軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0250話

レイとティラージュ以外の誰もいないギルドマスターの執務室。そこで白湯の入ったカップを口へと運びながら、まずはティラージュが口を開く。

「マリーナさんからの連絡の後、現在私が動かせる者達の中でも盗賊の人達にエルクさんの家族の捕まっている場所を探すようにお願いしました。しかし、ただでさえ盗賊という職業の方は数が少ないので、レンジャーや弓術士のような隠密行動が可能な方達にもお願いして探して貰っているのですが……」

そこまで告げ、申し訳なさそうに首を左右に振るティラージュ。

「さすがにこの短時間で見つけるのは難しいらしく、申し訳ありませんがまだ何の連絡も入っていません」

「いや、気にしないでくれ。向こうも専門の訓練を受けている奴等なんだから、すぐに尻尾を出すとは思っていないさ」

「……ベスティア帝国、ですか」

深く溜息を吐きながら白湯の入ったカップを口へと運ぶティラージュ。その表情には苦々しげな色が浮かんでいる。

まるで、今自分が飲んでいる白湯がとてつもなく苦い液体か何かであるかのように。

「正直な話、この街にベスティア帝国の者達が少なからず潜んでいるというのは分かっていました。ですが、ここまで大胆な行動に出るとは思っていませんでしたよ」

「向こうにしても焦りがあるんだろうな。幸か不幸か、俺は今まで何度もベスティア帝国の邪魔をしてきている。それで向こうも俺を無視出来なくなって……というのが実情だと思う」

「なるほど。しかしそうなると、色々危険かもしれませんね。追い詰められた者はどんな過激な手を打ってくるか分かりません」

溜息と共に言葉を吐き出すティラージュ。ギルドマスターの彼としては余計な騒ぎをアブエロの街にまで持ち込んだレイに対して幾つか言いたいことはある。だがミレアーナ王国の者としていえばベスティア帝国の策動を幾つも防いできたことに対しては感謝の念もあるし、自分が世話になったマリーナからの頼みということもある。そして何よりも高ランク冒険者を脅して自分達の命令に従わせるようなやり方は、誠実な取引を信条とする商人の出である彼にとって到底許せることではなかった。

「それで、もし隠れ家を見つけたらどうするつもりなんですか? マリーナさんは貴方に任せておけと言っていましたが……」

出来れば自分達にも出番が欲しい。言外にそう告げてくるティラージュの言葉を受け、少し悩むレイ。

もちろんティラージュにしても手柄を横取りしたくてそう主張している訳では無い。このアブエロの街で起きた出来事に対して、自分達が見ているだけというのは外聞的な問題もある為だ。

一応盗賊や隠密行動が可能な者を動かして情報を探っているとはいっても、それはあくまでも裏方だ。どうしても表向きに活動した者達の影に隠れてしまい、そうなるとアブエロの街のギルドマスターとしての面目が立たないというのも事実だった。

そのような事情は知らなかったが、レイはティラージュの言葉を聞いて小さく頷く。

「そうだな。向こうの隠れ家を包囲して逃がさないようにしてくれればいい。一応セトを上空で待機させるつもりだが、幾ら夜目が利くといっても夜は夜だ。おまけに街中ともなると、闇に紛れて逃げ出されたりしたら全員を確保出来るかどうかは微妙だからな」

「そうですか、分かりました。では早速そのように手配しましょう。隠れ家が見つかったらすぐにでも包囲出来るように」

そう言い、ソファから立ち上がって執務机へと向かって上に乗っている書類に幾つか目を通してサインを記していく。そしてそれが一段落するとすぐに机の上に置かれていた鈴へと手を伸ばす。

チリーン、という甲高い音が幾度か発せられ、やがて執務室の扉がノックされる。

「失礼します、ギルドマスター。お呼びでしょうか?」

「ええ、入って下さい」

ティラージュの声がそう聞こえると共に、1人の女が部屋の中へと入ってくる。

年齢は20代半ば程度で、目に鮮やかな緑の髪をポニーテールとして纏めている。どこか固い印象を受けるその女を見てレイが抱いた第一印象はそのまま秘書。

まだ日本にいる時に見たドラマや漫画といったもので出て来た、秘書というイメージがそのまま当てはまるような相手だった。

「ベルデ君、この書類に書かれているパーティの者達を至急集めて欲しい」

そう言われた秘書……ベルデと呼ばれた女は、チラリとレイへと視線を向けると小さく頷きそのまま書類を受け取る。

「すぐに用意をさせますが……オーガの心臓もですか?」

「ええ。彼等は最低限の実力があって、人数も多いですから」

「……分かりました。ギルドマスターの指示通りにさせて貰います」

ティラージュに向かって頷きながらも、その表情は一切動いていない。冷静沈着……というよりは、無表情と表した方がいいだろう。

だがティラージュはそんなベルデの反応には慣れているようで、笑みを浮かべて頭を下げる。

「お願いするよ。ベルデ君に任せれば安心だしね」

ギルドマスターが秘書へと仕事を頼むのに、頭を下げる。

普通であればどこか違和感を受ける者もいる場面だったが、ティラージュの腰の低さとベルデの無表情の影響もあってどこか立場が逆転しているかのように見え、それが逆にレイにとっては自然な光景に見えていた。

