軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

7 あなたの隣にて

不思議に思ったが、守ってくれるカロンに嫌悪感があるはずもなく、そのまま不思議そうに見上げた。

一方カロンは、この間の事といい、危機感をどこに落としてきたのだろうかと苦笑する。

「大事な話ってのは、お嬢様の婚約者ですよ。侯爵夫人が息子はどうかって鼻息荒かったじゃないですか」

「ご令息? だめよ! 彼は商人の娘さんをお嫁にしたいって頑張っているのだもの。わたくしが邪魔になってはいけないわ」

拾ってくれた商人の娘と姉弟のように過ごし、今では家族となるなら彼女以外考えられないと豪語する男は強かった。むしろいざというとき伯爵家の養女として迎え、送り出せないかとこっそり聞いて来たほどだ。となるとエクレアは彼の義姉となるので、夫人とも義理の親子になる。多分彼はそれを狙って夫人の許可を取る気だろう。とっても強か。

ちなみに義妹では? という疑問の方が出ると思われるが、この問題は先送りである。

「へえ。では、お嬢様の婚約者はどうなるんです?」

「反省したお父様が再考しているわ」

山が高すぎて、低いところで手を打ったのが良くなかったと頭を下げられた。

いや、デニッシュの評価は一応、周囲から高かった。侯爵夫人も候補としていたので、単純に勘違いから調子に乗った彼が悪いのだが……人間、付き合ってみないと分からないものである。

「良き相手がいるようなら希望に沿うって言われたけれど……巡り合わせよね。あちこち足を運んで探したいわ」

「美術品探しじゃないんですが」

「似たようなものでない? 心惹かれる相手は、待っていても来ないでしょう?」

その場に向かわなければ、出会いも何もない。

エクレアはそう思ったのだが、カロンは笑った。

「そう言って、うちの妹は俺経由であっさり見付けましたよね。遠くばかり見て、近くにあるいい男を忘れていませんか」

「いいおとこ……」

エクレアは、ぽかんとした顔でカロンを見上げた。

いつも身綺麗にした、手を抜かない男の装い。護衛として鍛え抜かれた身体が、エクレアの身体を支えている。

優しく歪んだ緑の目が、エクレアを見下ろしていた。

「お慕いしています」

「まあ……」

ぽかんとするエクレアに、カロンは言葉を続けた。

「家は長男が継ぐし、妹と違って俺に芸術の才能もないし。適当に選んだ騎士も性に合わない。腕っ節はあったのでそのまま護衛として勤めていましたが、侯爵夫人の勧めであなたに出会って、俺は変わりました」

「確かに、就任した頃はボサボサしていましたわね」

「覚えていましたか」

恥ずかしそうに笑うカロンは、当初全く自分に手入れをしていなかった。

髪はキシキシだったし、ニキビもあった。

それがいつの日か、指通りの良さそうな茶髪をしっかりセットして、清潔感ある肌に薄い化粧も施して、着る服も皺一つない完璧な装いになった。

「あなたが、美しい物が好きだったから」

自分には何もないと腐るカロンを横目に、芸術品や骨董品。芸術家の卵を愛で続けた。

「当時、絵が好きなだけで内向的な妹に、磨けば光ると目を輝かせたのはあなただけでした。あなたの描いた絵が見たいと言ってくれたのも、信じて待つと惜しみない支援をくれたのも」

親は、結婚しないで絵を描きたいという妹を支援しなかった。代わりに支援したエクレアのそばで、妹は才能を開花させた。

俺も、と思ったのだ。

「まずは見てくれからと、手入れをしてきたつもりですが、お嬢様の好みですか?」

「容姿なら、格好良くて好きよ」

エクレアの言葉に、カロンが嬉しそうに笑う。

「伯爵家の次男ですので、それなりの教育は施されていると自負しています。最近ではお嬢様と一緒に骨董品の善し悪しも勉強中です。目利きはまだ自信がありませんが、磨けばお嬢様にとって最高の旦那になると誓います」

だから、俺を選んでくれませんか。

真摯に訴えられたエクレアは、白い肌を桃色に染めた。

「びっくりしているわ」

「ええ、赤くなっていますね」

「だってカロンはわたくしにとって、身近な男性で、えっとね。一番好意的に見ていると思うわ」

「でしょうね。そこは自信があります」

「気持ちは嬉しいわ。嬉しいの。だけどね、そのね」

「お断りの雰囲気だけでも吐きそうなんですが、お断りですか?」

「あああ、あのねぇ」

恥ずかしくて身を捩りたくなったが、身体が痛くてそれもできない。

身を寄せ合ったまま、エクレアは小さく呟いた。

「カロンってばとっても格好良いから、わたくしが釣り合うか不安だわ」

カロンはグッと口の中で肉を噛んだ。

美しい物に耐性のある人からの評価に、胸が締め付けられていた。

「だからね、えっと……ちょっと待って」

「待て? なにを?」

「わたくし、あなたの隣に並んでも恥ずかしくない装いをしてからがいいわ」

怪我を治して綺麗に着飾って。

自信が持てたらその手を取って良いかしら。

とても恥ずかしそうに告げる可愛い人。

(それは実質、告白を受け入れているのでは?)

カロンはうっかり抱き潰しそうになり、拳を握って耐えた。

左指が数本折れたが、貴い犠牲だった。

それから数ヶ月後。

お互いの怪我が完治する頃に、手を繋いで美術館へ向かう二人の姿があった。