軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0354話

貴族が3人に、護衛が1人。そしてギルドからの試験官が1人の合計5人が会議室の中でレイ達試験を受ける者達の前に立っていた。

最後に挨拶をしたマルカ……より正確にはクエントという名字にシュティーが驚愕の表情を浮かべ、ロブレはアルニヒトと名乗った貴族の態度に不愉快そうに眉を顰める。

レイとオンズの2人は10代と40代と年齢は掛け離れているが、特にこれといった感情を顔に出していないという点では一致していた。

もっとも、レイはさすがに顔見知りでもあるマルカとコアンの2人がこの場に現れた時には軽く驚きの表情を浮かべていたのだが。

ギルドの試験官でもあるレジデンスはそんな受験者達4人を一瞥し、内心でそれぞれに対する感想を頭の中で浮かべつつも口を開く。

「さて、今回のランクアップ試験に協力してくれる4人の方々の紹介はこれでいいな。では、早速だが今回の試験を発表する。このギルムの街から徒歩で数時間程の位置にある草原に、最近バイコーンと呼ばれるモンスターの群れが姿を現している。……一応聞いておくが、バイコーンというモンスターを知らない者はいるか?」

レジデンスの問いに、その場にいる全員が問題無いと頷く。

レイもまた、他の者達同様に問題無いと頷きながら以前に読んだ本に書かれていた内容を思い出す。

『バイコーン』それはユニコーンの亜種とも言われているモンスターで、ユニコーンが額から1本の角が生えているのとは対照的にバイコーンは額から2本の角が生えている。ユニコーンと違って獰猛であり、馬型のモンスターでありながら肉食。知能が高く、狼のように集団での狩りを得意とする。それ故にバイコーン単体ではランクDだが、集団になるとランクCとなる。また、その額から生えている角は猛毒であり、角による傷を受けた後は3時間以内に毒消しを使用しなければ死ぬことになると言われている。逆に素材としての角は有用であり、魔石と同程度の価値を持つ。剥ぎ取れる素材は角の他に皮。肉も食べられるが、格別に美味という訳では無いので買い取りの値段は相応程度。討伐証明部位は尾で、買い取り価格は銀貨5枚。ランクDモンスターの討伐証明部位の買い取り価格としてはかなり高額だが、これはバイコーンのもつ獰猛さと毒を持つ角の危険性から高額となっている。

それらの内容を思い出しながら、微かに眉を顰めるレイ。

(ランクBへのランクアップ試験で、討伐対象がランクD、群れてもランクCモンスターだと? ……妙だな)

普通に考えれば1流や凄腕と呼ばれるランクBに上がる為の試験が、ランクDやランクCモンスターの討伐だというのは明らかにおかしい。そう思って試験官でもあるレジデンスへと視線を向けるレイだったが、本人は特に訂正する必要も無いとばかりにバイコーン討伐という内容を吟味している参加者達へと視線を向けていた。

「おいおいおいおい、マジかよ。ラッキー以外のなにものでもないだろ。バイコーンを倒しただけでランクBに上がるとか、ギルドも俺の実力を分かっているからこそのサービスか何かか?」

興奮した様子で嬉しそうに呟くのは狼の獣人でもあるロブレだった。余程に嬉しいのか、腰の辺りから伸びている尻尾がかなりの勢いで振られている。

「ちょっと、ロブレ。おかしいと思わないの? 何でランクBに上がる為の……」

「だからサービスだろ、サービス。実際俺達はランクCでたっぷりと経験を積んできたんだから、ギルドの方でもそれを考慮したんだよ。レイとおっさんも、俺と同じ試験に参加出来てラッキーだったな」

「……」

ロブレの言葉に無言で返すオンズ。バイコーンの討伐と聞いても、特に表情を動かすことも無くじっとレジデンスへと視線を向けている。

レイもまた、そんなロブレに特に言葉を返すことなく視線をレジデンスへと……いや、その隣にいる貴族達へと向けていた。

(バイコーンの討伐が試験内容だとしても、そこに貴族がどう関係してくる? なるほど、ランクCやランクDモンスターを相手にする意味はこの辺にありそうだな。そもそも、ランクB以上の依頼では貴族や王族と関係してくることもあるって話だし……となると、嫌な予感しかしないんだが)

チラリ、とコアンとマルカへと視線を向けるレイ。

この2人に関してはレイも特に心配はしていなかった。片方は元ランクAで、もう片方は並外れた魔法の才能を持っているのだから。

(となると、問題はこっちの2人か)