そんなレイの内心に気が付いた訳でも無いのだろうが、再びチラリとレイに視線を向けるベルデ。

視線が交わったのはほんの一瞬だったが、それでも無表情を誇っているベルデが軽く眉を動かすのがレイの目にははっきりと映っていた。

だが、すぐにまた元の無表情へと戻るとそのまま書類を手にして部屋を出て行く。

実は魔力を感じる能力を持っていたベルデ。その能力を持っている者が、莫大な魔力を持っているレイを直接見ても軽く眉を動かす程度しか動揺しなかったというのが、ベルデの無表情ぶりをこれ以上無い程に表していた。

「すまないね。ベルデ君はあまり愛想が良くなくて」

レイとベルデの視線が交わったのに気が付いたのか、あるいは単なるフォローのつもりなのか。そう言って愛想笑いを浮かべるティラージュ。

「気にしないでくれ。仕事が出来れば問題は無いと思うし」

そう断り、白湯の入ったカップを口へと運ぶレイ。

(いや、じゃなくて。秘書がいるんならお茶とかを淹れて貰えば良かったんじゃないか?)

内心でそんな風に思いつつも、重要度の高い話なのだから余人を交えたくなかったんだろうと納得する。

「それで、ベスティア帝国のスパイを捕らえる時に何か気を付けるようなことがあれば教えておいて貰えるかな?」

「ん? あ、ああ。そうだな……」

ティラージュの言葉で我に返り、これまでの経験を思い出しながら口を開く。

「そうだな。俺が戦った奴等は空間転移をする為のマジックアイテムを持っていたから、奴等を取り押さえたらすぐにそれを取り上げるようにした方がいいだろう。ただ、かなり貴重な品らしいので持っているかどうかは分からないが」

「……空間転移、かい? また随分なマジックアイテムを……」

「5cm程度の石で、それに魔力を通して地面に叩きつけて空間転移を発動するらしいな。ただし色々と欠点もある。例えば転移出来る距離はそれ程ではないとか、使い捨てだとか、前もって転移先に魔法陣を用意しておかないといけないとか」

「なるほど。その辺は動員する冒険者達にしっかりと周知しておくよ。他には?」

さすがにギルドマスターと言うべきか、尋ねてくるティラージュの瞳には落ち着いた色があり話の続きを促してくる。

その瞳の深さに感心しつつ、レイは再び口を開く。

「魔獣兵、という名前に聞き覚えは?」

「……魔獣兵? いや、初めて聞く名前だけど」

「ベスティア帝国で開発された新兵器というか、新兵種というか……簡単に言えば、錬金術によってモンスターの力を取り込んだ兵士だな」

「……」

「名前通りに外見も人間離れしている。例えば甲殻が身体を覆っていたり、触手が身体から生えていたりな。ただ、歪な生物である分強さはかなりのものがある。この街に潜んでいるのがスパイでしか無いのなら魔獣兵の存在については気にしなくてもいいだろうが、もしかしたら護衛とかでついている可能性もあるとだけ覚えておいてくれ」

「……分かりました。こちらも周知しておきます」

ティラージュが頷くのと同時に、再び扉がノックされる音が部屋の中へと響く。

「入って下さい」

その言葉とともに部屋に入ってきたのは、先程部屋から出て行ったばかりのティラージュの秘書であるベルデだった。

無表情のままに小さく頭を下げて口を開く。

「偵察に出ていた者達が戻りました。スラムの一画にある建物で対象を発見したとのことです」

「なるほど、助かります。すぐに偵察に行った人を呼んで下さい。詳しい話を聞きたいので」

「分かりました。少々お待ち下さい」

ティラージュの言葉に頷き、部屋を出て行くベルデ。

その後ろ姿を見送り、レイは感心したように口を開く。

「この短時間でベスティア帝国のスパイを見つけるとなると、随分と優秀な冒険者だな」

「何、ここは辺境と本国の境界線にある街です。ギルムの街にいる冒険者程でなくても、ある程度の実力が無いとやっていけません」

そうは言いつつも、やはり自分のギルドに所属している冒険者を褒められて悪い気はしないのだろう。ティラージュの顔には嬉しそうな笑みが浮かんでいた。

そしてそのまま数分程会話をしていると、再び扉がノックされる音が執務室に響く。

ティラージュの許可を得て入って来た人物は5人。1人は言うまでも無く秘書のベルデであり、残りの4人がスパイの居場所を見つけた冒険者達なのだろうとレイは視線を向ける。するとその瞬間。

