軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0443話

「こうして歩いてみると、地下11階に比べてかなり歩きやすいな」

呟き、何度も足を下ろして地面の感触を確かめるレイ。

地下11階の砂漠とは違いしっかりとした地面となっている。

足に砂が絡んでくることもなければ、砂に足が沈むといったこともない。

「確かにな。歩きやすさだけで言えば圧倒的にこちらが上だろう」

「グルルゥ」

エレーナもまた外套を被ったまま地面の感触を確かめ、セトも同意見だとばかりに短く鳴く。

少し早めの昼食を食べ終わり、早速とばかりに地下12階の探索を始めて10分程。

最初は小部屋の周辺だけに地面が踏み固められて歩きやすいのかとばかり思っていたのだが、こうして岩石砂漠を歩いていると、地下11階の砂の砂漠との違いに驚くことになる。

「もっとも歩きやすいということは、モンスターにとっても移動がしやすいということになるのだろうが」

「確かにその辺の注意は必要だろうな。セト、索敵は念入りに頼む」

「グルゥ!」

レイの言葉に鋭く鳴き声を上げ、周囲を見回しながら歩を進める。

そんな偵察役のセトを先頭に、その後を続くようにして進んでいくレイとエレーナ。

そのまま1時間程進み続け……

「ここまで何も無いというのは……おかしくないか?」

「ああ。この階層ではこれが普通なのか、あるいは何らかの異常があるのか。……さて、どっちだろうな」

地上にはモンスターの影すらも見えず、周囲を見回したその瞬間。

「グルルルルゥッ!」

セトの警戒を促す鋭い鳴き声が周囲に響き渡る。

咄嗟にレイはミスティリングからデスサイズを、エレーナは鞘から連接剣を抜いて構えるが、どこにも敵の姿はない。

だが、セトが警戒を解く様子はなく、レイとエレーナもまた自分達に近づいてくる何者かに気がついていた。

「上かっ!」

自らに向けられている獰猛とすら言える殺気を感じ取ったレイは、真上に向けてデスサイズを振るう。

空気そのものを斬り裂くかのような一撃だったが、その武器の危険性を察知したのだろう。レイの真上から雷の如く降ってきたそのモンスターは威嚇の声を上げながらその場で反転。再び上空へと舞い上がっていく。

「シャアアアアアアアアッ!」

その時になって、ようやくレイ達は襲ってきたモンスターの姿を確認することが出来た。

体長2mを超える長さの胴体を持つ蛇。ただしその胴体からは左右1対ずつ3ヶ所に羽が生えている。

鳥の持つ翼ではなく、コウモリが持っているような羽。

レイの脳裏にプレアデスから聞いた情報が浮かび上がる。

「確か……スカイファング!」

その言葉に応えるかのように空中で身を翻し、30cm程もある牙を剥き出しにして威嚇の叫びをあげるモンスターに、思わず納得の表情が浮かぶ。

プレアデスから聞いた話では、地下12階のモンスターの中でも強さはともかく凶暴さは間違いなくトップクラスだと聞いていたからだ。

幾ら食べても常に飢えており、それ故に目に付いたもの全てに食らいつく凶暴さは、地下15階までの砂漠階層全てに出てくるモンスターの中でも危険度は上位に位置すると。

「こんな奴がいれば、確かにこの周辺に他のモンスターがいないのも当然だろうな」

自分よりも巨大な敵にすら食らいつく凶暴さを持つモンスターだ。他のモンスターはスカイファングの姿を見た時点でこの一帯から逃げ出したのだろうと、容易に想像が出来る。

だが、空を舞う大蛇、スカイファングの致命的とも言えるミスは、自らの飢えに耐えられずにレイ達に……より正確には空飛ぶ死神とも言われているグリフォンのセトへと襲いかかったことだろう。

「グルルルルルゥッ!」

雄叫びを上げつつ、数歩の助走で翼を羽ばたかせながら上空へと舞い上がっていくセト。

そんなセトを迎え撃つかのように、スカイファングは巨大な牙を剥き出しにしてセトへと狙いを付ける。

飢餓感により相手が自らよりも格上のモンスターであるというのは、頭では理解しつつも既に身体を止めることは出来ない。いや、寧ろ自分よりも大きいモンスターである以上は食い応えがあるだろうと判断し、6枚の羽を羽ばたかせて空中で身をくねらせつつセトへと向かって襲いかかる。……否、襲いかかろうとした。

