軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0467話

「……セト、使うなら使うで使用前に教えてくれ」

青と緑の斑模様という、とても食べられるようには見えない人の頭程の大きさの果実を受け止めたレイが、近寄ってくるセトへと向けてそう告げる。

「グルゥ?」

駄目だったの? と小首を傾げるセトに、その様子を見ていたエレーナは小さく笑みを漏らす。

「まぁ、問題は無かったから構わないだろう。別にその果実がレイの頭部に命中した訳でもないし。……もっとも、受け止め損ねていればどうなっていたか分からんがな」

「この固さのものが頭に落ちてくれば、相当なダメージを受けるぞ」

青と緑の斑模様をしている果実の固さを確認するように軽く手の甲で叩いてみるが、そこから返ってくるのはコンコンとした音であり、とてもリンゴや梨、メロンやミカンといった、レイの知っている果物の感触とは違う。

「これなら、別に受け止める必要も無かったな」

かなりの固さのそれは、5m程の高さから地面に落ちても割れるようなことはまず無いと思われた。

更にレイ達がいるのはオアシスであり、地面は砂である以上余計に割れるような心配は無用だっただろう。

「このくらいの固さなら、いっそ武器にでも使えそうな感じがするな。で、どうやって食べるんだ?」

「単純に刃物で割るらしい。打撃武器の類で割るという手段もあるが、それだと中の実も食べられるようなものじゃなくなるらしいからな」

「グルゥ!」

早く食べよう! と喉を鳴らすセトに、小さく溜息を吐いたレイはミスティリングの中から1本のナイフを取り出す。

勿論数々のモンスターの死体を切り裂いてきた素材剥ぎ取り用のナイフ……ではない。

レイにしても、さすがにそれらの用途につかったナイフで自らの口に入れる果物を切り分けたくないという思いはあったのだろう。

そのまま刃を果実へと触れさせるが、予想以上の固さに軽く入れた力では切り分けることが出来ない。

「本気で固いな」

「ああ。話によると、この外側の部分を使った防具というのもあるらしいからな」

「武器じゃなくて防具か、どんな果実だよ一体。……ふっ!」

呆れたように呟き、そのまま力を入れつつ素早くナイフを振るう。

固い殻に身を包んでいる果実にしても、さすがにレイが半ば本気でナイフを振るえばそれに耐えられる筈も無く、真ん中で綺麗に2つに分けられる。

同時に周囲へと漂う甘い香り。

外見は青と緑の斑模様だったが、その中身はオレンジ色の果肉がみっしりと詰まっている。

「へぇ。……外見は色々と問題あったけど、これはなかなか」

呟き、そっと手を伸ばしてオレンジ色の果肉を指ですくい取って口へと運ぶ。

甘みを凝縮したような濃厚な味。それでいながら、甘すぎるということもなく後味も悪くない。

口の中で解けるように消える不思議な食感を残したその果物は、確かに高額で買い取ると言われれば納得出来るものだった。

味としては、マンゴーを凝縮させたような味と表現するのが正しいだろう。

少なくても、レイが日本にいた時にお裾分けとして貰ったマンゴーはこの味に遠く及ばないものだった。

その後味を存分に堪能し、割った半分の実の片方をセトへと、そして残った半分を再びナイフで切り分けてエレーナへと渡す。

クチバシで啄むようにして食べているセトを横目に、レイとエレーナはナイフで一口程の大きさに切り分けた果物を味わいながら口へと運ぶ。

エレーナも切り分けた果実を口に入れると驚くように目を見開き、美味い、とレイに目で告げる。

そのまま数分程、2人と1匹は無言で食べ続け、やがて実が無くなる頃には満足しつつ、どこか物足りない感じがしながらも一応の満足感を得ていた。

「ふぅ、美味かったな」

「ああ。私も色々と高級な果実を食べる機会はあったが、これ程のものはそうそう無いぞ。さすがにダンジョン産と言うべきだろうな」

「……そう言えば、この前パン屋で買って食べたパンもダンジョン産の材料を使ってるとか言ってたな」

エレーナの言葉に、レイは果実が残ったままのジャムと蜂蜜がたっぷりと掛けられていたパンを思い出す。

