軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

0014話

1対4の戦い。それも、今日冒険者ギルドに登録したばかりの新人が1でDランク冒険者が4なのだ。

普通に考えればどちらが勝つのかは一目瞭然だったその戦いだったが、実際に始まってみれば新人がランクDの冒険者4人を完封するという結末に終わった。

もちろんレイが勝った理由としては色々と挙げられるが、それでも見ている方としては納得する者半分、信じられない者半分といった様子だ。それ程までに冒険者のランクというのはある意味で絶対視されているのだ。

納得する者としては、レイがランクAの魔獣であるグリフォンを従えているのだからそれだけの技量はあるだろうと思っていた者達。信じられない者の方は身長165cm程度で、決して筋肉質でも大柄でもないレイの見た目で判断した者達だろう。

そんな野次馬達の視線を浴びながら、レイはセトに近付き口を開く。

「セト」

「グルゥッ!」

その声に嬉しそうに喉の奥で短く鳴いてから場所を空け、戦いの賞品として守っていた品々をレイへと渡す。

まずはミスティリングを右腕に装備し直し、ミスリルのナイフを腰に戻す。自分の金が入った袋を懐に入れて、バルガス達の金が入った袋は纏めてミスティリングの中へと収納する。

(こんな人の目の多い所で金勘定をしたりしたら余計な客を招きそうだし、どのくらい入ってるのかの確認は後で宿を取ってからだな)

その様子に野次馬のうち数人が舌打ちをするが、それらを鋭く聞きつけたレイは舌打ちをした者の顔を脳裏に刻みつける。

「さて、そろそろいいか?」

そう声を掛けて来たのは、戦いが始まる前に気配を消してギルドから出て来た男だった。そろそろ頃合いと見て話し掛けたのだったが、その言葉に小さく首を振るレイ。

「いや、もうちょっと待っててくれ」

男へと短く返事をし、地面に転がっている長剣、短剣2本、弓、矢、そして最大の目的であるバトルアックスを順番にミスティリングの中へと収めていく。

「……武器まで奪わなくてもいいと思うが」

そんな様子を見ていた男が窘めるように声を掛けるが、レイは無言で首を振る。

「そもそも絡んできたのはこいつらだし、賭けの内容も現在持っている全財産だ。俺としては服まで剥ぎ取らなかったことに感謝して欲しいくらいだがな」

男の服を好んで剥ぎ取りたくないというのもそこまでしない理由だったりする。

「……まぁ、いい。元々冒険者同士の争い事にギルドは介入しない方針だからな。それより既に確認するまでもないと思うが、一応規則なので確認させてもらう。お前がレイだな?」

「ああ」

「HランクからGランクへのランクアップを希望した」

「そうだ。戦闘の心得があれば登録初日でもHからGへのランクアップは可能なんだろう?」

「確かに」

「で、今の戦闘で俺の戦闘の心得というのは確認できたと思うが……ランクアップは可能か?」

「文句無しに、な。まさかギルドに登録したばかりの新人がランクDの冒険者パーティを1人で根こそぎ倒すとは……この目で見ててもちょっと信じられないが、自分の目で見たものを信じられない程に頭は固くないつもりなのでな」

苦笑を浮かべる男の言葉に興味が湧き、その様子を観察する。年の頃は30代後半から40代といった中年で、頬に付いている傷を見る限りでは恐らく元冒険者なのだろう。身長は先程のバルガスと同じ190cm程度で、なかなかに筋肉の付いている身体をしているように見える。

そんな男にギルドの中へと入るように促され、見物は終わりとばかりに散っていく野次馬を尻目にレイは再びギルドの中へ向かう。

ちなみにセトはレイがギルドの中へと戻っていくのを見た後は再び先程まで自分が寝そべっていた場所へと戻るのだった。

尚、散っていく野次馬達は当然セトにちょっかいを出すような蛮勇を発揮する者がいなかったのはセトに取ってもギルムの街の住民にとっても幸せなことだっただろう。

「ギルドに入ってから言うのも何だが、あいつらはあのまま寝かせておいていいのか?」

「先程も言ったがギルドは冒険者同士の争いには介入しないと決まっているから問題は無い。それよりもギルドカードを」

男の声に従い、ギルドカードを渡すとすぐさま奥の方へと移動していく男。その背を見送りながら何となくギルドの内部を見回すと、先程の騒ぎを見ていた者達が驚愕の表情だったり、納得の表情だったりでレイの方へと視線を向けていた。

