軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0534話

報酬に関しても決まったところで、早速これからどうするかの相談に入る一行。

その中で、当然とばかりに意見を出したのはエレーナだった。

「先程から何度か言っているが、ベスティア帝国へと出向くのなら一度ギルムに戻ってダスカー殿に告げておく必要がある。本来であればエグジルからギルムに戻るのにはそれなりに時間が掛かるのだが……」

言葉を一旦止め、意味ありげにレイの方へと視線を向けるエレーナ。

そう。確かに地上を歩いて行くのならまだしも、馬車で移動してもこのエグジルから辺境であるギルムまで移動するとなると相当の時間が掛かる。

だが、それはあくまでも地上を移動すればの話だ。

レイには空を飛んで移動可能な、グリフォンのセトという相棒がいる。

「確かにグリフォンの移動速度を考えれば、国内の移動はちょっとした遠出くらいの認識で十分か」

エレーナと同じことを考えたのだろう。テオレームも頷きながら同意する。

「そうだな、ならエレーナはダスカー様に渡す手紙を書いてくれ。対のオーブがあると言っても、一応手紙の類はあった方がいい。俺はその間にボスクやビューネにギルムに帰るという挨拶を一応してくる。ヴィヘラ、ビューネは今日?」

「ビューネならシルワ家にいるわよ。ほら、昨日ボスクが言ってたフラウト家の再興に関して話したり、決めておいたりする必要があるらしいから。それにエグジルを治める為に必要な勉強もあるし」

だから私もビューネを置いてレイに会いに来たんだけどね。

照れで頬を薄らと赤く染めながらそう言葉を続けるヴィヘラに、こちらもまた照れつつ、なるべく気にしないようにしてレイも頷く。

ここでその辺に突っ込むと、隣で不穏な雰囲気を発しているエレーナとの間に色々と面倒ごとが起きると本能的に察したからこその判断だった。

「そうか、ならまずはシルワ家に行ってくる。ああ、エレーナ。手紙のついでに宿の手続きも頼む。……これを」

そう告げ、ミスティリングから取り出した袋から金貨や銀貨をエレーナへと手渡す。

「レイ? 宿の料金は私が払うと……」

「いや、言っただろ? ダンジョンで稼いで、きちんと宿の代金は支払うって。……金銭面でエレーナに頼ってばかりってのも色々と外聞が悪いからな。少しは格好を付けさせてくれ」

「……分かった」

一瞬躊躇するも、エレーナはそれ以上何を言うでも無く渡された金貨や銀貨を受け取る。

エレーナとしては、レイと一緒にいるのは半ば自分の要望によるものという思いがあったので受け取るのに躊躇したのだが、それでもレイの目を見れば全てを承知の上での行動だと理解したのだ。

「だが、エグジルから出るのは明日の早朝がいい。今から出立しても、そう遠くないうちに日が暮れるからな」

「ま、そう言われればそうか」

レイが頷くと、テオレームもそれに同意するように頷く。

「それに、大まかな話は大体話したが、細かな話を詰めておく必要がある。レイがギルムの領主に話を通した後、どこで私達と合流するかといった具合にな」

「確かに」

現代日本であれば遠く離れた相手と連絡を取る手段は幾らでもある。だが、ここは異世界エルジィンであり、だからこそエレーナはレイと離れた位置で会話をする為のマジックアイテムを求めてエグジルにやって来たのだから。

