軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

最終話

これからどうするのか。マントイフェル卿は迷っているらしい。

「リオン・フォン・マントイフェルが死んだって話は撤回できるし、マリオンとして生きてもいい。陛下はそうおっしゃってくれたけれど……」

マリオンはビネンメーアでは男女どちらにも付けられる名前だ。マリオン王女は実は男性で王子だった、と公表してもいいと国王は言っているらしい。

「それにしても、母上はマリオンだなんて、酷い名前を付けるよね」

マリオンという名前は〝苦しみの海〟という意味があるようだ。

ビネンメーアは海の国と呼ばれているので、マリオン王女として、もがき苦しみながらも人生という名の大海を泳ぎ続けてほしい――そんな意味があるのだろう、とマントイフェル卿は語る。

「あの、リオン様。マリオンという名は、ヴルカーノで伝わっているものですが、他にも意味があるのはご存じですか?」

「え、知らない」

「マリオンという名前には、〝望んだ子〟、〝反乱〟、〝海の女王〟という意味があるんです」

おそらくこちらの意味も、マントイフェル卿のお母様が考えたマリオンという名前に含まれているに違いない。

「性別を偽ったまま女王として即位することも、反乱を起こして国王になることもできるって言いたかったの?」

「ええ。想像に過ぎませんが」

「あまりにも直球過ぎるよ……」

「それらを欲していなくても、リオン様にはさまざまな可能性があって、望めばなんでも手にできるような子に育ってほしい、という願いが込められていると思います」

「そっか……。そうだったんだ」

マントイフェル卿の中でマリオンという名前について、受け入れることができたようだ。

「ララ、決めたよ。僕はこれから、マリオンとして生きることにした」

マントイフェル卿改め、マリオン殿下は吹っ切れたような表情で宣言する。

そんな彼を支えられるような存在になれたらいいなと思った。

◇◇◇

ヴルカーノに帰ると決意を固めていた私だったが、結局ビネンメーアに残ることに決めた。

メンドーサ公爵家については引き続き、爵位と財産は凍結状態を維持してもらう。

将来どうするかは、大きくなったフロレンシに任せるつもりだった。

今度こそ、住処を探そう。

そう考えていた私のもとに、マリオン殿下が訪れる。

彼は私に、初対面のときに口にした言葉をそのまま言ってきた。

「ララ、これからは僕の家に住めばいいよ」

まったく同じだったので、思わず笑ってしまう。

もちろん、私だけでなくフロレンシも一緒に住んでもいいらしい。侯爵夫人の部屋も用意していると言う。

私が断る理由を、片っ端から潰していたようだ。

今度は肩肘張らずに、素直になろう 。

ただ、彼の提案をそのまま受け入れる訳ではなかった。

「ひとつ、お願いがあるのですが」

「何? なんでも聞く!」

「内容を聞く前に承諾するのはいかがかと思いますが……」

話に耳を傾ける彼に、私は物申す。

「わたくしとリオン様の名義で、新しい家を買いませんか?」

「君と僕の新しい家?」

「はい」

せっかくこの国で居場所を見つけたのに、今さら誰かに依存するような立場になるのはどうかと思ったのだ。

「誰の物でもない、私達の家が欲しいんです」

どうかと思って、マリオン殿下をちらりと見る。

すると、彼は瞳をキラキラ輝かせながら頷いた。

「いいと思う。ララ、レンと一緒に、僕達だけの家を探そう!」

マリオン殿下に向かって、私は頭を下げた。

「ふつつか者ですが、よろしくお願いします」

そんな言葉を返すと、マリオン殿下は安堵したように微笑んだのだった。

それから私は、レンやマリオン殿下と一緒に新しい家を探した。

皆で話し合い、中古の物件を見て回る。

侯爵夫人は新築にすればいいのに、と言ってくれたものの、私の稼ぎでは難しい。

それをマリオン殿下は理解し、同意してくれたのだ。

最終的に選んだのは、侯爵家のコテージに雰囲気が似ている平屋建ての一軒家。

築百年近くと歴史が刻まれた家だが、大切に管理されていたようで、どこも悪くなっていない。

とても素敵な家だった。

今日からここが、私達のお城である。

苦労の末に手に入れた、宝物のような家だった。

その後、私は侯爵夫人と共に、立場が弱く生活に困っている人達に向けた支援団体を作った。そこで目を酷使しないレース編みをガッちゃんと一緒に教えている。

皆、ガッちゃんをかわいがってくれるという、幸せでしかない空間だった。

これから先、時間が巻き戻る前の私みたいに不幸な目に遭う人が、いなくなればいいな、と思う毎日である。

ひとつ疑問だったのは、なぜ時間が巻き戻ってしまったのか、という点であった。

マリオン殿下に打ち明けてみたところ、彼はあっさり信じ込む。

なんでもビネンメーアには、運命の女神についての伝承が残っているらしい。

この世界には、人々の運命を司る女神がいるようだ。

糸を糸車を使って紡ぎ、運命を導いていく。

その手伝いをする蜘蛛の妖精がいるらしい。

妖精は心優しく、不幸な人間がいたら、運命の女神の目を盗み、糸車を逆回転にし、時間を巻き戻すことがあるようだ。

もしかしたらガッちゃんが、運命の女神のもとに行って、私の運命を変えてくれたのかもしれない。

ただ、ガッちゃんに聞いても、『ニャア?』とかわいらしく首を傾げるばかりであった。

真相はガッちゃんのみが知りうることなのだろう。

◇◇◇

新たな王族として、皆の前に現れたマリオン殿下は、罪人として拘束されたゴッドローブの代わりに公務に就き、忙しい毎日を送っている。

私はそんな彼の帰宅を待つばかりであった。

今日も今日とてマリオン殿下が戻ったと、ガッちゃんが教えてくれた。

玄関で彼を待ち、出迎える。

「ララ、ただいま!」

「おかえりなさいませ、リオン様」

そんな毎日は、私が願ってもない、ささやかな幸せだった。