「そう言えばそうだったな。……さすがに迷宮都市だけあって、この手の店は多いのだろう。後で改めて街中を探して回るのも面白いかもしれないな」

「グルルルゥ」

そんなエレーナの言葉に、セトは賛成! とばかりに喉を鳴らす。

「果実に関しても出来ればもう何個か確保しておきたいな。幸い、悪くなりやすくても俺にはこれがあるし」

ドラゴンローブの下から右手に嵌まっているミスティリングを出すレイ。

それに笑みを浮かべてエレーナが頷き掛けた、その時。

「グルルルルゥ……」

セトの喉が鳴らされる。

その鳴き声は、つい数秒前の嬉しげなものではない。周囲を警戒する声だ。

同時に、地を揺らすような振動音と共に、木が折れる音が周囲へと響く。

「……まさかサイクロプスだったりしないだろうな?」

「さすがにそれはないと思うが、もしそうだとしたら何か問題でもあるのか?」

「いや、全く」

連接剣を引き抜いて構えているエレーナとそんなやり取りをしながら、レイはミスティリングからデスサイズを取り出す。

セトも、いつでも攻撃を仕掛けられるように準備を整えて待っていると、やがて姿を現したのはサイクロプス……にはとても見えない相手だった。

一言で現すのなら、体高3m程もある巨大な赤いカニというのが正確なところだろう。

勿論モンスターである以上は色々と普通のカニとは違うところもある。1mはあろうかというハサミが左右2本ずつの合計4本生えていたり、鋭い牙の生えている口や尻尾も存在していた。

特にその尻尾は身体を覆っているものと同じ甲殻に包まれており、尻尾というよりは三節根、五節根といったような多関節の武器のようにすら見える。

いや、事実そのような使用方法をしているのだろう。

今も、木々を折りながら目の前に現れたレイ達へと視線を向けつつ、その尾を振り下ろす隙を狙うかのようにハサミ共々ユラユラと揺らしているのだから。

そんなカニへと視線を向けつつ、レイはエレーナに尋ねる。

「あのモンスターは確か以前プレアデスから聞いたよな? アースクラブだったか」

「ああ。砂漠に住むカニのモンスターだ。ランクC。この辺では中堅どころといったところか。……だが、私が聞いた話によれば2m程度の大きさと聞いていたのだがな。ここまで大きいのがいるとは、ちょっと予想外だった」

しみじみと呟くエレーナだったが、それとは反対にレイは何故か嬉しそうな表情を浮かべて目の前にいる巨大なカニへと視線を向けている。

「個人的にはカニよりもエビ派なんだけど、別にカニが嫌いって訳じゃない」

「グルルルゥ?」

そんなレイに、美味しいの? とでもいうように喉を鳴らすセト。

「ああ。カニはカニで美味い。特にカニ味噌の類は最高だな。……エビの方が好きだが」

日本では一般的にカニとエビではカニの方が人気がある。だが、レイの場合はカニが嫌いな訳では無いが、プリプリとした食感を持つエビの方を好んでいた。

「ともあれ、このモンスターを倒せばカニ肉が待っている。特にあのハサミの大きさを考えれば、かなり身が詰まっているだろう。セト、美味い食事のために頑張るとするか」

「グルルゥ!」

レイの言葉に乗せられるかのように鋭く吠え、その瞬間にアースクラブの胴体から伸びている目玉へと衝撃波が走る。

予備動作無しという特性を使って先制攻撃を放ったセトに多少驚きつつも、レイとエレーナは早速とばかりに目の前の巨大なカニへと襲いかかっていく。

「飛斬!」

衝撃の魔眼に続くようにして放たれた斬撃だったが、その一撃はアースクラブの振るう右の巨大なハサミとぶつかり合う。

だが、一瞬動きが拮抗した次の瞬間には振るわれたハサミと飛斬の両方が弾け合い、ハサミの甲殻には微かであるがヒビが入り、同時に飛斬は消滅した。

「ちっ、固いな。レベル3になった飛斬でもヒビが精一杯か」

吐き捨てながら後方へと跳躍する。

何故追撃を行わずに後方へと退いたかというのは、すぐに明らかになった。自らのハサミにヒビを入れた相手へと追撃を行おうとしたアースクラブだったが、それを遮るようにして右から何かが空を裂くかのような速度と鋭さをもって襲い掛かったのだ。

