軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0377話

馬に乗った盗賊のうち、3人程を残して全てを片付けた後に背後から掛けられた声。

その声に振り向くと、そこにいたのは先程擦れ違った商隊の先頭の馬車で御者をやっていた男だった。

「お前達は……わざわざ戻って来たのか? また、物好きな奴だな」

普通であれば、自分達を襲ってきた盗賊を押しつけた相手に対して――レイ達が自ら望んで押しつけられたのだとしても――その様子を気にして戻って来るようなことはしないだろう。

だが、目の前にいる御者の男はわざわざ戻って来たのだ。その馬鹿正直さに、呆れればいいのか、あるいは感心すればいいのかと悩んでいると、当然の如くその隙を突いて盗賊の男達はその場から逃げようとする。

乗っていた馬はまだ動けない状態なのを見てとり、馬の上から飛び下りて逃げ出そうとしたのだが……

斬っ!

先頭を走ろうとした男のすぐ足下がデスサイズの飛斬によって放たれた斬撃により斬り裂かれ、思わず足を止める。

「逃げるな、お前達にはまだ聞きたいことがある。最低限、それが済むまでは生かしておいてやるよ」

「……ひっ、ひぃっ!」

飛ぶ斬撃、盗賊にとっては風の魔法にしか見えないその一撃に息を呑む。

「グルルゥ」

そして、セトが喉を鳴らしながら近寄って来たのを見た瞬間、恐怖のあまり3人共が腰を抜かして地面へと座り込むのだった。

その様子を見ていた御者の男が感心したように呟く。

「あんたらが心配で戻って来たんだけど、余計な心配だったようだな。……まさか、グリフォンを連れているとは思いもしなかった」

御者の男はセトに驚き、若干頬を引き攣らせつつもそう口にする。

だが、レイとエレーナの援軍として連れてきた3人の冒険者は、セトの姿を見て驚愕で身体が固まっていた。

「セトについては、恐れる必要は無い。敵対しなければ、自分から攻撃を仕掛けることは無いからな」

「その、あのグリフォンは一体?」

「レイの……あそこにいる大鎌を持った冒険者の従魔だ」

事も無げに呟くエレーナの言葉を聞き、御者の男は何かに気が付いたかのように目を見開いてレイとセトへと視線を向ける。

「グリフォンを従えている大鎌を持った冒険者……じゃあ、あの子供……いえ、彼がベスティア帝国との戦争で異名を付けられた深紅だと?」

「ああ、そうなるな。……まぁ、その辺の話はちょっと待ってくれ。今はそれよりも先にやるべきことがある」

「え、ええ」

エレーナの言葉に頷きつつも、御者の男は再び何かを思い出したかのように目を見開く。

その視線が向けられているのは、太陽の下でこそ映える黄金の髪とエレーナの美貌。そして、腰の鞘。鞘に収まっているのが噂に聞いた物だとすれば、あるいは……その視線でエレーナは男が自分の正体に気が付いたのを知る。

そもそも、エレーナは貴族派の顔でもある姫将軍として戦勝パレードを初めとした表舞台に幾度も出ているのだから、その顔を知っている者がいたとしてもおかしくはない。ただでさえ1度見れば決して忘れられない程の美貌を持っているのだから。

だが、何かを告げようとした御者の機先を制するかのようにエレーナは口を開く。

「私は旅の途中の冒険者だ。……いいな?」

念を押すかのようなその口調に、御者の男は口から出そうとした言葉を呑み込む。

そんなやり取りをしている2人を眺めていたレイだったが、やがて視線の先に30人程の人の集団を見つける。もっとも、レイの視力であったからこそ見つけられた距離であり、何となくここに近づいて来ている気配を感じ取っているエレーナと、レイ以上に鋭い五感を持っているセト以外は全く気が付いていなかったのだが。

「セト、このまま盗賊を野放しにするのは色々と不味いだろうから片付けてきてくれ」

「グルルゥッ!」

レイのそんな呼び掛けに、セトは任せてとばかりに喉を鳴らして数歩の助走の後に翼を羽ばたかせて空へと舞い上がっていく。

御者と冒険者達は唖然とその様子を見上げていたが、レイはそれに構わずに生き残っている盗賊へと声を掛ける。

「さて、早速だがまずはこれから行こうか。お前達の盗賊団は全部でどれくらいいる? ここにいる騎馬兵……というのはちょっと勿体ないが、馬に乗ってる奴等の他だ」

「そ、それは……」

「こっちに向かっている盗賊が30人くらいいるのは分かっている。その処理をお前達も見ていたようにセトに任せたしな。だから、俺が聞きたいのはそれ以外だ。それとアジトの場所」