小さく溜息を吐き、傲慢な表情を浮かべているアルニヒトと、面倒臭そうな表情を浮かべているオルキデへと視線を向ける。

レイと同じ結論に至ったのか、シュティーもまた同様に探るような視線を貴族達へと向けていた。

それに気が付いたのだろう、これまで黙っていたレジデンスが再び口を開く。

「どうやら気が付いた者もいるようだが、その通りだ。今回の依頼についてはここにいる貴族の方々と共に行って貰う」

「は!? ちょっと待てよ! そっちの元ランクAの兄ちゃんはともかく、典型的な貴族2人にガキが1人。どう考えても……」

「おい、貴様。今なんと言った? 私達はお前達のようなケダモノ風情とは身分が違う。もう少し口の利き方に気を付けろ」

ロブレの言葉に即座にアルニヒトが反応し、眉を顰めながら睨みつける。

それを聞いたロブレも、自分達獣人をケダモノと表現したアルニヒトが気に食わなかったのだろう。殺気すら感じさせるような鋭い視線を返す。

「ちょっと、ロブレ!」

ほんの数秒で一触即発となった周囲の雰囲気にシュティーが慌ててロブレを抑え、同時にアルニヒトの隣にいたオルキデもまた面倒臭そうにではあるが、アルニヒトを止める。

「あのさぁ、ここで面倒臭いことにしてどうするのさ? 俺達の目的はあくまでもバイコーンの殲滅でしょ? それを第一に考えようよ」

「……卿にそう言われては退かざるをえんか。感謝しろ、ケダモノよ。本来であれば斬首になってもおかしくは無い不敬罪だが、今回は許してやろう」

「ぐぎぎっ!」

喉を鳴らしているロブレを横目で見ながらも、今の一連の出来事に違和感を抱くレイ。

(そう、まだ1度しか会ってはいないが、それでもマルカがアルニヒトとかいう貴族の言動を許すとは思えない。特に、マルカはその人柄でクエント公爵領の領民に人気がある筈。それなのに、何故ああも言いたい放題にしている? コアンが口を出さないのは、マルカの配下という扱いだから分からないでもないが……)

内心で考え、次の瞬間ランクDモンスターのバイコーン、貴族が同行、ランクB冒険者からは貴族や王族の依頼が来る可能性もあるといった内容が脳裏を過ぎる。そして……

(なるほど。確かにその可能性はある、か)

レイの中で1つの仮説が導き出される。

それは即ち、ランクアップ試験の主な目的はバイコーンの討伐では無く、貴族との……それも、典型的な貴族でもあるアルニヒトのような相手と上手くやっていけるかどうかということなのではないかと。

(それを考えればこんな貴族が選ばれたことも分かる。いや、それ以前にわざとこういう態度を取っているという可能性もあるかもしれない……か?)

ギルムの街を治めているのはラルクス辺境伯のダスカーであり、そのダスカーは貴族という身分を笠に着た横暴を許すような性格をしていない。勿論ギルムの街にいる全ての貴族がそれに習うとは思えなかったが、それでもギルドという公共の場であからさまに他人を見下すような言動を取るとはレイには思えなかった。

だが、それを理解出来たのは前もってマルカとコアンと面識のあったレイだからこそであり、それ以外の3人はロブレが不機嫌そうに黙り込み、オンズは相変わらず沈黙したままで、ただ1人シュティーのみが訝しげな視線を貴族達へと向けている。

「さて、今回の依頼の……より正確にはランクアップ試験の内容は皆理解したな? 今日これからの時間は、ランクアップ試験に関しての準備期間とし、出発は明日の朝9時に正門前に集合とする。何か質問は?」

レジデンスの言葉に、真っ先に手を上げたのは当然と言うべきかこの中で最も常識人であるシュティーだった。

「バイコーンのいる場所までの移動手段はどうなっていますか?」

「それについては、こちらで馬車を準備しよう。ただし、自分で別の移動手段がある者はそれを使っても構わん」

そう答えつつレイの方へと視線を向けるのは、やはりレイがセトに乗って移動しているのを知っているからだろう。

グリフォンであるセトの移動速度は地を走る動物と比べると圧倒的に上であり、それが馬車であれば更に速度差は広がる。

「ただし! 今回の件はランクアップ試験となっているのを忘れずに行動して欲しい」

即ち、レイとセトだけで先行してバイコーンの群れを殲滅するような真似は認めないといった内容だった。

だが、それを聞いたレイは特に表情を変えずに頷く。

(どうしても貴族と一緒に行動をさせたい訳か。つまり、俺の予想も満更外れって訳じゃないらしいな)

