軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0477話

「キュッ!? キュキュキューッ!」

地下16階の階段や魔法陣のある小部屋へと転移した瞬間、セトの背中に乗っていたイエロが小さく悲鳴を上げる。

そうなった理由は地下16階に全体に広がっている、肉の腐った匂いが充満している為だろう。

普通の人間であれば微かに眉を顰めるだけで済むのだが、嗅覚の鋭いメンバーにとっては強烈な一撃だった。

それでも継承の祭壇があったダンジョンで同じようにアンデッドのいる階層を経験していたレイ、エレーナ、セトの2人と1匹はまだ何とか耐えられたのだが、初めてこの腐臭を嗅ぐイエロはその強烈な臭いに半ば混乱し、セトの背中に鼻を押しつけて何とか腐臭から逃れようとする。

「……イエロ、この腐臭を嫌うお前の気持ちも分かる。だが、ダンジョンを攻略する以上、避けては通れない道だ。まだ小さいお前にこう言うのもなんだが、慣れるんだ」

エレーナがイエロに言い聞かせている言葉を聞きながら、レイは周囲を警戒する。

(慣れるというか、鼻が麻痺して匂いを感じなくなるってのが正しいんだけどな)

そんな風に内心で考えつつ。

幸いレイ達が今いる地下16階は、砂漠の階層から打って変わって見慣れた感もある石造りの床が並んで通路を作り、壁が仄かに光っているような普通のダンジョンだ。

砂漠の階層のように広大な大地が広がっている訳でも無いので、自分達へと近づいてくる者がいれば気が付きやすい。

……そう、例えば今のように。

「グルルゥ」

イエロを背中に乗せたまま、その音を聞きつけたセトが喉を鳴らす。

「ああ、分かっている。エレーナ、早速のお客さんだ。歓迎の準備を」

セトへと言葉を返しつつ、レイはミスティリングからデスサイズを取り出して構える。

幸い、小部屋から出た場所からは真っ直ぐに通路が続いているので、前方だけに注意を向けながらエレーナを促すレイ。

その言葉を聞き、エレーナもまた連接剣を引き抜いていつでも対応出来るように構える。

カツ、カツ、カツ、カツ。

そんな、硬い何かが石畳を叩くような音が次第に近づき、やがて光っている壁の明かりでその正体がなんなのかが判明した。

「予想通りと言えば予想通りだな。……セト、頼む」

「グルゥ!」

姿を現したのは、3匹のスケルトン。その手に持っているのは錆びが浮いている剣や槍。

スケルトンとしては、一斉に襲いかかろうとしたのだろう。レイ達の姿が見えた瞬間に武器を構えようとして……

「グルルルルルルルゥッ!」

そんな声と共に、セトのクチバシから真っ赤に燃えさかった炎が吐き出される。

レベル3に至ったファイアブレスは、スケルトンを相手に圧倒的な攻撃力を見せた。

3匹のスケルトンが前に進もうにも、セトの口から放たれる炎はそれを許さない。いや、寧ろ1歩、2歩と炎の圧力に負けるかのように後方へと押しやられる。

それも、炎によってその身を焼かれながら、だ。

結局3匹のスケルトンは何らかの攻撃をするでもなく、ただ姿を現しただけでセトのファイアブレスによって骨の芯まで焦げて燃やされ、石畳の上へとその身が崩れ落ちる。

スケルトンの接近を察知してから30秒程の出来事であり、文字通りの意味で瞬殺であった。

「セトのファイアブレス、こうして見ると随分と威力が高くなっているな」

「キュ!」

エレーナが感心したように呟くと、それに同意するかのようにセトの攻撃の邪魔にならないようにとエレーナの左肩の上に移動していたイエロが鳴く。

そんな1人と1匹の称賛の声を聞きつつも、レイの口元に浮かんでいるのは苦笑だ。

「確かに威力も高いし、雑魚を一掃するには便利だ。けど、全てを燃やし尽くしてしまうから、素材や魔石を回収出来ないという欠点もあるんだよ。……まぁ、スケルトンに関してはゴブリンとかと同じように弱いモンスターだから、恐らくスキルを習得出来ないだろうが」

「そう言えば、以前潜った継承の祭壇のダンジョンでも結局スケルトンの魔石は入手出来なかったか」

「ああ。今と同じように魔石諸共燃やし尽くしていたからな」

チラリ、とレイは石畳の上に見える骨の燃えかすへと視線を向けて呟く。

周囲の気温はセトの放ったファイアブレスの効果によって若干上がっているのだが、レイにしろ、エレーナにしろ、全く堪えた様子は無い。

「グルゥ?」

駄目だった? と小首を傾げて尋ねてくるセトに、レイは問題無いと首を振って頭を撫でる。

「それよりも先を進もう。幸いここはそれ程複雑な道ではないから、寄り道をせずに真っ直ぐに進めば、そう時間を掛けずに地下への階段に到着する筈だ。……まぁ、その分敵も密集していそうだが」