「飛斬っ!」

「はあああぁっ!」

その機先を制するかのように、地上から放たれた飛ぶ斬撃と、魔力を流され鞭状になった連接剣が襲い掛かってくるまでは。

レイにしろ、エレーナにしろ、基本的には前衛ではあるが魔法や連接剣、あるいはそれ以外の武器で遠距離での攻撃手段は幾らでもある。

これまでスカイファングが襲い、食らってきた相手は遠距離攻撃の手段と言えば、精々が弓矢や短剣の投擲くらいであり、それならば自慢の鱗で防ぐのは難しく無い。

当然この階層は魔法使いや、腕利きの戦士や弓術士といった面々が入ったパーティもいたのだが、このスカイファングはそうした者達と戦うことは無かった。

もっとも、そのような相手と戦っていれば既に生き残ってはいなかっただろうが。

「シャッ、シャアアアアアアッ!」

襲いかかろうとした機先を制するかのように目と鼻の先を飛斬で放たれた斬撃が通り過ぎ、反射的に羽を使って背後へと下がりそうになる。だが、それを妨げるように鞭状に変化した連接剣がスカイファングの背後の空間を斬り裂いて逃げ場を奪う。

そうして、前にも後ろにも逃げられなくなったスカイファングだったが……突然何かに殴りつけられたかのように、空中から地面へと叩きつけられ、強烈にその身体を打ち付ける。

突然の出来事に何が起きたか分からず、衝撃と痛みで呻いているスカイファングだったが、次の瞬間には再び見えない何かから叩きつけられるような一撃を食らい、そのまま頭部を砕かれ、絶命する。

凶悪さでは砂漠の階層でもトップクラスと言われていたスカイファングだったが、為す術も無くその命を絶った。

何がそれを行ったのかは、すぐに明らかになる。数秒後にスカイファングの頭部へと右の前足を振り下ろした状態のセトの姿が現れたのだ。

セトの持つスキル、光学迷彩による奇襲だった。

レイの飛斬に驚き、セトから目を離して思わず後退したその瞬間に光学迷彩を使用し、相手よりも高所へと移動。連接剣の一撃で逃げ場を失い、一瞬だが混乱したスカイファングの頭部目がけてセトの一撃が振り下ろされて地面に叩きつけられ……更にとばかりに降下速度の威力が乗った前足の一撃が再び放たれたのだ。

「敵の目から見えなくなるというのは凄いな」

「そう言えばエレーナは見るのが初めてだったか? 光学迷彩ってスキルだ。ただ、消えていられる時間が短いという欠点もあるんだけどな」

「だが……それでも、これ程の威力を誇るのであれば、いざという時の切り札になるのは間違いない」

エグジルへと向かっている途中で盗賊に襲われた時には光学迷彩を使って多くの盗賊を殺したのだが、その時はレイやエレーナ達とは離れた場所での行動だったが故に、実際に光学迷彩を使った戦闘をエレーナが見るのは、これが初めてだった。

「まぁ、消えるのがこれ程脅威になるのはセトが使っているからこそだろうが」

「確かに」

しみじみと呟くエレーナの言葉に、レイが頷く。

例え透明になったとしても、一撃で敵に致命的とすらいえるダメージを与えることが可能なセトだからこそ、そのスキルは脅威なのだ。もしこれがゴブリン辺りが透明になったとしても、多少は脅威を覚えるだろうが、それはあくまでも多少の域でしかない。

「グルゥ!」

そんなエレーナの言葉に、自分が褒められていると分かったのだろう。凄いでしょ! とばかりに胸を張って喉を鳴らすセト。

だが、その右前足にはスカイファングの頭部を砕いたことによる血や肉片、脳の一部が付着しており、とてもではないが今のセトを見て普通の人が可愛いとは言えない有様だったが……

「ああ、セトは凄いな。イエロもセトのように成長して欲しいものだ」

幾多の戦場を潜り抜けてきたエレーナにとって血がついている程度では特に驚く様子も見せず、そっとセトの頭を撫でる。

そんな様子に笑みを浮かべていたレイだったが、周囲に漂っている血の臭いに他のモンスターが集まってくる前にと、頭部を失ったスカイファングの死体に触れてミスティリングの中へと収納する。

続いて周囲を見回し、地面に落ちている特徴的な牙を見つけるも、セトの前足が直撃した為か半分程に折れており、とても素材として売れるような状態では無い。

(地面に叩きつけられた割には羽や蛇皮に殆ど傷が付いていなかっただけでもよしとするか)