内心で納得したように呟きながら。

「徒歩数時間といった場所だと、その日のうちに試験を終えて帰ってくると考えてもいいのか?」

次に口を開いたのは、ロブレだった。貴族の方……特にアルニヒトを意図的に無視したかのようにレジデンスへと尋ねるが、それに対する答えは左右に振られる首だった。

「その辺に関してはそれぞれの裁量に任せる。必要だと思ったら用意すればいいし、いらないと思ったら用意する必要は無い」

「……なるほど、な」

その答えでロブレも用意した荷物で評価されると理解したのだろう。小さく頷く。

もっとも、その答えはミスティリングを用意しているレイにとっては全くの無意味だったのだが。幾ら荷物を持とうとミスティリングの中に収納可能であり、更にはダスカーから貰ったマジックテントというこれ以上ない程の夜営道具も持っている。

(けど、そうだな。少し俺の評価を上げておいた方がいいか)

内心で呟き、周囲を見回してレイが口を開く。

「知っての通り、俺はアイテムボックスを持っている。荷物についての心配は取りあえずしなくてもいいから、必要だと思う物を用意してくれ」

「マジか!? じゃあ、殆どの荷物をレイが持ってくれると思ってもいいんだな!?」

その瞬間、嬉しそうに口を開いたのはロブレだった。

基本的に身の軽さを信条としている前衛の槍使いだけに、例え馬車に荷物の大半を置くとしても少しでも動きが鈍くなるのは考えたくはないのだろう。

それは弓術士のシュティーや盗賊のオンズも同様らしく、レイへと視線を向けている。

もっとも、オンズの場合は殆ど表情を浮かべてはいなかったが。

「アイテムボックス? そう言えばこの街の冒険者で持っている者がいるという話だったが……なるほど、お前がそうか」

アルニヒトがそう告げながらレイへと視線を向け、不意に手を伸ばす。

「そのアイテムボックスとやら、ちょっと見せてく……いや、見せてみろ」

その言葉にレイが何かを言う前に、マルカが口を開く。

「止めておいた方がよいぞ? レイが持っているアイテムボックスには何らかの魔法が掛かっている。迂闊に持ち主以外の者が触れれば……さて、どうなるかな?」

「なっ!? そ、それは本当か!?」

マルカの言葉を聞き、思わず顔色を変えてレイへと尋ねるアルニヒト。

マルカ自身が大きな魔法の才能を持っているということを知っているだけに、その言葉を受け流すようなことは出来なかったのだろう。

そして、レイもそれを否定せずに頷く。

「ああ、そもそもこのアイテムボックスには俺以外使えなくなっているし、もし無理にでも使おうとすれば防衛機能が働いて色々と酷い目に遭うのは事実だ」

より正確に言えばレイの魔法によってそのような効果があるのだが、それを口にするような真似はしなかった。

アルニヒトにしても、レイの口の利き方に対して叱責するよりも前にアイテムボックスに掛けられた、ある種の呪いともいえる効果に恐怖を抱いたのか、それ以上アイテムボックスを見せるよう強要することはなかった。

そもそもアルニヒトにしてもギルムの街にいる以上、有名人であるレイがどのような人物なのかは当然知っている。それこそ、人を人と……否、貴族を貴族とも思わないような性格をしているという情報も当然持っていた。そんな人物に対して居丈高に出られないというのも、しょうがなかったのだろう。

「さて、とにかくランクアップ試験に関しての話はこれでいいな。では各自解散。明日の午前9時の鐘が鳴る前には正門前に集まるように」

まるでこれ以上の騒ぎはごめんだとでもいうようにレジデンスがそう告げ、さっさと会議室を出て行く。

その後ろ姿を見送り、アルニヒトとオルキデもまたお互いに目配せをして出て行き……

「お主等の活躍は期待しておるぞ」

マルカがそう告げ、一瞬だけレイへと視線を向けてからコアンと共に会議室を出て行く。

その後、レイ達もそれぞれが自分が必要とする物資の買い付けを行い……翌日、いよいよランクアップ試験当日を迎えるのだった。