軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0530話

ヴィヘラの衝撃的な告白があった翌日。

結局昨日は半ば有耶無耶になって解散となり、レイとエレーナ、セトとイエロの2人と2匹はそのまま黄金の風亭へと帰ってきてから色々な意味で疲れを取るべく眠りにつき、起きた時には既に午前10時くらいの時間となっていた。

「……昨日に引き続き、今日も寝坊か。我ながら随分とだらけた生活をしているな」

寝起き故の気怠さを感じつつ呟き、大きく伸びをして窓の外へと視線を向けると、既に通りを歩いている人々は活発に動き回っている。

最高級の宿故に用意されているマジックアイテムで一定の気温に保たれている宿の部屋にいては分からないだろうが、既に外では暑さによって空気が揺れているような場所も見えた。

「あまり外に出たくはないが……魔石の吸収も済ませないといけないしな」

現在レイが確保してあるのは、フォレストパンサーの魔石が1つに、カマイタチの魔石が3つ。

既にエグジルにやってきた目標でもあった対のオーブを手に入れた以上、ダンジョンに潜るのは魔石を目当てにしたものとなってはいたのだが……

「昨日の今日だし、ダンジョンに潜ろうとすればヴィヘラと一緒に行動することになる可能性が高い、か」

小さく溜息を吐きながら身だしなみを整えていく。

勿論ヴィヘラのような人物に好意を寄せられるというのは非常に嬉しい。それは間違い無いのだが、実際のところは戸惑っているというのが正直な気持ちだった。

言うまでも無くヴィヘラは非常に整った容姿をしているし、男好きをする身体をしている。内面にしてもビューネの面倒を見ているのを見れば分かるように、何だかんだ言って世話焼きではある。

最大の問題点は戦闘を好むというところだが、それにしても自らをより高みに昇らせる為と考えればレイにも理解出来ないではない。

だが、そのような魅力的な人物が自分に好意を持っているというのは、やはり戸惑いの方が強い。

そう言う意味ではエレーナもそうなのだが……この辺、エレーナは例外として考えているところに、レイが無条件でエレーナを特別視しているところなのだろう。

「そうだな、エグジルの外で魔石の吸収でもするか。この時間からだとダンジョンに潜っても中途半端になるし」

取りあえずヴィヘラの件は棚上げすることに決め、ドラゴンローブを纏ってエレーナが待っているだろう食堂へと向かって降りていくのだった。

少し早い昼食を食堂で済ませ、同時に色々と夕食までのおやつ用に串焼きやサンドイッチといったものを購入したレイ達は、街の外で周囲を見回していた。

エグジルに入る人数も多いが、出て行く人数も多い。

やはりエグジルを治めていた家同士の抗争が頻発したのが、商人や旅人達を不安にしたのだろう。

聖光教に関しても、現在は警備隊の方から人を向かわせて半ば軟禁状態に近いというのを食堂で他の者達が話していたのを聞いていた。

ボスクから聞いた情報とそう違っていない以上、噂の出所は明らかだ。

「聖光教はともかく、ダンジョンを攻略する冒険者にしては結構痛いだろうな」

「うむ。聖光教の者達はそれなりに高い報酬を要求してくるが、基本的に腕は確かだという話だったからな。その者達が警備隊の取り調べでダンジョンに出られないとなると、ソロで活動して足りない戦力を聖光教に頼っていた者達には痛い。もっとも、私達に対してちょっかいを出してきたのはあくまでも聖光教の裏の存在だ。表で堂々と活動していた者達は取り調べにも大人しく応じているということだし、これ以上の余計な騒ぎにはならないだろう」

エグジルの外、以前にも向かった森の方へとエレーナと共に歩を進めながらレイは溜息を吐いて口を開く。

「だと、いいんだけどな。何しろエグジルに来てからこっち、騒動に巻き込まれてばかりだったし」

「別にレイが騒動に巻き込まれるのは、エグジルだからという訳でもないだろう? 私がレイと行動を共にしている時のことを思い出すと」

そう告げながら小さく笑みを浮かべるエレーナ。

レイにとっては騒動であっても、そのレイと共に行動しているエレーナにしてみればいい思い出になるといったところか。

既に街道を外れ、草原となっている場所を歩いているレイ達。

エグジルの近くでは出入りする者達の視線を一身に浴びていたセトやイエロも、今は人の目を気にせずに仲良く周囲を走り回り、あるいは飛び回って遊んでいた。

そんな様子を微笑ましそうに眺めつつ、隣を歩くエレーナにふと尋ねる。

「そう言えばツーファルはどうしたんだ? エグジルから帰るにしても、まさか置いて行く訳にはいかないだろ?」

「そうだな、馬車もツーファルに使わせているしな。……まさかこれ程容易く対のオーブを入手出来るとは思っていなかったから、もう暫く掛かるだろう。ゆっくりしてきてもいいと言ってあるし」