スカイファングの羽は錬金術の素材や薬の材料に、蛇皮はレザーアーマーやマント、あるいは装飾品の類にも使われる。

内臓には牙を通して敵に送り込む毒袋があり、肉はあまり美味くはないのだが、薬の材料としてはそれなりに需要がある。

魔石不足が深刻になってきている今、魔石も当然高く売れるのだが……レイは魔獣術として使う為に自分で使う気満々だった。

討伐証明部位の尾の先端に関しても、特に傷が付いている様子もないので換金は可能だろう。

総じて、多くの素材が取れ、魔石や凶暴さ故に他のモンスターよりも若干ではあるが高値で引き取って貰える討伐証明部位も持つスカイファングは、倒せるのなら金額的にはかなり美味しいモンスターでもあった。

難点と言えば、その凶暴さ故に周辺のスカイファングよりもランクが低いモンスターが逃げ出して姿を消すことだろう。

「で、道はこっちでいいんだよな?」

岩石砂漠であるが故に目印になる場所は地図にも多く描かれている。

地図の見方だけで考えるのなら、地下11階よりもかなり分かりやすいと言えるだろう。

「うむ、あそこにあるトライデントのような形をしている岩山がここにあるから、このまま真っ直ぐ向かうので間違っていない。そうすれば竜岩と呼ばれている岩に行き当たるので、そこを右に曲がって真っ直ぐ進めば地下13階に降りる階段がある筈だ」

マジックポーチから取り出した地図を見ながら告げるエレーナに頷き、新たなモンスターが出てこないうちにと再び歩みを開始する。

地面が固い分歩きやすいのだが、それでも強烈な日光に関しては本物の太陽では無いと思えない程の熱量を発して地上の温度を上げていた。

ドラゴンローブや外套があるからこそレイやエレーナも普通に進み続けることが出来ているのだが、もし前もって何の用意もしていない者がこの階層に挑戦すれば、脱水症状や日焼けでまともに動くことすら出来なくなるだろう。

(まぁ、腕利きの冒険者と一緒に転移して途中の階層を飛ばす……とかが出来ない以上、この階層に来る冒険者は当然地下11階の砂漠をクリアしてきてる訳だから、何の準備もしないで来る奴はいないか。……もしいるとすれば、そいつは上の砂漠も何の準備もなしで突破してきたってことになるしな)

そんな風に考えつつ、あるいはドワーフや獣人のような身体が頑丈で高い体力を持つ種族なら可能かもしれないとも思う。

「岩は……まだ見えないか」

岩石砂漠の地を歩きながら呟くエレーナの言葉に、レイもふと我に返り周囲を見回す。

スカイファングの襲撃があった場所から歩き続けて30分程。

地図に載っている目印となる竜岩と呼ばれる岩の姿はまだどこにもなく、上を見ればスカイファングへの対策に上空で周囲の警戒をしているセトの姿があるのみだ。

それ以外はただひたすらに岩石砂漠が広がっている中を歩き続ける。

「こうして見ると、あのスカイファングの縄張りはかなり広かったらしいな」

そう呟くレイの言葉に、エレーナもまた頷く。

「セトは呆気なく倒したが、スカイファングはランクDでそれなりに強力なモンスターだし、何よりもその凶悪性は他のモンスターと比べても別格と言ってもいい。そんなモンスターが縄張りとしていた地域だけに、他のモンスターに襲撃されないというのは楽でいいな。……魔石を求めているレイにしてみれば、あまり歓迎できる事態じゃないだろうが」

「グルルルルゥッ!」

エレーナのその言葉が合図だったかのように、上空を飛んでいるセトから警戒の鳴き声が聞こえてくる。

「言った側からこれか」

自分の言葉が敵を招いた、とでも言いたげなエレーナにレイは首を横に振る。

「気にするな、単純にスカイファングの縄張りから出ただけだろ」

ミスティリングからデスサイズを取り出しながらレイが告げ……だが、敵が襲ってくる様子は無い。

「レイ! あそこだ!」

最初にその光景を見つけたのはエレーナ。その視線の先には、体長4mを超える巨大な蜘蛛と戦っている数名の冒険者の姿がある。

それ以外に地面に倒れ伏している冒険者も数名おり、見るからに苦戦している様子だった。

戦っている者達も見るからにダメージが蓄積しており、このまま放っておけば間違いなく全滅するだろう。

その様子を見て、一瞬で決断する。

冒険者を助けるというのもあるが、未知のモンスターの魔石を逃すのは惜しいという理由で。

「行くか?」

「ああ」

レイの問いかけにエレーナが頷き、そのまま2人は戦いの現場へと向かって走って行く。

セトもまた上空で翼を羽ばたき、後を追うのだった。