアが顔を見せたことで一瞬緊張感のある場面もあったが、ガルアは徹夜で作製した真白銀を用いた白蓄魔器を風音に渡しに来たのであった。

風音は大いに喜んでガルアの手を握ってありがとーと感謝し、ガルアも照れて笑った。この男、ロリコンである。

「いいねえ、これ。重複して使えるし。ちょっと使い易すぎてヤバいかもしれない」

風音は腰に下げている蓄魔器(50)と白蓄魔器(70)を見る。紅の聖柩(300)と併せて魔力が420プラスされる。一気に魔力が120も追加されたのである。若干重量はあるがレベル29の風音の筋力ならばそれほどの負担ではない。

「すごいですわねえ。これって購入できるようになるんですの?」

『ああ、いずれはな。しかし素材がかなり稀少であるのが難よの』

ティアラの疑問にメフィルスが答える。

マジッククレイはともかく、ドラゴンの肉から造る竜葬土は当然ドラゴンから作るので量は限られてくる。現在は使用の用途が少ないので在庫もあり、まだ手に入るのだが、この性能が知れれば一気に需要が高まるだろう。また真白銀も稀少性は同様に高い。

「ゆっこ姉、これから買い占めに回るって言ってたし。そう考えるとタツヨシくんシリーズ分を今回手に入れられたのは良かったなあ」

半年後あたりは値上がりどころかモノが市場にない可能性も高い。ちなみに真白銀もアウディーンが買い占めに回っているらしい。

「確か竜葬土の作成を依頼してましたわよねカザネ?」

ティアラの問いに風音が頷く。

「うん、そっちを押さえておけば使うなり売るなりするにせよ、こちらにとって良い展開にはなるだろうね」

ちなみにビッグタツヨシくん計画を考えているため、売る気はない。

『まあ、そうよな。いちど売り出されれば瞬く間に需要は広がるだろう』

「時代が変わりそうですな」

ジンライがそう口にする。この道具はそれほどに革命的なものだった。

(まあ時代が変わりそうと言えばこれもそうだな)

とジンライは自分の乗っているヒッポーくんハイを見る。この馬の首の裏、乗り手の目の前にはヒポ丸くん同様にチャイルドストーンが付いている。これは風音がマジリア魔具工房でもらったもので、ヒッポーくんハイの魔力供給問題はこれで解決した。ヒポ丸くんと違ってこちらは簡易タイプみたいなものだし降りるときには外して使うエネルギー供給源兼鍵的なものとして今はジンライが預かっている。また魔力供給が行われているので簡易回復的なものも可能になっており、多少破壊されても自動で復活する。岩の素材も王都の石屋から購入したケイロン岩という硬い岩で作成し直したので強度もなかなかのものである。さらに額にはヒポ丸くん同様に黒岩竜の牙が攻撃用の角として付けられていた。

なお風音のヒポ丸くんが黒に対し、ヒッポーくんハイはケイロン岩の色である白一色であり、額の黒岩竜の牙であった角も白く塗り替えられて、真白きユニコーンの彫刻のような美的なイメージがあった。この姿にはティアラとルイーズと弓花とがうっとりとしていた。

ちなみに風音と妙に琴線に触れたジンライはヒポ丸くん派である。メフィルスにはあまりそうした興味はないようだった。

◎カンタランの村 夕方

カンタランの村はウォンバードの街に行くまでの道の王都よりにある旅人もよく訪れる村である。農村としても盛んなので魔物に対する警護役の冒険者もよく泊まることもあり、当然宿施設もそこそこある。風音たちが訪れたときにも部屋はいくつか空いており、パーティで泊まるのにも問題はないようだった。

なお風音たちは宿屋に泊まる際にはせっかく用意してくれたものだから……と、不滅の布団ではなく用意されてる布団を使っている。

いつかは自分の家を持って不滅の布団でくつろぎたいなーと風音は思ったが、ひとつ風音は忘れていた。

実はオルドロックの洞窟前の温泉コテージは早急に旅立つ必要があったためザクロにその一切をお願いしていた。具体的には維持と管理、そして改修である。費用は風音の温泉オーナーとしての取り分として引かれることになっているのだが、改修についての金額の上限を風音は決めてなかった。そして任されたザクロが張り切りすぎて現在大幅改築が行われ続けている。

それは現時点でも、もうかなりの姿となり、屋根に乗せられた青と白の竜の像からカザネ双竜温泉御殿と呼ばれているのだが、それをまだ風音は知らない。

ちなみにだが『温泉伝道師である風音が最初にこの温泉を掘り当てた時、天より現れた二頭の竜がこの地を舞い、その温泉を祝福した』と後の世には伝えられることになる……というようにザクロが現在画策中である。商売のためならば時系列の細かい違いなどどうでも良いのだ。名前もカザネ双竜温泉に変更されているし。