その正体の、鞭状になった連接剣の剣先がアースクラブのハサミの下に生えている足を数本切断することに成功する。

同じ甲殻でも、攻撃に使うハサミと移動に使う足ではその硬さは大きく違っていたのだろう。

自らの攻撃が失敗に終わった瞬間、敵の注意を引きつけたのを逆に利用して自分に意識を集中させ、その隙を突くかのようにエレーナが横からの攻撃を成功させる。

そして、レイのパーティにいるのはエレーナだけではない。もう1匹……

「グルルルルルゥッ!」

いつの間にか地を蹴り、上空へと移動していたセトが雄叫びを上げながら一条の槍であるのかのような速度で降ってきた。

その速度と、自らの体重、マジックアイテムの剛力の腕輪の効果で振るわれた前足の一撃は、連接剣の攻撃により足の数本を切断されてバランスを崩したアースクラブへと叩きつけられ……それを何とか防ごうとして反射的に上げたヒビの入ったハサミの甲殻を砕き、それでも威力を殺すことが出来ずに、3m程の体躯を持つアースクラブを吹き飛ばす。

「シャアアアアァァァアァアッ!」

牙の生えている口から漏れたとは思えないような声を上げつつ吹き飛び、数本の木々へと当たるが、それでも威力を殺せずに木々を折ながら吹き飛び……その姿は高い水柱を立てながらオアシスへと落ち、沈んでいく。

その様子に武器を構えたレイとエレーナ、そしていつでも再び攻撃へと移れるセトがアースクラブの落ちたオアシスを警戒するように眺める。

……が、30秒程が経過しても水面が揺れているばかりであり、アースクラブが姿を現す様子は無い。

「倒したのか?」

思わず、といった様子で呟いたエレーナの言葉に、横でそれを聞いていたレイは警戒を崩さぬままに首を横に振る。

「まさか。さっきの攻撃で破壊したのはあくまでもハサミ、それも1本だけだろ。他にも3本ハサミを持っているんだし、身体本体にはダメージを与えていない。……まぁ、セトの一撃はかなり強力だったから甲殻を壊した衝撃が身体にまで及んでいたかもしれないが」

レイがそう言葉を返した、その瞬間。再びオアシスから水柱が上がる。それも今度は1度だけでは無い。2度、3度、4度と続けてだ。

予想外の光景に何が起きても対応出来るように武器を構えた2人と、いつでも攻撃が可能なように身を沈めるセト。

そんな2人と1匹の視線の先では、未だに止まずに水柱が上がり続けている。

そして次の瞬間。今まで見ていて水柱とは全く違う、崩れた水柱とでも呼ぶべき水柱が上がり、何かが水中から吹き飛ばされた。

丁度レイ達の真上を通り過ぎるようにして吹き飛ばされたその物体は、そのまま数度程バウンドした後で地面を削りつつ移動し、木へとぶつかってその動きを止める。

自分達の上空を飛んでいった一瞬でレイ、エレーナ、セトはその姿形を捕らえていた。

そして木にぶつかって動きを止めた存在へと改めて視線を向ける。それは……

「ワニ、か?」

前方に伸びている長い口に、身体には鱗、そして胴体からは尻尾。ただし、その大きさは口の先から尾の先端までを入れても2mに届かない程度の大きさだ。

その物体を見て最初にレイの口から出た言葉がそれだった。

勿論ダンジョンに生息している以上はただのワニでは無いだろう。事実、濃い血の臭いが漂っていてピクリとも動かないそのワニは、手足が魚のヒレのような形になっており、レイが知っているワニのように地上で行動するのはまず無理なように見えた。

「ワニというのは、気温の高いジャングルの中にいるという?」

「ああ。もっとも、このワニはどう見ても普通のワニじゃなくてモンスターだけどな。恐らくプレアデスが言っていたブラッディー・ダイルだろう」

「……なるほど。水を飲んで油断している相手を襲うから気をつけろと言っていた奴か」

「恐らくは。しかも、このオアシスにいるのは1匹や2匹じゃないな」

エレーナと言葉を交わしつつ、オアシスへと視線を向けるレイ。

そこでは未だに幾つもの水柱が上がっては、時々ブラッディー・ダイルが吹き飛ばされては地上へと放り出される。

吹き飛んだブラッディー・ダイルを調べると、身体に大きな噛み傷が存在しており、胴体を守っている鱗諸共に内臓が食い千切られているものや、身体の中央に拳大の穴が空いているものもいる。

「どうする?」

「別にどうもしないさ。折角アースクラブが自分からダメージを受けてくれてるんだから、上がってくるまでここで待つ。……いや、やるべきことはあったな」

呟き、視線が向けられた先にあるのはブラッディー・ダイルの死体。その数は既に5匹を超えており、今も又再び水柱が上がって空中へと放り出され、地面に叩きつけられる。

レイは漁夫の利とばかりにその死体へと手を触れてミスティリングに収納し、あるいは生きている時はデスサイズで命を刈りとっていくのだった。