軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0306話

ギルドの中で起こった、レノラとケニーの女の戦いを見てから1時間程。レイとセトの姿はギルムの街の外にあった。

中心部分は空き地のようになっており、周辺にはまるで空き地となっている場所を覆い隠すかのように木々が生えている。

そう、これまで幾度か魔石を吸収する時に利用した場所だ。ギルムの街からセトの移動速度でもある程度時間の掛かる場所にあるということもあり、周囲の目を気にせずに魔石の吸収が出来る点や辺境ということもあってモンスターが周辺に存在しているので、新たに習得したスキルを試す相手には事欠かないという点もあり、レイは魔石の吸収をここで行うのを好んでいた。

「……ここに来るのは随分と久しぶりだが、さすがに辺境にあるだけあって誰かが来た様子も無いな」

「グルルルゥ」

以前と来た時に比べ、殆ど変わりない周囲の様子を眺めながらレイが呟き、セトが同意見だとばかりに喉を鳴らして同意する。

勿論数ヶ月ぶりに来たのだから細かい場所は違っている。例えば何らかのモンスターが倒したと思われる木が地面に転がっていたり、あるいはモンスターの骨と思しき存在が地面に落ちていたりするようにだ。

当初魔石が残っているかも知れないと淡い期待を抱いたレイだったが、そんなに都合良く行く訳もなく残っているのは純粋に骨だけとなっていた。皮や内臓の類も存在していないのを見る限りでは、昨日今日殺されたモンスターでは無いのだろう。

「このままここに骨があっても目障りだな。結構長時間ここに転がってたみたいだから素材としても使えないだろうし」

スレイプニルの靴で踏みつけると、それ程力を入れた訳でも無いのにあっさりと折れる。

骨が散らばっている為にレイの目から見ても何のモンスターの骨なのかは分からなかったが、それでも目障りなのは事実だった。

「グルルルゥ?」

レイが骨を砕いたのを見て、何らかの遊びだと思ったのだろう。セトが喉を鳴らしながら自分にもやらせて、というようにレイへと円らな瞳を向けてくる。

その瞳に一瞬迷ったレイだったが、こうして地面に骨があるのは目障りであるのは事実である以上、セトに遊ばせるついでにどこかに運んで貰うのもいいかと思い頷く。

「そうだな。じゃあセト、この骨をここから見えない場所に捨ててきてくれるか? 勿論運んだ骨を折ったり破壊したりしても構わない。……ただ、食うのはやめておいた方がいいと思うが」

身体は獅子なのだが、人懐っこさを考えると犬をイメージさせられるセトへと向けたレイの言葉に、セトは嬉しそうに喉を鳴らして早速とばかりに大腿骨のように見える骨をクチバシで咥え、周囲を覆っている木の向こう側へと飛んでいく。

ここが辺境である以上危険は当然あるのだが、それでもグリフォンであるセトがどうにかなるとは思えないし、そもそもセトをどうにか出来る程の高ランクモンスターが姿を現すとは思えない。そう判断したレイは、セトを見送った後でミスティリングから飛竜の魔石とデスサイズを取り出す。

直径5cm程度。竜の魔石としてはあり得ない程に小さい魔石だが、それでも竜の魔石であるのは事実なのだ。間違い無く何らかのスキルは入手出来るだろうと判断し、デスサイズを構えたまま魔石を空中へと放り上げ……

「スキルが習得出来るように!」

空中で弧を描いて落ちてくる魔石へとデスサイズを振り下ろす。

次の瞬間、魔石はデスサイズの刃に斬り裂かれ、霞のように消えて行く。そして……

【デスサイズは『パワースラッシュ Lv.2』のスキルを習得した】

そんなアナウンスがレイの脳裏へと響き渡るのだった。

だが、アナウンスを聞いたレイは微かに眉を顰める。

勿論新たなスキルを習得出来たのは嬉しい。正確には習得していたスキルのレベルアップなのだが、それでも使用頻度がそこそこ高いスキルの威力が上がったのはレイにしてみれば文句など言いようがない。だが、それでも……

「何で飛竜の魔石で習得するスキルがパワースラッシュなんだ?」

そう、それが問題だった。レイは頭の中で飛竜と戦った記憶を思い出す。まず最も印象強いのは当然の如くファイアブレスだ。正確には火球を吐いていたのだからファイアブレスとは呼べないのかもしれないが、それでも分類するとすればファイアブレスだろう。なら、飛斬のように炎の斬撃を飛ばすというスキルや、あるいはデスサイズを炎で覆うようなスキルを期待したのはレイとしても当然だった。だが、習得したのはパワースラッシュのレベルアップ。