「な、仲間を売れるか!」

レイの質問に言い淀んだ男とは別の男がそう叫ぶ。

グリフォンのセトがいなくなった為に多少気を取り直したのだろう。

呆れたようにそう判断したレイは、持っていたデスサイズの柄を手の中でクルリと返し、その巨大な刃を男の首へと突きつける。

……そう。仲間を売れないと言った男ではなく、最初に言い淀んだ男の首に。

「……ひ、ひぃっ!」

最初の数秒は自分がどんな状態になっているのかというのに全く気が付かなかった男だったが、自分の顎の下に巨大な刃があるのを目だけで確認すると、思わず口から悲鳴を漏らす。

「下手に動くなよ。動いたらこのデスサイズの斬れ味だとスパッと首が飛ぶぞ」

「あ、ああ。分かった……分かったから、とにかくこれをどけてくれ!」

「いや、残念だがお前には見せしめになって貰う。残り2人は中々に頑固そうだが、それでもお前が痛めつけられているのを見れば気持ちも変わるだろ」

呟き、ほんの少しだけデスサイズを動かして男の喉に刃を触れさせ、薄らとした傷を付ける。

そんな小さな斬り傷でも、喉から血が流れているのが分かったのだろう。男は頬を引き攣らせながらも、助けを請うように仲間2人へと視線を向ける。

だが、それでも仲間は売れないと考えているのか、残り2人の男は黙り込む。

もっとも、最初に仲間を売れないと告げた男はレイを睨みつけ、もう片方はそっと視線を逸らすといった風にだったが。

その様子を見ていたレイは、刃を突きつけている男へ聞こえるようにそっと囁く。

「どうやら、あの2人はお前を見捨てる決断をしたらしいな。残念だが、お前には痛めつけられる見本になって貰おうか。指を全て失い、腕を失い、足を失い、鼻を削って目玉を抉り、舌を切断……そんな風になったお前を見れば、さすがにあの2人も素直になってくれるだろうし」

盗賊として暮らしてきた男でも背筋が凍るようなことを告げられ、男の額には冷や汗が滲み出て、恐怖のあまり歯がカチカチと音を鳴らす。

(もう一押し……だな)

自分が命を握っている男の様子を見て、最後の仕上げとばかりにミスティリングから短剣を取り出し……デスサイズの刃を突きつけている男の足の甲目掛けて投擲する。

レイとしては直接突き刺すことでより恐怖心を煽りたかったのだが、今の体勢では短剣を直接突き刺すような真似は出来なかった為だ。

「ぎゃあああああっ!」

突然靴を貫いて足の甲に短剣が突き刺さり、男は激痛に叫ぶ。

それでも身体を動かさなかったのは、やはり喉に突きつけられているデスサイズの刃があったからこそだろう。

実際には、もし男が動いた時の為にいつでも刃を引けるようにレイも準備をしていたのだが。

「痛ぇ、痛ぇ……くそ、何で俺がこんな目に……くそっ!」

「お前の仲間が情報を教えないからだろ? 残念だよ、俺としても他人を痛めつけて喜ぶような性癖は持っていないんだが。……今のは右足だったから、次は左足だな」

呟き、ミスティリングから取り出した短剣の刃をそっと見せつける。

その瞬間……

「分かった! 俺が言う! こいつ等の代わりに、俺が情報を教えるから止めてくれ!」

「おいっ! 仲間を売る気か!?」

思わずといった様子で叫んだ仲間に、レイにデスサイズを突きつけられている男はふざけるなとばかりに怒鳴りつける。

「俺が痛めつけられているのを黙って見ていた癖に、今更そんなことを言うなよ!」

「違う! そいつは最初からお前を……」

そう叫び掛けた男の鳩尾へと、デスサイズの石突きが叩き込まれる。

最大限に力を加減していた為か、石突きが鳩尾を貫いて男の命を奪うようなことはなかったが、それでも男は意識を保っていられずに地面へと崩れ落ちる。

残る最後の男は、何を言うでも無くただ震えてその様子を見ているだけだった。

そんな状況に一番驚いたのは、つい先程までレイに痛めつけられていた男だっただろう。何しろ、一瞬前まで自分の首元に刃を突きつけていた筈の大鎌がふと気が付けば消えており、石突きの部分で仲間の鳩尾を突いていたのだから。