そんなこんなで宿屋を見つけると風音は荷物をおいて一人散歩に出かけることにした。

「のどかだねえ」

風音が村を見渡した限りシュバインに向かう途中のカロンゾの村に雰囲気は似ていた。まあどちらも似たような環境なので似ているのも当然かもしれないが。

なお畑の周囲に石の柱がいくつか置かれているが、これはトルマーナ石という魔物が嫌う鉱物で街道にも使われている。

そして風音は小麦畑の前にまで足を運んだ。時間は丁度夕刻。小麦が夕暮れの光に反射していて、一面が黄金のような輝きを放っていた。

「ああ、凄いや」

風音は一人、そう呟いた。

ここまであまりそうした光景を見たことも、見ようと思ったこともなかったが、実際にこうして目撃すると自分が見てきた光景はこの世界のほんの一部だったんだなあと思えてくる。その雄大さに自然と風音の瞳から涙が一筋こぼれていた。

そして日が落ちるまで小麦畑を見ていたが、周囲も暗くなったので宿に戻ることにした。帰る途中、農家のお爺さんに声をかけられ焼き芋をご馳走になった。風音はそれをモフモフと食べながら宿に戻ると微妙に空気がざわついているのに気付いた。

「んー、何かあったのー?」

何人かの人間の中にジンライがいたのを見て、風音が声をかける。

「カザネか。いや、ちょっとな」

「おお、あなたがこの馬の持ち主ですか」

ジンライの横にいた商人風の男が、風音の名前を聞くや否や、ガバッと風音の方を向いた。そのあまりにもお子様な容姿と身長に一瞬「?」という顔をしたが勢いで誤魔化した。

「いや、素晴らしい馬をお持ちだ。これだけの装備を付けながらまるで平然と立っているとは」

どうやらヒポ丸くんを見たらしい。横の護衛の人間もうんうんと頷いている。

「いやーそれほどでもあるよ?」

「でしょう。確かにすばらしい。しかし、あなたが乗るには少々大きすぎるでしょう。色々とご不便な点も多いのではのではと思うのですが」

そこで風音は「そういうことかー」と気付いた。

「おじさん、うちのヒポ丸くんが欲しいの?」

「おっと、察しが宜しいですな」

商人風の男が手揉みをして答える。

「ヒポ丸くん、来なさい」

風音の声にヒポ丸くんが風音の前まで歩き出す。

「なっ?」

ヒポ丸くんが風音の声で動き出したのに商人風の男が驚いた。

風音は自分の前にまで来たヒポ丸くんの頭をなでるとヒポ丸くんはまるで本物の馬のように気持ちよさそうな動作をする。そのヒポ丸くんに風音は尋ねる。

「ヒポ丸くん、ヒポ丸くんはこっちのおじさんのところに行きたい?」

風音のその問いにヒポ丸くんは首を横に振った。その様子を見てさらに驚きの表情を深める商人風の男に風音は向き合い、こう告げる。

「だってさ、諦めてくれる?」

「は、はあ」

呆気にとられている商人風の男をよそに風音はヒポ丸くんを馬小屋に戻るように指示してジンライとともに宿の中に戻っていった。

「いいのか?」

「まあ気になるのは仕方ないよね。あんなにカッコいいんだし」

ジンライの問いに風音はそう答える。

「ふむ、確かにな」

ジンライもそれに同意する。あのゴツさはジンライの僅かに残っている少年の心を直撃していた。ちなみに商人がジンライに提示していた金額はヒポ丸くん作成費に丸がふたつ足りなかったりする。商売的に考えれば実物の完成品ならさらに丸が一つ追加されるかもしれない。その金額が書かれたメモをジンライは風音の言葉を聞いて握りつぶすとゴミ箱に捨てた。

その夜、夜中にギャーと言う声と走り出す音が宿の外から聞こえてきた。風音はスキル『情報連携』でヒポ丸くんと繋がって『見た』が、逃げ出す護衛の男と腰を抜かして倒れている商人風の男がいたのを確認して溜息を吐いた。逃げ出したのなら翌日にこの村に常駐している衛兵に言えば良いが、倒れ込んでいるのでは仕方がない。

ジンライと弓花、ルイーズは起きたので風音はジンライだけ同行をお願いして商人風の男を捕らえに行った。

「ご用である」

風音のその言葉に冷や汗とぎこちない笑みで誤解だと口にするが、ヒポ丸くんの与えたダメージは結構なモノらしく、蹄鉄の跡がくっきりと体に残っていた。風音はジンライに確保をお願いしてそのまま衛兵に届けた。誤解だと商人風の男は言っていたが現行犯である。

風音たちが称号持ちであることを確認した衛兵は商人の言い分も聞かず その場で逮捕となった。国から称号を得ている人間とはそれだけ信頼のある身分なのだと風音はここで初めて知ったのであった。