「まぁ、確かに戦闘では足に生えている鉤爪とかを使って攻撃してきていた……か?」

再び脳裏を過ぎった戦闘シーンでそう判断する。

少なくてもスキルの入手は出来たのだから、何も得られなかったよりはマシだろうと。

「グルルルゥッ!」

スキル習得のアナウンスをセトも聞いたのだろう。翼を羽ばたかせながら自分の方へと近づいて来ている様子を眺めながら、レイは笑みを浮かべて出迎える。

「グルルルゥ!」

何で自分のいない場所で魔石を使うの! とでも言いたげなセトの鳴き声だったが、レイは笑みを浮かべつつその頭を撫でる。

「ほら、あまり怒るな。それよりもこれがセトの分の魔石だ」

もう1つの魔石を取りだし、セトの方に差し出す。

「グルゥ」

レイの手の平に乗せられた魔石を一瞥するが、ふいっと横へと視線を向けるセト。その様子は、どう見ても怒っているようにしか……あるいはいじけているようにしか見えなかった。

そんな相棒の様子に苦笑を浮かべつつ、機嫌を取るべくミスティリングの中からファングボアの串焼きを取り出す。

「悪かったって。ほら、これでも食って機嫌を直してくれよ」

「グルゥ? ……グルゥっ!」

一瞬串焼きの方へと視線を向けるものの、そんなので買収はされないとばかりに再びそっぽを向く。

だが、それでもやはり串焼きは気になるのだろう。獅子の尾が揺れている。

本来であれば、フルプレートアーマーを身に纏っている騎士ですらも軽く振り回せる程の力を持つ尾だ。そんな尾が揺れている様子は、普通であれば脅威しか覚えないだろう。だが、レイはそっと手を伸ばしてセトの腰の辺りを宥めるようにして撫で始める。

「ほら、俺が悪かったから。機嫌を直してくれ。ギルムの街に戻ったら、満腹亭に連れていってやるから」

「グルルルゥ?」

本当? とばかりに視線をレイへと向けるセト。

そんなセトに真剣な表情を浮かべて頷くと、ようやく機嫌を直したのだろう。取りあえずはこれで我慢する、とばかりに串焼をクチバシで器用に啄む。

串焼きといっても、所詮は人間用の串焼きだ。セトにとってはそれこそちょっと摘む程度の気持ちで食べきり、魔石をちょうだいと小首を傾げてレイへと視線を要求する。

体長2mを越えるセトなのだが、それでもそんな仕草をすると円らな瞳も合わさって、まるで人懐っこい猫が甘えているような印象だ。

ただし、さすがにその体長を考えると子猫とは呼べないのだが。

「ほら、全く。デザート代わりって訳じゃないんだけどな。とにかく食ってくれ」

そう言って差し出された飛竜の魔石を、今度こそセトは文句も言わずにクチバシで取り上げ、そのまま飲み込む。

その様子を見ていたレイは、一瞬蛇が卵を丸呑みしている光景が脳裏を過ぎったのだが、特にこれといって何を言うでもなかった。そして……

【セトは『ファイアブレス Lv.3』のスキルを習得した】

そんなアナウンスが脳裏に流れるのだった。

「こっちはある意味で当然のスキルだったな」

飛竜の主な攻撃方法が火球を吐くというものだった以上、セトが習得したのがファイアブレスのレベルアップだったのはレイにとっては納得出来るものだった。少なくてもパワースラッシュのレベルアップよりは。

「グルルルゥ」

セト自身にしても、使い勝手のいいファイアブレスのレベルが上がったのは気分がいいのだろう。機嫌良く喉を鳴らす。

あるいは、その機嫌のいい理由にはレイが喜んでいるというのがあるのも間違い無いのだろうが。

そのまま数分程お互いに喜びを分かち合っていたレイとセトだが、やがて落ち着くとまずは新しく覚えたスキルを試そうということになる。

「セト、まずはお前から頼む。一応周囲には木が生えているから、空に向かって使って見てくれ」

「グルゥ!」

任せろ、とばかりに鳴き、そのまま真上へと口を向ける。

「グルルルルゥッ!」

そんな雄叫びと共に放たれるファイアブレス。セトのクチバシから放たれたその炎の息は、間違い無くこれまでよりも太く、そして炎の密度その物が高くなっていた。

Lv.2のファイアブレスも十分強力な攻撃方法だったが、Lv.3になった今の炎は、まず間違い無く必殺技と表現してもいいような一撃だと言えるだろう。

「……その分だけ、人前で使えなくなったというのは痛いんだけどな」

強力であればあるだけ、人前で使えなくなるという制限は高まっていく。それはしょうがないと考えるレイだが、それが理由でセトの実力を思う存分発揮させることが出来ないというのは色々と思うところがあった。