「あああああああああっ!」

その4人の冒険者達が、レイへと視線を向けて一斉に声を上げる。

「あんた、確かギルムの街の!」

「そうそう、グリフォンを連れてた!」

「ありゃりゃ。これは予想外だね」

「全くです。まさかこんな所で再会するとは」

先頭にいる、鱗を使った鎧を装備している戦士がそう叫ぶや、ポール・アックスを持つ戦士、槍を持つ女戦士、弓術士の女が次々に叫んで来る。

「……知り合いなんですか?」

4人の態度に驚きつつも尋ねてくるティラージュに、レイは少し考えて頷く。

「知り合いというか、顔見知り程度だが。以前何度か会ったことがあってな。蒼穹の刃、だったか?」

「ああ。そうだ。ランクDパーティ、蒼穹の刃だ。まさかこんな所で会えるとは思わなかったが」

「ランクD? 確かこの前はランクEと言ってなかったか?」

そんな疑問を口にしたレイだったが、その言葉を聞いた男は笑みを浮かべつつ口を開く。

「あれからランクアップ試験を受けてな。俺達全員ランクDに昇格したんだよ。だから、今の俺達はランクDパーティ、蒼穹の刃という訳だ」

「なるほど。それはおめでとう、と言わせて貰おう」

「あっはっはっは。まあ、これからは俺達の時代だってことだな」

「……」

大声で笑う男だった、やがてベルデの冷酷ともいえる視線が自分を貫いているのに気が付き、その笑い声は次第に小さくなっていく。

そしてタイミングを見計らったかのように、ティラージュが口を開く。

「さて、どうやらお互いの名前を知らないようだし自己紹介でもお願いしてもいいかな?」

「あ、はい。ギルドマスター。えっと、俺はビルト。見ての通り戦士で武器は長剣だ。蒼穹の刃のリーダーをやらせて貰ってる」

ベルデの冷たい視線から逃げるように、10代後半で茶髪をしており、鱗の鎧を身につけていた男がそう自己紹介をする。

続いてポール・アックスを持っている10代後半の筋骨隆々と表現すべき男が1歩前に出る。

「俺はベグリフ。戦士で、武器はポール・アックスだ」

ニヤリ、と男臭い笑みを浮かべながらベグリフと名乗った男はそう告げる。

続けて前に出て来たのは槍を持ったレイよりも多少年上の女だった。その顔に浮かんでいるのは、女らしいというよりはボーイッシュな雰囲気を放ち、見るからに活力に溢れている少女だ。

「僕はビルケ。見ての通り槍を使っているよ。それと、ビルトの妹だよ」

そして最後に前に出たのが、蒼穹の刃の中で最も年上だと思われる20代半ば程の弓術士。弓を引く時に邪魔にならないようにする為だろう。水色の髪を耳の辺りで切りそろえたショートカットの女だ。

「カーラよ。今回の件では主に私が動いているわ」

そう言って差し出されたカーラの手を握り、レイが口を開く。

「俺のことは知ってると思うが、一応。ギルムの街のランクC冒険者をやっているレイだ。今回は色々と動いて貰って助かっている」

それぞれに自己紹介を終わり、ベルデ以外の皆がソファへと腰を下ろす。

ベルデのみはティラージュの後ろに控えるように立っていた。

「さて、まずは詳しい話を聞かせて貰えるかな?」

ティラージュの言葉に頷き、その場にいる皆の視線がカーラへと向けられる。

「私が見つけたのはスラムにある建物の1つです。……半年程前に、ギルグモン一家とかいう集団がオーガの心臓と騒動を起こした場所です」

「……ああ、あそこですか」

あまり嬉しく無い出来事なのだろう。ティラージュの眉が微かに顰められる。

レイもまた、オーガの心臓というパーティ名は先程ベルデの口から出たのを覚えていたので首を傾げる。

「はい。大乱闘を起こして関与したオーガの心臓が罰金を支払うことになったあの事件です。その事件が起こった場所の近くにある建物の2階に身体中をロープで縛られて床に転がされている2人の男女がいました。その近くには黒尽くめの格好をした3人の人影も確認しています」

その報告を聞き、レイへと視線を向けるティラージュ。その視線にレイは黙って頷く。

「恐らく間違い無いだろう。そこだ」

獲物を見つけた肉食獣のような目をしながら、レイは呟くのだった。