エレーナにしてみれば、ツーファルが帰ってくるのが遅れれば遅れる程レイと共にいられる時間が延びるという思いもあるので、出来るだけゆっくりしてきて欲しいというのが正直な気持ちだった。

そんな風に色々と会話をしながら森の中へと入り、念の為にセトに周囲を探って貰い、周囲に冒険者やモンスターがいないのを確認してからミスティリングの中から魔石を取り出す。

「セト、まずはカマイタチの魔石から行くか」

「グルゥ!」

了解! と喉を鳴らすセトの方にカマイタチの魔石が放り投げられると、それをクチバシで受け止め、すぐに飲み込む。

【セトは『ウィンドアロー Lv.3』のスキルを習得した】

脳裏を過ぎるは既に聞き慣れたアナウンスメッセージ。

「ある意味では予想通りか。セト、向こうの木に向かって使って見てくれ」

「グルルルゥ」

レイの言葉に喉を鳴らし、少し離れた場所にある木を円らな瞳で睨み付ける。

「グルルルルルゥ!」

そうしてウィンドアローのスキルを使用すると、セトの周囲に見覚えのある風の矢が生み出される。

だが、その数が違った。

以前までは最高で7本しか風の矢を作り出せなかったのが、今は15本に増えている。

「レベルが上がると飛躍的に性能が上がるタイプか?」

そんな風に分析しているレイの視線の先で、セトが目標でもある木へと向かって風の矢を放つ。

15本一斉に放たれた風の矢は、威力自体はレベル2の時とそれ程変わっていない。

だが本数が増えた為、結果的にその威力は以前に比べて明らかに増していた。

拳銃からサブマシンガンに代わった……とまでは行かないが、放たれた風の矢の1本は木の幹を僅かに抉り、それが15本連続で放たれた結果として、木は自らの重さに耐えきれなくなり地面へと崩れ落ちる。

同時にその木を住処にしていたのだろうリスが数匹、地面を走って森の奥へと消えていく。

リスにしてみれば自らの家を壊されたに等しいのだから、いい迷惑だったのだろう。

「これは……また、随分と使い勝手が良くなったな」

その光景を見ていたエレーナが感心したように呟き、レイもまたそれに同意する。

「ああ。1本の威力は以前より若干上といったくらいだが、弾幕を張るという意味ではかなり使えるな。……セト、良くやった」

「グルルゥ」

褒めて褒めてと頭を伸ばしてくるセトを撫でつつ、次は自分の番だとばかりにもう1つのカマイタチの魔石を手に取り、デスサイズを取り出す。

「さて、セトが風系のウィンドアローをパワーアップしたとなると、恐らく……」

セトから離れてカマイタチの魔石を空中へと放り投げ、デスサイズで一閃。

【デスサイズは『ペネトレイト Lv.2』のスキルを習得した】

そう、脳裏をアナウンスメッセージが過ぎる。

「何?」

アナウンスメッセージに思わず呟くレイ。

セトがウィンドアローのレベルが上がったのだから、自分はてっきり飛斬のレベルが上がるとばかり思っていたのだ。

実際にカマイタチというイメージからすれば、ペネトレイトよりも飛斬の方がよりらしいだろう。

「どうした?」

「……いや、てっきり飛斬が強化されるんだとばかり思っていたが、ペネトレイトの方が強化されたからちょっと驚いただけだ」

エレーナの問い掛けにそう答え、少し考えて言葉を続ける。

「確かにペネトレイトも石突きの部分に風を纏わせるって意味ではカマイタチの魔石から吸収出来るスキルとしてはおかしくないんだろうが」

「そうだろうな。それに、ペネトレイトは貫通力が高いという意味ではかなり有用なスキルだろう? 実際オリキュール相手にもかなりの強さを見せたと言う話だし」

その言葉に、確かにと頷くレイ。

飛斬が強化されるとばかり思っていたが故に多少驚いたが、それでも有用かどうかと言われれば、ペネトレイトは間違い無く有用なスキルだった。

(それに、石突きの部分で貫通するというのは色々と使い勝手はいいだろうしな)