遠巻きに見守っている者達の中、1人の男がレイへと近付いていく。

その男にレイは見覚えがあった。最初、バルガス達と一緒に飲んでいたメンバーの1人で、新人であるレイに絡んでくるバルガス達に付き合っていられないとばかりに1人離れて酒を飲んでいた男だ。

「驚いたと言うか、やっぱりと言うか……まぁ、収まる所に収まったって感じだな」

「……あんたは?」

「ルーノ。知ってると思うが、あんたに絡んでいった馬鹿達と臨時のパーティを組んでた男だ」

「……臨時?」

「そう。今回の依頼ではあいつ等だけじゃ厳しかったらしくてな。俺が助っ人として臨時でパーティを組んだ訳だ。にしてもあいつ等も、何を考えてあんたみたいな化け物に絡んだのやら。あんな連中と一緒にいたら、こっちまで被害を受けちまう」

化け物。その単語を聞き、レイの頬がピクリと動く。

別に化け物呼ばわりをされたのが気に障った訳ではない。そもそも自分の身体が半ば化け物じみているというのはレイ自身が一番思っていることなのだから。だが、あくまでもそれは自分の肉体の性能を知っているレイだからこそ言えることである。セトの存在にしても、ギルドの内部にいたのでは気が付かなかっただろう。

「化け物ねぇ。何で俺をそんな風に判断したんだ? 見た目で……じゃないだろう?」

怪しい動きは見逃さない、とばかりにルーノの様子を注視する。

だが、ルーノは素早く首を振り、敵対の意志がないことを態度で示す。

「おいおい、そんな目で見ないでくれ。言う。正直に言うから」

「……で?」

レイに促され、冷や汗を滲ませつつ説明を始めるルーノ。

「そもそも俺が今回バルガス達と臨時に組んだ原因もこれにあるんだが、俺の目は一種の魔眼って奴でね」

「魔眼?」

「ああ。……とは言っても、見ただけで相手を石化するとか魅了するとか、そういう強力な魔眼じゃない。俺の魔眼の能力は1つだけ。魔力を見ることが出来るってだけなんだよ」

「魔力を見る……ねぇ」

「ああ。今回バルガス達と組んだのも、ここから何日か行った所にあるダンジョンに魔力を使った罠が多く仕掛けられている階層があってな。そこの攻略の為に俺の魔眼が必要だった訳だ。で、俺の魔眼で見た所……あんたの魔力は正直化け物という言葉以外では表現出来ない量と濃度を持っている」

「……なるほど。一応納得しておこう」

頷きながらも、レイの興味はダンジョンの方へと移っていた。

ダンジョン。それは魔力が何らかの原因で集まり、半ば物質化して核となった時に創られる存在だ。その核により力を得たモンスターがダンジョンの主であるボスモンスターとして存在しており、そのボスモンスターが倒されるまでは徐々にだがその規模を広げていく。

そして1度でもボスモンスターを倒してしまえば、ダンジョンはその時点の規模で固定化される。

尚、ダンジョンはその性質上魔力溜まりが起きやすいので、通常の獣がダンジョンに入り込んで魔獣化するというのは良くある話だ。また、ダンジョン内にいるモンスターの数が一定数以下になると核がどこからかモンスターを転移させてくるなり、新たに生み出すなどしたりする。

核を破壊すればダンジョンも消え去るのだが、それをしないのはダンジョンが生み出すモンスターの素材や、それを目当てにして集まってくる冒険者達の落とす金、素材を買い取る為に集まってくる商人達といった利益が不利益を上回っているからだろう。

(ダンジョン……魔物が多くいると言うのなら、そのうちセトと一緒に行ってみるのも悪くない。それなりのスキルは手に入ると思ってもいいだろうしな。問題としてはデスサイズにしろ、炎の魔法にしろ、セトが戦闘行動を行うにしろそれだけの空間的余裕があるかどうかだな)