(組めるとしたら灼熱の風か、あるいはエレーナとアーラの2人なんだよな。それを考えれば、迷宮都市にエレーナと一緒に行けるというのは丁度いいんだろうが……エレーナ、か)

エレーナの姿を思い出し、連鎖反応的にその唇の感触を思い出す。

「グルゥ?」

急に動きの止まったレイへと心配そうに喉を鳴らすセト。

「っと、悪い。何でも無い。とにかく、セトのファイアブレスは威力を増してかなり使い勝手が良くなったな。使える場面はまだあまり多くないけど、いざという時の切り札としては十分だろ」

「グルルルルゥ」

凄いでしょ、とばかりに自慢気に喉を鳴らすセトの頭を撫で、次いでデスサイズの柄を握るレイ。

「さて、なら次は俺だな。パワースラッシュのLv.1は1撃の威力が高くなるが、デスサイズの斬れ味その物は鈍っていた。ようは、デスサイズを棍棒のような武器として使えるようになるスキルだったが……」

呟き、周囲を囲むようにして生えている木々へと視線を向ける。

その中でも、最初に目に付いた木へと向かって近付いていく。

ゆっくり、ゆっくりと、1歩1歩を確かめるようにして大人の胴体程の太さがある木へと近付き、デスサイズを振り上げる。

「パワースラッシュ!」

その言葉と共に振り落とされたデスサイズの刃は、木の幹に命中したと思った瞬間斬り裂くのではなく衝撃を木の幹へと与え……

「なるほど」

巨大な鎌の刃で攻撃したというのに斬り傷の類は一切見せず、その破壊力を内部へと伝えて幹をへし折る。

数秒後、メキメキという音が聞こえ、レイが攻撃を加えた木はそのまま力尽くでへし折った木の枝のように地面へと倒れていく。

その様子を少し離れた場所で眺めていたレイだったが、口元には堪えきれない程の笑みが浮かぶ。

「なるほど、Lv.2になっただけなのに随分と威力が増しているな」

これまでもそれなりに使ってきたからこそ、今までよりも大分威力が増しているというのは分かった。今までのパワースラッシュは相手の武器へと叩きつけるように使うというのが多かったのだが、今回のレベルアップにより鎧、あるいは盾の上から使っても十分にダメージを与えることが出来る一撃となっていた。

「甲羅や甲殻を持っているようなモンスター相手にも有効なダメージを与えられるだろうな。……痛っ!」

呟き、手に走った鈍い痛みに視線を向ける。

そこにあったのは、薄らと青紫色になっている自分の両手首。軽く動かす程度ならそれ程の痛みは無いのだが、デスサイズを振り回すような一撃になると鈍痛が走る。

「グルゥ?」

大丈夫? と尋ねるかのように鳴くセトに、小さく頷きながらミスティリングからポーションを取り出して左右の手首へと順番に掛けていく。

それ程酷くない捻挫だったのだろう。ポーションを掛けて数秒程度で痛みは治まり、青紫色だった皮膚の色も元の色へと戻る。

「心配掛けたな、大丈夫だ」

痛みの消えた腕でそっとセトの背を撫でるレイ。グリフォン特有の……あるいはセト特有の滑らかな毛の感触を楽しみながらも、軽く眉を顰める。

(威力は高い。それは認める。だがその分反動も大きい訳か。そうなると迂闊には使えないな。敵を倒す時の最後の攻撃として使うならともかく、下手に戦闘の途中で使ったりしたらそれ以降の戦闘で不利になる。……もしかして、レベルアップして逆に使いにくくなったんじゃないか?)

予想外の結果に小さくない衝撃を受けながらも、それでもいずれは衝撃を完全に受け流して使いこなせるようになってみせると決意するのだった。