「その件だが……本当に色々と思うところはあるのだが、今回の件が片付くまで対のオーブをヴィヘラに貸した方がいいのではないか?」

「ちょっ、何よいきなり」

エレーナの口から出た言葉に、ヴィヘラが驚きの声を漏らす。

それ程に意外な提案だったからだ。

エレーナがどれ程対のオーブを求めてダンジョンに挑んでいたのかを知っていたが故に。

だが、テオレームはそんなヴィヘラを一瞥し、エレーナへと視線を向けてから小さく首を横に振る。

「いや、出来ればその対のオーブというマジックアイテムはそちらで持っていて貰いたい。いざという時にミレアーナ王国の貴族派と連絡が取れるというのは切り札になり得る」

「だが、それならばレイと合流する時はどうするのだ? まさかレイがギルムに行って、戻ってくるまでエグジルにいるという訳にもいかぬだろう?」

時間的な余裕はまだ多少あるものの、それでも時間の無駄は避けたい筈。そんなエレーナの言葉に頷いたテオレームは、やがて数秒程考えて口を開く。

「セレムース平原近くの街か村で待ち合わせをするというのがいいだろう。それならば私達も近いうちにエグジルを出立しても問題は無い筈だ。正直、こんな時こそ転移が使いたいのだが……敗戦の責任がメルクリオ殿下に押しつけられた結果、錬金術師達の管理も既に私の手を離れているのでな」

言葉には出さないが、テオレームの切り札としていた魔獣兵に関しても既に全てが取り上げられていた。

戦争で発揮した恐るべき戦闘力を知った第2皇子派が、敗戦の責任をメルクリオに擦り付けた時にそちらも手を回されたのだ。

もっとも、魔獣兵というのはその戦闘力とは裏腹に非常に扱い辛い。貴族が上から命令するだけでは決して大人しく従わず、モンスターとしての本能を持つ故に自分より強い者、そして人間としての理性故に自らを率いるに足る器を持つ人物でなければ魔獣兵を従えるのは難しい。

中には魔獣兵達を指揮していたギルゴスという存在もいたが、それはあくまでも例外でしかない。

そんな風にテオレームが考えていると、やがてしょうがないとばかりにレイが頷く。

「分かった、どこか適当な街か村で待ち合わせをしよう。……にしても」

思わずといった様子で溜息を吐くレイ。

「どうしたの?」

ヴィヘラからの問いに、レイは苦笑を浮かべつつ口を開く。

「春には戦争や海に出てくる巨大モンスター退治、夏は迷宮都市でダンジョンを探索しつつ異常種や聖光教と戦い、秋にはベスティア帝国のお家騒動に巻き込まれて闘技大会に出場する。……今年は色々な意味で激動の年だったと思ってな」

まだ夏真っ盛りであるというのに、既に1年を振り返るかのようなことを呟く。

だが、確かにその言葉の内容を考えれば、激動の年であるというのを否定出来る者は少ないだろう。

もっとも……

「あのね、レイ。確かに秋には闘技大会に出るかもしれないけど、まだ冬があるのよ? 今のところは特に何の予定もないけど、もしかしたら冬にはまた大きな騒動が起きるかもしれないでしょ。……それこそ、聖光教関係とか」