レイが頭の中でそう考えていると、ギルドカードを持っていった男が戻ってくる。

「何だ、バルガスとは派手にやり合った癖に臨時とは言えパーティを組んでたルーノとは仲良くやってるようだな」

「グラン、余計なことは言わないでくれよ。折角俺がバルガスの仲間じゃないって誤解を解いたんだから」

「ルーノは相変わらずか。レイ、一応紹介しておくとルーノはそれなりに腕の立つ冒険者だ。基本的には戦士と言ってもいいんだが、ある程度の攻撃魔法を使え、ある程度の回復魔法も使えて、ある程度の盗賊の技能も持っているという便利な奴だ」

ギルドカードを渡しながらルーノの能力を説明する男――グラン――の話を聞きながら、レイはボソリと呟く。

「つまりは器用貧乏か」

「……いや、まぁ、外れちゃいないんだけどさ。もうちょっとぼかして言ってくれてもいいんじゃないかな」

「それにこいつはパーティにいれば便利な奴であるのは間違い無いんだ。どうだ、ルーノとパーティを組んでみる気はないか?」

ルーノとパーティを組むことを勧めてくるグラン。

実は、グランにしてみればレイは期待の新人……というには腕が立ちすぎるが――普通、新人はDランクの冒険者4人を相手に一方的な戦いは出来ない――とにかくその実力には期待していた。だが、登録直後にいきなりDランクの冒険者グループと揉め事を起こすなど対人関係に問題を抱えているように思えたのだ。そこで、オールマイティな能力を持っており尚且つ人間関係も無難にこなすルーノとパーティを組ませれば上手い具合に回るのではないかと考えたのだが。

「悪いな。暫くはソロで動くつもりだ。相棒もいるしな」

あっさりと断るレイ。そもそもモンスターの素材を売る時に一番高額で売れるのは基本的には魔石だ。だが、レイの目的はその魔石をセトやデスサイズに吸収させることであり、そうなるとパーティを組んだ時に確実に揉めるという判断があった。

「……まぁ、確かにグリフォンが仲間にいればちょっとやそっとの相手はどうにでもなるだろうが」

「グリフォン?」

ずっとギルドの中にいたルーノなので、当然セトの存在は初耳だったりする。

それに気が付いたグランがニヤリとした笑みを口元に浮かべる。

「そうか、お前はバルガス達が表に出た時も1人で飲んでいたから知らないのか。そこにいるレイはな、何とグリフォンをテイムしてるんだよ」

「……本当か?」

信じられない、といった様子で尋ねるルーノだったが、レイはギルドカードをミスティリングへと収納しながら頷いて答える。

「さて。ランクアップの更新も済んだし、俺はそろそろ失礼させて貰う。宿も取らないといけないしな」

「そうか。残念だが……ちなみに、宿は決まってるのか?」

「ああ。警備隊のランガって奴から夕暮れの小麦亭という宿を教えて貰った。と言うか、セトを世話するような施設を持ってる宿はそこくらいしかないと聞いている」

レイの説明に頷くグラン。グランとしてもあのグリフォンを世話出来る宿は夕暮れの小麦亭しか知らなかったので、もしまだ宿を決めてないというのならそこを紹介しようと思ってたのだ。

「そうか。もう知ってるのなら話は早い。夕暮れの小麦亭はギルドを出てから右に真っ直ぐ進んでいけば看板が見えてくる。夕日と小麦の看板が出てるからすぐに分かるだろう」

「ああ、感謝する」

グランへと礼をいい、ギルドを出て行くレイ。その後ろ姿を見送りながら、これからは色々と騒がしくなるという予感を覚えるグランだった。

「グルゥ」

レイが近付くと、目を瞑っていたセトが顔を上げて嬉しげに喉の奥で鳴く。

「待たせたな。宿泊場所は夕暮れの小麦亭とかいう場所しかないらしいから、さっさと行くとしようか」

セトの滑らかな毛を持つ背中を撫でながら話し掛けるレイだったが……

「グルルゥ」

生まれてからここまでレイと離れたことが無かったセトは、レイへと頭を擦りつけて甘えてくる。

結局それから10分程セトに構ってからギルドを出発するのだった。