本当に何が起きたのか全く分からず、改めて自分が襲ってはいけない相手を襲ってしまったことに後悔の念を抱きつつも、レイの尋問に答えていく。

尚、エレーナを含めその場にいた全員が尋問の様子を見ていたが、特に何を言うでも無く男の話を聞いていた。

その場にいる者達にしてみれば、盗賊であると言うだけで問答無用で殺しても構わなかったのだから、寧ろ何故そこまで情けを掛けるのかと疑問に思った者すらもいたのだ。

少し時は戻る。

レイから盗賊の撃破を頼まれたセトは、向こうに見つからないよう空高く飛んでいた。

そのまま数分程で街道を歩いている盗賊達に気が付き、喉を短く鳴らして大きく翼を羽ばたかせて加速を付け、標的へと向かって急降下していく。

重力の助けを借りて一直線に真下へと降下して……否、降っていくセト。

最初の羽ばたきの後は、盗賊に見つからないよう翼を畳んでの急降下となっていた。

それでもさすがに盗賊と言うべきか、真下を歩いている者のうち数人が上を見上げようとした、その時。

「……ん? 何だ、気のせいか」

盗賊の集団の中で最後尾を歩いていた盗賊が、真上を向いたものの何も見つけられずに視線を前方へと向け……次の瞬間には降ってきたセトに潰されて身体中の骨を砕かれ、一瞬にして絶命する。

「なっ!?」

周囲にいる盗賊達は、何が起こったのか分からずに思わず声を上げる。あるいは、まだ仲間が殺されているのに気が付いていない者すら存在していた。

セトが降下してくる時に使ったスキル。それはレムレースの魔石を吸収して得た光学迷彩だった。

Lv.1の光学迷彩は効果時間が10秒程しか無く、落下時に使用したことで3秒程経っていたので残り7秒。

だが、グリフォンであるセトの俊敏性があれば、7秒あれば十分だった。そう、たった7秒ではない。7秒も、あるのだ。

地面へと着地する時に踏み潰した盗賊の内臓や骨、血、肉、体液といったものが周囲に散らばる中、再度跳躍して近くにいた盗賊へと前足を振り下ろす。

鷲の鋭い爪により頭部を粉砕され、獅子の足で蹴り飛ばされて肋骨を粉砕しながら吹き飛んでいく。クチバシの一撃は前足同様に頭部を砕く。

数秒、それこそ背後の異変に気が付いた盗賊が振り向くまでの間に、セトはランクAモンスターとしての実力を十分に発揮して瞬く間に10人以上の盗賊を殺し、または戦闘不能に追い込んでいた。

そして……

「うっ、うわぁぁぁっ、何だ!? 何が起きているんだ!」

ようやく背後の状況に気が付き、悲鳴を上げた盗賊を透明のまま見据え……

「グルルルルルゥッ!」

高く鳴きながら翼を羽ばたかせ、前方に向かって突っ込んでいくセト。

鳴き声は聞こえつつも、周囲にモンスターの姿は見えない。そんな状態で冒険者でも何でも無い盗賊に対処出来る訳が無く、グリフォンの瞬発力と2mを超える体躯での体当たりに、骨を折られながら、あるいは肉を潰されながら弾き飛ばされていく。

「モ、モンスターッ!? 全員武器を構えろ!」

咄嗟にまだ無事な盗賊の1人が叫ぶが、その時には既に人の群れを突き抜けたセトは、瞬時に体勢を整えて再びまだ無事な盗賊へと襲い掛かる。

鷲の前足による一撃が武器を構えろと叫んだ男の頭部へと振るわれる直前……光学迷彩の効果が切れる。

セトが空中から落下してきて、ここまでで7秒程。10秒にも満たない時間でその場にいた盗賊の3割程は既に息絶え、4割程が立てない程の負傷を負って地面へと倒れ込んでいた。意識を失って倒れている者もいれば、あるいは痛みで呻くことしか出来ない者もいる。

だが、ある意味では無傷で残っている盗賊の方が悲惨だっただろう。何しろ、他の者達は自分が何に襲撃されたのか理解出来ないままに殺され、あるいは負傷させられたのだが、この時点で無事だった者はセトの姿を……即ち、グリフォンの姿を間近で見ることになったのだから。

そうして混乱してしまえば盗賊達に為す術はなく……全滅するのにそう時間は掛からなかった。

その後、レイとエレーナは聞き出した情報から盗賊のアジトへと襲撃を仕掛けお宝を奪うことに成功する。

数人の留守役が存在したが、ただの盗賊風情にレイやエレーナをどうにか出来る訳も無かった。

そして盗賊に関しては、生き残っている者は奴隷として売るという商隊に引き渡し、残っていた馬や盗賊のアジトにあったレイやエレーナがいらないと判断したお宝を纏めて買い取って貰い、金貨数枚の収入を得ることになる。