ヴィヘラの言葉に嫌そうな表情を浮かべるレイ。

これまでの経験から考えて、絶対に無いとは断言出来なかったからだ。

「聖光教? そう言えば先程もそんなことを言ってましたが……聖光教が何か?」

「後で教えてあげるわよ。……テオレームが知っているってことは、ベスティア帝国にも手を伸ばしてるのね」

「ええ。彼等はダンジョン攻略の手助けや、あるいは冒険者や警備隊、騎士団の手が回らないところで……」

そんな風に会話を始めたベスティア組に向かい、レイは口を開く。

「とにかく、俺はシルワ家に行ってビューネとボスクに明日エグジルを旅立つと言ってくる」

「そうしてちょうだい」

ヴィヘラが頷き、その横で聖光教について考えていたテオレームが口を開く。

「一応言っておくが、ベスティア帝国に向かうという件は口外しないで欲しい」

「ああ、その辺は分かっている。部屋に関してはエレーナと一緒に出て行ってくれればいいから」

そう告げ、ヴィヘラがエグジルで起きた聖光教に関しての諸々についての説明をし、そこにエレーナが注釈をいれているのを背中で聞きながらレイは部屋から出て行くのだった。

レイが出て行って暫く。聖光教に関しての話を語り終わって部屋の中が静寂に包まれたその時。不意にテオレームの視線がエレーナに向けられる。

瞳に浮かんでいるのは、疑問。

その疑問が気になったエレーナは、口を開く。

「どうした?」

「いえ、てっきり貴方は私のことを恨んでいるものとばかり思っていましたので」

テオレームの口から出た言葉は、ある意味で当然の疑問でもあった。

春の戦争が始まるまでの間に、レイやエレーナを危険視したテオレームは幾度となくその謀略の手を伸ばして秘密裏に葬り去ろうとしたのだから。

ヴェルの裏切りやキュステの死亡。また、エレーナ自身は知らなかったがランクAパーティ雷神の斧のエルクの息子を人質にとってレイを襲わせたりもしている。

レイに関しては、謀略の全てを力尽くで破った為に特に遺恨はなかったようだが、エレーナに関しては話が別だろうと。

実際にテオレームは今回の件を話している時にも酷く緊張をしていたのだ。

いつエレーナが自分に襲い掛かってくるのかと。

だが、結局そのそのようなことは一切無いまま、至極平和裏に話は纏まった。

それこそ、テオレームがこれ以上無い程に感じる最上の結果で。

「そうだな、恨みに思っていないと言えば嘘になる。実際、キュステは色々と問題のある者ではあったが、それでも長年共に過ごしてきた相手なのだから。だが……それを言うならそちらとて同じだろう? ベスティア帝国軍の多くをレイに殺され、魔獣兵に関しても同様だ」

エレーナの口調に浮かんでいるのは深い悲しみ。

実際にキュステをその手で殺したヴェルが既に死んでいるというのも影響しているのだろう。

もっとも、ヴェルに致命的な一撃を与えたのはレイなのだが。

「それに、今回の件で上手くいけばベスティア帝国内に強力な親ミレアーナ王国派を作ることが出来る。そうすれば、あのような件は起きない……とは言わないが、それでも少なくなるのは事実だろうしな」

私怨を抱いた私人ではなく、ミレアーナ王国を思うが故の貴族としての判断。

そう聞かされたテオレームは、何も言わずに小さく頭を下げるのだった。

「おう、どうしたんだ? 昨日の今日で珍しい」

シルワ家の屋敷。既に幾度も通ったおかげで、レイの姿をみた門番が執事長のサンクションズを呼び、そのままボスクとビューネに用があるというレイを案内した執務室でボスクがレイに向かって声を掛けてくる。