砂漠の階層は、その環境も勿論だが広さの影響もあってモンスターと遭遇することは多くなかった。

もっとも、一面がオアシスだった地下15階に関しては話が別だったが。

だが、この地下16階は石畳や壁、天井によって道が決められており、広さという点においては砂漠の階層とは比ぶべくもない。

結果として、モンスターの密度はより高いものとなっていた。

「さて、この階層は早いところ攻略して次に行きたいところだな。確かアンデッドの階層は砂漠の階層みたいに何階層も連続していなかったよな?」

そうレイが尋ねると、エレーナは周囲に漂う腐臭に不愉快そうに眉を顰めつつも頷く。

「うむ。先の階層に何ヶ所かアンデッドが現れる階層はあるが、少なくても私達が今いる地下16階の次の階層は森になっている。……砂漠程に過ごしにくい訳でもなく、この階層のように匂いも気にする必要もないという、環境的にはかなりいい場所だ。……ただし、環境的に優れているだけに多種多様なモンスターがいるという話だがな」

「それでもここよりはいいさ」

スケルトンを倒した場所から離れるようにして歩き続け、10分程。小部屋から伸びていた1本道だったが、ようやく分かれ道が姿を現す。

周囲に人の影は無く、モンスターの影もない。ただ壁が仄かに光っているだけであり、同時にゾンビのようなアンデッドから漂ってくる腐臭が周囲へと染みついている。

さすがに暫くこの環境にいればイエロも臭いに慣れてきたのか、最初のような悲痛な鳴き声は上げていない。

「で、どっちの道だ?」

左右に分かれている道を見ながら尋ねてくるレイに、エレーナは地図を取り出して広げる。

幸いなことに、壁や天井、床が仄かに光っている為、特に地図を見づらいということもなく、進むべき道はすぐに分かった。

「左は小部屋が何ヶ所かある場所だが、最終的には行き止まりだな。奥に続いているのは右だ」

「なら右……あ、待て」

そこでふと既視感を覚えたレイは、すぐに砂漠の階層での出来事を思い出す。

岩砂漠の、サイクロプスとヴィヘラが戦っていた迷路でも似たようなやり取りをしたことを思い出したのだ。

そして、行き止まりの方へと向かって魔石を使ってスキルを習得したということも。

別にここで行き止まりの方へと行くつもりはない。現在手元にある吸収可能な魔石はサンドワームから素材の剥ぎ取りをした時、胃の中から発見されたデザート・リザードマンの死体から何とか取り出した魔石が1つだけなのだから。

あるいは、素材の剥ぎ取り依頼を明日にやる以上はそれまで待ってもよかったのかもしれないが、それでもダンジョンに潜っているのだから、やれることは全てやっておくべきだとレイは判断する。

(幸いここは別れ道の前で、それなりに広くなっている。壁や天上が明るいが、それでも遠くから見られる心配は無いだろうしな)

「セト、エレーナ、イエロ。ちょっと壁際まで移動してくれ。折角だから、魔石の吸収をやってしまおう」

「……ここで、か?」

突然のレイの言葉に、エレーナが思わず尋ね返すが、レイは小さく頷く。

「幸い、デザート・リザードマンの魔石が1個だけだからな。それなら数秒程度で済むし、通路の端の方に寄っていれば誰か来てもこっちの方が先に見つけることが出来る筈だ」

「それは確かにそうだが……いや、レイがそう判断したのならそれでいいか」

魔石を1つ吸収するのに数秒程度しか時間が掛からないと理解しているからだろう。エレーナは短く頷き、レイの言葉を了承する。

事実、魔石の吸収にはセトであれば飲み込むだけだし、デスサイズにいたっては切断するだけなのだから。

もっとも、魔石の吸収で最も時間を必要とするのは、習得したスキルの性能を確認するとところでもあるのだが。

そんなエレーナの疑問を理解したのか、レイは小さく肩を竦めて口を開く。

「スキルを試すにしても、1つ程度ならどうとでもなるだろ。幸い、この階層は色々な意味で人気の無い場所なんだから」

一瞬、レイの脳裏にダンジョン前の広場で炎の魔法や浄化魔法を使える魔法使いを探していたパーティが浮かんだが、すぐにそれは消え去る。

確かにあのパーティがやってくれば面倒だが、そもそもの話、魔法使いというのは非常に稀少な存在なのだ。探している時に、はいそうですかと出てくると考えるのはお気楽に過ぎる。