呟くレイの脳裏を過ぎっているのは、オリキュールとの戦いの最後に使った魔法。

敵の体内に炎の蛇を放ち、内からその身体を焼き尽くしながら脳を目指すという凶悪な魔法だ。

だが、その魔法『舞い踊る炎蛇』を使うには石突きの部分を敵の体内に埋め込まなければいけない。

それを考えれば、石突きで敵に対する貫通力の増すペネトレイトの有用性は明らかだった。

「グルゥ?」

心配そうに小首を傾げて円らな瞳を向けてくるセトを軽く撫で、ついでとばかりに自分も撫でろとセトの頭部に着地したイエロを撫でる。

「キュウ」

「ま、何も覚えないよりはいいしな。……取りあえず試してみるか」

2匹を撫でつつそう呟き、気を取り直してデスサイズを片手に少し離れた場所に生えている木の前へと移動する。

そうしてデスサイズを手の中でクルリと回転させ、石突きの部分を槍のように構え……

「ペネトレイト!」

スキルを発動する。

その瞬間、石突きの周囲に風が纏わり付く。

しかも、その纏わり付いている風はオリキュールと戦った時に比べて、見て分かる程に増えている。

「はぁっ!」

そのまま気合いと共に石突きを前へと突き出すと、レイの目の前に生えていた木の幹をあっさりと貫く。

手に掛かる衝撃は石突きが纏っている風が吸収しているらしく、殆ど手応えはない。

「何と言うか、微妙に困るな。デスサイズの性能でこれだけの貫通力があるのか、あるいはペネトレイトの効果なのか」

100kgを超える重量のデスサイズで、しかもレイはそれを軽く振り回せる。そして石突きの部分は尖っているというのを考えれば……ペネトレイトを使わなくても、木くらいなら普通に貫通出来そうだというのがレイの正直な感想だった。

ともあれ、突きの威力が増しているのは多分間違い無いだろうと判断し、最後の1個、フォレストパンサーの魔石を取り出す。

取り出した魔石は、何の躊躇いもなくセトへと放り投げ……

【セトは『パワークラッシュ Lv.2』のスキルを習得した】

そう、アナウンスメッセージが流れる。

それを聞き、微かに眉を顰めるレイ。

「本当なら光学迷彩かと思っていたんだけどな。……恐らくデスサイズで使っていればパワースラッシュを習得していただろうから、セトに吸収させたんだし」

「ふむ、だからこそセトにやった訳か」

左肩に止まったイエロにマジックポーチから取り出した干し肉を与えつつ頷くエレーナ。

パワースラッシュはレイも使えるが、意図してその反動を逃がさなければならない。

その点、セトは持ち前の身体能力もあり、派手なスキルではない為に使い勝手もいい。

それ故に、セトがパワークラッシュのスキルを習得するというのはレイにとっては歓迎すべきところだった。

「まぁ、パワークラッシュでもセトなら問題無く使いこなせるだろう。……セト、一応念の為に使い勝手を試してみてくれ」

「グルゥ」

レイの言葉に頷き、そのまま少し離れた場所にある岩へと近づき……

「グルルルルルゥッ!」

パワークラッシュのスキルを発動させて前足を叩きつける。

すると次の瞬間、セトと同じくらいの大きさを持つその岩は、あっさりと割れて破片が周囲へと飛び散った。

「さすがだな。もっとも、セト自身の膂力とかその他諸々も一緒になっているからこその威力だろうが」

「グルゥ?」

そう? とレイの前に戻ってきたセトが小首を傾げる。

それをそっと撫でてやりながら、折角だからということで森の中で買ってきたサンドイッチを広げて2人と2匹は食事とするのだった。

太陽が西に沈もうとしているのを見ながら、レイ達はエグジルの通りを黄金の風亭へと向かって進む。

結局はサンドイッチを食べた後、午後からも森の中で訓練やスキルの検証、あるいは久しぶりにエレーナとのゆっくりとした時間を過ごしていたのだ。

エレーナにしても、前日にヴィヘラに宣戦布告をされたのが何らかの影響を与えていたのは間違い無いだろう。

2人と2匹は屋台で買い食いをしながら進み、やがて宿へと到着する。

そうして宿の中に入ったレイを出迎えたのは……

「レイ、戻ってきたのね」

いつものように踊り子の如き格好をしたヴィヘラだった。

ただし、その表情にはどこか申し訳なさそうな表情が浮かんでいる。

その理由が、ヴィヘラの隣に立ってレイ達の方へと鋭い視線を向けている黒髪の男にあるのは明らかだった。