書類の数は昨日よりも大分減っているが、それでもまだ山となっているのは変わらない。

それでも執務机に座っているボスクの顔がきちんと見えるのだから、昨日どれだけ大量の書類があったかを窺わせることが出来るだろう。

もっとも、ボスクの隣に座って書類整理を手伝いながらフラウト家当主としての勉強をしているビューネの姿は見えなかったが。

「ん」

それでも挨拶の為なのだろう声だけは聞こえてくる辺り、元気でやっているのは間違いないらしい。

何となく表情を変えずに淡々と書類を処理していくビューネの姿を想像しながら、早速用件に入る。

「ああ、実はちょっと急用が出来てな。明日にはエグジルを出ることになったんだ。で、その報告と挨拶にな」

「はぁ!? おいおいおい、ちょっと急すぎねえか?」

レイの口から出た言葉が余程予想外だったのだろう。反射的に立ち上がり、その衝撃で書類の山が雪崩を起こす。

「んんんっ!」

雪崩が直撃したビューネからの抗議の声にボスクは小さく謝りながら、それ以上は書類の山を崩壊させないように執務机から離れてレイの方へと移動してくる。

「お前さんは一応今回の件でも重要人物なんだぜ? 色々と国の方から派遣された役人とかが絶対に話を聞きたがるのは間違いないってのに……何だっていきなり」

「言っただろう、急用だってな。急に出来た用件だから急用って言うんだよ」

「いや、それは分かる。分かるが、エグジルを治めている立場の者としちゃ、それをはいそうですかって認める訳にもいかねえんだよ」

ガリガリと頭を掻きながら告げてくるボスク。

ビューネはと言えば、書類を整理しながらもレイの言葉を一言も聞き漏らさないように耳に意識を集中している。

ビューネにしても、親しくなったレイと離れるのは寂しいものがあるのだろう。

もっとも、どちらかと言えばセトの方が割合が高いのだろうが。

「事情聴取の件に関しては、エレーナの方で何とかしてくれると思う。明日エグジルから出て行くのは俺だけで、エレーナはもう少しエグジルに残る筈だし」

正確に言えば、エレーナが休みを与えた御者のツーファルがエグジルに戻ってくるまでは、だが。

「……何?」

エレーナの方で手を打つと聞き、ボスクの視線が鋭く光る。

それなりにエレーナとの面識があるボスクにしてみれば、エレーナが貴族としての権力をどうでもいいことで使うとは思わなかった。

つまり、それを使わざるをえない何かがあったということになる。

「そうか。エグジルを治める者としては残念だが……冒険者を無理に引き留める権利はないしな」

小さく溜息を吐きながら、元気でやれよとだけ言葉を返す。

「ん」

そんなボスクとレイの会話を書類を整理しながら聞いていたビューネだったが、持っていた書類を執務机の上に置くと、書類の山を崩さないようにレイの方へと近づいてくる。

そして、上目遣いをしながら口を開く。

「無念、晴らした。ありがとう」

短い言葉だったが、ビューネが何を言いたいのかはすぐに理解する。

「そうか。ビューネも元気でな」

「ん。次、来る。フラウト家、元通り」

「ああ、結局ダンジョンは途中で放り出したからな。急用が片付いたら、いつかまた暇を見つけて来させて貰うよ」

「セト」

「そうだな、俺が来る以上は勿論セトも一緒だ」

その言葉に頷くと、何故かビューネはドラゴンローブを引っ張ってレイの頭を下ろし……

「よしよし」

何故か頭を撫でると、満足げに頷いてから再び執務机の方に戻っていく。

そんなビューネの様子にどこか釈然としないものを感じながらも、レイはその後10分程ボスクと話すと執務室を出る。

「あら、レイさん?」

シルワ家の屋敷から出たレイに、唐突にそんな声が掛けられる。

声のした方へと振り向けば、そこにいるのは槍を持った戦士と盗賊、そして隻腕の女の3人組だった。

今回起きたマースチェル家との騒動で、ある意味では主要人物として名前が上がるだろう音の刃の3人組。

本来であればポーターのゴートという男もいたのだが、こちらは聖光教の襲撃により既に音の刃から抜けている。

「もういいのか?」

すぐ近くであれだけの戦闘が起きても、全く目が覚める様子がないままに魔法陣に捕らえられていたティービアだ。

戦いが終わった後も、結局は今レイの目の前にいるエセテュスとナクトの2人がすぐに連れ帰った為、実際に意識のあるティービアとレイが会うのは、モンスターの素材を剥ぎ取った時以来だった。

「ええ、どうやら色々とお世話になったみたいで……ありがとうございます」

ペコリと頭を下げるティービアと、エセテュス、ナクトの3人。

そんな3人に対して、レイは気にするなと手を振る。

「エグジルから旅立つ前の最後の大仕事と思えば、悪くない結末だったよ」

「……え? レイ、どこか行くのか?」

思わず持っていた槍を握りしめつつ問い掛けるエセテュスに対し、レイは小さく肩を竦めて頷く。

「ああ。ちょっとした急用が出来てな。ちょっと早いが、明日には俺とセトだけここを出て行く予定だ」

「そんな……まだお礼も何もしていないのに……」

「気にするな。今回の件の報酬はボスクからしっかりと貰っている」

「でも……」

「それにお前はこれから色々と大変だろ? 冒険者を続けるにしろ、引退するにしろ」

隻腕となったティービアは、冒険者を続けるにしても大きなハンデを背負ったことになる。

それを指摘し、自分に礼をする金があるのなら自分の為に使えと告げて、レイはその場を後にするのだった。