(まぁ、それを承知の上で魔法使いを探していたんだとしたら、あのパーティにとってどうしてもアンデッドのいる階層に潜る必要があったのかもしれないけどな。そうなれば、魔法使いがいない状態で無理に来る可能性もあるか? けど。それにしたってエレーナが言ってたように、アンデッドのいる階層はここ以外にもあるしな)

内心で考えを纏め、ともかく魔石の吸収をしてしまおうと壁の近くまで移動する。

「キュ?」

そんなレイやセトの後を、イエロとエレーナもまた同様に後を追う。

「さて、どっちが吸収するかだが……ま、デザート・リザードマンの魔石については明日以降にまた入手出来るのが確定しているんだし、難しく考える必要も無いか。セト」

「グルゥ?」

いいの? と小首を傾げるセトに頷くレイ。

そんなレイに様子に一瞬迷ったセトだったが、レイのミスティリングの中には自分の倒したデザート・リザードマンの死体が入っていると思い出したのだろう。差し出されたレイの手からクチバシで魔石を咥え、飲み込む。

【セトは『ウィンドアロー Lv.2』のスキルを習得した】

そして脳裏に流れるアナウンスメッセージ。

「ウィンドアローのレベル2か。まぁ、覚えられなかったかもしれないと考えると、既存のスキルが強化されたのは幸いと考えるべきだろうな」

「グルゥ……グル? グルルルルゥッ!」

レイの言葉に同意するかのように頷いたセトだったが、やがて周囲を見回し、警戒の鳴き声を上げる。

その鳴き声が出た瞬間。レイとエレーナも己の武器を手に持ち、イエロはそんな2人と1匹の邪魔をしないように翼を羽ばたかせてエレーナの肩から飛び立つ。

やがて耳に入ってきたのは、分かれ道の右の方から聞こえてくるガシャ、ガシャ、ガシャ、という金属音。

その音に、微かに眉を顰める。

スケルトンの歩くような軽い音ではなく、ゾンビが歩くようなベチャ、という思わず嫌悪感を抱くような音でもない。

「つまり……初めての敵だな」

これまでレイが戦ってきたアンデッドは、スケルトンとゾンビが主であり、今聞こえてくるような金属音を立てるようなモンスターではない。

「金属音となると、アンデッドではない可能性もあるのか」

レイの隣でエレーナが呟いた言葉に、意表を突かれたかのように振り向く。

この階層に現れるのはアンデッドばかりだと思い込んでいた為だ。

実際、前もってレイが集めた情報によるとこの地下16階ではアンデッド以外の敵が現れたという話は聞かない。

だが、それを覆す異常種という存在をレイ達は知っているし、何よりも前日に地下15階で会ったシルワ家の冒険者が異常種らしき姿をこの付近で見たと言っていたのを思い出す。

そんな思いでじっと通路の方へと視線を向けて待ち構えていると、やがて金属音が近づいてきて……壁や天井の明かりで、その姿が露わになる。

手にポール・アックスを持った、身長2m程のフルプレートメイル。それが現れた存在を見たレイの感じた第一印象だった。

「冒険者、か?」

一見すると冒険者のようにも見える、そんな相手。だが、すぐに目の前の相手から受ける違和感に気が付く。

生き物らしい雰囲気が全く感じられないのだ。

それを察すると、殆ど連鎖的に目の前のフルプレートメイルの正体に気が付く。

「リビングアーマーか!?」

リビングアーマー。それは鎧に死霊が宿ってモンスターとなった存在だ。宿った死霊や、宿られた鎧によってそのランクは異なるが、一般的にはランクDモンスター相当のものが多い。

討伐証明部位は、その鎧の体内にある魔石。普通のモンスターと違って心臓に埋め込まれている訳では無く、スケルトンのように体内……より正確には鎧の内部に存在している。

同時にそれこそがリビングアーマーの弱点でもある。

素材として手に入れる物は討伐証明部位でもある魔石程度ではあるが、リビングアーマーや使用している武器そのものが魔力が宿ったマジックアイテムとしてそれなりに高い価値を持つ。

ただし、リビングアーマーによっては呪われていることもあるので、使用する前には知識のある鍛冶師や錬金術師といったものに調べて貰うのが一般的。

また、呪われているマジックアイテムにしても、その呪いを解いたり、薄めて他のマジックアイテムを作る際の素材にしたりも出来る。

そんなリビングアーマーが1匹、レイ達の前に姿を現した。